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山崎雄平

 だまされた。

 というのが、嘘偽りの無い彼の気持ちであった。

「魔王さま……」

 気遣わしげに、少女が言うが、その言葉に鋭敏に男は反発した。

「魔王なんかじゃねえよ。おれはただの……」

 びくりと震えた少女を見て、違う違うお前に怒ってるんじゃないんだというように男は手を振った。

「おれはただの、チンピラだよ」

 男――魔王は、そう呟いて、溜め息をつく。

 自分が、こんな砦の一室にいること自体が今更ながらに信じられない、とその顔は声無く語っている。

「でも……あんなに強いのに……」

 チンピラなどと、ありえないと少女は言いたいのだろう。

「こっちの世界ではな……」

 魔王は、複雑な表情をしていた。

「あっちの世界じゃ、おれなんか全然強くないんだ」

 こっちの世界に来ることによって我が物となった強さに関しては、なお愛着というか執着があった。

 こんなのもう嫌だから、元の世界に帰りたい、と言うのを躊躇う気持ちがある。

 元の世界に戻ったら、またただのチンピラだ。こっちの世界に来て、魔王と呼ばれて祭り上げられて、だまされた――と思いつつも、そのことによって以前ならば思いもしなかったいい思いも散々してきた。その自覚はあるのだ。

「山崎雄平」

「え?」

「やまざき ゆうへい それがおれの名前だ」

 聞き慣れぬ響きの名前に、少女は戸惑っているようだったが、彼女も事情はある程度は知っている。

「それが、魔王さまの名前なのですね」

「おう」

 魔王じゃねえ、と言いたくなったが、いちいち訂正をさせるのも面倒なのでそこは流した。

 そんなことを、なぜこの少女に告げたのかは彼自身よくわからぬ。

 ただ、魔王と呼ばれおだてられ、それによって多くの人間に恐れられ、敬われ、かしずかれ、それに合わせて自分は魔王だ人間を超越した存在なのだと自意識を肥大させていた過去の自分への決別とでも言おうか。

 ただのチンピラだったおれがこんなふうになれるのならば、こっちの世界に呼び出されたのは、いいことじゃないか。

 そう思い、なんの疑いも持たずに、自分を召喚したという老人に言われるがままに魔王として振る舞ってきた。

 そんな中で、すっかり自分の本来の名前すら忘れていた。

 口にする必要が無かったし、名前は「魔王」で事足りた。

 自分は、山崎という姓を繋いできた親から雄平という名前をつけられた、ただの人間である。

 そう改めて認識するために、その名を口にし、その場に居合わせた少女にそれを告げたのだ。

「ただの、チンピラなんだ。おれは……」

 また、それを繰り返す。少女に言っているのではなく、独り言であった。

 ただのチンピラではなく、ケチなとか下っ端のチンピラというのがぴったりだったと我ながら思う。

 学生時代は言うまでもなく不良だったが、別にグループの中で強いわけではなく、強くはないが弱くもない、という存在だった。

 他のグループと揉め事になれば、日頃強い強いと言われてそれを自負してもいる連中が真っ先に前に出たから、矢面に立つこともなかったし、自分より下位の連中がいたからそれへ威張ることもできた。

 いわば、けっこう居心地がよかった。

 それが、そういうグループにずるずると属し続けていくことになったと今ではわかる。

 グループの奴らは高校卒業と同時に速やかに真面目になって就職していったが、まああいつらはそうするしかないだろうな、とか思っていた。

 今から思えば、赤面ものだが、自分はそうするしかない存在とは違う、と思っていたのだ。

 では、何をするかといえば、何かがあったわけではない。

 ただ、漠然と、あいつらと同じように就職するのは嫌だなと思っていただけだ。

 数年ぶらぶらとしていたが、ある時、グループの連中で集まろうということになった。

 久しぶりに懐かしい話に花が咲き、決して楽しくないわけではなかったのに、なんだか妙な疎外感があった。

 取り残された感じ。

 他の皆は、それらの話をあくまでも過去の馬鹿だけど楽しい思い出話として、一歩引いたところから語っていた。

 自分だけが、その場所にいない、と不意に思ってしまったのだ。

「山崎は、まだ無職かあ」

 話の中で、そう話を振られた。

 言ったのは、グループ内でも喧嘩最強で中心的だった人物だ。実際に、後輩を殴った他校の連中三人を一人でボコボコにしたのをこの目で見ているので、頭が上がらない。

「うん、まあ……ぼちぼち」

 曖昧に相槌を打って誤魔化すに限ると、ヘラヘラ笑って言った。

「なんなら、おれんとこ来るか。正直、そんなにいい給料出してやれねえけどさ」

 そいつは、鳶職に就いていた。あー、なんか不良上がりが鳶って、いかにもだよなあとか軽く馬鹿にしたりしていたのだが、もちろんそんなの口にも表情にも出さない。

 なんでも、仕事を覚えて段々と重用されるようになり、親方からお前みたいなのはいつかは自分で親方になるべきだと言われているそうだ。

 後輩が殴られたのを見て、三人相手に一人で突っかかって行ったように、けっこう親分肌なところがあるので、そこを見込まれたのだろう。

 そいつが、善意で言ってくれているのはわかったが、ここで着いていったら、もうこの先ずっとこいつの子分だなあ、と思ってしまうと頷く気にはなれなかった。

 そいつも、そんなに執着はしておらず、まあその気になったら電話しろよ、とだけ言って話を切りあげた。

「山崎もさ、結婚すりゃあバシッとするって」

 別の奴が、言った。

 所帯じみた話になってきたなあ、と思ったが、既婚者がけっこういて、それがすぐさま同調して、ますます所帯じみる。

「結婚してるの何人かいるけど、子供はまだだよなあ?」

 その声に、席の端っこにいた男が小さく手を上げた。

 まあ、いわゆるグループ内の下っ端だった奴だが、就職してすぐに結婚していた。

「おー、マジかよお!」

 一同興奮気味に言った。

 そんなとこいねえで真ん中に来いと引っ張ってこられたその男は、促されるままに子供が産まれた時のこと、風呂に入れるのに苦労していること、などを披露した。

 つまんねえ話――としか思えなかった。

 だが、みんな、食い入るように聞いている。

 いったい、なんだ――

 ただでさえ感じていた疎外感が、さらにそれを増幅した。

 このグループにおいて、何時の間に結婚し子供を産むことが序列に影響するようになったのだ、などと思った。

 なんだか辛くなってきたので、二次会は適当に言い訳つけて遠慮しようとしたが、そもそも二次会は無かった。

「明日五時起きだから」

 鳶になった奴がそう言うと、他の連中も似たような感じで、解散となった。

 元々、世話になる気などなかったが、朝五時起きと聞いて、いよいよあいつに電話することはないだろうな、と思った。

 そのうちに、いよいよ放任主義の両親が干渉を始めてきた。

 さすがに、まとまった金を稼いで見せでもしないとそろそろ家を追い出されそうだといいバイトを探している時に先輩に声をかけられた。

 二歳上の先輩で、学生――つまり不良としての現役時代――には、ぶいぶい言わせていてけっこう憧れていたものだ。

「他の奴はビビっちゃってさあ、お前しかいねえんだ」

 お前しかいない、という殺し文句に舞い上がり、さらには大金を稼ぐという夢のような話に舞い上がり、話を受けた。

「そりゃ、多少は危ない橋さ。でも、そうでなきゃ短い時間で大金はつかめねえ」

 という言葉も、歯止めにはならなかった。自分みたいなのがいきなり大金を、となればリスクがあるのは当然だと思ったし、なによりそういう危ない話に首を突っ込むのに快感すら覚えていた。

 卒業して数年で、すっかり落ち着いて高くもない給料のために朝早く起きて働き、そろそろ子供が欲しいなあ、とか言っているあいつらと自分は違うのだ。

 後から思えば、その先輩が自分を高く買っていたのではなく、もう自分しか声をかける相手がいなかったのだ。

 現役時代の先輩の印象しか残っていなかったので、今も一声かければ後輩が集まってくるように考えていたが、なんのことはない、先輩も同じで、取り残されていた人だった。

 怪しげな儲け話を持ち掛けても、現役時代は二つ返事で着いてきた連中が、いやぁそれは……と適当な理由をつけて断ってしまう。

 脅し上げても、のらりくらりとかわされる。以前ほどは自分を怖がっていないのは明らかだった。

 それならばと実力行使に出ようとすれば、警察への通報をちらつかされて、それをされると引き下がるしかなかった。

 そういったことは、先輩との「仕事」を重ねていくうちに段々と知っていった。

 なぁんだ――と、どうしても先輩と、なにより自分が特に見込まれたというわけではないんだなということに失望したが、仕事は続けた。

 大金、とはとても言えない小銭稼ぎだったが、それでも少しは稼げるし、それにやはりいつかはでかい仕事で大金を、というのも諦めてはいなかった。

 ある時、でかい仕事があると誘われた。

 蓋を開けたら、小遣い程度の稼ぎというのがこれまでのパターンだったので、あまり期待せずに出掛けると、先輩の表情が尋常ではない。

 これは、いよいよ本当に……と言い知れぬ不安と、昂揚感が混ざり合った感覚が背筋を走った。

「ちょっと、コレが絡んでるんだけどよ」

 コレのところで、先輩は頬に指を上から下に走らせた。

 それの意味することは、すぐにわかった。

「やくざ、ですか?」

 恐る恐る、言葉を出した。先輩は頷く。

 やっぱり、まっとうでない方法で大金を稼ぐとなると、どうしてもそれと接触せざるを得ないのか。

「なんなんですか?」

「取引だよ」

 とある品物を持っていき、それと引き換えに金を貰ってくる。そのうちのいくらかがこちらの取り分となる。

「なんで、おれたちに?」

 話だけ聞くと、非常に簡単だ。品物、というのはおそらく非合法薬物の類だろうが、それを運んでいって金を受け取るだけだ。

 簡単すぎて、なぜやくざが、それを自分たちに報酬を払ってまでやらせるのかがわからない。

「おれにこの話を持ってきた人たちは、相手のことをいまいち信用してねえ。なにしろ初めての取引らしくてな」

 一瞬で、恐ろしい情景が頭に浮かぶ。

 品物のトランクを持った先輩と自分がどこか薄暗い倉庫にでも入っていき、そこで怪しげな連中と落ち合い、さあ品物と金を交換だ、というところで取引相手は豹変し、銃を取り出して――

「や、や、やばくないすか?」

 自分が何を想像して、上ずった声でそう言ったかは理解したらしい先輩は、肩を強く叩いてきた。

「やばいけど……だからこそ、品物を持ってくだけでえらい金をくれるんだ」

 危ない橋を渡ることもある。いや、そこを渡らんと大金なんぞ手に入らない。そのことは理解し覚悟していたが……

「そこまで心配すんな。あくまで念の為だし……それに、当然少し離れたところから、組の兵隊が見てるんだからよ」

「あ、そ、そうか……」

 それに、少し、ほんの少し安堵する。危ないことには変わりないのに。

「お前の取り分は……これでどうだ」

 少しほっとした隙間に這い入るように、先輩はすかさず指を立てながらにっこり笑って言った。

 指が二本立っている。

「に、二百万……すか……」

 今までの「小遣い」とは比べ物にならぬ大金だが、リスクも同じく比べ物にならぬ。

「実際かかるのは、二時間かそこいらだ。時給百万円だぜ」

「いや、でも……」

 それでも、命を賭けるに値するかと言うと、どうしても尻ごみしてしまう。二千万円ならばかなり心は動きそうだが、二百万というのは、一線を踏み越える後押しとしては少し弱かった。

「山崎……」

 それまで、猫なで声と言ってもよかった先輩の柔らかい声が、突如硬さを持った。

「ここまで聞いちまった以上、受けてもらわにゃ困るぜ」

 聞いちまった以上……って、先輩が勝手にどんどん話したんじゃないすか――

 そもそも、先輩はいつも、

「嫌なら、いつでもおれと仕事すんの止めていいんだぞ。おれぁ、やくざじゃねえ。そりゃ仕事でやくざと関わったりはするけど、おれら自身はやくざになんかならねえ方がいいんだ。あれはあれで、一度なっちまうと抜けるのも大変だし、しがらみも多いしよ。あくまでグレーゾーンで動いて一発当てて、大金掴んだら危ねえ仕事なんか止めて悠々自適に暮らすのが一番だよ」

 と、言っていて、やくざのような堅苦しい縦の関係ではなく、緩い横の繋がりのフリーランスを、さも理想的な存在であると語っていたのだ。

 話が違う――と言いたかったが、先輩の目の座りようは命の危険を感じさせるに十分な威圧感があった。

「わ、わかりました。先輩に、そこまで見込まれたんなら」

 と、少し媚びる色を加えて、承諾した。

「おう、やってくれるか」

 取引は明日だと言う。急な話だなと思ったが、変に時間が空くよりも、さっさと済ませてしまった方が気が楽だと自分に言い聞かせた。

「今日はうちに泊まってけ」

 と、親しげに肩を叩きながら先輩は言った。帰したら、そのまま逃げられるのを恐れて目の届くところに置いておきたいのだというのが丸分かりだ。

 一度、屈してしまった以上、それに逆らえるわけもなく、先輩の住んでいるアパートに泊まった。

 泊まったのは初めてではなかった。これまでにも、何度か飲み明かして二人でそのまま寝てしまったことがある。

 その時は、いつか大金をと夢みたいな話で盛り上がっていたものだ。

 本音では、大金を掴めるなんていつのことやらと思いながらも、実はそうやって二人でいるのが嫌いではなかった。

 先輩は、現役時代はまともに目を見て話せないような関係だったが、一緒に仕事をするようになってからは、かなり打ち解けた感じだった。唯一の仕事仲間を逃がさないためだったのかもしれないが、あの先輩とそうやって仲良くしているのは、悪い気分じゃなかった。

 いつまでも学生時代の気分を引きずって、仲間だった連中がすっかり社会人になっているのに取り残された気持ちになりつつも、自分がそちらに行くのは拒み、そうしている自分に劣等感と優越感が交互に顔を出すような、妙な感覚を抱いていた。

 俺は、そっちには行かないぞ。リスクを犯しても、一攫千金だと思いつつも具体的な方法を思い付けない彼にとって、先輩の存在は確かに、便利であったのだ。

 大金という話はどこへやら、小銭仕事ばかりを持ってくる先輩だったが、自分だけではその小銭仕事にもありつけないのだ。

 ある意味では、先輩に依存していたと言っても過言ではない。

 そんなだから、監視されているとは言っても拘束されたわけではなく、その気になればいくらでも逃げる方法はあっただろうに、それを思考することに蓋をして、考えないようにして前祝いと称する酒をあおっていた。

 少し酔いが回ると、まずいことになるとは限らないじゃないか。先輩も言ってた通り、何事もなくことは済み、労せずして二百万を手に入れるという可能性だって十分にあるんだと楽観的に考えた。

 翌日、酔いが醒めてしまえば、またあれこれと起き得るであろう凶事を思って内心震えたが、ここまで来ては引き返せない。

「運転しろ」

 と、先輩の車のところまで来ると、鍵を渡して、先輩は助手席に乗り込んだ。

 先輩に言われるままに、車を走らせると、とあるアパートの前で停止させられた。

「すぐに出られるようにしとけ」

 エンジンを切らずに待っていろという意味に解釈し、そのようにしていると先輩はそのアパートの一室のドアの前に立った。

 きっと、あそこの部屋で品物を受け取るのだと思った。

 先輩はインターホンを鳴らし、中に入って行った。

 しばらくすると、大き目のボストンバックを持って出てきた。

 後部座席にバックを放り込み、自らは助手席に座る。

「出せ」

 そう言った声が震えていた。さすがの先輩もいざ非合法の品物を手にして緊張しているようだ。もう、それが後部座席にある以上、警察などに止められたらおしまいだ。

「どこへ行きます?」

「高速乗れ」

「はい」

 一番近くにあるインターまで迷わず走る。

 高速に乗ってから、先輩は無言だった。ぴりぴりした緊張感が車内に充満し、自然とこちらも話しかけたりはできなかったが、ガソリンの残量が乏しくなってきた。

「あのぅ、先輩……」

「あ? いいから、行けるとこまで行け」

「いや、そろそろガソリンが……まだ先なんすか?」

 品物を受け取った場所からは、相当に遠くまで来てしまった。朝に出たのに、そろそろ午後三時になる。

「……よし、次の下りられるとこで下りろ」

「どこまで行くんすか?」

 先輩の表情に鬼気迫るものがあり、刺激するのは避けたかったが、行く先も告げられずにかなりの距離を走らされて、いよいよこちらの精神も擦り減ってきた。

 それに、これではまるで運び屋ではないか。そのリスクも込みでの報酬なのだろうか。自分が二百ということは、先輩はその倍は取るとして、六百万以上は貰えるはずだ。

「腹減ったな」

「あ、はい、そうすね……」

 確かに、腹は減ったのでそう言ったが、正直それどころではない。

「飯食いながら、話す。コンビニかなんかあったら停めろ」

 高速を下り、すぐにスタンドがあったので、とりあえずガソリンを入れてからコンビニの駐車場に車を入れた。

 あれこれと買ってきて、車の中で食い始めたのだが、喉を通らない。なんだか、おかしいとは思い始めていた。

「どっから話そうかなあ」

 先輩が、さっきまでの緊張感に張り詰めた表情はどこへやら、妙に柔らかい笑みを浮かべているのが、却って不気味だった。

「そ、それ、やっぱクスリ、ですか?」

 先輩が、いつまでも話を始めないので、こちらから、さしあたって聞きやすい質問をしてみる。

「ああ、色々とな。量があるからな、億はいくんじゃねえか」

「億!」

 思わず、声が高くなる。正に、先輩と二人で夢見た大金だ。

 これを持って指定された場所へ行けば、そこへ取引相手がそれだけの金を持ってやってくるというわけだ。

 まあ、もちろんどう上手く行っても、そこから二百万しか自分のものにはならないわけだが、この目で億という金を見れる、という想像に他愛もなく興奮してしまった。

「ニーイチだと……おれが六千でお前が三千万ってとこか」

「はは、すっげえ」

 あくまでも冗談だと受け取って笑った。

 先輩が全く笑っていないのに気付いても、なんだか自分は笑っておいた方がいいような気がして、無理に笑った。

「あの……先輩」

 そろりと口から声を出すように、言った。

「まさか……変なこと考えてないすよね? いやいやいや、まずいっすよ、さすがに!」

 この品物を取引場所に持って行かずに持ち逃げしてしまう――

 そんな恐ろしい考えに先輩が憑かれているのではないかと思って、努めて明るく言って笑った。

 先輩も笑い返して、冗談だ冗談、と言うのを待った。待ちに待った。

「山崎ぃ」

 ねっとりとした声で名前を呼ばれた。

「もう、遅いんだ」

 そう言って、先輩はようやく笑った。

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