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 29 嘆きの味

 呪術は、誰もが行えるものではない。

 まず、精霊を見れる共生者でなくてはいけない。

 そして、共生者の能力が高ければ高いほど、使える呪術は多く高度になっていく。土や火など一種類の精霊としか交流が出来なければ、その者は名のある陶器を捏ね上げる土師か火を操る鍛冶師になれるかもしれない。水の精霊や風の精霊と属性が合えば、運がよければ失せ者や旅人の安全祈願もできるかもしれない。

 どちらにせよ、一種類の属性ではたいした呪術は使えず、村の呪術使いがせいぜいだ。そして、複数の属性を持っていれば、能力も比例して高くなっている。使える呪術も多くなる。

 風を使い水を呼び集められれば、雨乞いすらできる。

 これほどの人物は、神殿で何年も修行した共生者で呪術師とも呼ばれる。


 「水鏡(みずかがみ)か…深淵(しんえん)の神殿でソレが出来るのは、禰宜(ねぎ)か宮司ぐうじ)だな。四位以上の地位を持つ神官だろう。権力闘争で神殿を出た者ではないのか。雲水(うんすい)とか」


 神殿とはいえ、人間が集団で生活する場だ。修行中だが、俗世間とのしがらみもあり、大きな声では言えないが、権力闘争はある。

 その争いから逃げ出した者ではないかと、玄徳(げんとく)は考えていた。共生能力が高ければ高いほど、受ける嫉妬と妬みは大きい。そして、その能力を持っている者は、大抵が気性穏やかで優しげだ。

 神殿での争いに嫌気がさして、諸国を流れ渡り人々に医療や教育を授ける『雲水』(うんすい)という修行をとる者も少なからずいる。

 多くは学僧だが、貴重な複数の能力を持つ共生者の神官も混ざっているのは、神殿が認めがたい事実だった。

 

 「そう思い朱雀(すざく)殿も調べた結果、まだ十代の少年だったということです。しかも、彼は、井戸水で水鏡(みずかがみ)を行ったと。しかも、呪文はなにも用いなかったと」

「そんな…間違いだろう」


 果物をつまみ、思わず笑ってしまう。

 水鏡(みずかがみ)は、瓶に湛えた聖水にいる水の精霊と対話し、答えを得る呪術だ。失せ者、待ち人、未来。その答えの周りにある水の精霊まで、水の精霊の捜索の糸を紡いでいかなければいけない。

 世界はどんな場所であれ、水に溢れている。

 水は姿を変えて雲に、雪に、雨に、河に、海に、果ては地中を流れる水脈に、宙を漂う水蒸気、生物の中の水分まで。

 同じ水の属性でも、姿が変われば気質も変わる故、答えにたどり着くまで、膨大な呪文と能力を駆使して精霊達を使役しなければいけないのだ。


「呪文を使わずに水鏡(みずかがみ)は出来ぬ。それではまるで、祖エアシュティマスのようではないか」


 思わずそう答えて、玄徳(げんとく)の笑いが止まる。自分の言った言葉と、先の出来事が、雷のようの脳裏で重なる。

 薄汚い少年の奏でる三線の音と共に、精霊達が舞い踊っていた。

 白州の玉砂利の隙間から、大地の精霊の黄土色の小人達が這い上がってきて、老人のような顔をほころばせて四股(しこ)を踏んでいた。

 木々はそよ風に吹かれたように葉を鳴らし、雲は水蒸気となった水の精霊の祝福のように晴れていく。

 風の精霊は長い髪をたなびかせ、光とともに舞い降りていた。

 呪文など、使っていない。それなのに、精霊達は現れた。そして、少年を祝福するかのような行為。

 こんな事は、歴史の彼方のお伽話の主人公しか出来ない。


「お分かりになりましたか。我等が探しているのは、おそらく彼です。そして、朱雀(すざく)殿をあのようにしたのも、彼でしょう」


 周偉(しゅうい)は、ゆっくりと茶碗を傾ける。が、玄徳(げんとく)は茶碗を手で包んだまま動けずにいた。


行幸(ぎょうこう)に付いて行った家人の話では、少年は帝国に仕える事を拒否しました。見せつけの為でしょう。やむなく朱雀(すざく)殿が頂いた『金翅(きんし)』を振り上げたところ、『金翅(きんし)』は火の粉を散らして真っ二つに燃え落ちたそうです」

「逃げたのだ、刀に閉じ込められた火の精霊が。呪術の効力が消えて逃げたのだろう…。『金翅(きんし)』は祖エアシュティマスが火の精霊を閉じ込めた名刀と言われている。何故、呪術が消えたのだ。何者だ」

「ただの田舎の少年だそうですが、その後に自らエアシュティマスと名乗る幽霊が出て、少年と呪術を使い朱雀(すざく)殿が倒れたと言っており…。あまりに荒唐無稽ですが、一万の兵に『金翅(きんし)』を帝が授けている事、その後の結果から判断すれば、事実なのかと」

「エアシュティマスと、名乗ったと?では、その少年は吾と同じエアシュティマス様の血を引いていると?」

 

 仮定を事実にすれば、『金翅(きんし)』の呪術が消えた説明がつく。呪術は主に刃向かう事は、まずない。

 全てが納得がいく。

 そう、玄徳(げんとく))の脳裏で囁き声が聞こえる。包んだ茶碗の水面が、細かく波紋を刻みだす。

 稀代の、世界を統一した、唯一の魔術師の再来。そして傍らには、(はく)王家と同じその血を引き継いだ共生者の少年。


周偉(しゅうい)、これが事実ならば、世界はどうなる…その少年と祖霊は、何を望んでいるのだろう…」

「判りかねます。だからこそ、帝と朱雀(すざく)殿は手中に入れようともがいたのでしょう。太極殿(たいきょくでん)としても、(はく)王家の存在を揺るがす血統を野放しにするつもりはありません。このまま彼らを国外に出すつもりはなく」

「無理だ!!」


 テラスの空気が震える。次の茶を点てていた義仁(ぎじん)も、周偉(しゅうい)も、玄徳(げんとく)の顔を見て息を飲んだ。


「我等で、あの力に立ち向かえる訳がない…判らぬか。精霊の祝福と恵を受ける彼らを敵にすると言う事は、世界を敵に回す事だ。世界に住む生きている全ての存在に、刃を向ける事になるのだぞ」


 震える手で円卓に茶碗を置き、深く深く溜息をついて椅子に崩れるように身を預ける。


「陛下と朱雀(すざく)殿は、なんという事をやってくれたのだ…これで、彼らが李薗(りえん)を敵視するのは避けられぬ」


 鳶がゆっくりと旋回しながら、見えない風の回廊を滑降してくる。対なのだろうか。いつの間にか、一羽から二羽と増えている。変わらぬ暢気さで、甲高い鳴き声を霞の向こうへ響かせている。

 再び鳶が谷底へ消えていった頃、周偉(しゅうい)が茶碗を手に取りじっと冷めた茶を睨んで呟いた。


「しかし、彼らを手中に収めれば、この世の精霊の祝福と恵のお零れを授かれる」






 説明が多くてすみません…なんとかしなければっ。随分趣味に走ってしまったので,判らない点の指摘をうけました。少し,この場を借りて解説します。

 えーと,名前です。中華圏の名前を多用しているので読みづらいですね。

 

 一章の主要キャラ

 朱雀家 白楊燕…ハク ヨウエン     呪術師 伎妃 …キヒ

 商人  劉浩芳…リュウ コウホウ    家人  何秀全…カ シュウゼン


 二章の主要キャラ

 玄武家 白玄徳…ハク ゲントク     家人   義仁…ギジン(苗字 未定)

 官僚  周偉 …シュウ イ       元カレ  趙健…チョウケン


 こんなトコでしょうか。実を言えば,いい加減につけています。ネタは時事ニュースや中国モノ小説だったり。中華圏はあまり詳しくないので,これ以上言うと苦しいです(泣)


 また,何かお気づきの点がありましたら連絡ください。出来る限り対応したいと思います。

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