先発部隊
丁度、その報が入った時は御前会議中であった。
特に何があったというわけではなく、定期的に開かれているものだ。
そこへ、会議室の扉の前で警護についていた近衛兵が、扉を開けて室内の警護にあたっていた同僚を招いた。
二人の近衛兵が小声で会話を交わす間、会議の出席者たるメリナ王女と廷臣たちは、落ち着き払った態度でそれを見ていた。
どのようなことかは、ある程度は察しがついている。
会議中でも、新たな報告があればすぐに報せよ、という指示を出している案件は、今のところ一つしかない。
ヴェスカウ伯爵領に現れた魔王を名乗る者と、それに従う軍団。
それについての、情報に違いない。
果たして、近衛兵が列席者に言ったのは、ヴェスカウ伯爵領と隣接する領地を持つ某男爵からの使者が早馬で到着。至急お伝えしなければならないことがある、とすぐそこに控えている、ということであった。
「通しなさい」
即座に、メリナは言った。
伯爵がいつまでもそのような不埒な者どもを放置しているように見えるので、一部騒いでいる者もいるようだが、なぁに、すぐにそんな連中は伯爵に斬られて首が送られてくるであろう。大体、魔王を名乗るというのがそれで少しなりとも人心を惑わせようという無い知恵絞った策略に違いなし。無闇に動揺してはそれにこちらから乗ってやるようなものである。大仰な対策など無用無用――。
――と、そんな感じの意見が会議の大勢ではあった。
だが、もちろん全員がそうではなく、幾人かはそのようにのんびりと構えているのもいかがなものか。結局軍を派遣する必要は無くなった、という結果になるかもしれぬが、それでも準備はしておくべきでは……という意見も少数と言えどあった。
そして、会議の議長としてあまり片方の意見に肩入れできずに、そこでその者たちに賛成するような発言は控えていたのだが、メリナもまたそれでよいのだろうか? という疑問を感じていた。
それゆえに、新たな情報に対して敏感になっており、すぐさまそれを聞きたい、と思った。
幸い、今日の会議の議題はそれぞれ重要ではあれど、一刻を争うような種類のものではない。
使者は、身分が遥かに上の人々の前に出されて緊張の面持ちではあったが、特に使者に選ばれただけあって、しどろもどろになって伝えるべきことを正確に伝えられないというような醜態はさらさなかった。
で、その報告というのが――
ヴェスカウ伯爵討死、という誰もが――楽観論に疑問を呈していた者たちもが予想もしていなかった一報であったのだ。
「虚報ではないのか!」
使者にその凶報――としか言いようがない――を与えた男爵にしても、それを見たわけではなく、その報告は伝聞から成っていた。
それ故に、確報であると言い切れるものではない。
そこで、そうだったらいいなあという願望が、虚報という言葉を口にさせていた。
「或いは、そうかもしれませぬが……」
使者は、本人はもう確信しているような顔をしていたが、色々と気遣ってか虚報という可能性も認めた。
が、認めた上で、どうやら魔王とその軍団を名乗る者たちと、伯爵の軍が交戦に及び、かなり激しい戦いが繰り広げられたのは確からしいこと、それ故に伯爵討死の報も、頭から嘘と決め付けられぬことから、主人は自分を派遣したのである、と顔を上げて言った。
身分高き人々に対して無礼を咎められてもおかしくはない態度であったが、それについては誰も何も言わなかった。使者の行動から、我が主君がガセネタを掴まされて踊らされているように見られてはたまらぬ、という気持ちが感じられたためだ。
「とにかく、準備はした方がよいのでは?」
伯爵が生きているのか、それとも死んでしまったのかは、今すぐこの場で結論が出せるものではない。
だが、とにかく、規模が大きくなればなるほど軍隊の編成動員出陣には時間がかかるものだ。
「すぐに準備を始めてください」
メリナは決然として命じた。それに異議を挟む者もない。
必要無いかもしれないが……必要になるかもしれない可能性が高まったのは誰もが認めざるを得なかった。
伯爵が討死し、その軍も壊滅したとあれば、それをなした魔王というのが強力な力を持っているということであり、当然それを討つためにそれなりの規模の軍を派遣せねばならぬ。
伯爵が生き延びていたとしても、同じことだ。手持ちの兵力が敵を討つのに十分でないのならば、援軍が要る。
全てが虚報で、伯爵より勝報が届けば、それはそれでよしだ。
「少数でよいから、できるだけ早く先発の部隊を派遣すべきではないか」
と、発言があった。
経験豊富で実績もあり、王家への忠誠も疑いないヴェスカウ伯爵は、そこら一帯の支配体制の要のようなものだ。
伯爵領を中心に、周辺には彼よりも爵位の低い貴族や、爵位を持たぬ者の領地が連なっており、なにかあればこれらが伯爵の指揮を仰いで動く。
伯爵の死が事実であった場合、個々の動員力はそれほど大きくはないそれらの小領主たちが、敵に各個撃破されてしまう恐れがある。
この度、使者を派遣してきた男爵も、それを不安視しており、はっきりと言ってはないないが至急対策を、という裏にはまさか見捨てるつもりではないだろうな、という心情が見える。
たまたま、この男爵からの使者が一番最初に王都に到着しただけで、類似のそれが隣接する各領主から送られてくることは容易に想像がつく。
迅速に小部隊を派すべし、という目的としては、既にメリナ王女をはじめとする政府高官は事態の重要性を認識し、大規模な軍の編成に取りかかっているが、一日や二日で進発できるものではないので、希望を抱いてしばし待て、ということを報せるためだ。
併せて、その部隊に情報収集をさせて、同地の詳しい状況や、魔王なり、と壮大な名乗りを上げている者が、一体何者なのか、実際のところどれほどの力を持っているのかなどを探らせる。
伯爵討死の報は、事実か否かはともかく、王都にまで到達しているということは現地では既に相当に広まっているだろう。
これを信じて動揺する者も数知れぬはず。
それを静めるための対策であるから、反対する者はおらず、すぐにその編成の話となった。
どの程度の規模にするか。
少数の部隊である理由は、もちろん編成から進発までの準備を速やかに行うとともにその後の行軍速度をも考えてのことである。
しかし、少数と言っても、あまりにも少なくては到着後に敵に補足されて撃滅される恐れがあり、それを避けるために身動きがとれなくなれば、本来の任務が満足にこなせないことになってしまう。
敵の主力はともかく、すぐに駆け付けて来られる規模の敵とは戦えるぐらいの戦力が無いといけない。
その戦力をいかほどにするか、で様々な意見が出たが、概ね五百から千というところであった。
決を委ねられたメリナは、五百と決定した。とりあえず、最小限の部隊を先発させて、その後にいわば先発の第二派第三派を行かせることにした。
それを率いる者の人選もすぐに決定した。
「ハウト男爵の息子が、是非自分に行かせてくれと言って回っている。彼に行かせたらよかろう」
という意見に、それでよかろうという賛意が寄せられる。
五百人程度の先発部隊を率いるには、程のよい人間と考えられたからだ。
「自身で行きたいと言っているのですね」
メリナはそれを確認すると、それでよしとしてアレン・ハウトにすぐさまそれを伝えるようにと命じた。
アレンが、ミレーナの兄ということはもちろんメリナは知っている。当のアレンが望んでいることを容れてやるのだから、ミレーナも喜ぶだろうと思い、次の瞬間には今の決断は政治的決断をミレーナへの好意によって左右したということになるのでは、と気に病んだ。
彼女は、こういうふうに、一つの決定を下してから、あれは決めた時は公平に判断したつもりであったが、私情が働いていたのではと後から思い悩むことが多い。
摂政就任当初はそれほど深く考えていなかったのだが、自分が軽い気持ちで判断を下したことが多くの人間に多大な影響を与えることを自覚してからは、決断することにやや臆病にもなった。
摂政としての彼女の評判は悪いことはなく、むしろよいぐらいで、それらのことは情報として彼女の耳に入っているが、手放しで喜ぶという気持ちは薄い。
彼女の慈悲深い政策の代表のように言われている、ギルド登録していない者からも野草を買い取るなどのことも、実はメリナは深く考えずに、貧しくその日の食事にも困っているような人間を助けることになる、とその政策の推進者に聞かされて、それはとてもよいことだすぐにやれと決断し、後になってそれにかかる費用に驚いたという事実がある。
こんなにかかるのか、と思いつつ、今から止めることは可能かと言う問いに一回そういうことをやると言って引っ込めたらえらいことになる、と言われて、なんとか予算を工面してくれ、と財政担当者に頭を下げたのだ。
摂政就任後すぐのことであり、メリナはほとほと自分はその任に堪える者ではないのではなかろうかと落ち込んだが、確かに費用は相当にかかったものの、そのことにより王が長らく病気で王女さまが摂政になるとのことだが大丈夫なのか、と不安に思っていた民衆はこのように慈悲深い方ならば我々の生活を脅かすようなことなどするまいと安心して支持は高まり、政権は安定した。
「まあ、けっこうな出費だが、人気取りとしては安いものだった」
という、政策に反対していた者の言葉を聞いて、メリナとしては複雑だった。
人気取りとか考えずに、ただ善いことだと思ったからやれと言い、後からそれを後悔したものの今更止められぬというので仕方なく実行し、やってみれば人気取りという純粋な善意とはかけ離れた成果が上がってしまった。
自分の軽率さをまざまざと見せつけられるような経験だとメリナは思っていたので、その結果として、自分への称賛の声が上がっているという報告を聞いても、喜ぶ気にはなれなかったのである。
それ以来、彼女は決断にやや臆病になった。
とは言っても、摂政である。決断を必要とする場面はしょっちゅうである。
やらねばならぬのだ、と覚悟を決めてやっているものの、後から本当にあれでよかったのか? 私情はなかったか? なにか決断の際に考慮に入れるべき要素を忘れてはいなかったか? などなど、自分への粗探しのような心理状態に陥ってしまうことが多い。
だが、今回については、メリナはこれでよいと思い定めた。
当人が以前から行きたいと運動して回っていたことを実現してやるのだから、友人の兄に対して便宜をはかってやった形にも見えるが、その任務は必ずしも労少なく功多い、というものではない。むしろ遂行しようとすればそれなりに危険の伴う任務だ。
で、アレン・ハウトのところにその命令が伝えられた時は、彼は狂喜乱舞せんばかりの喜びようであったが、話を聞くにつれて、やや顔が強張った。
「ほほう、その五百人の部隊のみで先行せよ、と……」
彼とて、男爵家の跡取り息子という身分に過ぎぬので、討伐軍の司令官の地位などは望んでいなかった。
討伐軍の中の一部隊を任される、ぐらいの希望であったのだ。
だが、その部隊のみで先行して伯爵領内に入り、後続で大軍が来るから安心せよと触れ回れというのである。
敵になって考えてみたら、そんな目障りとしか言いようがない連中は即攻撃して壊滅してやる以外の行動はあり得ない。
「ほほう、そうですか」
とか言いながら、この任務の危険性をいかほどかと計算したアレンであったが、答えは一つしかない。
「御命令、承りました」
受けるしかない。なにしろ、自分で散々行かせてくれと運動しており、ここで断ったら心象がよくない。
それに、思っていたよりも危険なところを任されてしまった、というのは確かに誤算ではあったが、先行して行動するのならば、競争相手がいないということでもある。
大軍の中の一部隊であれば、よほど目覚ましい働きをしなければ功績も埋もれてしまうが、先行し主戦力の到来を触れ回り、さらには情報収集の任もあるとあればその行動は注目されるに違いない。
危険はある。だが、上手く立ち回れば相当に美味しい。
計算の結果、そう弾き出したアレンは、俄然やる気を増して速やかな出陣という要請に応えるために活発に動き出した。
恵一のところにも、すぐにも出発できるようにしておけ、という話が来た。
なんか動きが無いなあ、どうなるのかなあ、と気を揉んでいたところにいきなりそう来たので、恵一は驚きつつも準備に取り掛かった。
と、言っても準備などはすぐに終わる。
問題はエリスである。
すぐに獄舎へと面会に行くと、嘆願書が書き上がっていたので、それをアレンのところへ持っていく。
その場で目を通したが、国の危機と聞いて獄中の身ながら、いやそれだからこそ何もできぬ自らに身悶えするような気持ちである。自分は魔術師としてレベル12に認定されており治癒魔法も使えるのできっとお役に立てると思うので、なにとぞ魔王を討伐する軍に従軍することを許されたし、という主旨に、切々とした思いが感じられる修飾を施した書いた者が熱誠あふれる愛国者であることが嫌でもわかる力のこもった文章であった。
普段のエリスの口からは聞いたこともない愛国的言辞が羅列してあり、エリス実際はこんなこと思ってないよねという感想が顔に出た。
「嘆願書というのは、そういうものです」
と、エリスはその辺は気にすんなと言わんばかりに断言し、いいから早く持って行けと急かした。
忙しいアレンは、エリスの力作にざっと――もう本当にざっと目を通しただけで、家臣に手渡し、こいつらに話を聞いて、この作者の囚人の従軍願いを作成せよ、と言って、すぐに別の所へと行ってしまった。
恵一は、その家臣にエリスについてその罪状などを含めて話し、家臣はその情報を元に従軍願いを書き上げる。
アレンが率いる先発部隊の主力となるのは彼の家臣であるハウト男爵家の兵士である。そのため男爵邸はその準備に慌ただしく動いている。
その様子を見ていると、本当に明日にも出発ということになりそうでその前にエリスの従軍のための一時釈放の許可が下りるのだろうかと恵一は心配であった。
だが、その心配をよそに一日二日が過ぎても出発しない。
その間に、エリスの従軍は許可された。
ほっとしたが、今すぐにでも出発せねばという勢いだったのに、こうも遅れてしまっていいのだろうかと新たな心配が首をもたげてくる。
「まあ、そんなものです」
と、言うのは久しぶりに娑婆の空気を吸っているエリスである。
彼女がここにいるについては、恵一は彼女の保証人となるべく契約書に魔術印を捺印している。
自分が捺すのは初めての経験であったが、瞬間、自分の心の中が見透かされるような思いになって、正直、ちょっと怖かった。
恵一の不安とは裏腹に、捺印はあっさりとなされた。
エリスがここで逃亡して手配犯となって末永く逃亡者となるような馬鹿なことをするとは思っていなかったし、それと彼女の約束の遵守を重んじる性格から、いわば恵一との約束であるこの契約を破ることはないだろうと信じていたせいであろう。
契約書の文面はしっかりと確認したが、保証人はその逃亡を許さぬようあらゆる努力を払うという項目があり、あらゆる努力とはどのぐらいまでのことを指すのであろうかと疑問だったので、やや間抜けではあるがエリスに聞いてみた。
「基本、私から目を離さないように気をつけてください」
「ええっ、トイレとかは、どうするの?」
「別にそこまで厳密にやらないでもいいです。私は逃げませんし……逃げたらアマモトさんが入ればいい話ですから」
エリスが逃亡した場合、その保証をした恵一はどうなるか。
エリスが手配犯となる一方で、恵一が代わりに残りの刑期を勤めることが契約書には記されていた。
つまり、あの牢獄に二ヶ月間閉じ込められるわけである。
「いや、エリス……逃げないでね?」
それは正直なところ、かなり嫌なので念を押す。
「大丈夫です。そんな馬鹿なことはしません」
官憲に追われる逃亡者になったら、エリスは生業である金貸しができずに逃亡資金どころか生活することにすら困窮するだろう。
彼女はなにしろ、その重病人まがいの御面相である。手配書が回れば、すぐに特定されてしまうし、そうなれば債務者が訴え出ないわけがない。
「まあ、あたしもエリスがそんな割に合わないことするとは思わんけど、契約書に努力しろって書いてあんだから、一応見張っとけ」
と、ケイトが言うのでエリスが寝袋を恵一の部屋に持ち込んで一緒に寝ることになってしまった。
で、すぐには眠れずにあれこれ話している中で出てきたのが、
「まあ、そんなものです」
という、エリスの言葉である。
エリスが言うには、どんなに急ぐと言っても軍を派遣する以上、どうしても準備には時間がかかる。
それに今すぐにも出られるように、というのも、そこはまあ言葉のあやで本当に今すぐに出るわけではない。
それでも、急いでいるのは事実なので数日中には出発することになるだろうとエリスは言う。
その夜、エリスは少しいつもより饒舌だった。
ここ一カ月、他人との会話と言えば差し入れ等にやってきた恵一たちと事務的なそれを交わす以外にはほとんど無かったから、さすがの彼女も人恋しいのであろうか。
「エリスは、どこの生まれなの?」
愛国的熱情あふれる人物が書いたとしか思えぬ嘆願書を書き上げたエリスだが、あれは従軍を許されるための方便である。
普段の彼女からは、ケイトが時折見せるような素朴な愛国心みたいなものはあまり感じられない。
「パールナム……」
「ぱーるなむ?」
「そういう名前の街です。……まあ、一応この王国の支配圏ではありますが、辺境です」
そこが、エリスの生まれた所らしい。ミレーナが感心するほどのお辞儀の仕方を身につけているのだから、どこか開けたところの生まれかと思っていたのだが。
「えっと、確か両親は……」
「死にました。まあ、いつか死ぬものですから、それはどうでもいいのです」
どうでもいいということはあるまい。
だが、それについては話すつもりは無い、という拒絶の意思が感じられたので、もっと穏当な、当たり障りの無い話題に転じた。
「パールナムって、どういうところなの?」
「辺境ですよ。寒いし、固いイモしか栽培できない痩せた土地です」
その固いイモとやらを茹でて叩き潰したものを主食に、狩人が獲ってくる動物の肉を副食にして人々は暮らしていた。
「と、言っても、私もそんなに長くいたわけではありませんが」
「え? そうなの?」
「はい、八つの頃に離れましたから」
「へえ、そうなんだ。それは、やっぱりその、寒くて暮らしにくいから引っ越したってこと?」
「いえ……私だけです。両親はその後もそこに住んでいましたよ」
「え? 八歳で、エリスだけ別のとこに行ったの?」
八歳の少女が一人だけ家族と離れて暮らす、というのはにわかに飲み込める話ではなかった。
「留学したんです」
留学……するにしても、八歳というのは幼過ぎる気がするが、なんでもエリスは幼少の頃から魔法の才能ありと認められ、両親が早くからこの才能をもっと伸ばすためにこんな辺境ではなく、ちゃんとした学校のあるところで育てるべきではないか、と話していたらしい。
それならば、むしろ原石である幼少時から、よい環境に置いて磨くべきだということは両親もわかっていたが、そこは可愛いわが子である。もう少し手元に……と時を過ごしたが、遂にエリスが八歳の時に決断した。
「へえ、それで……」
留学先での話など聞きたかったのだが、
「眠いです。もう寝ます」
エリスは、素っ気無く言い、それきり黙ってしまった。
眠くなった、というのも本当なのかもしれないが、それよりも少々自分のことを喋り過ぎたと気付いて、早々に話を打ち切ったのだろう。
「ああ、おやすみ」
ここで、さらに聞き出そうとしても、絶対に口を開かない子だというのはわかっているので、恵一も、眠ることにした。




