あなたの友人より
ゆったりとしたバラードなどを聴きながらお楽しみください。
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「1通目」【2014年4月1日】
最近パソコンのメールボックスを開けていないみたいだから、とりあえず適当に送ってみる。
週に一回くらいのペースで出したとしても、どうせこっちから言わない限り開けないだろう。徹底的に何も言わずにメールだけを送り続けてみる。
そのうちに大量のメールが送られていることに気付いて驚くことだろう。
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「2通目」【2014年7月23日】
いきなりだが、3ヶ月も過ぎてしまった。
実際には何度も会っているし、こんなメールは送らなくてもどうでもいいのだが、ひそやかな楽しみというか、メールを開けた時に驚いて、同時に困惑の電話とか掛けてくることを期待して、こちらは素知らぬ顔をしながらしてやったりという反応をしたいのだ。
だから会うたびに顔を伺いつつ「こいつまだ開けてねえな」とか思ったりする。まだ量を送ったわけじゃないから気づかないでくれという思いの方が強いが、なんというか我ながらちょっと嫌な趣味だな。
それにしては、あまりたいした文章ではないのは、なにも考えていないから。わざわざ考えてまで送りつけるほどものでもないし(笑)。
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「3通目」【2014年10月21日】
一月おきに書こうとも思ったりしたが、もともと筆不精の俺がこまめにメールを遅れること自体がおかしいんだよ。無理無理。面倒臭くなってきた。
それにしてももう半年経過している。返事メールがこない。
あれか、あれなのか?
無視か。それとも気づいていながら俺から問いかけることを待っているチキンレースになっているのか?
いやいやそんなことはない。お前はそんなやつじゃない。
ネタとわかればタイミングなぞ関係なく食いつくはずだ。
疑似餌だろうが消しゴムだろうがプカプカ浮いていればパクリといただいちゃう奴だろ。
もしかしてと思ってNTTにハッキ……いや色々と調べさせてもらったらメールアドレス先はお前んとこの住所になってるし、未開封のままだった。
つまり……半年間メールボックスを開けていないのか?
これは驚きの事実ではないだろうか。
そろそろこちらも期待しているぞ。
数ヶ月。散々待たされたメールの返事がどんな形になるのか。機転をきかせるのか、コピペになるのかアスキーアートになるのか。それとも何気ない反応で来るのか楽しみにしている。
そうだ、忘れないでほしい。
このメールを見たら返事を書いてほしい。
それを最初に書くべきだった。
さあ、これからだ。
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「4通目」【2015年2月18日】
粉雪がしんしんと降りはじめ……どころじゃない。
豪雪だぞ。
今季初の雪にはしゃぎすぎて泥に雪をまぶした白玉団子さんをお前の愛車にぶつけてブチ切れてたあの日からもう4ヶ月。正月もすぎたし、学生は三学期に入った。成人式も終わった。いい年してガチ勝負に発展した雪合戦を係員に止められて怒られた雪まつりも終わった。
いいかげんのんびりする時間があったはずなのに、なぜメールを読まない?
なぜ俺が毎回NTTにもぐりこんで調べなきゃならないんだよ。
ネット環境が悪いということは知っている。共用のLANケーブルを自分の部屋まで持ってこないとならないのだろう。それでもたまにはネットをやってみようとか思ったりはしないのだろうか。つーかスマホ持ってるんだからメール転送くらい設定しろよ。
いや、新年を迎えて最初のメールが愚痴になるのはどうかと思うが。
それもこれもメールを見ないほうが悪いのだ。そう決め付ける。
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「5通目」【2015年8月29日】
うっかり忘れていた。ヴァーイ。
年始早々愚痴を送ったのだがいまだ気付かれず。ちょっと悲しくなった。
このメールのことを綺麗さっぱり忘れていた。
お互い毎日パソコンを使う仕事をしてくるくせに気付かないとは。
こちらも何かと忙しく、なんとも面倒臭い立場になってしまった。
楽しようとシステム周りをいじって8時間かかった仕事が1時間で終わるようにしたけど、その状況を説明するのに一週間残業する羽目になった。
わけわからん。同僚3人リストラされて俺一人になるし。
ただ作業量が増えるのもいやだから、忙しいフリをするのに忙しい毎日。
そんな適当でも仕事を続けていると厄介なもので信用されてしまうのだなあ。困った。
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「6通目」【2015年11月2日】
昨日、放送していたテレビで「2018年人類が火星に向かう」という特集をやっていた。
早いもので来年は2016年。多くの人にとっては興味は無いが、俺たちにとっては待ちわびたNASAのスケジュールだ。
来年には軌道ステーションへの往復が増える。もちろん種子島からもロケットが飛ぶ。
いつか打ち上げ見に行きたいなあって言ったらお前すげえニヤニヤしてたな。一人で行くのはいかんよ。一人は。
再来年には地球から飛び立った宇宙飛行士が軌道ステーションで物資を受け取り、再構成を終えたら火星へと向かう。
まあ、そんなことはお互い既知のことだろうけど見ちまうんだよ。いや見るだろ。間違いなくお前だって見てるだろ。お互いSFマニアが高じて理系畑を仕事に選ぶくらいなんだから。
しかし、メールで書こうと思ってもなんにも出てこないもんだ。時々なにか書こうと思いついたりもしたが、いざ、というときにはどうでも良い話題になっている。
だからこそ、こんなだらだらした文章にしかならない。
まあどうにでも好きにしてくれれば良い。とにかく見てくれることを祈る。
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「7通目」【2016年3月18日】
なぜ今頃イラクに攻め込むんだ、アメリカは!?
あの地域が面倒臭いのはいつものことだけどもさあ。アメリカでテロ増えたけどさ。それでも世論は非難バリバリなのは不思議だよねえ。世界平和なんてくそくらえだ(笑)
まあたまには時事ネタを書いておかないといつ送ったのかわからなくなるからさ。
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「8通目」【2017年4月2日】
もう8通目だ。送ってからすでに2年が経過したぞ。一体どういうことだ。
年々NTTのセキュリティーがきつくなってるんだぞ。確認する俺の身にもなってみろ。
腹を抱えて笑っとけばいいのか?
俺はたまに書いているだけだが、ついうっかり忘れるということもあるということを考えてほしい。そっちは全然気が付きもしないだろうけどさ。いまこの状況がむなしく感じられるのは間違いじゃないだろう。
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「9通目」【2020年8月19日】
3年経った。うはははは。
不思議なもんだ。全然頭の中は変わらない。いつも馬鹿なことを探している。
高校を卒業し、初めて1人暮しをしたときも別段変わったことはなかったし、そんなもんだろうとは思っていたが、予想以上におかしなことになっているような気がする。
20歳の時に将来の自分を想像したりもしたが、到底今のような人生を送っているようには考えていなかった。
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「10通目」【2022年3月11日】
ついに10通だ。
何年経っていると思っている?
送り始めて8年だ。
いや、年のことはいい。楽しく過ごしている……と思っているのだから。
少しは落ち着いてきただろうか。
確かに無茶が出来なくなってきたことが辛いかな。完徹も体力が続かなくなってきてるし。
それでもやるけどな!
昔みたく小さな郵便局に入って犬に追いかけられたくなってきた。あれ今考えても犬がいるっておかしいよな……ってもう昔話が出てること自体、現状があんまり楽しくないのだろうか。
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「11通目」【2024年9月15日】
年貢の納め時か。ついに結婚することになった。
すでに電話口で伝えているが、とりあえずこっちにも書いておこうと思って書いてみた。
なにかあるとこのメールに書いてみようとか思っていたが、そろそろこの読まれないメールもどうしようか考えている。結婚を期に。
届いているのは確かなんだけどなあ。
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「12通目」【2028年7月30日】
火星に人類が立ってからすでに10年。メールを送り続けて14年。年齢に関して言えば、そろそろ歴史が肩に乗りかかる歳になったぞ。
細かい年齢のことは聞かないでほしい。とりあえず30代で過ごせるから。
そっちはもう……言わぬが華か。
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「13通目」【2041年10月10日】
娘が色気づいてきている。
これは先日会ったときに飲み屋で愚痴ったことだが、なかなか表現しにくい。
子供を愛でる喜びというものが、目に見えて成長する娘に対して日に日に強くなる。
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「14通目」【2049年8月8日】
歳とともにしわが増えた。
発言に重みをつけようとして、わかりやすくゆっくり、静かに話すようにしていたら、それが自然体となってきた。
長年のダチだろうと面と向かって話すときは周囲の目もあってかそれなりに格好を付けるようになっちまった。
だが文章だけは変わらない。不思議だ。そして面白い。
今回はいつも話すと必ず嫌がられる事柄を文章で書いてみる。
さあ見ろ。家族旅行についてだ。
娘が結婚してすでに俺もおじいちゃん。いや、そう呼ばれているのだから仕方がない。
そちらは独身貴族。さぞかし楽しいことだろうて(笑い)
それでな、娘と孫を連れてフランスに行ってきた。さあ、だんだん鬱陶しくなってきただろ? それでも続けるぞ。
ここはおじいちゃんの財力を見せつけるためにも、気合を入れて海中トンネルを使っての旅行だ。
片道2時間でフランスだ。
いいだろう?
ただ、情緒も何にもなかったがな。
今の若いやつはどこに行くにも半日あれば着くと思ってやがる。これには文句を言いたいが、今は嫌がらせの文章をしたためているからその話は置いておく。
とにかくフランスだ。孫と。楽しかったぞ。
あれだな、フランスは過去の時代から変わらず石の建物ばかりだった。
旅行中にはなにかと不便だったが……でもな、その石造りの建物の窓は液晶でな、透過したりニュースみたりライオンが横切ったりして違和感がありありだ。
「怖い!」と孫に抱きつかれたときはフランスの歴史保持の文化をありがたく思ったがな。さて、お前さんは独身貴族をいつまで我慢できるかな?
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「15通目」【2061年2月22日】
さて、困ったな。
いきなり消息を経つあんたが悪い。
とりあえずメールを送る。
使用していたパソコンまで持っていったな?
ご丁寧にメール転送も設定しているじゃねえか。
つまり読んでいたってことだ。未開封のまま開封してたってだけか。
残念ながらお前の居場所は調べてもジャミングされててたどり着けねえ。
なにか理由があるんだろうが、お前が本気を出したら俺だって調べきれねえよ。
ただ、届いているってのは確実だろう。だったら送り続けてやる。
お前のメールアドレスはシステム内で固定した。
誰にも削除されず、気付かないようにしたから、あとはNTTが倒産でもしない限り消えはしない。
だから気が付いたら必ずメールをするように。
一人の酒は不味いんだよ。
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「16通目」【2067年12月23日】
わしもそろそろ迎えがきたようだ。
色々と調べさせてもらったが、どうせあんたはまだ生きとるだろうな。
というかまだメールが届いていないか。
やるじゃねえか。
どうせなら俺も連れてけ……とは思わないでもないが、家族がいるからなあ。だから言わずに出て行ったんだろう。
大変だったぞ。研究機関やら警察やら役所やら。
身分を明かさない怪しげな奴らもいたな。
遺書はあったし失踪届も出したからもうすぐ社会的にお前は死ぬ。
だが、なあ……。
そこそこに貯めてた財産をかなり潰して探してみたら、お前とんでもないことやりやがったな。
思えばお前は出会った頃からノートにそのことを書いていたな。俺は理系でもそっちはただのファンだったから正確にはわからないが、現実にこうなったからにはお前は超のつく天才だったんだろう。
すげえ馬鹿だったがな。お互い。
これは俺も墓の中まで持っていく。
明日から病院に入院だと。どうも神経がやられていたそうだ。
昔から考えても医療技術が格段に進歩しているにもかかわらず、病気はいっこうに減らないな。
いや、減っては増え、また減っては増える。
増えた病気はタチが悪い。
もって3ヶ月だそうだ。
このメールは止めない。やめる理由はないだろう?
俺もそこそこに資産ができたし、慎ましく暮らせば10世代先までニートできる額がある。遺言でも何でもいいから孫達にこれを押し付けてやる。あいつらはマメだからな、どんどん送られていくぞ。それもこれも全部返事を寄越さないお前が悪い。
なにしろお前は確実に生きているのだからな。
そしてこうなることだって予測済みだろう。
あとになってメール受け取ったとき後悔しやがれ。
それがお前がどこを漂ってるのかすら見つけられなかった俺の最後の言葉だ。
ちくしょう。
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「17通目」【2068年7月26日】
始めまして。
私は貴方の友人の孫の「時空」と書いて「ワープ」といいます。
祖父の遺言により、この文章をメールにて送らせていただきます。
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「18通目」【2117年1月3日】
曾々おじい様のお友達へ。
ぼくは新左衛門っていいます。今年の春に中学生になりました。
曾々おじい様の遺言をみてびっくりしました。
そしたらおじいちゃんがやっていいっていったので、ぼくが引き継いでこのメールを送ります。
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「19通目」【2117年4月7日】
曾々おじい様のお友達へ。
今日が入学式でした。
ぼくの家は科学の本がいっぱいあって、ぼくも小さな時から読んでたので、高校は物理と工学関係に進もうと思ってます。今は、一度は火星に行かないと男じゃないって友達から聞いてたし、お父さんもそうだっていってました。
ぼくは火星にはあまり行きたくないです。
火星に行くよりも、ここで色々な物を作っていたいな。
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「20通目」【2120年5月23日】
曾々おじい様のお友達へ。
高校生になりました。
メールでお話した通り、理工学系の高校に進学しました。
自分は地球よりも宇宙に貢献できる物を作りたいと思います。
恒星間航行が可能な永久機関エンジンとか宇宙線を利用した惑星間航行可能なエンジンとか、できれば作りたいですが遠い夢の話です。
たんなる高校生には過去の技術を復習するだけで精一杯です。
ちょっと辛いですけど楽しさのほうが多いです。
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「21通目」【2124年9月10日】
曾々おじい様のお友達へ。
お久しぶりです。大学へは行かず、就職することになりました。
就職先は火星です。
一応エンジニアとしてです。これでも奇跡みたいなものなんですよ?
高校時代に一生懸命解体復元を繰り返していたから出来た奇跡です。
いまは火星をよりよい環境にすることが楽しくてしょうがありません。
いつか来る機会があれば「これがぼくの育てた火星だ!」とお見せします。
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「22通目」【2200年3月11日】
曾々おじい様のお友達へ。
この始まりの文章を書くのも何十年ぶりでしょうか。
遅れてしまい申し訳ありません。
私も年を取り、遺言が気になるようになりました。
そこで私の家系がどんな遺書を書いていたのか確かめているうちに曾おじい様の遺書を見つけ、思い出したという次第であります。まことに面目ない。
だが、私が書くのもこれまでにさせていただきましょう。
続きは曾孫の、まだ中等部に入ったばかりの小娘……いやいや、私もその頃からでしたな。
私が年を取るまで色々なことがありました。目指していた夢にはいくらか届かないところがありましたが、それなりに満足した人生でありました。
これから曾孫に任せることにしましょう。
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「23通目」【2200年4月1日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
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「24通目」【2200年4月10日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
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「25通目」【2200年4月25日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
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【26通目】【2200年5月5日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
始めまして。さやかです。
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「27通目」【2200年5月18日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
お久しぶりです。私は元気です。
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「28通目」【2200年6月3日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
あまり学校が楽しくありません。程度が低すぎ。
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「29通目」【2200年7月9日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
先日、学校の課題研究で製作した理論が大学で好評だったようで、飛び級になりました。
この夏から大学生になります。
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「30通目」【2200年9月2日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
大学でもそう変化はありません。どこに行ってもどうしようもない人間はいるんですね。
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「31通目」【2200年10月11日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
研究室と一人暮らしのマンションが心地良いです。一人は楽です。
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「32通目」【2200年2月29日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
私が発表した浮遊型軌道エレベーターが採用されるようです。
現状では予算や環境面もあって不可能と考えられていた軌道エレベーターよりも、維持費を含めて三桁ほど低い予算で作ることができることが決め手だったようです。
どの飛行機体でも飛べる上空1万kmに離発着基地を作り、そこから10万kmまで伸びたカウンターウエイトで姿勢を維持する宇宙都市になります。
宇宙といってもステーションのある場所が4万キロメートルの重力井戸のギリギリのところで、見た目が串に刺した団子に似ているから「串団子」とか「かんざし」とか言われてます。
これからは忙しくなるのでメールはしばらく送れません。
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「33通目」【2206年6月24日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
お久しぶりです。私も18歳になりました。
私の発案である浮遊型軌道エレベーターは、色々な変化を遂げました。
団子の部分を残して着脱可能になり、いざというときには串切り離して宇宙にも飛び出すことができるため、機動要塞のようなものになってしまいました。
いざというときには戦艦になるのです。
火星政府との衝突が現実のものになっている今では、多種様々な浮遊型軌道エレベーターが世界各地で製造されています。
私の考える以上に人類は情けない種族のようです。
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「34通目」【2206年10月2日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
人類は最悪の方向へ進んでいます。
それもこれも人口飽和のせい。
地球はすでに溢れ返っていますし火星にしても限界がありますが、今は膠着状態のため送れず。送れたとしても後20年も経てば飽和するでしょう。
木星の衛星にいくつか居住可能な衛星が存在していますが、それも相当に手を加えなくてはいけなく、さらにごく限られた人数しか移り住むことは出来ないようです。焼け石に水。
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「35通目」【2206年12月25日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
今日は宗教家イエス・キリストの誕生日だそうです。
宇宙暦はありますがなかなか定着せず、また地球規模の新しい国家というものが設立しないため、現状は西暦を使用しています。
こんな日に私が思いついたのは、あまり人類に公表してはいけないような理論でした。
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「36通目」【2208年5月19日】
遠い昔のおじい様のお友達へ。
コップからこぼれそうな水が表面張力により必死に保っている。
ありきたりですが、現在の人類はそんな表現が的確です。
今すぐにでも人間を粛清しようとしている組織が存在しているのです。それも複数がにらみ合っている状況です。
火星対地球などの戦争であれば、場所の取り合いっこする単純な理由から来ているので納得は出来ませんが理解は出来ます。
ところが、あきれたことに人種によってです。
黒人と黄色人種。
人類の共通語が作られてから一世紀が経過しましたが、地域同士では母国語を話します。
その一部の母国語を持っている黒人と黄色人種が否定されています。
10年前に発症した疫病が起因しているらしく、彼らの言うところ「悪魔の化身」だそうですよ。
現在では治療法も確立したのでその苦しみからは解き放たれたのですが、当時の恐怖はまだ人の心の中に巣食っています。
これには人種差別である以前に、そもそもが人口爆発という原因があったために起きた現象です。
平和だったからこそ科学技術が発展したからこその悲劇です。
平和が続ければ続くほど、そのあとの苦しみが倍増されるのでしょうか。
それとも平和の名目で人の自由を奪いすぎた結果なのでしょうか。
森林伐採や埋め立ては環境汚染。
宇宙ステーション乱造は太陽汚染。
動植物の食用禁止。
会話誘導罪、接触罪なんてものも含まれた人権保護法があります。
どれも技術的に解決した問題がほとんどで感情論です。
人はいつから狂気に蝕まれたのでしょうか。
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「37通目」【2208年9月9日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
なんとなく「未来」のほうが合っているような気がするので変えました。
人種間戦争が秒読み段階に来ました。
私には人類に対する大義も無ければ恩もありません。
私も黄色人種ですけど、人に生まれたことに感謝するほど宗教にかぶれてもいませんし、いまできることを精一杯なんとなくやってるだけです。
でも、できるなら人が死ぬところなんて、まして大量になど見たくありません。
おととしのクリスマスに思いついた理論を応用し、時空を跳ねる方法を発見しました。
うまくいけば人口爆発を解消できるかもしれません。
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「38通目」【2208年11月1日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
匿名で国連宇宙科学協会に理論を提出しました。
もう、人に注目されるのは嫌だからです。
この理論では、宇宙空間を一瞬で跳躍することが出来ます。
ただし、最高でも8000万キロメートル。
連続使用も理論上は可能です。
うまくいけば、新たな恒星にたどり着くことができるはずです。
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「39通目」【2209年4月8日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
嘘のように人口淘汰を煽る活動家、宗教家のプロパガンダ動画がなくなり、移民船へ乗り込む民間人を募集しています。人間その気になれば船の1万や2万あっという間に作るものですね。ばかみたい。
でも、最低1年は宇宙で生活するための訓練しなくてはいけなくて、私の訓練を受けているところです。こんな地球よりも最初の移民船団になって、新しい惑星を数少ない人数で一生懸命生きていくことが一番たのしそうだからです。
筆記試験に挑み上の下というくらいの点数で通過しました。
このメールを書き始めたおじいさまの手記は凄いです。
今となっては過去の遺物ですが、発想は今でも通用します。
私は身分照会等のシステムを弄ってただの一般人として参加しました。
これからは船の中での生活や、基礎体力をつける訓練だそうです。
これも必要だと思っているので仕方がありません。
ただ、移民船の出来がいまいちなのが心配です。
どうも理論を勘違いして使用しているような気がするのですが、私はいち民間人なので関わることができません。
安全性には問題ありませんが、なんだか歯がゆい思いです。
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「40通目」【2209年12月25日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
運が良く、第一期移民船団に選ばれました。
出発は少し遅れて12月25日。クリスマスです。
この一ヶ月前には出発可能だったのですが、船の再確認と人間の再確認を繰り返していました。それ以外はクリスマスイブを家族と過ごしてから出発したいという理由だそうです。
私はひとりで過ごしましたが。別に構いませんが。美味しいご飯食べましたし。
あとは出発のみです。
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「41通目」【2209年12月27日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
現在、冥王星の中継基地で一泊しています。
思ったよりも航行は順調で、ここまでは3日で来ることが出来ました。
これまでは宇宙空間に不純物が多かったため、あまり跳躍は出来ませんでしたが、これからはほとんど小惑星もなくなるので今の数倍は早く進めるようです。
私たち移民船団100隻はここでお別れです。
500人乗りの船は、みんなばらばらの方角へ跳んでいくことになるでしょう。
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「42通目」【2210年1月2日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
地球の正月を迎えました。
といっても、すでに地球では正月を過ぎて成人式になっていますね。
船内時計では正月です。冥王星を過ぎて一週間経っています。
単純に計算しても、この船では一光年進むためには10万弱の跳躍が必要です。一番近いケンタウルス座まで4.3光年。
およそ50万回の跳躍。
今のところ一日に100回跳躍しているので5000日かかるという計算です。
ただ今は安全性を考慮して3時間という限られた時間でしか跳躍を行っていないためで、操舵士の技術も向上すれば一日1000回以上はできると思っていますから、そんなに日数はかからないでしょう。
私たちは純粋に旅行を楽しむのみ。
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「43通目」【2210年3月15日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
船が故障しました。
操舵士と航宙士の連携ミスによって、跳躍後の小天体を回避できず反物質を形成。これは多少の被害で収まりましたが、その後に無謀にも連続跳躍をしてしまい、跳躍用システムがショート。プログラムの設定にも狂いが発生。安全基準に達しないため起動系が全て沈黙しました。
ケンタウルス座まで後4.1光年。通常航行ならば数十万年とかかってしまいます。
いま、船内は混乱しています。
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「44通目」【2210年3月18日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
まだ完全に終わってしまったわけではありません。しかし乗っている船員のほとんどは船に関する知識は少なく大きな混乱へと向かいました。
時間はかかるかもしれませんが、この程度なら数ヶ月あれば回復するはずです。SOS信号だってちゃんと発しているし地球からの救助だってあります。もしかしたら治すと同時に地球から救援がやってきて無駄になった、なんて笑い話になることだってありえます。
今は知識の共有が行われているところです。
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「45通目」【2210年3月30日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
船内の生命維持装置は無事ですし、人がきちんと整備していれば何世代だって生き残ることができます。なのでいま私たちがすることは生き延びること。そのためには秩序ある生活をして、割り振られた仕事をこなすこと。
それとは別に船の技術を一から学ぶこと。
この船にはあらゆる方面の専門家がいます。医学、化学、科学、農耕技術、天文学、心理学など様々です。
ただ、この船の中で不安を無くすためには全員が船の知識を持つことです。
学ぶことに貪欲な人が多く、少しずつですが勉強していくうちに問題が大きくないということに気がついて、混乱が収まってきています。
しかし、それとは別にコントロールルームの人たちが隠していることがありました。
地球からの救援は望めません。
私達は今、地球から48光年離れた場所にいます。
いやな予感がします。
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「46通目」【2210年4月18日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
私の嫌な予感は当たってしまいました。
二つのグループが対立したのです。
原因は星の位置から現在の場所を割り出した結果、私たちの船は想定以上の大きな跳躍してしまったこと。そしてそれを隠されていたことが明らかになったこと。
片方は船体は時間をかければ治るのだから構わないという派。
片方は隠していたことが問題であるという派。
こんな何もない深遠の宇宙でもやっぱり人類は地球と同じことを繰り返すのですね。うんざりです。
なにより、これまでの勉強会によってお互いに船は安全であることを理解しているのです。
だからこそ、その感情の矛先を求めて争っている点が非常に醜く感じます。
私が跳躍エンジンを調整できないことはないですが、今の状況ではとても直す気になりません。お互いに新しい未来を語っていた人たちが醜い争いをしているのです。
ちょっとくらいのお仕置きもかねて、私は傍観を続けたいと思います。
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「47通目」【2210年4月22日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
本当に危険な状況になってしまいました。本船のメインコンピューターが停止しました。
発端は対立した二つの班の争いですが、第三のグループといいましょうか、私もその中に入っていたのでしょうが、傍観者グループの中の一人が自棄になり、メインコンピューターを破壊してしまいました。
とある宗教に基づいた行為だったそうです。
閉鎖空間での環境テストを乗り越えた人たちなのに。
この船って外から電子鍵をかけられる独房があるんですよ。バカバカしい。
サブも予備もサブ予備もありますから、生命維持にも今後の航行に関しては問題ありませんが、気付いていないんでしょうか。
このような状況を生み出したことで絶望が艦内を襲っているようです。
私も手元に自分で調整したパソコンがあるし、これでメールを打っていますが、システムを調べたところでなにもやる気がわきません。
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「48通目」【2210年6月28日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
人は一度絶望を覚えると、今度は前向きに進もうと思うみたいです。
全員が一致団結し、少ないらしい可能性を信じて動き始めました。とても清々しく船内が生き返ったようです。
でも、分からなくなってしまいました。
私がここで船を直しても、果たしてそれが良い方向に進むかどうか。
せっかくの勢いに水をさしてしまうのではないか。非常に困っています。
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「49通目」【2210年7月4日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
みんなの瞳は輝いているのに、私だけが疑心暗鬼になっています。
船が跳躍を止めてから3ヶ月。軌道を修正しながら通常航行をしていますが、たった10億キロも進んでいません。跳躍ならほんの十数分で跳べる距離です。それでも人は一生懸命に生きています。
私の存在価値がわからなくなってきました。
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「50通目」【2210年7月11日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
私以外にも、まだ立ち上がらない人は少しだけいます。
でもみんなは気にしません。
動ける人が頑張って働いてくれているのです。そのうち元気になって働き出す人もいるからです。みんなそうやって今の活気ある船内になりましたから。
私もそろそろ動き始めようかと思います。
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「51通目」【2210年7月17日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
今日は船の中を隅々まで廻ってみました。
これまで閉鎖されていた場所も開かれています。
もう誰も叛乱など考えていないからです。
興味ある事柄があれば、知っている人に聞いて教えてもらい、新たに知識を増やすことが今の船に必要なことです。そして運良く新しい知識が生まれるかもしれない。
全てがこの「うまくいくかもしれない」という過剰な期待のみで存在しています。
表面張力したコップの水。
これもそう呼ぶのでしょうか。
そして衝撃を与えるのが私なのか。
こぼれた水は一体どうなるのか。
私にはわかりません。
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「52通目」【2210年7月20日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
いまさら後戻りは出来ません。かといってみんなに全てを話す勇気もありません。
だから、みんなに黙って船を修理することにしました。
さあ、これからが本番。
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「53通目」 【2210年7月23日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
壊れたメインコンピューターは、いつのまにか「マザー」と呼ばれるようになりました。
「よりしろ」だからという理由だそうです。
私にはよくわかりません。
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「54通目」【2210年7月28日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
メインコンピューターの外観の修復が終わりそうです。あとはシステム周りです。
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「55通目」【2210年7月29日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
コンピューターは完全に沈黙していました。
跳躍に必要なエネルギー保存システムが完全に破壊されました。
メインだけではなく、サブも予備もサブ予備のものもありません。
これがなくては跳躍することができず、ただの浮かぶ船です。
犯人はいつの間にか独房から出ていた連中です。
彼女たちは勝利を叫びながら緊急脱出口から外へと飛び出しました。
宇宙服も着ないで。
誰もなにも言わなくなりました。
この船の設備では足りません。
必要な道具も必要な機材も不足しています。
たとえどこかの惑星を見つけたとしても着陸することができません。
……もう、だめかもしれません。
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「56通目」【2210年8月5日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
中央地区では、また騒ぎが起きていました。
今回はいさかいではなく、外部からの訪問者が現れたそうです。
こんな何も無い宇宙で訪問者。入れるかどうかで判断が分かれていたようです。
でもすぐに答えは出ました。入れない理由が無いのです。
現れたのはおじいさんが一人。名前は名乗りませんでした。
ただ、おじいさんは船を修理できるということでした。
それ以外は何も答えてくれません。
船が蘇りそうです。
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「57通目」【2210年8月8日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
深遠の宇宙での出会い。それから三日が過ぎました。
常におじいさんの周りには誰かがいるので、詳しい話は出来ません。
おかげで疑問がたくさん湧きあがってきます。
唯一聞けたことは、この船から微弱のSOS信号が発生していたということ。
でもおかしい。
船のSOS発信は止まっています。外の情報を捨てて船内を維持するだけが精一杯だったはず。
第一地球に届いたとしても光速で80年以上かかる距離に私たちはいるのだから無駄です。
ここはそういう世界。
辿り着くことが出来る人間なんているはずはないのだから。
だから、船内維持に全てをむけていたのに。
なにかがあるとしたら、この私が送っているメールのみ。亜空間を利用した特殊な方法で地球に送っていたので、途中で受け取ることは不可能のはず。
そしてこの技術は私しか知らない。
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「58通目」【2210年8月13日】
遠い未来のおじい様のお友達へ。
おじいさんと二人きりでお話をする機会があったので、いろいろ質問をぶつけてみました。
あまり大勢のいるところで質問をするとまずいから。みんなもおじいさんのことは疑っているみたいだけど、おじいさんの気を悪くしてはいけないから気付かない振りをしている。
私も気付かれないように、技術を少しはかじった人間という形でおじいさんに質問をすると、やっぱり、私のメールが発見の糸口になっていたそうです。
またおじいさんの船は、理論にストッパーを掛けてわざと短い跳躍しかできないようにしたこの船とは違い、時空を自由に飛べる船のようです。
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「59通目」【2210年8月18日】
船が完全に治り、跳躍も以前より数パーセント伸びました。
おじいさんは再び船に帰ることになりました。
みんなで感謝を伝えて、私も握手をしていたら、そこで耳元で言われた。
「君がメールの差出人だろう?」
私は驚いたまま小さく頷くと、おじいさんはイタズラが成功した子供みたいな笑顔をしていました。
船を直してくれたおじいさんは帰りました。
宇宙を旅行中だったそうです。
あまり多くは話すことが出来ませんでしたが、いつかどこかの惑星にたどり着いたときにはきちんとお礼をしたいと思います。
私はこのメールによって、いろいろな人間関係の愚痴ばかり書いていました。それまでは自分でも嫌気がさすほどの人間嫌いでした。
でも、届くかどうかわからない相手に愚にもつかないメールを送ることによって、なんとか平静を保つことが出来たんです。
そして、私は努力することが出来、現在は宇宙に飛び出すほどになりました。
本当にありがとうございました。
そして、このメールも、あなたに届くでしょう。
遠い未来のおじい様のお友達へ……いいえ。
見たこともない宇宙船で飛び去ったおじい様へ。
あなたの友人の子孫である私より。
いつかまたお会いできるその日まで。
今度は私が恩返しをする番です。
そしてそれはきっと近いうちになると思いますよ。
……でも、たまにはお返事くださいね。
―END―