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決断しないでいい状況

 獄舎に行ってリーンの裁判について問い合わせると、明後日であることがわかった。場所と時間も教えてもらい礼を言う。

 リーンと面会できるか尋ねると、それは駄目だとのことだ。なまじ恵一が裁判で証言するつもりだと言ってしまったために、リーンの協力者として警戒されてしまったようだ。

 なにしろ、獄卒どもが、

「あれぁ、要注意人物だからな」

 と、言っている。なにが要注意かというと脱走する危険ありという意味だ。

 早速やったのか、と思ったがよく聞いてみると実際にはまだやっていないのだが、いつか脱走してやるんだと誰彼構わず――つまりそれを阻止すべき立場である獄卒にまで構わずに言っているのである。

 そのため、警戒はされているのだが、獄卒どもがリーンを嫌っているかというとそうでもなく、むしろ逆に好意を持っているらしいことが話していてよくわかった。

「大した罰にならんよ、あれは」

 だから、下手に脱走しようとしても、罰が重くなるだけであると。

「すいません、お願いします」

 別にそんなことお願いする筋合いではないのだが、獄卒たちにそう言って恵一は獄舎を後にした。

 すぐに家に帰ろうとしたが、まだ陽は高い。

 思えば、ここのところケイトとアンと一緒に行動することが多く、一人で外出することなどは無かった。

 二人といると気が詰まる、ということはない。むしろ二人とも色んな意味で異性を感じさせないので男友達といるみたいな感覚で気楽ではある。

 しかし、二人とも――特にケイトがマイペースで、その自分のペースに同行者を引きずりこむところがあるので、街をぶらつくにしても、あまり恵一自身の意思で行き先などを決めることはない。

 ここは一つ、一人でぶらついてみるか、とポケットの小銭を確認する。銅貨が何枚か入っていた。

 基本的にケイトに凄く自然に搾取されているのであまり大金は持っていないが、さすがにいくらかは金を貰っている。

 なにか買い食いでもしようと思い、屋台が集まっている通りへ行くと、前方から左右に目をやっていかにも屋台で何を買うか物色している風情のミレーナがやってきた。

 なにしろ美少女なので、人波の中にいても顔が浮き上がって見えるようで、恵一はすぐにそれに気付いた。

 対して、平々凡々の顔をした恵一は人波に埋没しているようで彼女の方はまだ気付いていない。

「ん? ああ、ケーイチさん」

 さすがに、至近距離まで近付くと、ミレーナも恵一に気付いた。

「ああ、おじょ、ミレーナさん」

 恵一は自分も今気付いたというふうに言った。言い直したのは、街中をぶらついてるお忍びの時はお嬢様ではなく、名前で呼んでくれと言われていたからだ。

「私はいつものアレですけども、ケーイチさんは?」

 アレというのはもちろんお忍びのぶらつきのことであるが、以前は使っていなかったアレやらいう言い方をいつの間にかミレーナがするようになっているのに今気付いた。

 たぶん、ケイトとの会話で「アレだよ、アレ」「ああ、アレか」というようなやり取りがあり、それを聞いていて、まあ移ってしまったのであろう。

 実際のところ、お忍びと言えば、すなわちそれは身分の高い人間であることを示すことになってしまうので、アレで通じるならその方が便利に違いない。

「おれは、ちょっと用事があって獄舎の方へ」

 と、言うと、驚くだろうなという予想通りにミレーナは驚いた。あまり縁の無い場所であろう。

「獄舎になんのご用だったのですか?」

「ああ、話せば長くなりますが……」

「では、なにか買ってあちらで聞かせてください」

 ミレーナが目をキラキラさせながら広場の方を指差す。

 恵一としても、ミレーナと話ができるのは嬉しいし、そしてなによりもメリナ王女に会う時に同行することを頼みたい。

 この辺の屋台では定番の肉の串焼きを買って、それを食べながら一連のことを話す。

 盗賊討伐、というだけでミレーナはそれが凄い大冒険であるかのように目を輝かせた。

 正直、話が上手いとは言えないので要領を得ないところは多々あったが、ミレーナが話を急かしたり、え? 今のどういうこと? 何言ってんだかわかんねえぞ、とかケイトみたいなことは言わないので、落ち着いて整理しながら話をすることができた。

「へえー、それで、そのリーンさんの証言をするために」

「ええ、裁判の日を確認しに行ったんです。なにしろ当人がどうでもよさそうなので」

 盗賊討伐の話は、どうしても自然にリーンが話の中心になってしまうので、ミレーナも彼女に興味を持ったようだ。

「凄いですね。レベル差があるのに一対一で勝つなんて」

「うん、凄かった」

 あの時のリーンの死を全く恐れぬ気迫は、今も鮮明に思い出すことができる。

「それで、その話に出てきたエリスさんという方ですが」

「ああ、エリス」

「呪術師の方にはお会いしたことがないのですが……そのような方と一緒に暮らして、その、大丈夫ですか?」

 ケイトのように嫌悪感が前に出てはいないが、ミレーナの認識もあまり変わらないようで、その表情には怯えがある。

「ああ、いや」

 恵一は、どう言ったものか迷った。頭っから大丈夫ですよと言ったところで、すんなり信じてもらえそうにない。

 しょうがないので、またまた話は長くなるが、呪術師というものについて自分の思うところを交えつつ、決してそれだけで悪人みたいに見る必要は無いということを説明した。

 自分の体を犠牲に大きな力を得ようとするというところに、ミレーナはなにか人間として壊れているというか、ネジが何本か飛んでるような狂的なものを感じてしまっているらしい。

 それは、やはりどうしても一理あって、呪術師そのものへの偏見――とも言い切れぬ認識を改めさせることはできなかった。

 それでも、なんとかエリスがそれほど悪質ではなく、むしろケイトよりかはよっぽど常識人であるということは納得させることができた。

「私とそれほど変わらぬ年齢で呪術をやるからには、なにか理由があるのでしょうね」

「ええ、そうでしょうね。聞いても教えてくれそうにないし、聞くこと自体が凄い失礼かと思って聞いてはいないんですけど」

「そうですねえ」

 話が途切れる。

 恵一は、今だとばかりに、例の話を切り出した。

「姫さま、ですか?」

「ええ」

「なにしろお忙しい方ですから、私もあれ以来お会いしていないのですが」

 ミレーナも、いかにお気に入りとはいえ、ただでさえ身分差がある上に、多忙を極める相手なので、こちらから訪ねたりはしない。

 この前もそうだったが、お呼びがあって参上するということになる。

「この国の政治を取り仕切っているような方なら、もしかしたらおれの例の夢みたいな手掛かりのことを知っているんじゃないかと」

「例の? ああ、魔王とか、そういう」

「はい」

「そうですね、姫さまなら、何か御存じかもしれません」

 一国の王女――それも深窓の姫君ではなく政治を行っている為政者となれば、色々と知っているだろう、という見込みなのだが、そもそも為政者しか知らん情報など機密扱いであり、恵一に教えてくれるだろうか、という疑問もどうしてもある。

 それでも、とりあえずは遠出しないで試してみることができる方法がこれしかない。

「では、次にお招きがあった際にはお知らせします」

「お願いします」

 同行の名目は、ミレーナの護衛ということで大丈夫だろう。

 まあ、ケイトとアンもお菓子を目当てに死んでも着いてくるだろうが、二人は護衛というには少々苦しいので、ミレーナの侍女ということにでもすればいい。

「ふう」

 やるべきことをやったら気が抜けた。

 あとは、仕事をしながらミレーナの呼び出しを待てばいい。

「そういえば、ケーイチさん」

「はい」

「こんな話を御存知ですか?」

 ミレーナの話によると、まだ若いのにとても魔術の腕が立つ青年がこの近辺に出没し、対価としては激安としかいいようがない謝礼で重病者や怪我人を治療して感謝されているという。

「へえ、そんな人がいるんですか」

 何気なく言って、さらに話を聞くうちに、記憶の中からとある情景が呼び起こされる。

「どうしました?」

 興味深そうに話を聞いていた恵一が、突然深く考え込んでしまったのでミレーナは不思議そうに言った。

「ああ、いや、もしかしたら、おれその人を見たことあるかもしれません」

 思い出した情景の中で、その人は年上の治癒士から罵倒を浴びていた。

「どんな感じでしたか?」

 そんなことをして回っている人間はそうそういないだろうから、おそらく自分が見たのがその人で間違いあるまいと前置きをした上で、恵一は一部始終を話した。

「はあ……」

 と、心なしかミレーナの明るかった表情が曇る。

「そうですか……治癒士の人が怒っていたのですか。……考えてみれば、そうですよね」 基本善良で――正直、ちょっと抜けているところも無いとはいえぬ彼女は、その話を聞いて特に疑問もなく、よい話だと思っていた。

 その人は善人で、安い金で病気や怪我を治してもらった人たちは大喜びで、誰も不幸になる人などいない、そういうよい話だと。

 それが、すっぽり抜けていた、客を取られてしまって困っている治癒士のことを知ってしまって、もう手放しでよい話だとは思えなくなってしまったのだ。

 恵一には、そのミレーナの気持ちがよくわかるので、あれこれ言わずに彼女が自分の中でそのことを消化するのを見守ることにした。

 恵一とて、いきなり治癒士が激昂している場面に遭遇したからそうならなかっただけのことで、最初にそういう人がいる、という話を聞いたらミレーナのように掛け値なしのよい話だと思っていたに違いないのだ。

 明るいミレーナの表情が沈んでしまったのに、もう反射的に言ってはいけないことを言ってしまったのでは、と思った恵一だったが、いややはりこれは真実の一面なのだから、伝えるのは間違いではないのだと思い直したりもした。

「ケーイチさん」

「はい」

「リーンさんの裁判で証言するのって、明後日でしたよね」

 話題が変わった。

 ミレーナとしても、ただの心温まるよい話のつもりで振ったそれが、どうもそうとばかりは言ってられんようだというのを知ってしまい、続ける気にはなれなかったのだろう。

「私も時間が合えば行きますね。そのリーンさんという方を見てみたいですし」

 ミレーナはリーンに興味津々である。

「あ、そろそろ私は失礼しますね」

 鐘の音が聞こえてきて、ミレーナは立ち上がった。恵一もここでの暮らしはそこそこなのでそれが正午を告げる鐘だということがわかった。

 なんでも、ミレーナは午後からは色々と習い事があるらしい。お忍びと称して一人でほっつき歩いているから自由に見えるし、まあ実際世の男爵令嬢の中ではかなり自由度の高い方なのではあろうが、そういう御令嬢の義務的なことから無縁なわけではない。

 恵一も、ちょっと外出が長くなったのでミレーナと別れると家に帰った。

 ケイトは、恵一こそ借金返済の要であるとしているものの、信頼しているのかナメているのかはいまいち判然としないが、あまり束縛するわけではない。

 そのため、別に夕方まで家を空けてもなんにも言わないであろうが、恵一とて知人がそうそういるわけでもなし、やることもないのである。

 家に帰ると、ちょうど昼飯であった。

「おう」

 で、なんでかゲオルグが御相伴に預かっている。

 どうやら、空腹に耐えかねて、エリスに嫌味言われたり血も凍るような眼で見下ろされたりするのを覚悟して、幾許かの金を貰いに来たらしい。

 だが、エリスが外出中と聞き、ほっとするやら金のアテが無くなってガッカリするやらしていたところ、腹の虫が盛大に音を立て、それを聞き付けたアンに誘われたとのことである。

 ケイトは、基本この男に対してはエリスと大差無い意識を持っており、そんな甘やかしたら駄目だぞという態度である。

 だが、アンが頼むのでしょうがなく具が少ないスープとかを上げることにしたのだ。

「仕事しろよ、野草摘みでも頑張れば一食分ぐらい稼げんだぞ」

 で、案の定というかなんというか食卓での話題は主にゲオルグへの説教であった。

「あれだろ、レベル8の俺様がそんなしょーもない仕事やってられっか、とか思ってんだろ。ん?」

「いや、別に思ってないけどよ」

 しょーもあるかしょーもないかではなく、仕事自体をやりたくないのだということを言ったらそれがまた新たな説教の種になるので、それは飲み込んでゲオルグはケイトの相手をしている。

 なにしろ、この家の主であるから機嫌を損ねないようにしておかないと、具が少ないとはいえせっかくありついたタダ飯を失うことになりかねない。

「ケーイチなんか、レベル10なのに文句一つ言わないでやるぞ」

「そうかあ、うん」

 ゲオルグは、適当に返事をしている。

 言葉遣いは乱暴でズケズケした物言いのケイトであるが、このまんまじゃ駄目だぞしっかりしろよ、という多少の温かみが言葉の端々にあり、ゲオルグはしっかりとそれを感じ取っていた。

 正直なところ、言葉遣いこそ丁寧だがこのまんまじゃお前には生きている価値は無いからしっかりするか死んでしまえ、と方向性は同じなはずなのに全くもって温かさの感じられないエリスに比べたら、ケイトの説教なんぞタダ飯の代金と思えばきつくもなんともない。

「うん、うん、そうだな、うん」

 と、神妙に相槌を打ちながら凄い速さでスープをかっ込んでいる。空腹であったというのもあるが、純粋にエリスが帰らぬうちに食ってずらかろうとしているのだ。

「うん、ごちそうさま。じゃ、おれはギルド行ってくるわ。あんがとな、嬢ちゃんたち」

 食い終えると、そう言って席を立った。本当にギルドに行くかは疑わしいが、さすがにケイトもついていって確かめるまでする気はない。エリスならやったかもしれぬが。

 ゲオルグが帰ってからしばらくして、エリスが戻ってきた。

「おかえり」

「……はい」

 もう、あからさまに不機嫌そうである。

 時間的に、ゲオルグとは会っていないはずなので、彼が原因ではなさそうだ。

「んっ」

 低く呻いたかと思うと、壁に手をついて、なんていうか壁を這いずるようにして自室へと向かう。

 恵一は思い当って、その後を追おうとすると、やはり例の発作が起きているようで部屋の手前でぶっ倒れた。

「エリス!」

 と、声をかけたものの、以前手助けすんなと言われているために、手を出せない。

 とは言うものの、部屋にある痛み止めに使っている葉っぱまでの距離は遠い。これはいくらなんでも手助けしてよいのではないか、と迷っているとなんかゴソゴソやっている。

 エリスは懐から小さな壺を取り出して蓋を開け、指をその中に入れた。

 やがて、独特の臭いが漂い始めたが、さすがにその前になんなのかは見当がついた。

 考えてみれば、外出先で発作が起きた時のために、小さな壺に少量入れたものを携帯しているのが当然であろう。

「ふー」

「落ち着いた?」

 あの不機嫌そうな態度は、発作が近付く不快感によるものだったのか、と思っていたのであるが――

「ええ、少しは」

 発作がおさまったというのに相変わらず不機嫌そうである。ていうか、ちょっとここまであからさまにそれこそ親切心から声をかけている恵一にまでそれをぶつけるようにしているのは不自然なほどだ。

 エリスは、冷然としてはいるがそれはどちらかというと他者との気安い交わりを拒絶するような態度で止まっており、ゲオルグのような気に食わない債務者は別として、エリスの方から他者へ突っかかるような真似は見たことがない。 

「えっと、どうしたの? 凄い不機嫌そうだけど、なにかあった?」

 そう問いかけた恵一を一瞥し、別に何も、と言い捨てるように言って、自室へと行ってしまった。

「はあ……」

 これ以上深入りしてもろくなことはあるまいというのは嫌でもわかるので、その姿を見送り、椅子に座った。

「アマモトさん」

「え! あ、ああ、なに?」

 その直後に、エリスに呼ばれて不意を衝かれた恵一は慌てて返事をしながらそちらを向くと、部屋から顔だけを出したエリスがいた。

「別に、あなたが悪いわけではないのです」

 それだけ言うと、素っ気無いと言っていい素早さで引っ込んでしまった。エリスには、恵一が自分が悪いことをしてしまったと思っているように見えたのだろう。

 午後、ケイトとアンが昼寝してしまったので、恵一は一人家の前で剣を振っていた。

 実のところ、やることが無いのである。

 ゲームやら漫画やら、手軽に暇潰しができるようなものが無い。

 かといって、素振り自体はどうしても反復行動であるために長時間やっていると退屈になって、やり続ける気が無くなってしまう。

 それでも一時間ぐらいは振っていたのだが、とうとう飽きてしまい、家の前に座って何をするでもなく空を見ていた。

 そうして無為に過ごしていると、もう元の世界に戻ることはできないのではないか、それならばもうここに骨を埋める覚悟をするべきではないのか、とか、そういうことばかり考えてしまう。

 そして、最近段々と恐ろしくなってきたのは、こちらの世界で出会った人々との関係が深まるにつれて、元の世界に戻れないから仕方なくこちらの世界にいるという流された状況に安堵と快感を感じているのを自覚してきたことである。

 戻れないから仕方なく、というこの上もなくどうしようもない理由があるから恵一は決断をしないで済んでいる。

 戻る方法が見つかったらどうするのか。

 こちらに来た当初は、そんなもんすぐに戻るに決まっていると強く思っていたし、迷いは無かった。

 そのうちに、ケイトと深く関わってしまったために、せめて彼女の借金問題にケリがついてから、と気持ちが後退した。

 とりあえず保留というのが効かずに、すぐにその場で決断せねば機会を逃してしまうとなったらどうしようかというのにまた悩んだが、機会が一度だけということはあるまいと根拠は無いのだがそういうことにして、その時は見送ろうと思っていた。

 それがまた、さらに後退して、戻る方法がすぐに見つからないでもいいなあ、と思い始めている。

 方法が見つからなければ、戻るか残るかの決断をしないで済むからだ。

 随分と後ろ向きな考えであることはさすがの恵一も自覚しているものの、いざそうなった時にどちらとも決断できそうにないのだ。

 元いた世界も懐かしいし、なにしろあっちにはこちらには絶対にいない両親と妹という家族がいる。

 だが、こちらの世界に来ることによりなんでか知らんがレベル10に認定されるそこそこ高い能力と、殺気に反応しておそらくはレベル10なんてものじゃない強さとなる力を得た。

 その力のおかげで生き延びてこれたし、その力のおかげでケイトをはじめとして幾人かの人間に非常に頼りにされている。

 大体において平均かそれ以下のものしか持っていなかった恵一にとっては、元いた世界では頼られる、などということは負担でしかなかった。いや、実際にはみんな恵一のことはよくわかっていて頼られたことなど無いのだが。

 こちらの世界に来て、頼りにされることの喜びを知ってしまった。

 その喜びを知ってしまった以上、最もこの世界で自分を頼りにしているケイトの問題を解決するまでは、と思うし、どこかにこの喜びを感じ続けたいという願望もある。

 それはすなわち、どうしたってケイトの借金完済がいつまでも終わらないということになり、それはそれでそういうわけにもいかない以上、いつかは終わることだ、ていうか終わらせねばならない。

 なんとなくだが、ケイトの問題が解決したあとに都合よく帰る方法が見つかるのが理想である。

 下手にこの世界に長居すると、またなんらかの「目標」ができてしまい、それを完遂するまでは帰れない、という状態になりかねない。

 そんなものは、お前が決断すりゃいいしするべきだろうが、という話なのだが、そんなんできたら苦労しねえよ。

 一番求めているはずのことを、どこかしら拒絶している、という複雑な心的状況を持て余し気味であった恵一の横を、すっと人影が通り過ぎた。

「出てきます」

 人影はエリスであり、恵一を見もせず、足を止めることもなく言葉を投げつけるようにして行ってしまう。

 一瞬、声をかけそうになるが、どう見ても不機嫌な状態が継続しており、ろくなことにならなそうなので黙って見送った。

なんかズルズルと隔週更新になってますが、なんとか週一に戻したいという気持ちだけは無駄にあります。

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