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作戦開始

 しばらくダラダラとしていた。一応恵一たちは遊撃軍としてガルスの手元に置かれているような感じであり、見張りは免除されていた。

 それでもいつ招集がかかるかわからない。

 完全に緊張を消すことはできずに、その時を待っているのは恵一だけで、他は大体リラックスしている。

 ケイトとリーンに至ってはかなり豪快に寝ており、いくらなんでも緊張感が無さすぎなのではないかと思ったが、エリスに言わせると休める時に休んでおく方がよく、できれば恵一も昼寝でもしていた方がよいという。

「いや、おれは……」

 正直なところ、緊張感でそれどころではない。

 なんか、そう言われるとそれまでのケイトもリーンもこんな時に寝てしまうなんてしょうがないなあ、という思いが間違いで、むしろそこで寝ることのできない自分の胆が小さいのかとかいう気持ちにもなる。

 頑張って寝ようとするが、やはり寝れない。

 とにかく、横になって目をつぶっているだけでも少しはマシだろうとそうしていると、隣のケイトの規則正しい寝息がいい具合に誘いになって、なんか眠くなってきた。

「おい、呼んでるぞ」

 その瞬間に、アンがやってきた。彼女は寝ている恵一たちを尻目に相変わらず偵察として駆け回っていた。

 どう見ても一番貢献しており、ガルスが報酬無しなのを気の毒がるのも当然である。

「んー、呼んでるってこたぁ、なんか動きがあったな」

 目をこすりつつ、ケイトが目を覚ます。

 リーンも弾かれたように起き上がり、両手を上げて伸びをすると、すっきりした顔で立ち上がった。

 ちょうど眠りかけたところを引き戻されてしまった恵一は、眠気がすぐには覚めず、大きくあくびをした。

「ほら、ケーイチ、寝てる場合じゃないぜ」

「ん、ああ」

 ケイトに言われて釈然としないものを感じるが、休める時に休んでおいたケイトとリーンは鋭気が漲っているように見えるのは確かだ。

「おーい、来たわよ」

 一味を引き連れてリーンがガルスに声をかける。

「おお、敵に大きな動きがあった」

 言いつつ、ガルスは手招きする。

「探索のために動き始めた」

「どゆこと?」

 これまでは、見張りを散らして不動で、完全に受け身の体勢であった。

 それを、幾つかの部隊に分けて、それらが動き始めた。

 おそらく、団の中の腕利きを中核に、その周りにレベルの低い下っ端連中を貼り付けたような陣形であろう。

 しかし、森は広い。

 あちらは、リーンたちは少数でのゲリラ戦を仕掛けてきていると思っているはず。

 それならば、そのようなことをしても、リーンたちはまともにぶつからずに逸早く逃げてしまうであろうことはわかっているだろう。

 だが、とにかくそうしている限りでは、襲撃は無くなる。

 下っ端どもも、そうやって自分たちから行動を起こしていれば、じっと見張っているよりかは気も安らぐし、なにより団の腕利きが常にそばにいるということに心強さを感じるだろう。

「ふむ、どうするか」

「いいじゃない。そいつら皆殺しにすれば」

 基本的に作戦方針が皆殺し一択のリーンは悩むガルスを尻目に、断言する。

「皆殺しは……アレだが……さすがに全員生け捕りは無理だな」

 ガルスもこれまで色々と考えていたようだが、遂にその結論に達した。討伐隊四十人に対して、四人ばかり殺したものの、まだ盗賊団は二十数人はいる。

 この人数差では、生け捕りに拘れば却って取り逃がしてしまうかもしれぬし、なによりこちらに無用の犠牲を出しかねない。

「よし、一気に決めるか」

 ガルスは、散らして見張りに立てている者まで呼び集め、討伐隊全員を集合させることを命じ伝令を走らせた。

 やがて、全員集合すると、方針を話し始める。

「おれから、状況を見て生け捕り命令を出す。それまでは、基本的に盗賊どもは殺せ。捕まえられそうでも、殺すつもりで傷付けるんだ」

 これは、窮鼠の思わぬ反撃を恐れるためだ。相手の人数が多いうちは、手加減無用である。

 ガルスは、各員を部隊に割り振り、その部隊を部署した。

「兄ちゃん、頼むぞ」

 と、恵一が振られたのは、リーンの護衛である。

 彼女は、餌としてけっこう前に出るが、敵も彼女を狙ってくる可能性が高い。

 リーンを中心に激戦になるだろうから、その時はバッサバッサと殺ってくれ、ということだ

「はい」

 大丈夫、大丈夫――自分に言い聞かせながら恵一はガルスに応える。

 明らかに自分へ敵意を持って向かってくる人間にならば、遠慮なくやれる。むしろ、先程ケイトたちに情けないところを見せた、という意識が後から襲ってきたりもしていたので、その汚名返上のためにと、けっこう恵一は張り切っていた。

「うっす、お願いします!」

「……えっと、マルセス、くんだったよね」

 で、なんでかいきなりこのリーンの護衛部隊に剣闘士の卵のマルセスくんが配属されてきた。

 どう見ても同年齢か上に見えるのだが、実際には年下なので、一応少し悩んでからくん付けで呼ぶことにした。

「やあやあやあやあ、お願いしますよアマモトさん」

 で、当然のことながら、彼の師匠というかマネージャーのエルムントも同じく配属されてきている。

 どうも話を聞くと、せっかく討伐に参加したものの、全く剣を振るう機会が無い。

 まあ、主に闇討ちばっかりなので、そういう機会自体にこれまでは乏しかった。

「いや、機会はあったんですけど、こいつが……」

 と、苦々しくエルムントは言った。

 例の、リーンが罠に引っ掛かって抜剣して突っ込んできた時に、エルムントは今だ行けとけしかけたのだが、マルセスは前に出ることができなかったのだという。

「どうも、相手が女の子なので気後れがしたみたいで」

「はあ」

 でも、それはまあまともな感覚だと思うので、しょうがないのではなかろうかと恵一などは思う。

 このまんまだと、結局ろくに実戦の経験も積めずに終わってしまう、と危惧していたところへ、最後の攻撃となるであろう作戦が説明されたために、これが最後の機会であろうとガルスに頼んで激戦になる可能性が高い場所へ配してもらったというわけだ。

「ええっと……とりあえず、まあ大丈夫か」

 一抹の不安としてマルセスが、ちゃんとできるのかというのはあるものの、リーンも恵一もエルムントもマルセスも、皆それぞれそれなりの強さを持っているのでそうそう心配はあるまい。

「おう、しっかりやれよ、ケーイチ。お前は殺ればできるんだからな。今こそ血に飢えた本性を取り戻すんだ」

 毎度毎度おれをなんだと思とんじゃい、と言うしかない激励をしつつ、ケイトとそれとアンが自分の部署へと向かっていく。

 彼女たちは、そもそも乱戦の渦中にいることは危険も多いし、どちらも飛び道具を持っているので外側に回されている。

 どんなに相手は自分たちより小勢であると思い込んでいたとしても、いざ討伐隊が全面的な攻勢に出れば、嫌でも人数の多さはわかるだろう。

 そうなると、なぜ二人だけで逃亡したリーンが短期間のうちにこれほどの味方を揃えることができたのか、とかいう疑問を感じるよりも前に、本能的に危険を察知してなりふり構わず逃走に全力を挙げる者もいるだろう。

 人数が多いと言っても、ガチガチに水も漏らさぬ包囲網を敷けるほどではないから、それをされると何人か逃がしてしまうかもしれない。

 下っ端などを数人取り逃しても止む無しとはガルスも思っているものの、逃げた者はまた別の場所で悪事を働くに違いなく、極力それは防がねばならない。

 逃げる一手の者を逃がさぬようにするには、飛び道具が欠かせない。

 ケイトやアン、それに他に弓矢などの飛び道具を持っている者は、包囲を脱した者を背中から撃つ役目なのである。

「ようやくこいつを使う時が来たぜ。ふへへ」

「逃げる奴の背中を撃てばいいんだな。簡単だな」

「ああ、まあ、二人も頑張ってな。無理しないでいいからな」

 毒を塗った矢を持ってやる気満々の二人の耳に、入ってるのか入ってないのかようわからん忠告をする。

「よし、そんじゃ確認」

 リーンが自分の護衛というかたぶん彼女の中では「子分」扱いの連中を見回しながら言った。

「ケーイチがレベル10で、そっちのエルムントさんが9ね、んでマルセスくんが5、私がたぶん9だから、まあ、たぶん大丈夫よ」

 リーンが言うには、相手の盗賊団には腕利きと言ってもそれほどの手練れはいない。

「なんとか、ジェークと一騎打ちに持っていきたいけど、ちょっと厳しいかな」

 父の仇の主犯たるジェークを、一騎討ちで破るのにリーンは多少の執着がある。

「リーン、それは」

「うん、わかってる。どうせ後ろでコソコソしてる奴だから」

 だが、無理があるのはリーン自身が理解している。

 それでも、心の底ではそれを望んでいるのは明らかであり、もしもそういう機会があれば突出する恐れがある。

「その、ジェークっていうのは、強いの?」

「さあ? 強いんじゃない?」

 人徳で団を統御しているタイプでは全く無いので、ジェーク自身がそれなりに強いのは想像がつくのだが、具体的にどの程度なのかがわからない。

 下手にリーンが一騎打ちに行って返り討ちに遭ったら目も当てられぬ。

「まあ、たぶん私の方が強いわよ」

 リーンは根拠皆無に断言する。

「もしもやられたら、仇を取って」

 返り討ちの可能性も考えていないわけではない。

 結局、これは彼女が父の仇討ちに全てを賭けていて、そのために死んでも全く悔いが無いためである。

「んー、リーンさあ」

「ん? なに?」

 何か言おうとしてそれが上手く言葉にならない。

 恵一が言いたいのは、そういう死んでもいいやという気持ちで事に臨まずに、もう少し命を大事に、生き延びて新たな人生を歩んで欲しいということである。

「命を大事に」

「は?」

「あー、とにかくさ、なんかリーンって死んでもいいやって思ってるみたいでさ」

「思ってるわよ」

「あー、うん、そうなんだ」

 恵一がリーンに好意を抱いている理由は、最初に遭遇した時に即座に死を決して敵に立ち向かって行った凛とした姿と、その際に出会ったばかりの自分たちへと見せた気遣いのせいである。

 それゆえに、心のどこかで、命を捨ててしまう決断ができ、それを行動に移せるのが彼女の魅力であると思っているところはある。

 それが少々引っ掛かりとなってしまい、リーンに対して命を大事にしろと言うのに迷ってしまうのだ。

 だが、それでも、その二つの感情を突き合わせて削り合わせていけば、最終的には生きて欲しいという気持ちが僅かとはいえ残るのだ。

「とにかく、死ぬ気でやるっていうのはいいけど、死ぬために死ぬようなことは止めてくれよ」

 自分で言いながら、わけがわからん。

「んー、つってもさ、どうせこれが終わったら捕まって収監されんでしょ。何年喰らうかは知らないけど、そんなら父さんの仇討つために死んでもいいやって思うわけよ」

「まあまあ、そんなこと言わんと。おれもできるだけのことはするし」

 なんか軽々しく言ってはいけないことを口走った自覚はしつつも、恵一は言った。

「え? 脱走の手伝いしてくれるの?」

「あー、いや、それは無理なんですけども」

 そんなことしたら今度は恵一がお縄になってしまう。

 ケイトのこともあるので、そういうことになるのはまずい。

「まあ、やってみるだけよ。大体ね、命を大事になんて思って戦ってる奴ほど却って死ぬもんよ、父さんが言ってたわ」

「はあ」

 リーンの父の言うことにも一理ある。

「どうしても私を生かしたいなら、ケーイチが守ってよね」

「あ、うん」

 言われて、自分の役目を改めて認識する。

 そうだ。自分はリーンの護衛なのだから、彼女が死に向かって突進していっても、それを止めるなり、それをもたらすものを排除するなりできるのだ。

「そうか、うん」

 すっきりとした晴れ晴れした顔で、恵一は頷いた。

 自分がすべきことがはっきりして迷いが無くなった。

「作戦開始だそうです」

 そこへ、マルセスがやってきて告げた。

 いよいよか、と立ち上がりつつ、マルセスを見る。

 あー、そうかあ、こいつがいたかあ、的な少々の揺れが恵一の顔に出る。

「えっと、マルセスくん」

「うっす!」

 返事がいつも凄くよい。

「おれは、リーンを守らないといけないんだ。エルムントさんに頼まれたし、君のことも気にかけたいところなんだけど、ちょっとそこまでの余裕が無いかもしれない」

 と、恵一に言わせたのは、やはりエルムントから幾らか貰った――懐に入れたのはケイトだが――せいである。

 貰っちまった以上、気にかけたり便宜をはかってやったりなんか見逃してやったりするべきではないのか、貰っておいてほったらかしというのは人の道に外れるのではないか。

 そんな、最初に絶対に貰わない、と強く決断することができない小市民であり、貰った以上なんかしてやらないと、と思うとても人の道に外れない恵一のような人間に、無理にでも握らすのが効果的な所以である。

「あ、お気になさらず。おれは、おれで、なんとかやります!」

 返事はいいが、ガチガチに緊張しているのが丸分かりの強張り具合である。

「うーん」

 リーンを守る、という一点に目的を集約して迷いが無くなったというのに、新たな懸念事項が増えた。

 だが、優先順位でいえば、やはりリーンだ。

「君は、剣闘士デビューを控えてるんだから、無理しないでね」

 どんなに頼んでも、やはりどこかに死んでもいいやという気持ちのあるリーンよりも、彼の方を説得し無理しないようにさせる方がいいだろう。

「わかりました!」

「うん、わかってくれたか」

「おーい、行くわよ」

 リーンが声をかけてきた。そういえば、作戦開始なのである。

「もう一回作戦を確認するわよ、ほら」

 と、恵一のことを見てくる。説明せえというのだろう。

「作戦はこうです」

 それほど込み入った作戦ではない。

 ただ、相手を騙すために多少の演技をするぐらいだ。

 できうる限り、リーン一味が少数であるという誤認は長く持たせておきたい。

 今、敵は部隊をいくつか作ってそれを巡回させている。

 ある程度固まって動いているために、見張りを等間隔に散らした状態よりも死角は増えている。

 偵察により、パターンを分析したところ、間隙をぬってアジトの砦に到達することは十分に可能である。

 これは、あちらが罠を張っているのだ。

 そうやって隙を見せ、リーンたちがジェークを狙ってくるのを待っている。

 おそらくは、その時には各部隊が砦に馳せ戻る手筈になっているのだろう。

 ガルスの考案した作戦では、それに乗ってやる。

 乗って、敵が包囲を縮めたところで、さらにそれを外側から包囲する。

 それゆえに、やはりどうしても包囲下に突っ込むことになるリーンたちには危険が伴ってしまう。

「エルムントさん、いいんですか?」

 そもそも、マルセスを鍛えてやろうと参加したはずだ。それにしては、この作戦は彼らにとってリスクが大き過ぎるのではないか。

「うーん、まあ大丈夫でしょう」

「うっす、大丈夫です!」

 気迫だけは漲っているマルセスはともかく、エルムントはやや苦い表情ではある。彼はガルスに頼んで激戦区に回してもらった手前、今更他んとこにしてください、とは言えんのである。

「まあ、大丈夫よ!」

 リーンは相変わらず根拠皆無で断言してくれる。

「行くわよ」

 巡回する部隊の合間を縫って砦へと向かう。

 あまりに堂々としていては怪しまれるので、コソコソと必死に隠密行動をしているが、実際は見つかっても罠にかかったと見てスルーされるはずである。

 砦に来ると、ご丁寧にもジェークが椅子を表に出してそれに座って、なにやら指示を飛ばしている。

「リーン、いいね」

 黙っているリーンに、恵一は声をかける。

「ん、うん」

 ここに来て、仇を目前にして煮え切らぬ。

「どうしたの?」

 ひそひそと囁き声で尋ねる。

「んー、いや、なんでもない。行くわよ」

 なんでもない、と言われてもこの状況ではっきりしない要素があるのは非常に困る。

 しかし、リーンは進んでしまう。

 既に先導を務めた者はガルスの所へ戻っており、あまりモタモタとしてもいられない。リーンたちを見送った後に、ガルスたち本隊は距離をある程度詰めているはずだ。

 そのことを思い、恵一は強いてそのことを忘れてリーンに続いた。

 ジェークの周りにいる人数は少ない。伝令役らしいのが二人ぐらいだ。

 捕虜から聞き出した人数と部隊の人数等を照合すると、おそらく砦には十人ぐらいは残っているらしい。

 言うまでもなく、リーンを罠にかけようとしているので残りの人数は砦内に隠しているのだろう。

「ジェーク!」

 躍り出たリーンが叫んだ。

「おう、生きてたか」

 小馬鹿にしたようにジェークが言う。

「部隊を砦から離し過ぎたわね!」

 失敗したな! とでも言うように剣の切っ先をジェークに向ける。

「物好きを三人集めたようだが」

 と、ジェークは恵一たちを見る。

「一緒に逃げた奴がいないな」

 グールトは、彼自身の希望としてはこの襲撃部隊に加わりたかったのだが、彼のレベルでは本隊による大包囲の完成までに殺されてしまう可能性が高く、ガルスとリーンに諭されて断念している。

「愛想を尽かされたか」

 たっぷりと嘲笑を散りばめてジェークが言う。無論、挑発だ。

「うっさい!」

 リーンが叩き付けるように言うのに、彼は満足そうだ。

「ごちゃごちゃ言ってないで、私と勝負よ! あんたらは他の雑魚を!」

 と、そこで周りから人数が群がり立った。

「馬鹿が。引っ掛かったな」

 ジェークが言う。同じことを思いつつも、恵一はリーンの様子が少し気になった。

 作戦は上手く進んでいる。

 だが、リーンの視線がさっきから一つ所へと向いているように思える。

「まずい。とりあえず逃げよう。すぐにもっと大勢来るぞ」

 思いながらも、とにかく決められた演技をする。罠にかかったことに狼狽して一旦退却しようとするのは自然だ。

 ガルスが不安視しているのは、砦の内部からどこかへ通じる抜け道の存在と、ジェークという男が過敏なほどに警戒心が強く、何かがおかしいと思えば、すぐにそこから逃げようとしてしまうのではないか、ということだ。

 他はともかく、お頭のジェークだけは生け捕り、最悪でも殺してしまう必要がある。

 例え一瞬とはいえ、ジェークが自分こそが罠にかける者であるという認識を揺るぎなく持っている状態を長引かせたいというのがガルスの考えだ。

「待ちな!」

 ジェークが今にもリーンたちが逃げに移ると見てか、叫んだ。

 手には、一振りの見事な剣を持っている。

 それを、台に置いた。

 台は左右に突起してそれの片方へ柄を、もう片方へ切っ先の部分を乗せた。そのために剣身の中央部分が宙に浮いた状態になっている。

 てっきり、ジェークの愛用しているものなのかと思ったら、そんなものに乗せてさらにはおもむろに柄が背丈ほどもある大鉄槌を取り出してきたので、なんのつもりかと恵一は訝った。

 大鉄槌を振り上げる。下には、剣がある。

 あの剣に、大鉄槌を食らわしてやろうとしているのだろうというのは分かる。遠目にも見事な剣だが、あの状態であれを振り下ろされては折れるか、折れずとも曲がるぐらいはするだろう。

「待て!」

 リーンが叫んだ。恵一たちは、何が何だかわからない。

「リーン、どうしたんだ!?」

 たまらずに、恵一はリーンに叫ぶ。

「父さんの剣よ!」

「へ?」

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