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酒場に繰り出そう

 火にかけた鍋から湯気と独特の臭いが立ち昇っている。

 中には緑色のドロドロしたものがあり、それを木のヘラでゆっくりとかき混ぜる。

 その感触から、そろそろかな、と鍋を移動した。ヘラを上げると、そこから滴り落ちる緑色のものをじっと観察する。

「うん、よし」

 上手いことできたな、と我ながら思い、恵一は満足であった。

 エリスが収監されてから一カ月ほど経った。

 その間に何度か作成し、差し入れし、今では例のスライムことエリスの食事を作るのにも手慣れたものである。

 昼食後の一時である。

 アンは満腹になったら眠気を覚え、眠気を覚えたら即寝る主義なので椅子の上で丸まっている。

「おう、そろそろアレじゃね、なんとかしねえと」

 ケイトは、テーブルをバンバン叩きながら、言っている。

 彼女と向かい合って座っているのはゲオルグだ。

 うん、まあ、そうね、とか適当な相槌を打ちながら嵐が過ぎ去るのを待っている。

 借金取り立て代行業は、基本的に上手く行っていた。二人の債務者は、なんとか利子だけは入れようと必死に働いており、期日前に今月分の利子を払い込んでいる。

 で、案の定と言うかなんと言うか、ゲオルグは依然として1ゴールドも入れていない。

「いや、本格的に働き始めたら、すぐ返せるから」

 嵐が思ってたより長く続くので、それまでの相槌だけで凌ぐ戦術を転換したのか、前向きなことを言ってみたりもする。

「だから、それはいつだよ」

 バン、とテーブルが音を立てる。

「あー、前にやったのが半年前だから……もうすぐ」

「おう、そうか。今日か、明日か、もうすぐ言うたらあたしの感覚だと、明後日ってこたぁないぞ」

「うん、まあ、明日にでもギルドに行ってみるよ」

「今日行けよ、今から! そこで明日って言うから駄目なんだよ!」

 バンバンバン――

 ケイトの言うことはごもっともなことばかりなのではあるが、大の男が一回り年下の女の子にこんな感じに追い込みかけられてるのを見てると、さすがにいたたまれなくなってくる。

「一応、最低限の家賃と食費は稼いでるんだろ? だったらもうちょっと頑張るだけじゃねえか。なんでそれができねんだよ」

 さすがに、ゲオルグの借金経済も限界を迎えていた。

 エリスの手に債権が渡る時点でそういうことなのであるが、いよいよどこの金貸しも彼に金を貸さなくなってしまったのだ。

 本格的に働けば――と言うが、食と住、すなわち食費と家賃はどうしても必要なので、その分はボチボチと仕事をしている、というのは先程食事をしながら話した時に聞いていた。

 ケイトにしてみれば、完全に何もしていないよりも、この一歩は踏み出しているのに二歩目をどうしても踏み出さない状態に腹が立つのだ。

 一歩踏み出したんなら、もうあと一歩二歩だろ、というもどかしい気持ちがある。

 だが、最低限というのは本当に最低限なんだろうなあ、というのはゲオルグの頬のこけ方でわかる。

 そもそも、来ればこういう状況になるのがわかりきっているのに呼び出しに応じてやってきているのは、一応来れば追い込みかけつつも、飯ぐらいはケイトがタダで食わせてくれるからなのだ。

「よし、じゃ、帰りにギルドに寄って、最近やってる仕事よりワンランク高い仕事を探すんだぞ。とりあえず、ワンランク上から始めようぜ」

 ケイトも、あんまりにもきつくするとぽっきり折れるかもしれんな、とは薄々思っているようで、やや手を緩めた。

 恵一としては、ケイトよりも色々知っているので、あんまりゲオルグを強硬に責め立てる気にはなれないというのが本音である。

 昔ならば、ただの怠け者と一刀両断されていたような人間が、心の病として認められるようになっている、というのは知識としてはある。

 ゲオルグは、それではないか、と恵一は思うのだ。

 で、そうなってしまったきっかけは、やはり例の、一見哀れで純朴に見える女に豪快に騙されてしまった経験からと思えば、やはり同情的になってしまう。

 話を聞けば、女の借金という嘘を信じ、それを返済するためにと働いていた時には、一刻も早く女を救い、二人で幸せに暮らすのだと張り切って、それこそ文字通り寝食を忘れる勢いで働いていたようなのだ。

 それが、もう完全に一分の隙もなく完膚無きまでに無駄であった、という衝撃が彼の心に与えたダメージは想像するに余りあるものがあり、その反動で勤労意欲が根こそぎ消失してしまうのも止む無し、と思うである。

 しかし、上手いこと助け船を出すことはできそうにもないので、黙ってスライム作りに精を出しているわけである。

「あたしが言わんでもわかってると思うけどさ。エリスはもう一人殺っとるけんね。しかも直接自分の手でだよ。これはもう、タガが外れてるって言うか、エリスの中では人を殺すことへの躊躇とか、一切無くなってると思った方がいいぜ」

 酷い言い様だが、ケイトは完全にそう思っているし、この場にエリスがいないので陰口になってしまっているが、本人が目の前にいても平気で言う子なのは既に御承知の通りである。

「あんたも、我慢のゲオルグって異名をとるぐらいだからさ、まぁだタカくくってんのかもしんないけどさあ」

「ああ、いや……」

 そんなことは無い、と言いたげにゲオルグは首を横に振るが、ケイトはそれには構わずに続ける。

「エリスのことは、大体どういう奴かはもうわかってるだろ。今までの借金取りみたいに根負けするってことはあいつは無いと思うぜ。あんたが、働くからもう止めてくれ、って泣いて土下座して、実際に仕事をして金を返すか、呪術が暴発してあんたが死ぬか、どっちかだな。それまでは、延々と淡々と自分の魔力とか体力が続く限り罰則をやり続けると思うぞ」

 ゲオルグは、その発想は無かったかもしれん、とでもいうようにハッとした。

 恵一も、ケイトの意見に賛成である。特に淡々と、というところに激しく同意である。

「そりゃ、普通の借金取りなら、こんなのにいつまでも関わってるより他の客を相手にした方が儲かるわ、って悟って、債権安く売り飛ばしたり、減額に応じたりするんだろうけどさあ」

 つまりは、金貸しはあくまでも商売でやっているわけだから、こんな奴をのさばらせてはならじと多少意地になってゲオルグに付き合う者もいるが、結局はこんな無駄な時間を過ごしてもしょうがない、というところに落ち着く。

「でも、エリスはなあ、なんか商売抜きっつうか、妙に意地になるとこあるからなあ」

 恵一が幾度となく感じていることであるが、債務者としてエリスと付き合ってきたケイトも、それは感じ取っている。

「前に言ってたけど、大した金じゃないから、死んで返済されなくてもそんな痛くねえから構やしねえ、っての、アレ脅しじゃなくて本心からだぞ、絶対」

 そう言うケイトの声音やら態度から、さっきまでの糾弾するような固さと強さが姿を消し、むしろゲオルグへ同情し、彼を心配するような響きがある。

 裏表が無さ過ぎて、裏表が無い、というのを完全な美点として扱うのは間違いであり、人間やはり少しぐらい裏表があった方がいいんではなかろうか、という考えを抱いてしまうケイトであるが、だからこそ、こういう心配も、本当に自分を心配しているんだな、と思わせる迫真性がある。

 そこんとこは、ケイトのそういうのに自分もすっかりやられている恵一はよくわかる。

 ゲオルグも、さすがにちょっとは神妙にしている。

 ギルドに寄ってくる、と席を立ったが、いつもならば本当に行くんかいなと思ってしまうが、たぶん今のゲオルグならば、本当にギルドへを足を運ぶのではないかと思う。

「少しは頑張ってもらわねえとな」

 ゲオルグを見送って、ケイトが言う。

「いまいち危機感ねえけど、出てきた時に全然借金減ってねえのエリスが知ったら絶対にやばいって」

「うん、おれもそう思う」

 恵一にしろケイトにしろ、ここ最近のエリスの激怒ぶりは身近で見せられて嫌ってほどに知っている。

 恵一に至っては、その帰結とも言えるヘルマン撲殺の瞬間にすら立ち会ってしまっており、エリスが容赦しないと決めたら本当に全く容赦ない子なのだというのを知ってしまっている。

 そこんとこが、ゲオルグは今なおちょっと、わかってないんじゃねえか、っていうのは恵一も感じているところである。

 ここ最近、あまりきつい追い込みかけられたりしていないので、いい具合に忘れているのだろうが、それはエリスがよりタチの悪い債務者の方へかかりきりになっていただけのことである。

 そちらが済み、んでもって刑期も済んだら、他の二人の債務者が利子どころか元金も減らそうと頑張っているのに比べて、ゲオルグの際立つ駄目っぷりに激怒する可能性が高いというかそれ以外の可能性が無い。

「まあ、少しは神妙にしてたから、ちょい様子見だな。エリスが出て来るまでまだ二カ月あるし」

「うん、そうだね」

 二カ月あれば、一念発起してそこそこ大きな仕事を二つもやれば、まとまったゴールドになるだろう。


「ケーイチぃ! おらっ、寝てる場合じゃねえぞ!」

 それからまた数日、ベッドの振動で目が覚めた。ケイトが蹴ったのだ。

「んー、なんだよぉ」

 早朝もいいとこである。

 最近は、エリスに頼まれた事だけやっているので、朝イチでギルド行くぞ、いい仕事は早いもん勝ちだぜ、とか言われることもない。

「寝てる場合じゃねえぜ!」

「えー?」

 地面が揺れているわけでなし、家が燃えているわけでなし、謎の軍団が攻め込んできて王都が陥落しているわけでもなし、平和そのものの静かな、清々たる空気の早朝そのものである。

「いったい、どうしたんだ?」

「ケーイチが血眼になって探してるもんが出たらしいんだ」

「えー?」

 おれ、血眼になったことなんてあったっけかなあ。と、気の抜けた返事をするが、それがすこぶる気に入らないケイトが、またベッドを蹴る。

「あー、起きる起きる。んで、話を聞くから」

 台所兼食堂の椅子に座って、さてなんじゃい、と聞いてみれば、確かに血眼になって……というか、もう情報がほぼ無しの状態から一歩も進めんので血眼以前に、なんかもうどうしていいかわかんないからもういいよ、と投げかけている案件であった。

「魔王が出た」

 と、言うのである。

「えー?」

 なんかもう、ケイトにゃ悪いんだけど、胡散臭げなものが耳に触れたとでも言うような反応をしてしまった。

 なにぃ! 本当か! とか、その手の反応を期待していたらしいケイトがすげえ不満そうなので、確かに自分のために真っ先に報せに来てくれたのに、今の態度はよろしくないと思ったので、謝って御機嫌を取っておく。

「まあ、本物かどうかわかんねえけどな!」

 機嫌がなおったケイトは、にこやかにガセネタかもしれん、と言う。

 だがしかし、この世界で暮らす人々にとって、魔王、という存在はお話の中に出てくる悪役の代表的なものであり、そんなの現実に出た、と言われてもにわかに信じられないというのが正直なところだろう。

「でも、根も葉も無い話、じゃないんだろ?」

「うん、さっき散歩してたら、三軒先のおっちゃんが言ってた」

「で、なんて?」

「いや、なんか、魔王が出たらしい、って」

「……うん、それで」

「いや、そんだけ」

「あ、そうなんだ……」

「……うん、怪しいもんだな!」

 ケイトも、恵一同様、その話を聞いた途端にこれは恵一に教えてやらにゃあ、と何も考えずにやってきてベッドを蹴ったので、よくよく検討してみると、やっぱりガセだな、という方向へ傾いてしまったらしい。

「え、えーっと、その人は、誰から聞いたんだろ?」

 おっちゃんも、他愛の無い冗談でそんなことを言うとも考えられないから、情報源があるのだろう。

 とか思いつつ、この世界の人々の魔王というものへのそもそものイメージを考えると、他愛の無い冗談で出て来てしまっておかしくはない単語なんではなかろうか、とも思ったりするのである。

「昨日酒飲みに行ったら、旅の商人が話してたって」

「おっ! そうなんだ」

 いやいや、なんかちょっと話の信憑性が上がったではないか。

 インターネットどころかテレビも無い世界なのだ。当然、情報伝達に関しては速度に関しても、入手のし易さにおいても恵一の感覚から隔絶されたものだ。

 王や貴族たちの為政者は、当然のことながら独自の情報網を持っており、重要かつ緊急性のある情報は早馬やらなにやらで素早く手にすることができるが、それが公開されることはあまり無いし、立て札などで公開するにしても速報性などは全く重視されないで、全てが終わった後にこれこれこんなことあったけど解決済みだから気にせず働いて稼いで納めるもん納めるように、という感じである。

 だから、独自の情報網など持ちようがない庶民としては、商人や或いは旅芸人のような仕事をする上で移動する必要がある人々から話を聞くぐらいしか遠方での情報を得ることができないのだ。

「これは……ちぃと酒場に繰り出してみるか」

 以前、やってみようとして有耶無耶にされた酒場で情報収集作戦であるが、今回はケイトがけっこう乗り気である。

 前みたいに、とにかく酒場に行ったらなんか情報が入るんじゃねえの、という行き当たりばったりさではなく、今回はそれなりにアテがある。

 魔王が出た、などというのは、本当ならばそれなりにというかかなりな大ニュースであり、その話を知っている者がいれば、それを中心にその話題で持ち切りになっていそうなものだ。

 それに、以前は、それでなにか有益な情報が得られて、そのために王都に、つまりはケイトの家にはいられないとなるのが困るので作戦を潰しにかかった感のあるケイトだが、あの時に比べればだいぶ借金も減った。

「よし、行くか」

「おう、行こうぜ」

 そういうことになった。

 だが、やはり酒場たるもの、昼からやっているところも多々あれど、そういった仕事をしている人間などは忙しく、昼飯を腹に入れたらさっさと仕事に戻ってしまう。

 そうなると、やはり時間をたっぷり取れて、さらには気分よく話をしてもらえるのはその日の仕事を終えて一杯やりに来た夜ということになる。

 薄暗くなる頃まで待って、二人で酒場が集中しているところへと向かった。

 アンはお留守番である。さすがに年齢が低すぎる。

 酒はともかく、食い物が出るというのでアンは行きたがったのだが、そこはお土産を買ってくることを約束して、なんとか置いてきた。

 飲酒に関しては、それほど厳密に年齢が定められているわけではないが、仕事をしていて十五歳以上であれば、咎められることはない、というのは以前聞いていたが、それとこれ――つまり家で飲むのと、酒場のような場所に繰り出して飲むのとは、また別な話だ。

 十五歳のケイトと、十七歳の恵一、まだまだ子供に見える、ていうか実際まだまだ子供の二人組は、まだまだ酒場へと足を踏み入れるには幼すぎる、と考える人間も多いであろう。

 さらには、シラフで情報収集に徹したいために、酒は飲まないことにするつもりだ。

 ただでさえ、酒場に来て酒を飲まないような客はそんじゃよそ行けや、という対応をとられることもありうるので、これがその上にこの二人であったら、よい顔はされないかもしれない。

「酒が飲めねえガキが来るとこじゃねえ、帰んな、とか言われるかもしれないからな」

「あー」

 なんか、凄いいかにも言われそうだなあ、というのが「酒場」というものへのイメージとしてある。

「そしたら、あたしが文句言うから、それでもゴチャゴチャ言ったら恵一が殴るんだぞ」

 いや、殴るんだぞ、と言われても。

「なんでそんな喧嘩腰なんだよ」

「今日はあたしらの酒場デビューだぜ」

「いや、まあ」

 そうなんだけどね。デビューからいきなり店の人間殴るのは鮮烈なデビューを飾り過ぎではなかろうか。

「ナメられたらおしまいだぜ」

 またなんか、そんなものは存在しないのだがケイトの中にだけ存在するなにやら強大な敵と戦っているらしい。

「いや、いきなり文句言わないでもさ、魔王がどうのって話を酒場で商人に聞いたって言うから、自分たちも聞きたくて来たんだ、って説明すればいいじゃない」

「説明しても帰れ、とか言われたらどうすんだよぉ。そんな丁寧に説明してもあっさり帰れ、って言われたら、こっちの負けじゃんか。そんなら最初から喧嘩腰でも」

「いや、うん、とりあえず落ち着いて、勝ち負けの話から離れよう。そういう話じゃないからね、うん」

 どうも、酒場、という大人の場所へ初めて行くのに気合いが入り、それが見事に空回りしており、そもそも情報収集のためだってこと本当にわかってんだろうな、と思わざるを得ない。

「いや、まあ、そこそこ高い食べ物頼めば、無下に追い返したりしないよ」

 あちらさんだって商売だ。

「そうかなあ」

 しかし、どうもケイトは酒場というのは、酒を頼まない客に対しては無闇に敵対的であるという認識が強固にあるらしく、疑わしげである。

「まあ、どうにも話がわからなかったら、おれも暴れるから」

 もう、そうでも言わんと一歩も先に進めないので頼もしげに請け合っておいて、幾つかの店を覗いた。

 やはり、客がたくさんいて賑わっているところでなければ意味が無い。

「よし、ここにしよう」

 とある店の前で、恵一は決めた。

「んー、あっちの方が客たくさんいるように見えるけど、まあ、こっちもけっこういるけどさ」

「あー、いや、なんとなくあっちは、仲間内で盛り上がってる感じがするからさ」

 それに比べて、こっちは一人客が多めで静かに飲んでいる者が多いように見える。

「言われてみりゃ、そうかな。じゃ、ここにすっか」

 あと、こっちの店主の方が、あっちよりも柔和そうなのも大きなポイントだ。安易におれだってナメられたらやってやりますよ店破壊したりますよ的なことも言ってしまったので、できるだけ人当たりのよさそうな方がよい。

「どうも」

 酒場なんぞに入るという初めての経験にオドオドした恵一と、やたらと肩肘張ったケイトの二人組は、店主と店員にとっては「変な客」という印象は拭えなかったらしい。

 たっぷり、なんか変な子供が二人入ってきたけど、あれは客なんだろうかと吟味する視線を注がれた。

 その間、無反応である。

 恵一は、あれ、これこのまま入って行っていいのかな、とあっさりと気後れしてしまったが、ケイトは構わずに空いているカウンター席に着席した。

「おい、ケーイチ、なにしてんだよ」

「あ、ああ」

 恵一も、遅ればせながらケイトの隣の空席に腰を下ろす。

「……いらっしゃい」

 客である、とようやく認識したらしいカウンター内の店員が言う。

 適当に、食事を注文する。

 で、やはりというかなんというか――

「酒は、いいのか? ここがどういう店かわかって入ってきたんだよな?」

 胡散臭げに、言われてしまった。

「おう、ちぃと今日はシラフでなきゃいかんからさ」

 ケイトは堂々と、酒を飲むことはもちろん、この手の店へもしょっちゅう来ているのだというような顔で言った。

 先程の、さっさと着席したことといい、やたらと喧嘩腰だったりするなど色々問題はあれど、こういう時、やっぱりケイトがいると頼りになるなあ、と思う。

「ふぅん、そうかい」

 店員は、ケイトが意気込み、恵一が心配していたような態度はとらなかった。実のところ、初めての経験に方向性は違えど気負いまくっている二人と違って、このぐらいのそろそろ酒を飲んでも大人に怒られなくなった年齢の、まだまだ子供だが本人たちは大人なつもりの連中が、オドオドと、或いは肩肘張った態度でやってくるのは、別段珍しいことでもないのである。

 ただ、そういう客は、自分たちは大人だぞ、だから酒を飲むぞ、とばかりにまずは酒を頼むものなので、そこを不思議に思っただけである。

「おう、ケーイチ、しっかり耳を澄ますんだぜ」

「うん」

 食事が来るのを待ちながら、店内で交わされる声を聞き取ろうとする。

 そんなにやかましくないこの店を選んだのは、やはり正解だった。これが団体で大騒ぎしている客がいるような店であれば、それに他の声は圧されてしまったであろう。

 食事が運ばれてきて、それを食べ、食器が下げられ――

「……このまんま座ってるのもアレだな」

「う、うーん、少しだけ追加で頼もうか」

 と、目当ての言葉が耳に入らずに、困っていたところへ、それが来た。

 一人の男が入ってきて、陽気に声をかける。どうやら常連客らしく、店主も店員も、そして他の常連客らしき客も、にこやかに応じる。

「おう、また魔王の話をしに来たのか。昨日聞いたから、今日はもういいぞ」

 待ちに待っていた言葉だ。

 恵一とケイトは顔を見合わせて、頷き合った。

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