33 まだ見ぬ地へ (後)
「我々は上納金…上納品を要求するっ」
そう高らかに宣言したマダールの横で、リリスと呼ばれた少女趣味の青年が頭を抱えた。
「頼むから、そういう無謀なことに私を巻き込まないでちょうだい…」
彼の嘆きはもっともだ。でもめげずにマダールはタカリを続ける。
「まず、道中の宿泊代や飲食代を負担する事! 次に私達も乗れる荷馬車! で…上等な絹の弦を十束! あと新しい横笛と小ぶりの太鼓!」
止まらない要求に、思わず玄徳が吹き出して笑ってしまう。
なんと可愛いタカリだろう。宮中楽師にしろとか、星の数ほどの金や装飾された上等な衣とか、他にあるだろうにマダールの要求が地に足が着きすぎている。
玄徳だけではなく、義仁も周偉も、ハルンツすら笑い出してしまった。窮地に気付いたマダールが真っ赤になり眉間に皺を寄せ文句を言おうと口を開けかけ、静止する。部屋の中に、低く高く腹の虫の鳴き声が響き渡った。かわいそうなほど真っ赤になっていくマダールに、リリスが肩をたたく。
「まず、昼食を要求しましょう。私もおなかへったし」
「う〜っ」
「ボクもです。我々は、昼食を要求します。でなければ、李薗を攻撃します」
ハルンツの返答に、周偉が声を上げて笑い出す。
「かしこまりました。李薗帝国の名にかけて、最高の昼食を用意しましょう。あぁ、悪いが茶はなしだ。昼食の準備を」
「は?はい?」
「では、私は旅の準備をしておきます。荷馬車も用意させます故、早まって李薗を攻撃しないでください」
義仁まで笑いをかみ殺した引きつった笑顔で、茶を持ってきたが壊れた扉の前で立ち往生する下人を引っ張っていく。こんなに笑ったのは、久しぶりだった。特定の腹の筋肉を酷使して、痛いほどだ。零れる涙を拭きながら、上座を降りる。彼らは膝を折ることもなく、頭をたれることもなく、まっすぐに目を見据えている。
「白玄徳だ。よろしく」