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狂ったパズルは殺人日和  作者: ノイズ
2/3

ソレゾレノ仕事

踊るように軽快な足取りの殺人天使が辿り着いたのは、コンビニで。

 彼はコンビニの前で足を止めると、扉を指差してニコリと笑った。

 ポカンと殺人天使を見ている那智に「バカか? お前は――」そう捨てる。

「ビール、つまみ、後、適当に見繕って来い。じゃ、ここで待ってるからな」

早口にそう並べると、ニヤリとする殺人天使に背中を押される。

とぼとぼ歩いて振り返ると「サッサと行け」と促された。

溜息を吐き捨て、扉を開け店内へと。

店内で、ビールをかごに取りながら、外で待つ殺人天使を見てみた。

これは那智の頭が作り出した妄想で、もしかしたらもういないのではと思ったが、殺人天使は歩道の手すりに腰かけてこちらを見て手を振っている。

畜生――

そう小さく呟き、またアレに眼をやる。

金色に輝く髪、よく晴れた日の空色の眼。

差し迫った危機的な状況と、彼の下品な口ぶりに惑わされて忘れていたが、それはとても綺麗で、思わず見とれてしまう。

深夜だというのに、レジは二つとも列ができていて、外で待っている殺人天使もイライラした様子で、腕を組んで何かを言いながらこちらを見ていた。

買い物をおえて店外に出ると、早速ブチブチと文句を言い出す殺人天使。

「お前、おせーんだよ。そういうの愚鈍っていうんだぜ。覚えとけ。……見たとこ、ろくなもん買ってねえし……」

 殺人天使は、袋の中を覗きこんで吐き捨てる。

中学に入ったばかりの頃、ガラの悪い先輩に眼を付けられた時、似たような事があったっけと思い返す。

那智は先ほど、路地で見た光景を思い出していた。

あんなもの見なければと思った。

しかし、白い羽に飛んだ血飛沫を忘れないでいたいと思う自分に、少々驚いていた。

那智は何処かであのシーンを綺麗だと思っている。目の前で人が殺されたのに――

震える程怖かったはずなのに。

「じゃあ、行くか?」

「え?……どこ?」

那智の裏返った声の返答に吹き出して、殺人天使はクスクス笑った。

「お前ん家に決まってんだろ? 他にどこに行くっつうんだ、ん?」 

強引に那智の肩を組んで、歩き始める。

「俺、お前みたいなクズに、ああいう場面見られると困るんだわ……」

 鼻歌交じりに彼はそう呟く。

 どうも中学の時の大嫌いな先輩が、鑑別所から帰ってきた時の事を思い出す。

あの時も、有無を言わせず連れ歩かれて、財布取り上げられて全財産使い果たして、チャリまでパクられたっけ――

「クズって言っても、俺がらみりゃ、人間全部クズだからさ、気にすんなよ。お前だけの事言ってんじゃねえからさ……」

 ポンポンと那智の肩を叩き、元気づけるように言う殺人天使。

 もちろん、そんな失礼な言われ様で、それならいいとなる訳はないが、これが殺人天使である以上は従うべきなのだ。

 那智は小さく溜息を吐き捨てた。

 しかしそれほど足取りは重くはなく、何かが起こる予感を体に感じて興奮しているのも事実だった。多分変化が起きる。自分には起こせない大きな変化だ。

 那智は、殺人天使と自らの難解な感情を連れて家路につく。

 殺人天使はと言えば、派手な高級車に唾を吐き、こっちを見て笑う。


 家に着くなり狭い汚いと騒ぎ立てる殺人天使をよそに、紙皿に菓子をぶちまけ小さな座卓に置く。そうして宴は始まる。

殺人天使に、仕事はと聞かれて、面倒臭そうに「色々」と答える。

「色々が何なのかを答えろよ」

脂っこいコンビニの唐揚げを、口に放り込んで彼は那智を見る。

あやふやに終わらせる気はないらしい。

あの時、赤く染まった羽は、今もう見えなくて、先ほどの血塗れの光景が夢のように感じた。

「そっちは?」

憮然とした表情でそう返す。

「見た通りだ」

ニコリと笑って直様、そう返されて閉口する。

「お前……。何見てたの? 」

殺人天使は噴き出して那智を見下すような眼を向けた。

「もう忘れた? それとも信じないことにした? 人間の脳って本当、都合よく出来てるよな」

そう続けて嘲笑う。

「デリヘル送迎…って言ったらわかる?」

 それはまた殺人天使を喜ばせる事になった。

 彼はひとしきり那智を指差して笑った後「お前、意外に楽しい奴だな」と息も苦しそうだ。

 そんな事を言われて、タバコを咥えて、壁にもたれて――

 煙を空気に混ぜて――

 仏頂面でビールを一口、含んで。

 そんな那智に、なぜ怒る? と問う綺麗な殺人天使。

「別に」と答えてあさっての方向を見る那智。

「胸を張れ。立派な仕事だ。クソにはぴったりの外道極まりない仕事だからな」

 パンパンと背中を叩かれる。

 また下品な笑いが深夜の部屋に響く。

「最低な仕事だってことはわかってる……」

 那智は小さな声でそう返す。

「わかってる? わかってたらどうなんだよ? お前の下衆な行いは薄まるか? ん?」

「そんな事は……」

 思っていた。

「あほだろ? 下衆は下衆だ。知っていようが、罪悪感で苦しもうが、お前は男に金で遊べる女をあてがう為に、車に女乗せて運んでいるんだろう? 姉さん方が、気色悪いおっさんのナニをナニして頂いた代金が、これにかわってんだろ?」

 唐揚げを口に放り込んで、座卓に並べたものを指す。一気に食欲が失せる。

「心配すんな。人間のほとんどが下衆の外道だ――」

 そう那智の肩を叩いて、ギャハハと笑いトイレ何処? と立ち上がる。

 那智が指差した先の白い扉を開けてバタンと締まる。

 一人になった狭い部屋で、溜息――


彼の話には

 救いが無い――

 

 やっぱり――

 やっぱりと。そう思った。

 やっぱり、夢ではなかったと。

目覚めの気分は最悪で。

だけど。寝息を立てる殺人天使の横顔を見ながら、コレを横に眠れる自分は、結構神経が図太いという事を思い知らされる。

昨晩、喰らうだけ喰らい、飲むだけ飲んで、追加のビールを買いに行って帰ったら殺人天使は那智のシングルベッドで万歳のポーズで眠ってしまっていた。

眠ったのをいい事に、髪や頬に触れたり、息を確認したりした。現実だと確認したかったのだ。そうして、わかった事は紛れもない現実で、彼は人間のように息をしている。

物を喰らい、トイレにも行った。そしてあやふやになったのは、羽の存在だった。


朝が来てみれば、またさらにそれは曖昧で。

あれだけ神々しくあった羽が薄らいで、もやのように消えかかっていた。

頬や髪には触れる事が出来たのに、それはすり抜けてしまう。


やはり、彼は天使を真似た邪悪な何かなのだろうか?

もう一度、彼の金色の髪に触れようと手を出した時、殺人天使の眼がパチリと開く。

慌てた那智が変な声をあげながら後ずさった。

「……お前、変な事しようとしたろ?」

訝しげな眼。

「このド変態!」

そう那智を怒鳴りつけてマクラを投げつけた。

 那智といえば頭を横に振りながら困った顔をするだけだ。


「言っておくが俺はお前以外の人間には、認識されない。それを解かっておかないとバカ扱いされるぜ」

 那智が、この間買ったばかりのカーキーのセーターに着替えながら、彼は言う。

 認識されない云々は昨日聞いた。

 人間の脳は、取り入れた情報の自分にとって都合のいいこと以外は忘れてしまって、見なかったことにするらしい。

 この下品で綺麗なものは人間にとって都合の悪い情報だという事だ。

朝が来て、少し迷ったが、那智は仕事に行くことにした。

そうすれば解放されるかもしれないと思ったのだが、それは那智の甘い考えだった。

「ついて行ってやる」となる訳で、今の那智には何も言える訳など無い。


徒歩で五分弱。

ワンルームマンションの一室を事務所にしている。

そして同じビルの中に、待機部屋というものがあって、女の子がそこで指名が入るのを待つ。そして、この建物内から、車に乗せてホテルや男の自宅などに連れて出る訳だが。

これが意外に大変なのだ。

十一時出勤で、雑務をこなし出ていた車を二台ほど迎えて、那智に声がかかる。

名前を聞けば常連の地方公務員で、昼休憩を利用して楽しむおっさんだ。

指名するのは『リリカ』この店で一番若いという事になっている女。

二十八歳の三児のシングルマザーだが、ここでは十八だということになっている。

たまには制服も着る。若い客にはバレる事もあるがジジイには分からない。

いや、ジジイにはどうでもいいのかもしれない。金でナニする女の事なんて――


車に乗せるまでに、これからナニするおっさんが、どれほどしつこくて気持ち悪いか聞かされる。

後部座席に乗せてホッとするも、そこから始まる最低な結婚でどれだけ不幸になったかという話を二十分間聞かなければならない。それもできるだけ親身に。

面白くなさそうに「へ~」なんて言って、へそを曲げられたらこっちが困る。

道の途中で『やっぱり行きたくない、子供の顔が見たい』と泣かれたこともある。

事務所に戻れば殴られ、やる気のない女を放り込めばクレームが付きそれはそれで殴られる。

だから。

「そうなんだ……。リリカちゃん、頑張ってるのにね。後でスイーツ買ってあげるよ」

 と、優しく笑う。仕事を終えて、部屋から出てきた時には「お疲れ様。ちょっと回り道してから帰ろうか」とスイーツを買い、その近くのゲーセンで人気のキャラクターのクレーンゲームを「無理しなくていいのに」と言うのをわざと無理して取ってあげ、「末っ子にでもあげな」と言って渡してやる。そのくらいできる様になるのだ。

今日もお決まりの「なっちゃん、聞いてよ」が始まる。

「どうしたの? リリカちゃん」

助手席に座った殺人天使を気にする様子もなく、彼女は愚痴りだした。

 いつもと同じように「マジで?」と「やばいね」を挟みつつ機嫌が悪くなっていないかバックミラーで確認しながら目的地に着く。

 後部座席のドアを開けてあげてまるでセレブでもエスコートするように荷物を持って手を差し伸べてやる。

「じゃあ、待ってるから……」

 そう言って荷物を渡すと、彼女は先ほどまでとは明らかに違う幼さを醸し出した態度で、

「うん。行ってくる!」と。

 十八歳を演じるスイッチは入ったようだ。ホテルの入り口を入るまで見送り、車に戻る。

タバコに火を着けて溜息をつく。

「いやあ! プロだね、感心しちゃった」

 大袈裟な素振りで那智の肩をバンバン叩く。那智は何も言わずに呆れた様に殺人天使に一瞥をくれる。

「じゃあ、俺、ちょっとあの女の仕事、見学してくるわ」

 笑う殺人天使。

 そうか、人間は彼を認識しないんだった――

 そう思ったから、那智は頷いた。狭い車内で、二人でいるのが気まずいのもあった。

 殺人天使は車を降りると敬礼の真似事をして踵を返した。


 三十分後――

 那智の携帯が鳴る。

リリカからだった。

「なっちゃん……? ごめんなさい……、なっちゃん、バイバイ……」

 そう震えた声で繰り返す彼女。嫌な予感がした。

「電話、切るな!」

 そう叫んで、車を降りてフロントに駆け込んだ。鍵を持ったフロントスタッフと部屋に飛び込む。そこは内装など解からない程鮮やかな赤い色に染められた、むせ返るような生臭い血の香りが充満する空間だった。

 ベッドの上には腹から臓物を零れさせた小太りのおっさんが、カッと目を見開いて息絶えていた。

 その足元ではリリカが下着姿で首元から血をピューピューと噴出させながら、血泡を吹き、体を痙攣させている。

 鍵を開けてくれたスタッフは、口を押えながら部屋を出た辺りでゲボゲボと嘔吐している。

 その死体と那智との間に殺人天使がいた。

 白い羽を鮮やかな赤い色に染めて――

 振り向いた顔は笑っていた。

「女は勝手に死んだんだぜ。見てみろよ、あのおっさんナニおっ立てたまま死んでやんの」

 下品な笑いを浮かべている美しい人――

 ついさっきまであやふやだった羽は艶やかに輝いていた。

 そうだった――

 これは殺人天使だった――

 

 警察署を出る頃には夜になっていた。

 那智はタバコに火を着け、落ち着けと言い聞かせるように煙を味わった。

 目の前で、殺人天使が手を振っていたから。那智はそれを無視するように歩き続けた。

「何だよ……。へそ曲げてんのか? あれが俺の仕事だって、お前も知ってたくせに」

 殺人天使は平然と那智の後ろに付いてきた。

「よりにもよって……、俺の近くで、俺の環境で……。店は…終わりだ……、俺は無職だぞ……」

 俯いて、彼の顔さえ見ずにそう呟く。

「お前なんか勘違いしてねえか? 俺の環境? 笑わせてくれるね……。何で人間ってこう、自分に都合よく解釈するんだか……」

 それでも無視し続ける那智に業を煮やした殺人天使は、那智の後ろ襟をひっつかんで、自分の元に引き戻し、耳元に注ぎ込む。

「この世界を自分のモノみたいに言うんじゃねえよ。この世界のどこを切り取ったってお前のモノなんてところはどこにもないんだよ? お前の好きにできるモノなんてどこにもないんだよ……? お分かり……?」

 ぞっとするような甘く舐めるような、声色――

「とにかく、話はきいてやるよ。この辺にファミレスかなんかないの?」

 那智の背中を叩いて肩を捕まえてそのまま引きずるように歩き出した。

 怖い――

 こんなに怖いのに――

なぜ、忘れてしまうのだろう――

那智はそう思っていた。

昨日の夜、見たばかりだというのに。

何故――


丁度、夕飯時のファミレスは込み合っていた。

ざわめく店内を案内され二人掛けの席へ案内される。

案内してくれたスタッフが殺人天使を認識できるわけでもなく、那智を案内した後何度も振り返りながら、首を傾げていた。この時間、一人の客ならカウンターに案内するはずだ。

多分、殺人天使の仕業だろうと那智は思った。わざとここに案内させたのだ。

「どうした? 飯時だ……。食い物頼まないのか?」

「あんなの見たんだ……。何も食う気がしないよ」

 飲み物をだけを頼んで、腕を組んで俯く那智。

「昨日は食ったじゃねえか……、あ?」

 確かにそうだが。

「昨日は知らない場所で、知らない奴が知らない奴に殺されていた。リリカは知り合いだ。昨日とはわけが違う……」

「知り合いなら…飯が食えないのかよ……。面倒な体だねえ。じゃあ、誰とも出会わねえほうがいいな」

 頬杖をついて侮蔑の表情を浮かべる。

「どうしてそうなる?」

 苛立ったように那智が睨む。

 そんな事を一切気にもせずに殺人天使はにっこりと笑って顔を傾けた。

「だって……、みんな死ぬぜ? 所詮人間なんて長くても百年も生きられずに死ぬんだよ。知り合いが死んで飯が食えないなら、知り合わなきゃいいんだ。なんか間違っているか?」

「誰もがあんな死に方するかよ!」

「あんな死に方ってなんだ? お前は何見たっていうんだ? 血か? 肉か? 内臓か? ……そんなもんお前も持ってんだろうが、何を驚くことがある?」

 殺人天使は全く持って悪びれない。そう返された那智の方が閉口してしまう。

「お前は何もんだ? 人間だろ? なのに、なんでそれを受け止められないんだ?」

 勝手な事を言う。リリカを死に追いやっておいて。たしかに面倒臭い女だった。愚痴っぽくて好きに離れないタイプだった。だけど死んでいいとは思わない。

「子供がいたんだぞ……、アイツ」

「だから? 女は子を産むことが出来る。そんな体のつくりになってんだろ? 子がいる事位…普通だろ? お前が言いたいのは、こんな形で母親が死ねば、母親がデリヘル嬢だとばれて、あんな所であんな風に死んだしな、親戚に厄介もんにされて、学校では苛められてろくな人生送らないってか?」

 言いたい事を全て言われてしまったという顔の那智を見て、殺人天使は薄く笑う。

「知るか。バカ! これが俺の仕事なんだっつうの」

ああ、また――、羽がぼんやりと透けてしまっている。

「お前らは、見えなきゃなかったことにできるんだな」

 軽い溜息。

「でも、お前の中には確かに臓物が詰まっているし、俺も確かにココにいる」

 震える那智の口元にタバコを咥えさせる。

「その薄い皮の内側には、ちゃんと血肉が詰まってる。喜べ、お前もこの世界の役に立つ。多分な――」

 彼はへへへと下品に笑う。

 オイルライターの石が擦れる音。そこに灯った赤い火を那智に差し出す。

「羊飼いを知ってるか?」

 殺人天使は言った。


 一人の男が狩りに行きました。

 一匹の羊を見つけ殺して食いました。

 また、腹が減ったので狩りに行きました。

 今度は親子の羊を見つけました。

 母親を食った後、子供の羊は大きくなってから食おうと連れて帰り餌を与え飼いました。

 また腹が減ったので狩りに行きました。

 男はお腹の大きな羊を見つけました。

 すぐに子を産むことは分かっていたので、殺さず捕まえて帰り、子を産ませて乳を与え終わるころに、母親を殺して食いました。

 最初に連れ帰った子供の羊と、後で生まれた羊は大きくなり男が食おうと思った時、先に来た方の羊の腹が膨らんでいるのに気付きました。

 子を孕んでいる方を殺さず、オスの方を殺して食いました。

 残った羊は子を産みました。

 男は子を産んだ羊を殺しませんでした。

 新しい若いオスを連れて来ると、次の年、子を産んだメスと、そのメスの生まれた子まで孕みました。

 男は羊を増やし飼い馴らしました。

 どんどん増やすと今度は、羊の餌が足りなくなり、草原は荒野になり果て、男は羊を連れ草のある大地に移り住みました。

やがてさらに増えた羊に今度は病気が蔓延し、沢山の羊が一気に死んでしまいました。

そして、時が経ちまた羊は数を増やしました。

今度は、男は腹も減っていないのに羊を何頭か殺しました。

そうすると移り住むこともなく、病気も蔓延することはなくなりました。


「そうやって、人間も糧を増やして喰らうことを覚え、減らしてそれを維持することを覚えた。

羊と人は一見すると殺し喰らわれるだけではない様な気さえする。しかし、羊が『糧』であるという事は変わらない。どんなに飼い馴らされても、死を持って役に立つ存在だ」

「俺達も羊だと言いたいのか?」

「そうだ。羊を飼うお前ら人間も、誰かの『糧』だという事だ」

 火のついたタバコの先が震えた。

「糧を己が為、増やし減らすお前らならわかるだろう? その死にこそ、意味があるという事が――」

 那智にもう吐ける言葉など無かった。

「要するに羊飼いは、テメエらを飼い馴らして、バランスを見て間引くわけだ。お前らの為だ、あのエロジジイも、昨日のショタコンゲイジジイも、死ぬことでこの世の役に立ったという訳だ。要は、この世界バランスなんだよ」

 与えられたタバコの煙に咽びながら、薄く笑う彼の口元を見ていた。



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