人身売買
昼からやってきたロダンを心配した隊長は言った。
「気になっていた仮面男が出たというのに遅く来るなんてめずらしいじゃないか、ロダン。」
「えぇ。..はい」
ロダンは複雑な心境だった。
「なにやら最近ずっと騒がれていた例の誘拐事件の犯人は仮面男ではなかったようだ。」
隊長は新聞を読みながら明るい調子で言った後、咳払いしてから急に落ち着いた声になって言った。
「しかし、女の子の証言をこんなに取り上げる新聞記者にも世話が焼ける。これじゃあ余計に騒ぎになるだけだ..。」
ロダンはその日ずっと落ち着いていられなかった。
誘拐事件の問題はこれで終わりになると思いきやそうではなかったようだ。
ロダンは仕事が片付くと城に呼ばれたので西の塔に向かった。公爵がお呼びなのだ。
「..まずは君によくやってくれたな
というべきだろう」
公爵はひざまずいたロダンを立たせると近くに座らせた。
どこからともなくキレイな女の人が現れロダンと公爵はたちまち女の人たちに囲まれた。
女の人たちは次つぎとご馳走を運んできた。
「君の追っていたハットの男はこの国の官僚の一人フシビ卿だ。」
公爵はロダンと自分の間にあるテーブルに置いてあった2ついの杯に酒を並々と汲みながら言った。
汲み終わると公爵はロダンに酒を勧め自分のを飲み干した。
ロダンも恐る恐る公爵に続けて飲み干した。
「今まで仮面男は噂で通っていたが君が姿を現したおかげでフシビ卿が存在を信じはじめている。」
公爵は足を組むと苦々しく話した。
ロダンは突然現れた女の人たちが自分に興味津々なので目の置き場に困っていた。
そんな様子のロダンに公爵が冷笑を浮かべて言った。
「君もつくづく真面目な男だな
..女の子が苦手とは。」
ロダンが否定しようと話し始めたのを公爵に意地悪に笑顔で被せられ打ち消された。
「じゃあ試練だ。」
公爵はロダンの苦手なことをそれとなく把握しているようだった。
「そうだ、ロダン良いことを教えてやろう。」
公爵は言った。
「君の助けた女の子は城へ来るはずだったんだ。貧しい子は影で城に売られて来るんだ。世間で問題視されないのは官僚共に隠されてるからさ」
公爵はロダンが強い正義感から少女を助けたことを、つまり自分の命令に背いたことを根に持っていた。
「それを暴くにはいろいろとクリアにしなければいけない問題があるんだ。」
公爵は冷静にロダンを見て言った。
「助けられた女の子はまた貧しい暮らしに逆戻りだよ..
何が正義か簡単にはわからないだろう?」
ロダンは公爵の言いたいことがいくらか読めたので黙っていた。その時隣にいた女の子がロダンの首に優しく手をまわしてきた。
公爵は冷静に言った。
「ここでは君の正義は通用しない。
私こそが法で正義だ。
わかったら自分の立場をわきまえろ。
この次はもっと忠実に私の命令に従うことだ。」
ロダンの頭の中で公爵の言った言葉が何度も蘇りじきに視界がまわりだした。
公爵に飲まされた酒は急に後から酔いだした。
ロダンは城からの帰り道、寝静まった街の路上についに倒れて動けなくなってしまった。
先ほど彼の首に優しく手をまわしていた女が心配して後をつけてきた。
女は路上で動けなくなっているロダンを見つけて声をかけた。
「あの酒をあんなに飲んで大丈夫なのかい?」
女は路上に仰向けに倒れているロダンを見て男はいろいろな場面で試されて可哀想だと思った。




