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ノックの音がした

前話からかなり間が開いたけど、のんびりこっそり更新。

 私はグスタフが打ちひしがれているのを、これはどうしたものかとのんびりと眺めていた。

 いやー、何せ真実二割に嘘八百な内容だもの。これがここまで効くとは、お釈迦様でも思うまいというか。

 グスタフが乗せやすいキャラで良かった。私は危機を脱する事が出来たのだと、そう思った時だった。

 ノックの音がした。


「大丈夫ですか、殿下!」


 誰かがドアを突き破るかの如く開け放ちながら、飛び込んで来る。

 ここはハリウッドじゃあ無いのだから、もう少し大人しく入室してもらいたいものだと思う。


「ノックをしたならば、せめて返事を待たれてはいかがでしょうか?」


 色々と誤魔化す為に、テンパっていて若干忘れていたけれども、この世界は野郎キャラがいっぱい出て来る女性向けゲームでかつBL要素の薄い方。わかりやすく言うと乙女ゲームなのだった。

主人公が色んなイケメンを選んでキャッキャウフフするゲームであり、つまりイケメンは他にも存在するのだ。

 そこらのアイドルでは太刀打ち出来ないイケメンがゴロゴロしている環境って一体どんな世界だよ、幾ら良いとこの子弟でもそうそうイケメンなんか居ないよと今更ながら思うけれども、まあそこはそれ。

 そういう偶然がたまたま起きた世界なんでしょう、此処は。

 偶然な事に私も目つきが若干悪くて睨みつけるだけで人殺せそうだけど美少女だし、偶然って凄いね。


「貴様、殿下に何をしたか!」


 そしてアレだ。私が悪い事になるのも既定路線。

 はいはい、どうせ私は悪役ですよ。

 散々おちょくってたから、それが真実と異なるかと言うと微妙なところではあるけれども。


「あら嫌だ。ベルヒリンゲン卿、顔が怖いですわよ?」


 部屋に入ってくるなり、崩折れているグスタフと私を見て、怒り始めたのは、ゴッドフリード・フォン・ベルヒリンゲン卿。

 グスタフの護衛騎士という立場で、攻略キャラの一人であり、当然の如くイケメン。

 イケメンが当然とは、一体どうなってるのこの世界。イケメンが多かったら、それは顔面平均値では無いのか。

 当然のようにいるイケメンとは、つまり観測上の比較的にフツメンではないだろうか……?


 それはさておき、彼はグスタフルートの分岐ルートで発生する攻略キャラで、グスタフと若干程度仲良くなった所でフラグを立てるとゴッドフリートルートに移行する。

年上キャラではあるけど、まだ20歳である。そう、20歳。

 いやね。私ね。前世ではアラサーだったんですよ、アラサー。アンダーかオーバーかはご想像にお任せしますけどね。

 どう見ても若いわー、仕事柄若干老け顔だけどグスタフと大して変わらんガキにしか見えないわー……とてもつらい。


「殿下がくずおれている。そなたが余裕の表情で、のんびり茶を飲んでいる。

 エーディット嬢が心底反応に困っている表情でそれを眺めている」


 ゴッドフリードはそう言いながら私を睨む。

 まあ何というか、私は何度もエーディットに嫌がらせをしたのだけれども、それのいくつかはこのゴッドフリードが防いでいる。

 このお邪魔虫め、尽くヤバめなレベルの嫌がらせを防ぎおって……よくやった。気に入った、家に来て妹をフ〇ックしていいぞ。

 とはいえ私には弟しかいないし、あのゲームにBL要素は殆ど無かった筈だし、そもそもあの子にそっちの趣味は無い筈だからファ〇クされても困るけど。


「つまり、そなたがまた何か悪さをしでかしたに決まっておるのだ。

 しかも今回は、よりにもよって殿下に。これは許される事ではないぞ!」


 まあ何というか、そんなこんなでゴッドフリードの私に対する心象は全くもって良くないのだ。

 良くないというよりも、好感度マイナス65535くらい。

 性悪女に対する慈悲なんか無いよね。うん。私もその点には同意だよ。

 その性悪女っていうのが、私で無ければの話だけれどもね!

 本当に祟るな、記憶が戻る前の私の所業。何でせめて学園に入学するあたりで戻ってくれなかったのか。

 もしそうなら、こんな口からデマカセ嘘八百並び立てず、かつ穏便にグスタフとエーディットを上手い感じに乗せて結婚という名の人生の墓場に放り込めたというのに。


「悪さなどしでかしていませんわよ?

 むしろ、何方にとっても悪い話では無いと思いますわ」


「では何故殿下が打ちひしがれておるのだ!」


 いや本当にね。ふっしぎだねー。

 こんなふざけた調子で言ったら、ゴッドフリードがキレそうだから言わないけど。


「殿下と結婚すると、王太子妃などという責務が重く人員管理業務ばかりが圧し掛かる割に権限があまり無いという、とても辛い中間管理職ポストに強制的に就かなくてはならなくなる上に、非常にモテる殿下の恋愛関係のすったもんだ愛憎劇に巻き込まれそうで心底めんどくさ…もとい、双方ともに望まぬ結婚をするというのは不毛なので、妨害行為による負荷をかけてエーディット様との恋愛を燃え上がらせさせたというネタ晴らしをさせていただいたら、すっかり打ちひしがれてしまいまして。

 お互いにとって、これが最善の選択であると自信を持っていましたのに、ちょっと自信が無くなってきましたわ」


 自分で言っておいてなんだけれども、声に誠実性の欠片も無い感じなのは如何したものであろうか?

 いやー私は今、最高に悪役令嬢だね。悪役令嬢というか、令嬢取れて悪役な感じだけれども気にしない。


「そなた今、説明の冒頭で物凄く酷い事を殆ど言いかけていなかったか?」


「ナンノコトヤラ」


私はゴッドフリードから目を逸らしたが、ゴッドフリードが回り込んできた。


「……そなた、ひょっとして殿下との結婚が嫌だったから、己の立場を危うくしてまで立ち回ったのか?」


 暴言を吐きかけて止めるのって、とっても大事よね。

 実はこっちが本音だよーと誘導するという意味で。


「……私に取って代われる者が居ないのであれば、結婚をしない理由は特に無いとは思っていましたわよ?

 大変な量の人員管理業務が圧し掛かってくる代わりに、己を綺麗に飾り立てるための予算も付きますし、人員管理業務に関する事柄であれば大抵の費用は経費で落ちますもの。

 他の貴族に比して贅沢な暮らしも出来ますし、覚悟さえすれば何とかなるとは思っていましたわ」


「それは実質、嫌だと言ってはいないか?」


「ホホホホホ……」


 君のような、勘の良いガキは嫌いだよ。今生に於いては年上だけれども。

 実際、前世の記憶が戻るまではグスタフの地位と容姿は私に釣り合うとても素晴らしいものだとか思っていたのも確かで、つまりついさっきまでは結婚する気満々だったのだ。

 一国の王子をアクセサリーかなんか、自分を飾りたてる為のモノ扱いですよ奥さん。

 よく考えなくてもクズっぽいね私。クズっぽいというかクズだね…生き残る為とはいえ精神的に打ちのめしてしまってすまないグスタフ。

 だが私は謝らない。表向きは謝らないというか謝れない。

 これは心の金庫の中に大きな借りとしてしまっておこう。そしていつか利子を付けて返そう……。

 私の生命と財産と名誉と尊厳に関わらない事に限りであれば、何でもしてあげようと心に誓う私である。


「結果として私のような性悪では無く、エーディット様という素敵なお相手が現れて結ばれたのですから、良いではありませんか。

 婚約破棄された私の婚期が永遠の旅立ちをしたこと以外は、全員一切損をしていないわけですし」


「そなたが性悪なのは間違いない事実であるし、そんなそなたが結婚出来ないのは当たり前の話でもあるし、確かにそなたでは無くエーディット殿が選ばれたのは喜ばしい事だが、本人に満面の笑顔で宣言されると何だかスッキリせんぞ」


 ゴッドフリードは何やらゲンナリした表情で私を見ている。

 お前そんな性格だったのかよって言いたげな顔で見ている。

 そうだよ、私は元々こんな性格だよ。これが地だよ。

 もっともこれが地になったのって、つい十分くらい前だけれども。


「そ、そうです。私もちょっとスッキリしません」


 ぼへーっとしてたエーディットも、ゴッドフリードの言葉に乗ってきた。

 うんうんわかるよ、私による直接の被害被ったのは貴方だものね。

 取り敢えず私は、自分がやらかした数々の嫌がらせを思い返してみる。

 まず名前を一切呼ばずに延々と『平民出の娘』呼ばわりした上に大衆の面前で面罵した。

 取り巻きを使って授業変更の情報をシャットアウトした。

 グスタフとのデートを微妙に妨害した。

 『夜中に全裸で街中を走り回る悪癖がある』とか、『夜中に全裸で屋根の上でバイオリンを弾く悪癖がある』とか、『アレは数日前の夜の事だっただ。夜中に目がさえたので外に出てみたら、エーディットが全裸で目から怪光線を出しながら回転して空を飛行しつつ牛を攫って行っただ。オラは見ただよ』といった流言飛語を流した。

 うーんこれは……私の首は柱に吊るされるのがお似合いではなかろうか。吊るされるのは御免こうむるから、全力で回避するけどね。


「エーディット様の言い分は確かにそうよね。殿下との婚約を解消する為とはいえ、貴方を生贄の山羊として捧げてしまった事は確かだもの。

 貴方は確かに巻き込まれただけだものね、うん。今までやられた事を一気にやり返して頂戴」


「ええっ!?そんな事は出来ませんよ」


 そう言うと思ったけど、ある程度やり返して貰わないと借りが溜ってしまう。


「いいのいいの。貴方には復讐する権利があるもの。

 さあさあ、私がかつてやったように、そこにある花瓶で背後から私の頭を思いきり殴打した後に担ぎ上げて窓から捨てなさい」


「そこまで酷い事はされてませんよね、私!?」


「はて、やってなかったかしら?」


「やってたら、私は今頃この世に居ないと思いますけど。

 謎の自殺を遂げた死体になってたと思います」


「名推理ね」


 私がそう言ってにっこり笑うと、エーディットは溜息を吐いた。


「……私が一番きつかったのは、生まれを莫迦にされた事でした。

 あと私を育ててくれたお父さんやお母さんを虚仮にされた事は許せません」


「親を罵倒されて頭に来ない子供なんて、そうそう居るものでは無いものね。

 だからこそ、一番多用したのだけれども」


 言ってた時の私は、そこまで考えてなかったけどね。

 平民出の落胤なんて毛皮らしいもとい、汚らわしいムキーッて感じになっていたような記憶がある。

 いや実際ね。不倫して出来た子とか平民出とか関係無く、脳味噌が恋愛でラリってる硝子の思春期の女の子にとっては『何それ不潔許せない』ってなると思う。


 今の私?ならないね、うん。

 何にせよ生まれ育ったのは良い事だよ、それがエーディットみたいな才気溢れる性格の良い美少女なら尚更だよ、伯爵も良い子作りをしてくれたものだよ、バンバン生まれてきてオッケーだよ、産めよ増やせよ地に満ちよだよ?

 いや良くない、私は婚約者寝取られ……いやまだそういう事はしていないか…寝ないで盗られ(?)たわけだし。

 寝ないで盗られたって、単純にフラれただけだね、うん。


「じゃあそっち方面で、こうなんか面罵を」


「公爵家って、罵れる部分が特に無い生まれですよね。

 すごい高貴な生まれですし」


 ふふふふ、甘いよエーディット、甘々だよ。

 甘いスポンジ生地に生クリーム挟んでシロップぶっかけたくらい甘いよ。


「そんな事無いわよ、うちだって初代は数代前の王弟ですもの。

 その王家にしたって、代々の記録を辿れば何処かの山賊よりちょっとマシ程度の地方領主だし、更に遡れば恐らく単なる山賊か何かよ。

 ほらほら、面罵カモンカモン」


「それ王家への不敬罪になっちゃいます!

 それにヴィルヘルミナ様、言われても全く平気ですよね。

 ちょっと前までのヴィルヘルミナ様を観てると全然そうは思えないんですけど、ついさっき自らそんな話をしてしまうくらいだし」


 流石ヒロイン。そういうトコ鋭いねエーディット。そのとおりだよ。

 今の私にも生まれに対する誇りはあるけど、前ほど強固では無い。

 本当に一時間もしないうちに、価値観も性格もガラッと変わったものだよ。


「困ったわね……」


「困りましたね……」


 何故に、自分を罵倒する為のネタでこんなに悩んでいるのであろうか、私は。

 悪役令嬢って性格悪いのが最大の欠点だから、性格悪い事以外にあんまり欠点無いんだよね。


「じゃ、じゃあアレです」


「アレ?」


「貸しって事にしておきます!」


 いい子だねぇ、この子は!?

 思わず親戚のおばちゃんみたいな感慨を抱いてしまったよ、私は。

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