挑戦
城から遅く帰ってきたロダンをアパートの管理人のおばさんは少し心配した。
「いつもより遅いじゃないか?」
おばさんの問いにろくに応えてやれずにロダンは部屋に入るとベッドに倒れ込んだ。
それから何日かロダンは部隊の仕事が終わると城へ行きぐったりして帰るを繰り返した。
朝から疲れきっているロダンを見て隊長がついに心配して聞いた。
「何か夜にあるのか?」
ロダンは”問題ありません”、とだけ応えた。
近くにいた年配の護衛兵が何も知らずに笑顔で話しに参加してきた。
「若い証拠だな」
?..急に何かに打ち込んでいる様子のロダンを隊長は不思議に思った。
仕事が終わった後ロダンは公爵の命令で城へ来させられていた。
ロダンは最初いつ公爵の考えがよめるのか、自分のことをどこまで知ってるのかわかることを期待した。
公爵はロダンを城の地下へ連れて行った。地下には牢屋がある。
なんのために連れて来られたのかロダンにはわからなかった。公爵が言った。
「ここには死を待つ死刑囚がたくさんいるのだ。」
「ロダン見ろ、君たちが頑張って捕らえた囚人達だ。」
おまえの顔を地獄に行っても覚えてるからな!
突然牢屋の中からロダンは叫ばれた。公爵は冷静にロダンに説明した。
「早速だが君には私のために記録を取ってもらいたい。」
「つまり、牢屋番をしてもらいながら私の知りたいことだけを記録してもらう。」
ロダンは公爵から巻きになった紙と羽のついたペンを渡された。
ロダンは暗い地下牢の横にある席に座らされてロウソクの灯りを頼りに何日もかけて公爵に言われた記録を取った。
時に拷問を近くで見せられることもあった。
「世の中にはたくさん悪いことをする者がいるのだ。」公爵は淡々と言った。
それから様々な雑用を言いつけられてロダンが徐々にノイローゼになってきたある日、公爵は今度は違う命令をした。
やっと作業を終えたロダンのところに公爵がタイミング良く現れた。公爵は今まさに終わった書類を机の上から奪うとロダンの書いた見開きの記録用紙に目を通しそれをパタンと閉じて言った。
「よし、..これから君に仮面男になりすましてもらう。」
それを聞いてロダンは勢いよく椅子から立ち上がると公爵を睨みながら初めて言い返した。
「嫌だと言ったらどうするんだ?」
公爵は移動しながらゆっくりと話した。
「隊長には悪いが勝ち目の無い戦争に行ってもらうことになるだろうな。」
「隊長の命と引き換えだ。君が今の意見を変えるなら見逃してやろう、さぁどうする?」
ロダンは諦めきれずに悔しそうに言った。
「どうしてそこまでするんだ?」
公爵は後ろに腕を組みながら話しをした。
「君が成り代われば色々とやりやすくなるからだよ。私は手いっぱいで城の中でもやることだらけなんだ」
「それに、今の君の立場の方が都合がいい。」
ロダンは夜の寝静まった街を人に見つからないように走った。
隊長を人質にとられては仮面男を引き受けるしかなかった。
ロダンは屋根の上を走らずに道を走った。
今は公爵に言われた人物を追っている。
「仮面男になりすました方が何かと自由に動けるし見つかっても自分ということがばれなければ困らないだろう。」
出発する前に公爵が言った。
「仕事の延長と考えればいい。少し踏み込んだ捜査と同じさ。」
追跡しながらロダンは途中で自分は何故こんな事になってしまったのかと悔やんだ。
「私を誰だと思っている?」
出かける前に公爵は冷静に微笑むとロダンに言った。
「今のままで本当に国を守っているつもりか?..君はこの国が本当はどうなっているのか知りたくないのかね?」
ロダンは夜の街角に身を隠すと公爵に言われたことを思い出した。そしてその言葉が頭の中を回った。確かに知りたい..それでも公爵の思うようにされているのが気に食わなかった。




