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生き証人

 エルスタットにしばらく駐屯することは、ほとんどみんな歓迎していた。

 初日こそあぶれてしまう者もいたが、交渉により街の公会堂の部屋を幾つか借りることができたため、全ての兵士がきちんとした屋内に寝床を確保することができた。

 街の住民の態度も概ね良い。

 彼らは、遠方よりの恐ろしい魔王の噂に心をざわつかせつつも、その遠さが今の生活を捨てる踏ん切りをつけさせず、漠然とした恐怖を抱きながら努めて日々を暮らしていた。

 五百人の守備隊がいるが、街や村を幾つも焼け野原にしているという軍団に抗しきれるものかどうか、非常に疑わしかったところへ、さらに五百――実際は少し届かないが――の兵士がやってきた。

 そして、それが留まるというのだから、この街を守る兵士は千人と倍増したということになり、それにほっと安堵した。

 その安心感から、住民たちもまた歓迎ムードである。

 そういうわけで、なかなか居心地がよろしい。

 ただまあ、羽目を外すことは許されておらず、ハウト男爵家の兵士が隊伍を組んで街を練り歩いて、昼から酔っている者などはぶん殴られて牢屋に叩き込まれたりしている。

「なんかやることないかしらね」

「カードも飽きたしなあ」

 三日目になると、いよいよ退屈極まってきたリーンとケイトがぐちぐち言うようになってきた。

「あーあ、アンとエリスはいいよなあ」

 ケイトが、二人を見やる。

 アンは、やることが無いのならば寝ればいい、と言わんばかりに昼も夜も寝ている。

 エリスは、目をつぶって瞑想している。彼女曰く、魔術の練習をしているらしい。

 いくらでも寝られるアンも、ぼーっとして飽くことのないエリスも、退屈とは無縁であり、ケイトにしたら羨ましくてしょうがない。

「つまんないから、偵察に行きましょうよ」

 リーンが、さも名案だというように身を起こして言う。

「いや、偵察って……」

 軽騎兵が四方に放たれており、偵察ならば彼らが行っている。馬に乗っていない自分たちがやることではない。

「だって、つまんないじゃん」

 だが、リーンだってさすがにそんなことはわかっている。要するに偵察という感じでちょっと街から出て周囲を探検でもしようと言うのだ。

「あー、マジでくそつまんねえし、それもいいかもな」

 ケイトも同調する。

 で、二人が立ち上がって出掛ける準備を始めてしまったので、しょうがないので恵一もそれに倣う。

 軽騎兵は、遠くまで疾駆して現地の情報を収集してくる者とは別に、この街の周囲を巡回している者たちがいる。

 もし仮に、ヴェスカウ伯爵の軍と交戦後なりを潜めている魔王軍が突如この街を襲って来るにしても、その軽騎兵の警戒網に引っ掛かるはずで、街から少し離れたところをうろつくぐらいなら危険は無かろうとは思う。

 だが、二人だけで行かせたら危なっかしくて気が気ではない。

 なにしろ退屈しきっているだけに、下手に好奇心を刺激されたら多少の危険を顧みずに首を突っ込みそうである。特にリーン。

「アンは寝てるし……エリスはどうする?」

 ケイトが声をかけると、エリスは目を開いて頷いた。一応話は聞いていたらしい。

「私も行きましょう。使える野草があったら採取したいです」

「野草とりなら、アンがいるといいんだけど……」

 と、ケイトが改めてアンを見るが、やはりスヤスヤと寝ている。

「いえ、わざわざ起こさないでもいいです」

「ん、まあ、そうだな」

 アンを置いて、部屋を出て、宿屋を出て、街路を歩いて行く。

 門を出るところで、夜になったら門は閉じて、朝になるまでいかなることがあろうとも開けんからそのつもりで、と念を押された。

 街の外壁から少し離れて、ぶらつく。

 何かある、というわけではないのだが、リーンなどは木登りしたりしてすこぶる楽しそうである。

 考えてみれば、物心ついた時から盗賊だったリーンは、街よりも森の方が馴染みが深い場所なのだ。

 世から隠れ住むのが常態の盗賊は、森の中に根城を構えていることがほとんどだ。

 エリスは、例のスライムに使う野草を発見して、せっせとそれを摘んでいる。

 ケイトは一際高い木を見つけてそれに登り始めたリーンを下から応援している。

 まあ、危険も無さそうだし、偵察とやらに来てよかったかな、と恵一は思った。

 で、穏やかな気持ちでいたら、何時の間にかリーンがかなり高いところまで登っていってしまっている。

 もう、しっかりと危険である。あそこまで行ったのは木登りに自信あってのことであろうが、万一ということがある。いざとなったら受け止めないとまずいな、と下の方に移動する。

 下から見ると、リーンは太い枝の上に腰かけて動かない。

 あまりにも動かないので、下りられなくなったのかと心配になってきた。

「おおーい、リーン」

 声をかけても、反応無し。下ではなく、彼方を見やっている様子だ。その様子からして下りられなくなった、ということはなさそうだが……

「なんか見えるのかあ」

 次はケイトが声をかけた。やはり反応無し。

「あー、危ない危ない!」

 リーンが身を乗り出すようにしたので、思わず慌てた声が出た。遠くを見ていて、自分がどこにいるのか忘れているのではないか。

「馬が来る!」

 リーンが叫んだ。

「馬ぁ?」

「えっと、馬って、人が乗ってるの?」

 或いは、野生の馬でもいたのかと思ったが、返ってきた答えは、

「うん、人が乗ってる!」

 であった。それなら、別段珍しいものではない。

「ああ、偵察に行ったのが帰ってきたんだろ」

 情報収集した軽騎兵が復命のために帰還してくるのはこの三日間、何度も何度も見た光景だ。

「んー、なんか変ね」

「あー? なにが?」

「ちょっと待ってて、下りるから」

 言うや、スルスルとリーンは登ったルートを逆再生するみたいな滑らかさで下りてきて歩き出した。

「おい、どうしたんだよ」

「なんか変よ。遅いもん」

 と、ようわからんようなことを言って歩いて行く。その先に、リーンが樹上から見たという「なんか変」な馬がいるのだろう。

 森を抜け、街道へと出た。

 その街道を、こちらへ向けて進んでくる馬がある。人が乗っており、その速度は確かに遅い。徒歩とほとんど変わらぬ。

 リーンは、人を乗せた馬と言えば、もっと速く軽快に走るものであると思っているのだろう。その遅さをもって「変である」と感じたのだ。

 だが、必ずしも馬に乗っているからと言って速く駆けさせるというものではない。急ぐ必要が無ければ馬を疲れさせぬために速度を緩めることもあるだろうし、或いはその前に既に馬を走らせ過ぎたために、休ませているのかもしれない。

 そのことから、恵一はその馬とそれに乗っている者を、旅人か何かかと思った。

 偵察に出ていた軽騎兵ならば、できるだけ早く復命するために、全速力とはいかぬがもっと速く馬を進めるだろうからだ。

「んー、やっぱり偵察に行ってた人みたい」

「あー、それっぽいな」

 だが、リーンとケイトは、乗っている者の服装などからあれはアレンが放った軽騎兵であろうと言う。

 こっちの世界の人々は、目がいい者が多い。

 恵一も、眼鏡を必要としない程度には視力はいいのだが、彼女らと比べるとかなり劣ってしまう。

 やっぱり、テレビとかパソコンとかが無いからなのかなあ、と恵一は考えている。

「あー、そっかあ」

「あー、うん」

 馬が近付いてくるにつれて、二人はなんかまた新たな発見があったらしく、納得したような声を上げているが、まだ恵一にはよく見えぬ。

 さらに近付くことによって、恵一にもそれがわかった。

 馬には一人だけが乗っているのではなかった。

 身を起こし、手綱を握っている騎手とは別に、その前にもう一人いる。

 騎手と、馬の首に挟まれたようになっているその男は、ぐったりとして馬の首に抱き付くようにしていたので、近付いてくるまでわからなかったのだ。

 速度をあまり出していない理由は、この同乗者のせいであろう。

 もっと近付いて話を――と思った瞬間、騎手は右手を手綱から放し、腰の剣を抜いていた。

 この場には、彼らの他には自分たちしかいない。こちらを警戒してのことであろうことは明らかであった。

「ああー」

 いったい、どうしたら警戒を解いてもらえるだろうか、と思っている間に、ケイトがずんずんと近付いて行った。ただし、両手を上げてだ。

「どうもどうも、お疲れさんです」

 にこやかに、声をかける。

 どうなるか、と注視していると、ケイトを見て、さらに他の者にも視線を走らせて、

「ああ、お前らか……」

 と、言った。

 色々と目立つ集団だったのが幸いした。こちらは知らぬが、あちらは恵一たちのことを知っていて、すぐに同じ部隊の人間であるとわかってくれた。

 彼は軽騎兵であるから、行軍中にアレンのところへ復命することもあり、その時にそのアレンがいる部隊のすぐ後ろにくっついている妙な連中のことを見て覚えていたのだ。

「ちょうどいい。誰か街へ走って治癒魔法を使える者を呼んでおいてくれないか。怪我人を乗せているから、速く走れんのだ」

 と、そう言った内容から、馬の首に抱き付いてぐったりしているもう一人の男のこととその歩みが遅いことが理解できた。

「あ、それなら……」

 それと、その頼み事であるが、わざわざ走ることもなく、この場には治癒魔法を使える人間がいる。

「私が、使えます」

 エリスがそう言うと、男は、おう、と嘆声を放った。

「では、頼む」

 馬から降りて、怪我人という男を降ろそうとするので恵一も手伝った。

 そうっと、街道脇の草むらの上に横たえると、早速エリスが治癒魔法の詠唱を始める。

 治療している間、話を聞いた。

 彼は、かなり遠方まで驥足を伸ばして情報を収集していた。幾つか人の住む集落を通過していくと、焼かれたものと見える集落の跡を見つけた。

 既に住民が逃げた後に焼かれたのか、はたまた逃げ遅れた者は全て連れ去られたのか、死体すら無かった。

 とりあえず、ここまで魔王の脅威が及んでいるのだというのはわかったので、一旦戻って復命するか、と思いつつうろついていると、前方に身を地面に投げ出すような危なっかしい足取りで一人の男が現れた。

 つまりは、それがただいまエリスの治療を受けている男で、彼は折れた槍を杖にした見るからに敗残兵の見てくれであった。

 もしや、と思い勢い込んで話を聞いてみると、ヴェスカウ伯爵の親衛隊の一員で、伯爵と魔王との戦いに参加していたと言う。

 伯爵が魔王とやらに挑んで戦闘が起こったこと自体は、確度の高い情報として既に得ていたものであるが、正にそれの生き証人である。

 貴重な情報が得られる、と勇躍したものの、怪我をしておりろくに話もできない。親衛隊の者で戦闘に参加していた、というのも相当時間をかけてなんとか聞き出したのだ。

 彼は、敗走してこの集落に辿り着き、おそらくなんとか屋根が焼け残っている家にでも潜んでいたのだろう。

 そこへ、馬に乗った兵士が現れたので、助けを求めて姿を現した、というところであろう。

 とりあえず、男を馬に乗せ、人がいる集落までなんとか運び、そこで応急処置を受け、ここまで彼の傷口が開かぬようにゆっくりと進んできた、というわけである。

 実際に、伯爵の指揮下で魔王と戦った、という人物の登場とあって、恵一たちは色めき立った。

「傷口は塞ぎました」

 エリスが、よろめきながら立ち上がり、言った。

「私はもう無理です。街へ運んで、そこで別の人に治療してもらってください」

「おう、感謝する。それでは……」

 再び、恵一も手伝って男を馬に乗せる。

「お前らに手助けしてもらったこと、アレンさまにも伝えておく。では、先に」

 そう言い残すと、先程よりもかなりの速度で、街へと向かって走って行った。エリスの治療によって、その程度ならば傷口が開くことはないだろうというぐらいに回復したと見てのことだ。

「おし、私らも帰るわよ」

「ああ……って、エリス、大丈夫か?」

「……あまり」

 エリスは治癒魔法にかなり力を使ったらしくふらついている。

「よし、恵一、おぶれ」

「え? おれ?」

「お前以外にいないだろう」

 エリスもけっこう小柄なのだが、ケイトもリーンもそれ以上に小柄だったりする。確かにおれしかいないな、と思ったので恵一はエリスをおぶって行くことにした。

 エリスは、いつもならばけっこうですとか言いそうなものだが、相当疲労しているらしく何も言わずに恵一の背中におぶさった。

 ぎゅっ、と後ろから腕が首に回された時は、さすがにドキッとしたものの、それよりもまず思ったのは、エリスの軽さである。

 まあ、軽いだろうとは思っていたが、背負ってみてここまで軽いのか、とちょっと心配になってしまうぐらいだ。

 背中にはエリスの身体の前面、つまりは胸とかが接触しているわけであるが、それについても、

 ――エリス、やっぱりガリガリだな。

 と、いう感想ばかりが浮かび、ときめきとかより不憫に思ってしまう。

 エリスは、疲労もあろうが、そんな感想など知ったこっちゃないとばかりに恵一の背中で休んでいる。

 街へと戻り、宿にエリスを寝かせ、アレンが泊まっている――つまりはこの部隊の本営とも呼べる宿屋に行ってみると、興奮が空気から伝わってくるようだった。

 伯爵と魔王の戦いの生き証人とあって、報告を受けたアレンも、押さえ切れぬ興奮を顔に表して、すぐに話を聞きたいと言ったが、まだそこまで回復していないと知ると、もどかしげに治癒魔法を使える者を片っ端から集めて施術させよ、と命じた。

 この部隊に従軍していた者だけでなく、元々この街にいた治癒士まで呼ばれて、治療にあたった。

「どうもどうもどうも」

 回復を待つアレンのところへ、いそいそと参上した恵一たちは、先程の兵士から既に報告を受けたいたらしいアレンからお褒めの言葉を賜った。もっとも、賜るべきエリスは宿で寝ているが。

 じっと息を潜めるように、部屋の片隅に佇立する。

 これはケイトの策で、彼女曰くこのまんま空気と化してアレンのいる部屋にいれば、回復した者がここに連れてこられて話をするのに同席できる、というのだ。

 なんだかんだで、大いに「顔」である恵一とその一味である。

 アレンならばともかく、他の連中ではどっか行けとか言いにくいぐらいには「顔」なのだ。

 だから、アレンに「あ、お前らなんで当たり前のようにここにいるんだ。大事な話を聞くんだから外せ」とか言われないよう、気付かれぬようにしているわけである。

 やがて、慌ただしい足音が聞こえてくると、扉が開かれた。

 それに顔を向けたアレンに、扉を開けた兵士は彼が待ち望んでいた一報を入れる。

「回復したか」

「はっ、ただいま、こちらに」

 しばらくすると、男がやってきた。と言っても、まだ完全回復というわけにはいかず自分の足ではなく、担架に乗せられて運ばれてきた。

「ヴェスカウ伯爵の臣、ファルク・バイスと申します。アレン・ハウト殿へはお初にお目にかかるというのに、かくのごとき姿で失礼いたします」

 アレンは、それはよい、と言うように鷹揚に頷き、改めて彼に伯爵が魔王に挑んだ戦いに参戦していたのかを確認した。

「はっ、武勇拙き身ではありますが、親衛隊の末席を汚して、伯爵のお供を」

 改めて見ると、ファルクはまだ若い。

 そして、その若さゆえか、迸る激情を押さえる術を知らぬように、戦いについて問われると絶句し、

「無念であります。無念であります」

 と、繰り返した。

 いいから早く話さんかい、とは正直思ったものの、アレンはそれは表情には出さずに、ファルクを励ました。

「無念は察するに余りある。しかし、それを晴らすためには行動せねば。差し当たってはお前の知っていることを教えてくれ、既に聞き及んでいるとは思うが、私は摂政殿下の命により情報を収集している」

「摂政殿下……ただでさえ王が御病床にあり、御苦労も多いでしょうに我らが不甲斐ないばかりに、魔王などと称する輩の暴虐を許し、さぞや御心痛のこととお察しいたします。伯爵も、そのことを気に病んでおいででした」

「王都では、不確かな噂ばかりがお耳に入り、本当のところを知りたがっておいでだ。私から殿下へお報せするから、見聞きしたこと全て話せ」

「はっ」

 力闘し、しかしそれも虚しく敗走の憂き目にあい、傷付いた体を庇いながら焼け落ちた集落に潜伏し、今ようやく治療を受けることができたのだ。

 事態の転変にいささか精神が着いていけずに、取り乱したところが見られたファルクだが、アレンとのやり取りの間に次第に落ち着きを取り戻していった。

 ファルクの話によると、第一報では、辺境の集落が幾つか、謎の武装集団に襲われて壊滅したということであった。

 数はそれほど多くなく、構成員もいかにも落ちぶれた傭兵崩れのような連中ばかりなのだが、魔王と名乗る頭目の強さは本物で、レベルにしたらおそらくは30以上は確実であろう、と。

 もちろん、そのようなことには怯まずに、すぐさま討伐を、という声は伯爵の側近から軍の部隊長から、そこは武勇を誇る家だけに末端の兵士からも轟々と上がった。

 しかし、事情あって伯爵が手元の精鋭を出さずに、現地の守備隊に任せているうちに武装集団は次々に集落を攻め落とし、兵力を膨らませ、遂には城壁を巡らせた街をも攻めるに至った。

「事情とはなんだ」

 伯爵の初動の鈍さ――に見えるところは、かの人の軍歴を知る者は等しく疑問に感じていたところである。

 きっと、なんらかの理由があるのだろうということになっているが、実際それはなんなのか。

 伯爵ですら、手出しをしかねる大軍団なのではないか……とも推測されていたが、話を聞く限りでは、現れた当初は自称魔王の強さはさて置き、その部下はそれほど多くなく、軍団としての規模は小さかったようなのだ。

 すぐに軍を繰り出して攻撃していれば、被害が拡大する前に討伐することができたのではないか、とどうしても思ってしまう。

「ヴェスカウ伯爵ならば二千や三千は動員できるだろう」

 アレンも、出発前にある程度の情報は集めている。ヴェスカウ伯爵は、そのぐらいは自前で動かせるはずなのだ。

 敵を無闇に恐れて出陣を躊躇うような臆病さとは無縁の人だ。だからこそ、その伯爵が恐れるほどに敵の規模は大きいのでは、という推測も成り立ったのだ。

 だが、その前提が崩れてしまい、すぐに動かなかった事情とやらがさっぱりわからぬ。

「事情とはなんだ」

 もう一度、アレンは言った。

 ファルクの話しぶりは、その事情というのを「事情あって」の一言で流そうとしている気配があり、そうはさせじと同じ問いを発したのだ。

 ファルクは、答えない。

「さっきも言ったが、私は摂政殿下より情報収集の命を受けておるのだ。曖昧な報告などできん」

 とある事情があったようなのですが、その事情の中身についてはわかりません――などと言えるものではない。それではガキの使い以下である。

 しかも、その事情とやらのせいで、明らかに手を打つのが遅れ、被害が拡大しているのだ。流せるものではない。

 ファルクは、若さのせいもあるであろうが、そもそもが単純素朴な気質らしく、あからさまに表情に、事情は自分の口からはとても言えぬ……という心情が出てしまっている。

 だが、口外を憚っているということで、その内容についてはある程度の想像はできる。

「察するに……伯爵家にとって不名誉なことなのだな」

 アレンが、切り込むように言うと、ファルクは目をつぶり、黙考していたが、やがて観念したように頷いた。

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