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決断した、たぶん

 官邸正門前の広場は騒然としていた。

 群衆の前面には兵士たちが立ち、それらが警備兵と押し問答している。

 それを後ろから眺めながら、いったいどうなるのかと恵一は思っていた。

「おらっ、どうすんのかはっきりしなさいよ!」

 リーンは、周囲の人間と同じように声を上げている。

「おい、ケーイチ」

 ケイトが肘で小突いてきた。

「リーンがあんまり前に出そうになったら止めないとまずいぞ。あたしじゃ無理だから、ケーイチがやってくれ」

 というケイトの言葉に、恵一はほっと安堵しつつ頷いた。

 兵士の後ろの群衆をさらに遠くから取り巻いて見物している人々の中に恵一たちはいない。

 しっかりと、群衆の中に紛れ込んでいた。それどころかリーンに至っては積極的に参加している。

 一度、アレンの宿泊している宿屋に行ってみたが、人と会ったりしているのでやはり会えぬと言われ、それなら宿に戻って休もうかと話してたらまたまた騒然としてきたので何事かと東門に駈けつけると、今から官邸前に行こう、という話になって警備兵の制止も無視してけっこうな数の人間が動き始めていた。

「おし、行くわよ」

 と、リーンが追随するので、てっきり野次馬を決め込みに着いていくのかと思ったら、リーンとしては思い切り参加するつもりだったらしく、ずんずんと進んでいく。

 なんとなく着いていったらしっかり紛れ込んでいたというわけである。

 ケイトの言葉に救われたのは、さすがにケイトは自分たちの立場であまりここで目立つのはまずい、というのは理解しているということがわかったからだ。

 正直、ケイトとリーンで二人揃って同じ方向に行かれると、恵一では止めるのが非常に難しい。

 まあ、リーンはさっきから声を上げてそれに同調する者も多く、既に現時点でけっこう目立ってしまっている。

 ただ、リーンははっきりとウィレスを糾弾するという方向ではなく、先のように、仇討ちをやるのかやらんのかはっきりしろ、という意見である。それに同調する者が多いという辺り、とにかく方針をはっきりと示さないという点に不満が集中しているのがわかる。

 官邸前に兵士と群衆が押し掛けて抗議する――というこの構図自体は相当な非常事態にも見えるが、これならばウィレスが姿を現し、自ら伯爵の仇討ちをして賊を掃討し、領内の秩序回復をすることを宣言すればひとまずは収まるのではないか。

 兵士たちは、声援を後ろから浴びつつ強硬に中に入れろ、ウィレス様に会わせろと申し入れている。もちろん、それではお通りを、とはならずにここでもまた東門で繰り広げられた通せ、通さぬ、の押し問答である。

 やがて、けっこう高位にあるらしい者が現れ、あれこれと話していた。おそらく伯爵が討たれたことに決して手をこまねいているわけではないから、解散せよということを命令――或いはもっと弱くお願いしたのだろうが、納得を得られなかったようだ。

 漏れ聞こえてきた声によると、ウィレス様自身からはっきりとしたことを聞かねば解散しないぞ、と主張しているようだ。

 進展の無い押し問答に飽き飽きしたか、最前列の兵士たちはその場に座り込んだ。それに倣って後ろの者たちも腰を下ろし、ウィレスが姿を見せるまでここを動かん、という姿勢を示した。

 だが、その辺りでこれは長丁場になりそうだ、と思った者の中には、そっと脱け出す者もいた。

 それが特に非難もされていないので、これをいい機会に自分たちもと恵一は当然思ったのだが、リーンがさっさと座り込んでいる。

 ケイトを見ると、彼女も腰を下ろして寛いでいる。

「大丈夫か?」

「あー? まあ、少し休んで、進展無さそうだったら帰ろうぜ。リーンもすぐ飽きるだろう」

 むしろ、飽きたら暴れ出すのではないかという不安が大きいのだが、その時こそ自分が取り押さえようと決意する。

 脱け出す者も多いが、新たに加わってくる兵士たちもいて、これを元からいた兵士たちが歓迎し、誰それも呼んで来い、とかいう話になって走っていく者もおり、容易に解散しそうにない。そして、それは官邸内の者たちも嫌でも感じ取っているはずだ。

「ウィレス様がお見えになる。くれぐれも無礼いたすな」

 やがて、先程の高官が再び現れてそう言うと、さすがに兵士たちは粛然と立ち上がり直立した。後ろの連中もなんとなくそれに倣う。

 前の人間に立たれると座ったままでは全く見えない、というのもあって全員が立ち上がった。

 そこへウィレスが現れると、それなりに期待をこめた眼差しが幾筋も注がれた。

「無用の心配をかけた。父の仇は必ず討つゆえ、その時が来るまで鋭気を養え」

 激しく感情を吐露して、聞く者の感情を揺さぶるような熱に乏しく、少し淡々とした言い方であったが、一応はっきりと弔い合戦を表明したことに、歓声が上がった。

 ウィレスの言葉に感動してその時はお供を、といきり立つ者たち……ばかりでもない、本当にやるのか、と疑わしげな者も決して少なくはなかった。

 言うことを言ったら、ウィレスがさっさと奥へと引っ込んでしまったのも、それに拍車をかけていた。

 しかし、とにかく、仇討ちの意思は公言したわけだから、座り込んでいる意味も無くなり、自然と解散になった。

「おし、やるわよ」

 宿への帰り道、リーンはやたらとやる気になっていた。もう、すぐにも戦争が始まるのだと思い込んでいるようだ。

「ケイト、どう思う?」

 一応言うには言ったけど、ただ単に言わされてんじゃねえのか、という気持ちを拭い去ることができない恵一は、やはり懐疑的であった。

「まあ、その時は、って言ってたけど、その時ってのがいつになるかだよなあ」

 ケイトも、頭から信じてはいない。

「え? 明日にでも行くでしょ、もちろん」

 きょとんとした顔で言ったのはリーンだ。

「だって、やるって言ってたわよ」

 言わされてんじゃねえの、とか、いつやるかは言ってねえな、とかそういう恵一とケイトが抱くような考えは、彼女は全く持たないのだ。

 父の仇討ちをやる、と言ったということは、もうそれはやるということであり、いつやるかなんて、そんなのすぐにでもやるに決まっているのだ。

「なによ、それ!」

 恐る恐る、恵一の思うところをケイトのそれも合わせて説明すると、リーンは憤然として恵一を睨んだ。

「もし、いつまでもモタモタしてたら、斬ってやるわ」

 物凄く物騒なことをおっしゃるので、宥めつつ歩いていると、街がなんだか騒然としている。

 いや、東門の一悶着から派生した一連の事々により、今日はかなり騒がしい一日ではあるのだが、また新たな熱が産まれている。

 騒動は、ウィレスが姿を現して、父の仇討ちをすることを宣言したことによって一応は収まった。

 ウィレスの本心とかやる気とかを信じている者はもちろん、疑っている者でも、このように公言したことは歓迎している。

 あれだけの人間の前で公言したのだから、もう無為無策は許されぬ。ウィレスは自分の言葉に縛られて、なんらかの行動を起こさざるを得ないだろう。

 何もしない、無為、停滞、それらこそが人々が最大に憂えていたことであり、怒りの的にすらなっていたことなのだ。とにかく、僅かとはいえ前進したのだから、明るく前向きに、騒がしさも険悪なそれではなく、むしろ活気を主成分にしたものになっていてもよいところだ。

 しかし、今の街の騒がしさは、一旦収まったところへ、新たな熱量を持ったものが現れてそれが荒れ狂っているのに似ていた。

 なんだか、街がざわついているな、ウィレスの仇討ち宣言によるものにしては、なんだか人々が浮足立っているように見えるなあ、と思っていた恵一は、宿への道を歩いている途中で、それの元と思われるものに出会った。

 人だかりができていて、その中心で一人の男が話していた。

「本当のことさ、アンリッドに住んでる親戚が報せてくれたんだ」

 男は、得意そうに話している。

「オーレン様が、明日にも軍を率いてアンリッドを発って、この街へ向かうって……いやいや、秘密でもなんでもないよ、誰も隠してないからあっちじゃ誰でも知ってるってさ」

「こっちに来るって、何をしに?」

 と、尋ねた男の顔には、まさか魔王の前に長年の競争相手であるウィレスを葬って、伯爵家を一本化するつもりではないか、という危惧がありありと出ていた。

 他の者たちも同様だ。ウィレスもその取り巻きも、はいそうですかと首を差し出すわけはないのだから、最悪の場合、この街が攻められる事態にならないとは限らない。

「ああ、そこは安心していいさ。とにかく、オーレン様は少しでも早く父上の仇討ちをと考えておられるそうな。周囲のもんが兵力の不足を進言してもお聞き入れにならないぐらいにだ。そこで、誰かがこちらへ立ち寄って兵士に参加を呼び掛けてはどうか、と提案して、それならばそれほど時間も喰わんだろうということでお取り上げになったらしい」

 それを聞いて、聴衆からは不安が消えた。

 それほどに時を惜しんでいるのならば、壁に囲まれた街攻めのような、膨大な時間を消費するようなことをするわけがない。

「しかし……オーレン様は見上げたもんじゃないか」

 一人が言うと、次々にそれに同調する声が続く。

 真っすぐに仇討ちを志し、行動しているオーレンに対する好意を、人々は感じているようだ。

「うん、いいわね。そっちの方を伯爵にすべきね!」

 リーンは、至極あっさりと断定する。

 さすがにそこまではっきり言ってしまうと、みんなに距離を取られたりもしたが、リーンはそんなの気にする子ではない。

「まあまあ、行こうか」

 これ以上、大声で下手なこと言わないうちに、リーンを促して宿屋に戻る。

 オーレンが軍を率いてやってくる、という話は何時の間にやら急速に拡散しており、そこかしこでその話に花が咲いている。

「おれは行くぞ」

「うーむ、ウィレス様も先程仇討ちはするとおっしゃったそうだが……」

「そんなの、いつになるかわかるものか」

「そうだな……よし、おれも行こう」

 とか、巡回中の警備兵らしき兵士が、あからさまに巡回をサボってけっこうでかい声で話したりもしている。

 座り込みをされて、それを解散させるために言ってみた感の強いウィレスの宣言など、もはや吹き飛ばされてしまったと言っていい。

 なにしろ、オーレンは実際に軍を発するというのだ。関心がそちらへ向くのはしょうがあるまい。

 アレンのところにも、その話が不自然なぐらいに拡散しているという報告は入った。

 既にそれあるを期していたので驚きはしない。

「ちょっと、見てこい」

 と、人を何人か、ウィレスたちがどのような反応を示し、対応を講じるかを偵察に行かせた。

 先には、ウィレスが集まった群衆に仇討ちを宣言したという報も受けたが、やはりどう考えても目前の事態を解決するためにウィレスを無理矢理説得して仕方なしに言わせた感じが強い。

 オーレンの出方を既に知っていたアレンとしては、それでは遅い、と思ったし、そのような対応で、とりあえず群衆を解散させればよし、と思っているところから推測するに、オーレンに関する情報を入手するのがアレンよりも遅れているに違いない。

 アンリッドにも、情報を報せてくれる役目の者が潜伏しているはずなのに、アレンよりも情報に接するのが遅いというのは本来考えにくいのだが、なんらかの理由で情報網が機能不全を起こしているのかもしれない。

 偵察に行っていた者が戻ってきて、早速報告を聞くと、反応は右往左往、対応は今のところ無し、というある程度は予想していた答えが返ってきた。

 理想を言えば、ウィレスもすぐさま軍を発し、むしろオーレンが到着する前にアンバースを出てトゥーロットに向かうのがいいのだろうが、ろくな準備もしていないのだから、軍がそういう状態になっていない。

 そして、なにより肝心のウィレスが無理だろう。

 おそらくは、皆の前に出て行って、これこれこう言ってください、もう本当にそれだけでけっこうですからと、渋るウィレスを説得し、なんとかそれだけはやってもらったのだろうが、いかに事態が急転したとは言え、すぐに軍を出しますからそれを率いてくださいと言ったところで、ウィレスは首肯するとは思えない。

 それどころか、恐怖によって突き動かされて、大声で「そんなものはオーレンに任す」と喚き散らすに違いない。

 それが漏れでもしたら、やっぱりこの人じゃ駄目だと多くの者がオーレンに着いて行ってしまうだろう。

 いや、もう無理だよ――

 ウィレスの側近たちが目の前にいれば、今度こそしみじみと言ってやりたい。

 ヴェスカウ伯爵の二人の息子は、どちらもあまりよく出来た人物ではないが、ただこの状況下においては伯爵の仇討ちを強く願い行動する、というのは必須のことだ。

 これまでは、この街にいる人々はオーレンが実際にどうしているのかという情報が無かったために、ウィレスの無為無策に不満を持って具体的な行動を起こすにしても官邸に押し掛けて仇討ちするのかしないのかはっきりしろと抗議するぐらいだった。

 だが、オーレンがすぐにも軍を率いてやってきて、ともに弔い合戦に往こう、と呼びかけるというのならば、そちらに着いて行ってしまえばいいだけのことで、そうなればもはやウィレスなど不満を持たれることすらなく、存在を無視されるだけのことだ。

 いくら、これまでウィレス派だったと言っても、下の方の連中にまで御咎めがあるとは思えないし、従軍して戦えば、その働きによってそのことは不問にされるであろうと期待もできる。

 そう思えないのは、上の方の連中――つまり、ウィレスの側近と言われるクラスの人々である。

 それでも、もういい加減に限界だ。

 話は流布し、公然と語られるようになっていて、既に従軍を決めた兵士たちは武器の手入れに勤しんだり、保存食を買い求めたり、或いは自分で作ったりと誰はばかることなく準備に着手している。

 で、リーンもまたその一人である。宿屋の部屋に戻ると、剣を手入れし始めた。

 リーンは当然のように、従軍するつもりなのだが、自分たちはアレンの率いる部隊に属しているのであって、そうそう勝手はできない。

「え? んなこと言ったって、ここにいたってしょうがないじゃない。そりゃ、行くでしょ」

 リーンは心底不思議そうに言った。

「まあ、我々は……特に私とリーンさんは、従軍することで刑の執行を一時的に免除してもらっていますから、隊長の命令に従うしかないでしょうね」

 と、言うのはエリスだ。

「ただ……やってくるという次男の軍に同道する可能性は高いと思いますよ」

「え? そうなの?」

「はい」

 アレンの任務は情報収集である。このアンバースの街に留まることで得られる情報というのはもうそれほど多くは無いだろう。

 それよりも、オーレンが軍を率いて、より魔王に近い場所と思われる前線の街へ移動するというのならば、それに着いていった方が重要度の高い情報を収集できる。

「つまり、問題なしね」

 エリスの話を、そういうふうに理解したリーンは、再び剣の手入れに没頭する。

 翌日、アレンからいつでも出立できるようにという命令があった。

 皆、街に飛び交う話については知っているから、我が部隊も明日には来るという部隊に同道するのだな、と色めき立ち、活気も出てきた。

 一方、活気から取り残されている感ありなのが、ウィレスが住まう官邸である。

 ひっそりと静まり返っている、と言っては大袈裟に過ぎるが、街全体の喧騒から浮き上がるぐらいに静かなのは事実である。

 しかも、それをわざわざ気に止める者が今や激減していた。

 やはり、不安にくれた人々が求めていたのは、伯爵の仇である魔王と称する賊を討ち、領内の平穏を取り戻そう、と先頭に立って指揮をとるリーダーである。

 オーレンがそれをやった以上、モタモタしているウィレスの去就になど、もはや多くの人々が無関心になっていた。

 当然、そのようなことでは困る彼を推してきた連中は髪を振り乱し、口角に泡を飛ばす勢いで諫言を行っており、表からは静かに見える官邸も、内部は中々に騒がしかったのである。

「ウィレス様、出陣を!」

 もう、それしかないのだと側近たちは食ってかからんばかりに懇願する。

 ウィレスは、あからさまに話が違う、という顔をした。

 正門前に出て集まっている群衆に向けて仇討ちを宣言すれば、とりあえず事態はおさまるのだからと言われてその通りにしたというのに、おさまるどころではないではないか。

「状況が変わったのです」

 もう、側近たちもなりふり構っていられない。

 ウィレスを操縦するにあたって、こういう時には少し時間を置いた方がよい、ということは心得ているが、時間が無いのだ。

「まあ、少し疲れた。その件は後で……」

 と、ウィレスはいつものように進言者が言いたいことを言い切って、一拍の間が訪れた隙に逃げようとするのだが、今回ばかりはそれが許されない。

「今! 今、御決断を!」

 服を掴む者、ウィレスの進路に両手を広げて立ち塞がる者、それらは異口同音に決断を促す。

「無礼であろう!」

 声を荒げて退かせようとするも、

「無礼は承知の上です。今、御決断をせねば、次期伯爵はオーレン様に決まったようなものですぞ」

 ぐっと言葉に詰まったウィレスであったが、その後に考え込んだ。

 随分と長い時間をそうしていたが、やがて静かに言った。

「わかった。それしかないというのであれば、出陣する」

 おお、と感極まった声が、側近たちから漏れる。

「準備をする」

 と、自室へと引き上げていくウィレスを、側近たちは頭を深々と下げて見送った。

「よかった……」

 と、一様に安堵にひたったが、ひたってばかりもいられない。

「これからが大変だぞ……」

 誰かが言った言葉に、返事は無かったが誰もがそれに同感し、前途の困難に思いを馳せた。

 所詮は、ウィレスの決断も嫌々なされたものである。

 明日、ウィレスも出陣するとなれば、オーレンもそれは拒絶できない。形としては兄弟が手を携えて父の仇討ちに向かう、という麗しい構図になるはずだ。

 だが、ウィレスはそこからずっと演技をし続けるようなものであり、その緊張感が持続するかはかなり危なっかしい。

 それこそ、賊を発見し、いざ戦いだとなった時に臆病風に吹かれているのを露呈して無様な姿をさらさないとも限らない。

 なんとか彼らが越えたのは第一関門に過ぎない。この先にもっと難関が待ち受けているのだということがわかり切っているのだから、暗澹とした気持にもなる。

 だが、実は第一関門すら突破はかなわなかったのだ、という絶望的な事実を、この後すぐに彼らは知ることになる。


 アレンのところへ、ウィレスの側近の一人がやってきた。この前、来たのと同じ者だ。

 挨拶もそこそこに、側近は尋ねた。

「出陣の用意を命じられたのとことですが……やはり、オーレン様の軍に同道するおつもりで?」

 五百人を超える部隊への命令だ。隠せるわけがないので、隠すつもりもない。アレンはあっさりと肯定した。

「そうですか……いや、そうでしょうなあ……」

 側近も、アレンがそうする理由は嫌でもわかっているようで、一人で頷き、一人で納得している。

「ウィレス殿は、いかがですか?」

 半ば答えを予想しながらも、アレンは言った。

「なんとか、出陣を承知していただきました」

 と、意外な答えが返ってきた。

「ほう、そうですか。それはそれは……」

 それはよかったですな、という顔をしながらも、内心ではそれによる影響を計算している。

 オーレンが出陣し、ウィレスが不在であれば当然兵士たちはオーレンが発する命令のみに従えばよく、指揮系統は一本化される。

 だが、ウィレスも行くとなると、指揮が二カ所から出ることになりかねない。

 純軍事的に言うと、よろしくない事態である。

 おれが調整しなければならんのか――

 領内を荒らされるに任せ、伯爵が親衛隊のみを率いて戦い討たれ、これらの有様を招いた根源はウィレスとオーレンの対立にある。

 トゥーロットや、魔王との戦場にまでそれを持ち込まれたら勝てるものも勝てなくなってしまう。

 そして、両者を仲介できるのは、今のところアレンぐらいなものである。

 アレンは伯爵家の外にいる第三者であると同時に、摂政であるメリナ王女からの命を受けている。ウィレスもオーレンも疎略にはできないはずだ。

 随分と苦労させられそうだなあ、とアレンは思っていたが、結局その苦労はしないで済むことになったのである。

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