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トンネルを抜けていないが、そこは異世界だった

どうも。たぶん習作です。

恐らく数話くらいは続きます。たぶん。

 転生…という現象をご存じだろうか?

 死んだ人間が生まれ変わって、別の人間か何かになって別の人生を過ごすというやつだ。

 そんなものは作り話だ。単なる迷信だ。そう思っていた…つい、数秒前までは。


「ヴィルヘルミナ様!大丈夫ですか、ヴィルヘルミナ様!」


「え、ええ。はい。大丈夫よ?たぶんね」


 私はヴィルヘルミナ・アマーリエ・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵令嬢という、なかなかに長い呼び方をされている性別女性だ。

 何か何処かのSFに出てきた悪役みたいな家名だけれども、そっちとは関係無い。たぶん。


「少し眩暈がしているのよ」


 いや本当に何というか、前世の記憶ならば、もっと早くから戻るべきではなかろうかと、私は今そう感じている。

 例えば生まれた時から戻っていてくれたのであれば、色々と手が打てたのだろうけれども。

 どういう事かって?色々と手遅れなのだ。


「困ったものだわ……」


 現世と前世。2つの記憶を思い返してみて、どうしたものかと途方に暮れる。

 この世界に関する今と前世の私の記憶が正しければ、これは特徴的なイケメンがわんさか出て来るゲームで、BL要素が少ない方だ。

 中世とか言われているけど実質近世欧州風のファンタジー世界で、平民として生きていた女の子がとある貴族の御落胤であると告げられ貴族が通う学校に放り込まれてすったもんだ色々イチャイチャやらかした末に、ライバルを蹴落として結ばれるという、良くあるアレだ。

 一言でわかりやすく言うと、乙女ゲームというやつである。

 そして私は主人公……ではなく、主人公の前に障害として立ち塞がり、恋愛を余計に燃え上がらせる役どころ。

 つまりはライバル令嬢とか悪役令嬢と呼ばれる存在であり、私は具体的に言うと後者だった。

 『平民出で庶子の下賤な小娘が○○様に懸想など無礼ですわよ、おーっほっほっほっほ!』とかやる役どころという事だ。

 実際何度か言った。人格も価値観も思いっきり前世に引き戻されている私としては、かなり恥ずかしくて正直泣きたい。何故にもっと早く戻らなかったのか、私の前世の記憶。

 そして今は、色々とやらかしてしまって、もうにっちっもさっちも行かなくなってしまった後の祭りだった。さっきまでは全く気付いていなかったが、前世の記憶が正しければ、『もう駄目だぁ……御終いだぁ……』な状況なのだ。


 今日はこの貴族学校2年目の終業式の日で、そしてヒロインが大チョンボでもやらかしてフラグ折ったりしていない限り、恐らく今日中に私は婚約者である王子に婚約破棄を言い渡された上で、国外追放となるからだ。

 現世の記憶を思い返してみると、かなり天真爛漫な性格のヒロインに色々と酷い悪戯をしたっぽい記憶がいっぱい残っている。

 こうして前世の人格に近い形になって、彼女の言動思い返してみると良い娘なんだよねぇ……こちらをあからさまに陥れに来ているクソ娘とかだったら、何か反撃も考えなくも無いのだけれども、どう考えてもこちらに非がある。

 私はこれから住所不定無職になるだろうけど、彼女には是非とも王子様とお幸せになって欲しい。


「あは、最悪☆」


 許されるならばジャンピング土下座したってかまわないが、ほぼ間違いなく許されないだろうし、貴族の身でそれやったが最後、実家の公爵家にまで迷惑が掛かってしまう。

 約束された無職の定めに、涙がちょっと出て来る。

 前世では結構勉強して、それなりにインテリっぽい生き物の一角に食い込んでいたのに、現世ではその反動か、思いっきりアホな娘に育ってしまっていたようだ。


 まあそれはそれとして、断罪イベントがめんどいなぁ……。

 どっちみち国外追放だろうし、ここは一念発起して持てるものだけ持って自分から飛び出してしまおうか?


「あ、これひょっとして、割と良いかもしれない」


 高価なものを持てるだけ持って、ササッとトンズラしようと思ったときに、ドアがバァンと大きな音を立てて開いた。開いてしまった。


「ヴィルヘルミナ!貴様!」


「おをう!?」


 しまった。考え込んでいる暇が有ったら、尻に帆かけてサッサと逃げるべきだったか。


「何か御有りになりましたのグスタフ殿下?」


 引き攣りそうになる表情筋を意志の力で押さえつけ、何とか平静を装いつつ私が話しかけたのは、グスタフ・アドルフ・フォン・エスターライヒ王太子。

 いわゆる王子様。メインヒロイン?メインヒーロー?まあどっち良いけど、つまり一番ウケの良さそうなルックスと身分のイケメンである。

 改めて見る形になったけど、実物も相変わらずイケメンだ。

 滅茶苦茶怒ってる顔だから、特にウットリはしないけれども。


「あら、何かご機嫌に障る事でもありまして?」


「ああ、あるとも。貴様、エーディットを今迄散々陥れてきたそうだな?」


 うん。まあ、そう言われるよね。実際に陥れてきたし。

 ああそうそう。エーディットというのがこの意地悪極まりない根性ババ色クソ女な私の妨害をものともせずに突破し、見事グスタフの心を射止めたヒロインの事ね。

 エーディット・フォン・ナウムブルク伯爵令嬢という名前らしい。エディットキャラのデフォルト名だからエーディット。

 うん。適当極まりないね…もうちょっとひねってあげなよ運営の人……。


「……そうですね、陥れてきましたわ。それは間違い御座いません。

 私はエーディットに表から裏から、様々な嫌がらせをしておりました」


事実を指摘されたら認めるしかない。

私はゆっくりと頷く。


「何故だ!?」


「はあ…それを殿下が、私に問いますの?」


 鈍感系主人公かお前はと言いたくなるのを抑えつつ、小首を傾げてグスタフに問うてみた。

 ちょっと胸に手を当てて考えてみて欲しいものだ。確かに私だって色々とやらかしたが、グスタフだってこっちの身としては大変な事をしでかしてくれちゃっているのだから。


「婚約者が他の女に懸想してたら、誰だって嫉妬に駆られて妨害の1つや2つや1グロス程度、するものではありませんの?

 浮気している婚約者を見て『あら他に好きな人が出来たのね、お幸せに~♪』などと、あっさり祝福して送り出したりする程、私は淡白な女でも無ければ、殿下に全く恋愛感情が無かった訳でもありませんわ」


「んぐっ!?」


 いや確かに私がどうしようも無い高飛車クソ女なのは自認する所ではあるけれども、だからと言って浮気がそれで免罪されるわけも無いのだ。

 どう言い繕っても、浮気は浮気である。グスタフは有罪。はっきりわかんだね。


「きゅ、急に弁が立つようになったな、其方?」


 断罪に来た筈が、逆に断罪されてしまってグスタフはしどろもどろになってしまった。少し可愛い。

 ちなみにゲームに於いてこのイベントでは本来、高飛車クソ莫迦女である私はヒステリックにキーキー喚いた挙句自爆して、めでたく国外追放になってしまうのだが、何故だか理由は知らないけれども前世の記憶が復活した御蔭か妙に冷静だし、語彙力も格段に上がっている。


「…とは言え。私は殿下とエーディットがそういう仲になる前から、私は彼女に対して出自の関係などから長い間意地悪をしてきました。

 そこは言い逃れの出来ない事実ですわね。前半は間違いなく、純粋に嫌がらせ目的ですわ」


「そ、そうだったのか、何という事を!」


 このままだと何か婚約破棄まで止まりそうなくらいグスタフの勢いが止まったので、助け舟を出したら何とか復活してくれた。

 何故そんな事をしたか?だって今、グスタフと結婚するつもりは全く無いし。

 エーディットは天真爛漫な良い娘さんなので、このちょっとアホの子なグスタフとお幸せに過ごしていただきたい。

 なんか上手く行けば婚約破棄だけで済みそうだし、そうしたら婚約破棄された高飛車クソ莫迦女として、故郷でしばらくのんびり畑でも耕して暮らそう。

 王家のおぼえ全くめでたくないなら、国内からは全く声がかからないだろうし。


「…と言う訳で、御沙汰は如何様にでもお受けいたしますわ。

 婚約破棄して、この場で首でもお刎ねになりますか?」


「いやいやいや、嫌がらせをした程度でいきなり首を刎ねる訳が無かろう。

 いきなり何をおっかない事を言っておるのだ、其方は?」


 ぎょっとした表情でグスタフは私を凝視する。

 いやー、グスタフをからかうのって、本当に楽しいですね。


「そうですか。まあ婚約破棄は既定事項として、沙汰は如何に?

 ああ成程。平民出の娘に嫌がらせをしたばかりに婚約破棄された挙句に汚い牢獄にでも放り込まれ、下卑た囚人どもの慰み者にされるだなんて、なんて可哀想な私」


「せんわ!其方は私の事をどれだけ酷い男だと思っておるのだ!?

 あと、大貴族の娘たる其方が、そんな下品な事を言ってはならぬ!」


 顔を真っ赤にして、変な想像をしたのかちょっと邪な視線で私を見ながらグスタフが叫ぶ。

 まあまだ18歳だしね。Hなワード聞かされただけで想像してしまうお年頃だよね。


「どれだけ酷い男かというと、婚約者をほったらかした挙句、他の女に浮気する男ですわね」


「んがっ!」


本当にからかい甲斐のある王子様だこと……。


「グスタフ様、おやめください……って、あれ?あれれ?」


 グスタフをコロコロ転がして遊んでいたら、漸く主人公娘ことエーディット嬢が部屋に駆け込んできた。

 本編ではキーキー喚く私をグスタフがぶん殴ろうとした所で飛び込んで来て止める役どころだったのだけれども、現在キーキー喚いているのはどちらかというとグスタフだ。

 これはグスタフが、自分で自分をぶん殴るべき所かもしれない。


「あら、ご機嫌ようエーディット様」


「え?あ、はい。ご機嫌ようヴィルヘルミナ様。

 なんか、雰囲気が違うような……?」


 どうやら前世の記憶が蘇って、すっかりと人格が変化してしまった私に感づいたようだ。

 流石は主人公で女の子。そういうトコは鋭い。


「ええ、今ね。婚約者の事なんか昔から欠片ほども愛していないこの人に、漸く婚約破棄を宣言して貰える所なのよ。

 良かったわねエーディット様、お幸せに」


「え?ええええ?えっと、はい。はい?」


 何時も何時も高飛車に彼女を見下しながら憎まれ口を叩いていた私が、ニッコニコしながら祝福してきたのに彼女は驚いて、何だかよく分からないがコクコク頷き、それから首を傾げた。


「ほ、本当にヴィルヘルミナ様?」


「おーっほっほっほっほ!エーディット様ったら視力が落ちたのかしら?

 この私がヴィルヘルミナ・アマーリエ・フォン・ブラウンシュヴァイク以外の、いったい誰に見えて?」


 中身が若干前世に汚染された程度で、私は相変わらずヴィルヘルミナである。

 いやなんか若干で無く色々と変容してしまってはいるけれども、私はヴィルヘルミナなのだ。


「おお、その高笑いは確かにヴィルヘルミナ様だわ」


 エーディットは高笑いを聞いてうんうんと頷いている。

 彼女の中で、私と言えば高笑いのようだ。


「それでグスタフ殿下。私をどうなさいます?

 一番高い塔の窓から投げ捨てますか?」


「いやだから、そういう事はしないと何度言えば…其方との婚約を破棄して欲しい。それだけだ」


 疲れ果てた表情で、グスタフは私に対してそう告げた。

 散々おちょくられて転がされたせいで、怒りが何処かに行ってしまったようだった。


「……それが、其方の本性なのか?」


「ええ、これが私の本性ですわ」


 扇でパタパタ自分を扇ぎつつ、優雅に微笑んで見せた。

 淑女教育は一通り受けているし、このくらいは何時だって余裕である。

 今までの私は、それを駄目な方に発揮していただけだ。

 まあそれはそれとして、このままだと急に変節し過ぎなので、カバーストーリーを用意せねば。

 記憶を辿ってちょっと考えながら、私は嘘八百でっち上げる事にした。


「そうですわね……婚約が破棄されるように、不自然になり過ぎないように色々と働きかけてきたと言えば、ご理解なさいますか?」


「まさか、其方わざと!?」


「此方に大して興味を持たない殿方に、私も嫁ぐ意味や意義を見出せませんでした。

 それなりに見た目は磨いてきたので自信がありましたのに、殿下は決められた婚約というだけで忌避されて此方を見ようともなさいませんでしたもの。

 殿下の事は嫌いではありませんでしたけれども、私を全く見ようともしない殿方と夫婦としてやっていけるのかと考えると、無理だと思いましたわ」


 主人公のライバルなだけあって、私はきつめの容貌ながらもかなりの美少女だと思う。

 美の少ない女ではない。美しい少女だ。可愛い女の子なのだ。

 ……いやまあ、可愛いというか美人って感じの容貌だけれども、老けてるとか言うな。

 私はこれでも齢16歳のピッチピチな乙女だ。

 なのに記憶を辿る限り、こやつは私をずっと邪険に扱ってきたのだ。

 『親同士が勝手に決めた婚約なんか嫌だ』という実に中二な理由で、私をずっと忌避してきたのだ。

 ずっとそんな扱いをされていたら私だって、ほんのりグレて高飛車キャラと化すわい。

 健気なお嬢様がご所望なら、もっと私に優しくしてくれ。


「好かれる為に色々としてみても無反応なので、いっそ嫌われて婚約破棄になる方が手っ取り早いかなと」


「お…おま…お前な……」


「思惑通りでしたわ」


 ……とまあ、ちょっと痛む胸は無視して、こういう事にしておこう。

 私はニコニコとお茶目に、笑顔を浮かべて見せる。


「だ、騙されたー!?」


 頭を抱えて叫ぶグスタフは、とても残念なイケメンと化していた。

 じゃ、ヒロインとお幸せに。

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