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再び謁見の栄に浴すが収穫は無い

どうにかこうにか第4章開始。

少し書き溜めもできておるので、それが尽きるまでは週一更新。

またお付き合いください。

「行ったら、もう終わっていたみたいで……残念です」

 と、本当に残念そうに言ったのはミレーナである。

 エリスの裁判の翌日、ミレーナが家にやってきて前と同じように借りた服に着替えて城へ出掛けた。

 その途上で昨日の裁判の話になったのだが、ミレーナは一応用事が済むと急いで裁判が行われた公会堂に行ったのだけれど、間に合わなかったそうだ。

「ケーイチさんが証言するところ見たかったのに……」

「おう、なかなかいい証言をしていましたぜ」

 と、言うのはリクエストにできるだけ応えた服を着て御機嫌のケイトだ。

「まあ、なんじゃかんじゃ言うて一人殺っちまったのに禁固三カ月ってのは、軽い方ですけん」

「ケーイチさんの証言のおかげですね」

 と、ひどく持ち上げてくださるのだが、無論自分の証言が全く役に立たなかったとまで卑下するつもりはないものの、あれはエリスの目論見が上手く当たったからであろう。

 城へと到着すると、後は前と同じである。

 最初のうちは、ほぼ顔パスに近いような簡単さでどんどん通されていき、次第次第に詮議が厳しくなっていく。

 待たされた場所も、迎えにイリアがやってきたのも、そして通された部屋も、全てが前と同じであった。

 違っていたのは、部屋で待っていた人物の対応である。

 喜んで客人を迎えたのは以前と同じなのだが、その度合いが違った。

 この王国の姫様こと、メリナは立ち上がり、嬉しそうにミレーナを抱擁したのだ。

「ミレーナ、お久しぶりね」

「あ、はい」

 その抱擁ははたから見ていても強く抱き締めるという感じであり、ミレーナがやや戸惑っている様子からして、このようにメリナから熱烈に迎えられるのはミレーナとて初めての経験らしい。

「姫様……」

 冷静なイリアの声に、メリナはハッとして、はしゃいでしまって恥ずかしいところをお見せしました、というようにはにかみつつミレーナを放し、椅子に座りつつ、恵一たちにも座ることを促した。

「そちらのアマモト殿も、お久しぶりです。活躍は耳にしております」

「え、活躍?」

 王女様の耳に入るようなことを何かしただろうか、と恵一は思い当らぬ。差し当たって最近やったことと言えばエリスに協力したことぐらいだが……。

「盗賊団の討伐に参加し、困難な部署に配されて奮闘したことギルドよりの報告書に記載されておりました」

「ああ、そっちの……」

 と、ようやく得心して頷く。

 エリスの一件は、所詮はエリスの私事であって王女の耳目に触れるような類のことではないが、ギルドで大々的に討伐隊参加を募った盗賊団については、半ば公的な仕事であるから、その知るところであるのも納得できる話だ。

「何人か討ち取ったそうだな。よくやった」

 と、イリアも褒めてくれた。

 レベル10に認定される身体能力だけを突然手に入れたが、剣の振り方も満足に知らずに技術がほぼゼロに等しかった恵一に基礎を教えてくれたのはイリアだ。

 そういう点から、恵一は彼女のことを師のように思っていたし、イリアのその声には弟子の働きを喜ぶ響きが感じられ、それが無性に嬉しかった。

 なごやかな談笑に時を費やしつつ、これはこれでよいのだが、肝心の目的が、と焦燥に駆られ出した頃、タイミングよくミレーナが切り出した。

「ケーイチさんの記憶の手掛かりについて、姫様は御存知ではないでしょうか?」

 記憶喪失である、というのは前回の会見の際に言っていた。

「手掛かりですか?」

 と、メリナは首を傾げる。

「ああ……魔王云々、というやつか」

 以前に話をしていたイリアは覚えていた……というか、正確に言うと今の今まで忘れたいたことを思い出した。

「魔王、ですか?」

 メリナの表情などに特に際立った動きは無いのを、恵一は残念に思った。

 なにか知っていて教えることに問題が無ければミレーナに対する好意的な態度からして普通に教えてくれるであろうし、問題があって口外できぬにしても、なんらかの表情の変化があるはずだからだ。

 イリアは、以前に言っていた魔王がいつか現れるからそれに備えなければいけない、と主張している団体のことを小耳に挟んだことも言いつつ、メリナも何か知らないかと聞いてくれた。

「魔王、ですか……」

 あんまり芳しくないメリナの反応である。

 精一杯なにか役立ちそうな情報を記憶の中から取り出して上げたいのだけれど、それらしい何物も見つからずに苦しんでいるといった感じだ。

「ああ、なにも御存知なければ、よいですから」

 そうやってあんまり必死に考え込まれると、却って悪い気がしてくる。

「なにか、それらしい情報が入ったらミレーナにお報せいたします」

 と、メリナは言ってくれた。

「あ、はい、すみません。ホントありがとうございます」

 なにか知っていれば……というある意味軽い気持ちであったのだが、よう考えたら相手は一国の王女様であり、それにここまでさせてもいいんだろうか、と今更ながらに思い始めたものの、手掛かりはどのような些細なものでも欲しいので、好意に甘えておく。

 それからは、他愛もない話に終始した。

 元々、メリナがミレーナを呼ぶのは日頃の政務に疲れた心を癒すのが目的であろう。そこへ手掛かりがどうのと割り込んで無用に頭を使わせてしまったことをすまなく思う気持ちもあり、恵一もそのことは一切諦めて触れなかった。

 だが、やはり残念に思うことは事実である。いよいよ、手近なところで情報を得るのは無理なのではないか、という考えに行きあたってしまう。

 旅に……とすぐに思ってしまうが、しかし旅と行ってもどこへ行けばいいのか、というところでいきなり思考は壁にぶち当たる。

 せめて、イリアがその魔王に備えよという団体の話をどこで聞いたのかを覚えていてくれればとにかくそこを目指せばいいのだが、それすらわからないのだ。

 メリナとミレーナの談笑に、ニコニコしながら相槌を打ちつつも、正直ちょっと途方に暮れていた。

 やがて、時は経ち、最初はかしこまっていたのに段々遠慮が無くなってケイトが話に入っていき、話は盛り上がってきたが、イリアが次の予定が迫ってきたことを告げた。

「今日は楽しかったわ。またね、ミレーナ」

 メリナが、入ってきた時よりも、やわらかくミレーナを抱擁し、恵一たちにも別れの挨拶をする。

 一応、そういうところではかしこまって礼をするケイトと、それの見よう見真似をするアン。

「本日は、おれ、ああいや私のために時間を割いて下さってありがとうございました」

 あの後、ミレーナたちと話してメリナが楽しそうにすればするほど、彼女にとってのこういう貴重な時間を自分のために使わせてしまったのだという気持ちになっていた恵一は改めて精一杯丁寧に感謝の言葉を述べた。

「いえ、お役に立てずに……」

 と、そこまでメリナが言ったところで、やや激しいノックの音がした。

 その激しさは、王女の私室のドアへ対するものとしては不適当と恵一でも即座に思うような激しさであった。

「なんだ?」

 果たして、不快そうに呟いたイリアがドアを開ける。

「なんだお前か。姫様は来客中だぞ」

 開いた空間に見えたのは、侍女らしい女性だった。

「申し訳ありません」

 と、言いつつも、侍女は素早くイリアに何事かを耳打ちし、イリアが少し驚いた様子で何か聞き返し――ふと、恵一を見た。

「ん?」

 なにか、国に緊急事態が起こったのだな、と察していた恵一であったが、大変そうだなと思いつつも、重要な事態ならばそうであるほど自分には関係無いこととも思っているので気楽に見ていたのだが、明らかに不自然としか思えぬタイミングで、イリアが自分を見たのだ。

 イリアはすぐに恵一からは視線を外し、まっすぐにメリナの傍らへ行って、なにやら耳打ちをした。

 その後に展開されたのは、人物を変えての同じような光景であった。

 なんと、イリアと言葉を交わしていたメリナが、ふと、恵一を見たところまで同じだったのだ。

「え?」

 戸惑うなというのが無理な話だ。

 メリナ王女は、見てくれこそ年下のミレーナよりも年下に見えるような幼い外見をしているのだが、挙措動作は非常に落ち着いており、実際に話していると実際の年齢以上に大人の女性に見えるぐらいである。

「ええっと……」

 それが、今は言葉を出したものの、それを続けるのを躊躇っているような曖昧な態度であった。

 なにか、言いたいことがあるのに言い出せないような――

「姫様」

「……はい、それでは向かいましょう」

 だが、イリアに声をかけられると一瞬なにかを迷ったふうだったが、すぐにそういった曖昧模糊とした素振りは消え、最後に改めて一礼をすると足早に部屋を出て行った。

「さあ、行こう」

 イリアに促されて、恵一たちも帰ることにしたが、その途上で無意識のうちに彼女の表情を、探るように見てしまっていた。

「ケーイチ」

 そのことは、もちろんイリアも察している。

「こちらにも色々あるのだ。話してよいと思ったら、必ず話す」

 別れ際にそう言った。話してよいと思わなかったら話さない、ということでもあるが、完全な沈黙で通してもいいのに、最後にそう言ったのは、イリアの好意であろうと思えたので、あまり追及はしなかった。

 だが――

「なんなんだろうなあ……」

 なにかおかしな空気は感じ取っていて、ケイトが言う。

「よくないことでなければよいのですが……」

 と、争い事とかが根本的に嫌いなミレーナは言うのだが、めでたいことであったらあの態度はありえないので、どうしてもろくでもないことが起きたとしか思われない。

「おい、ケーイチ、ヒソヒソ話してる時に、王女様もイリアさんも、お前の方、見てたよな?」

 確信が持てぬようで、ケイトが問いかけるように言った。

「うん、たぶん、見てた」

「ってこたぁ……」

 ケイトは腕組みする。

「なんかケーイチに関することじゃないのか」

「おれに関するって……なんだよ」

「いや、わっかんねえけどさあ」

 そもそも、自分に関する情報があのような形で入ってくるのはおかしいだろう。知らせに来た侍女は、明らかに慌てていた。

「あー、もしかして、身元がわかったとか?」

「身元? ……おれのか?」

「そうそう」

「そんなら、その場で教えてくれるだろ」

 記憶喪失である、という話は最初に会った時に伝えてあったので、それからケーイチ・アマモトなる人物について調べてくれていて、遂に身元が判明したのではないか、というのがケイトが思い描いている筋らしい。

「あー、ちぃと憚りあるというか……なんか悪さした人間だった、とか?」

「いやいや、そんならあの場でとっ捕まるだろ」

「なんか、敵方の人間だとか!」

 ケイトは一人で盛り上がっているが、そもそもこの世界の人間ではないのだから、この世界に身元などあるわけもない。

「いや、それこそ捕まるんじゃないか」

 捕まる、という表現が適切ではないぐらいに丁重に扱われるであろうが、要するに移動の自由を制限された状態にされるだろう。

「うーん、わからんな」

「大体、敵方っていうけど、この国ってどっかと戦争してたりすんの?」

 そういう話は全く耳に入ってこない。

「いんや、平和なもんだよ。そりゃまあ隣の国とは色々トラブルはあるんだろうけどさ」

 じゃあ、その敵方というのはどっから出てきたというのか。まあ、ケイトがその場のノリででっち上げたのであろうが。

 お土産に包んで貰ったお菓子を大事そうに両手に持ったアンが、そういう話に頭から興味無いのはわかっているので、ミレーナにも何かご意見はございますでしょうかと彼女の方を見ると、顔色が優れない。

「どうしました?」

「え! あ、ああ、すいません」

「なにか、心配事でも?」

「いえ、ただ大変なことになって、姫様がまた御苦労されるのではないか、と」

 また、ということは今も御苦労されているということか。

 まあ、この王国は決して小国ではない、そのそこそこでっかい国の政治の舵取りを、いかに能力があると言っても二十歳かそこいらで行っているのだ。苦労は無数にあるに違いない。

「今までも、何かある度に、摂政の地位を引いた方が、という意見もあったらしく」

 摂政、というのは国王などが幼少或いは病気の時などに代行する役職と思っていいであろう。

 父である王が病床に伏せっているために、娘のメリナ王女が政治を見ている、としか聞いていなかったが、メリナは摂政という役職によりそれを行っているということだ。

「えーっと、王女様しか、王様に子供はいないんですか?」

「はい」

「それじゃあ……」

 疑問に思ったことをそのまんま口に出していいもんかどうか多少悩みつつも、相手がミレーナであるから大丈夫だろうと思い、言ってみる。

「王様が死ん……亡くなったら、次の王様は誰になるんでしょうか?」

「えっ?」

 ミレーナは、不意を衝かれた感じで目を丸くした。

 ここは男爵令嬢としての彼女のぽっかりと抜けているところだ。そういう発想自体が無く、従ってその後のことなど考えたことなど無いのだ。

「ええと……それは……やはり、姫様が女王として、ええ、やはり直系は姫様お一人ですから……あ、でも、やっぱり男の人じゃないと駄目なのかな」

 ミレーナは、哀れなぐらいに狼狽した。本当に全く、そういうことを考えたことが無いのだ。

「ああ、いや、まあ、誰か国のお偉いさんたちが話し合って、決めるんでしょう」

 ミレーナの狼狽を見ていられない気分になって、咄嗟に言ってしまったが、そこで後継たる王を合議――すなわち話し合いで決めるのだろうと思ってしまったのは、恵一に合議で決めれば丸く収まるだろうからそうすればいいんだ、という感覚があるためだ。

「うーん、姫様が女王になればいいと思うけどな」

 と、あっさりと断言するのはケイトだ。

「別に不満は無いし、今のまんまでいいんじゃねえの」

 ケイトのような庶民にしてみれば、メリナの統治下で特に際立った不満は無く、それが変わることで、前の方がマシだった、という事態になってしまうのが嫌なのだ。

「ああ、えっと、ちょっと話が飛びすぎました。ウン」

 飛ばした張本人である恵一がそう言って、軌道修正にかかる。

「王女様が摂政を辞めたら、誰が政治を見るんでしょう。王様は、病気なんですよね?」

「ああ、それは……おそらく、王弟殿下ですね」

 王の弟、つまりメリナにとっては叔父である。血統で言えば、十分に王位継承権を持っている人間であろう。

「ただ……」

「なにか問題でも?」

「殿下も、その、あまり体調がよろしくないのです」

 兄弟揃って難病か、と思ったが、話を聞いてみると、王弟は元々生まれつき病弱であるが、兄の方はこれ以上無いというぐらいに頑健で今回のことを除けば幼少時から病気らしい病気にかかったこともないという人だったらしい。

 ちなみに、歳はまだ四十歳。

 病床から起き上がれぬ王、という言葉からかなりいい歳をした老王を想像していた恵一は少々衝撃であった。

 だが、メリナがまだ二十歳ということを考えれば、さっさと結婚して子供を産めと国を挙げて奨励される立場である王がそのぐらいの年齢であることは、十分に想像できることであった。

「でも、それじゃあ……」

 今にも死ぬのかと思っていたからこその、死んだらどうなるのかという発言であったがそういう話を聞くと、まだ回復の見込みがありそうではないか。

 と、そこまで考えて、思い当たる。

「はい、元々頑健な方なので、いつか完治するとみんな思っていたのですが……」

 正に、誰もが王の病を楽観視し、いずれ回復し玉座に戻り、以前のように統治を行うであろうと思ったために、ごくごく短期間のつもりでメリナを摂政に据えて凌ごうとしたのである。

 メリナなどは最初の内は、健康にあかせて父は休みもろくにとらずに働き続けていたので疲労が溜まってこういうことになったのだろう、いい機会だからよく休めばよい、と言っていたぐらいだった。

 すぐに王は病床から立ち、前以上の精力的活躍を見せるであろう、というのがほぼ全ての人々の考えであったのだ。

「えっと、王様が病気になって、どのぐらい経つんでしたっけ?」

「一年半ほどになります。ここ半年は、公式の場にも出ずに……」

 一年ほどは、重要な儀式などの際には、病躯に鞭打って群臣の前に姿を見せることもあったのであるが、その度に目に見えてやつれが酷くなっていった。

 そうやって姿を見せるのは、あまりにも人前に出ないことが続くと、王の病室に入れないような身分の者たちが、あれこれと取り沙汰して、

 ――実は、既に王は崩御あそばされているのだが、それを隠しているのだ。

 などという噂が流布しないとも限らない。

 そういった不安からの流言の類を防ぐためにも、王は健在であると示すための意味合いもあったのだが、まず純粋に王が辛そうであるし、やつれた姿を見せるのは、むしろ逆効果なのではないか、という意見もあり、メリナと彼女を補佐する大臣一同打ち揃って病床の前に片膝ついて、我々だけでお留守は守れますゆえ御無理はなさらずに、と懇願した結果、王の出座は無くなった。

 娘と大臣連が懇願したということは、王はどのように辛くても出張ろうとしていたということであり、随分と責任感の強い人なんだな、と思う。

 そういう人が治めていたからこそ、この国は安定しているのかな、とも思う。

「あの、病気の原因ってわからないんですか?」

 無論、それは誰もが知りたいと熱望し、そのための行動もとられていた。

 体調不良が長引き、これはただの疲労ではないのではと思った時点で、自ら高い魔術師の才能を持つメリナ自らサーチの魔法で調べたし、腕のよい治癒士も呼ばれて施術に励んだのである。

 しかし、状態については、わからない、とメリナが以前に溜め息をつきながら言っていたそうだ。

 とにかく、身体機能等の著しい低下がある、ということしかわからない。しかし、そんなものはわざわざ魔法を使って調べないでも、見ればわかることだ。

 治癒魔法が全く効果が無いことを考慮すると、強いて言えば、老衰に近い、ということをメリナは言い、すぐにそんな馬鹿なことはあるはずはない、というふうに首を振っていたという。

 原因がわからない、というのは厄介である。

 どのように絶望的な難病であろうと、原因がわかれば、それを治療するための方法を探してそれを試みることができる。

 わからなければ、何もしようがない。

 ちょっとした部品の不具合でパソコンが起動しなくなってしまったが、その原因がわからなければ、しょうがないから本来部品交換で済むのに、パソコンごと買い換えなければならない、というような感じか、とかなり不謹慎な例えで理解しつつ、恵一は先にミレーナが言っていた、摂政を辞めろ、という意見が出て来る経緯について得心した。

 あくまでも短期間の体制であったものが、長々と続いていては、文句も出るだろう。

「いっそ、姫様には摂政をお辞めになるという選択もあるのでは、と私は思うのです。……もちろん、こんなことは申し上げられませんが」

 前回の会見の時から、メリナの疲れを感じて思うところがあるらしく、ミレーナはそこまで考えてしまっているらしい。

「うーん、でもなあ」

 ケイトが、ぽつりと言った。

「なんだよ」

「姫様が、辞めても、その後はどうなんのかなって。王弟殿下も病弱なんだろ。結局、後に人がいないんじゃないか」

「それは……」

 と、ミレーナもそこは答えが無いようで、言葉に詰まる。彼女としては、ひたすらメリナが今の重荷から解放されて欲しいという一心であり、そこまでは考えていない。

「ケイト……」

 そういうミレーナの心情はよくわかるので、そういうの吐き出すのに水を差すようなこと言わんでもいいだろう、と恵一はケイトを窘めるつもりで言った。

「王様が病気で、姫様が摂政になるって聞いてさ、一時的なもんだって言われてたけど、あたしら庶民としちゃあさ、大丈夫かいな? って、まあ、ぶっちゃけ失礼だけど話してたんだよね」

 ケイトは、思っていたよりも真剣な表情だった。

「でも、そんな悪くなんないどころか、けっこういいこともあってさ、これなら心配無いなってみんな安心して、姫様万歳、摂政万歳、ってなもんよ」

 ぐっと力を込めてケイトは言う。

「そりゃあさあ、色々しんどいこともあるんだろうけどさあ。できれば、このまんま姫様に頑張ってもらいたいよ、あたしらとしては」

 ケイトには、恵一が持っているような民主主義とか普通選挙とかいう感覚は全く無く、誰が為政者になるかということは、自分たち庶民が関知することではないという考えであり、一度よい為政者を頭上に頂けば、それが末永く変わって欲しくないと願うのが自然な感覚である。

「そうですね……」

 ミレーナは、悔いのような苦い表情を浮かべて頷き、顔を上げた時には、むしろ晴れ晴れとしていた。

「私の考えが浅はかでした。姫様御自身も、摂政を辞めてしまった方が楽だということはおわかりでしょう。それでも、この国の王女として……王の娘として責任を果たそうとしておられる。……御父上に劣らず責任感の強い方ですから」

 ふう、と喉につかえていた固形物でも吐き出すように、息を吐く。

 ミレーナの心が軽くなったこと自体は歓迎しつつも、恵一は複雑である。

 再三述べているが、恵一はミレーナのことを守りたいと思っており、苦しそうにしていると助けたいと思う。

 だが、自分がよかれと思ってやったことよりも、むしろ自分が止めんかいと思うようなケイトの行動言動の方が彼女を助けるのに役に立ったりすると、まあ、アレだ。複雑なのである。

 やがて、ハウト男爵邸の前までやってきたので、ミレーナとはそこで別れた。

「おい、なにぼーっとしてんだよ」

 複雑な心情なんざ知ったこっちゃないケイトとしては、ぼーっとしている、という以外には見えない恵一の背中を遠慮なく叩く。

「エリスんとこ行くんだろ」

「ん、ああ」

 気を取り直し、エリスに会うために、獄舎に向かうのであった。

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