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悪い子じゃねえんです

 どうなるか見届けるためにリーンと、そしていざという時の護衛にと恵一が残された。

 なんでまた自分なのかと思ったが、そこはガルスはレベル10の恵一に信頼を置いているのである。そんなもん置かれても困ると相変わらず恵一は思う。

 だが、まあ万が一のことがあっても、リーンも盗賊の雑魚クラスなら問題にならないぐらいには強いから護衛といってもそうそう過重な負担ということはあるまい。

「ねえねえ、あんた、何者なの?」

 退屈しのぎに、リーンは恵一のことを聞いてくる。自分のことを散々喋ったのだからそっちも喋れという態度である。

「いやぁ、実は記憶喪失なんだ」

 もう、こっちの世界の人間相手にはこれで押し通す。

 記憶喪失という嘘こそついたが、それ以外については王都近くの草原で目覚めて少女を助けるために立ち回りをし、警備隊に捕まり、王都で釈放されたものの金も何も持っておらずに行き倒れるところをケイトと出会い……といった具合にこれまであったことをそのまま話した。

 駄目元で、魔王とか、魔王に備えよと唱える団体とかについて、何か知っていることが無いかと尋ねたが、魔王ってのはお話の中のアレだろうというケイトと大差の無い反応であった。

 で、話していて気付いたのは、まあやはり悪い子ではないのだなと確認できたのと同時に、物心ついた頃から盗賊暮らしだっただけに知識の偏り、感覚の異常性のようなものがあるのは否めない。

 こちらの世界に来て色々と経験して恵一が得た、主に王都などの都市部での生活のことや貴族や王に関わることなどを彼女はよく知らないのだ。

 そして、所詮盗賊というべきか、対価無く他者の物を我が物にする行為――つまり「盗み」に対してそれを悪いことだと思う感覚が欠落している。

 そんな感覚あったら盗賊なんぞやっておれんので当然ではある。

 父親には散々自分たちは悪いことをしているのだと教えられていたようなのだが、日常的にやっていたことなので、どうしても心底そう思っていない節がある。

 どこが悪い子ではないのだ、という話だが、でも話している限りではどうしてもこの少女から「悪」であるという印象を受けにくいのも事実である。

 話を聞くと、取るもんがろくに無い者はそのまま見逃したりしつつ、これはこのまんま飢え死にするんではないか、という者には幾許かのゴールドや食べ物を上げたりもしていたらしい。

 まあ、その元手は盗んだ物であり、盗賊には変わらぬが、義賊的行為と言ってもよい。

 ただ、リーンは、かわいそうだと思ったので、かわいそうではない連中から奪った物から少し分けてやったというだけで、義賊であるとかそういう意識は無い。

 基本的に、凄い素直な子なのだ。

 実は……恵一にはリーンの知らない、ガルスに耳打ちされた任務がある。

 彼女が、逃亡しようとしたらとっ捕まえる、という任務だ。

 討伐隊への協力による刑罰の軽減ということに、彼女自身は大して魅力を感じてはいない。

 そもそも、断頭台の露と消えることを望んでいたようなところすらあるのだ。

 今回協力しているのは、あくまでも父の仇討ちのためである。

 だが、むしろそのような、彼女にとっては重い理由がある以上、その作戦の途上でグールトを置いて逃げることは考えにくかったが、ガルスはそこは年輪を重ねているだけに、人間魔がさすってのがあるんだよ、とのことである。

 だから、一応警戒はしているのだが、一緒にいればいるほどそういう必要を感じなくなってくる。

 まず、リーンの方が全く恵一に対して警戒どころか隔意が無い。

 とっ捕まって協力している盗賊と、とっ捕まえて協力させている討伐隊である。

 利害の一致があり、協力が嫌々ではないとはいえ、ごく普通に仲間のような扱いをするのだ。

 もう、これは動機は違えど同じ目的を有して協力関係にある恵一のことを、普通に仲間と思っているとしか考えられないのだ。

 それらのことが、恵一に、この盗みを働くのに全く罪悪感が無い悪い子を、いや悪い子ではないのだ、と思わせていた。

 結局は、生まれ育った環境がそうだったからと言うしかない。

 盗賊の娘として生まれ、盗賊暮らしをしていれば当然のことながら生業である「盗み」に対して罪悪感を持つような感覚は育たないだろう。

 しかし、彼女の根本的な性格は、決して盗賊をやらねば生きていけないというような破滅的なものではない。

 リーンは、盗賊を止めてまっとうに生きていけるのではないかと恵一は思った。

「リーンは、今回のこと、お父さんの仇討ちが終わったらどうするつもりなの?」

 だから、そう尋ねてみたのだが、そんなことは全く考えていなかったらしく、リーンは何を聞かれたかわからない、というような顔をした。

「え、なに?」

 少し考えても意味がわかりかねたのか、反問してきたので、もう一度ゆっくりと丁寧に言った。

「あー、そんなこと考えてなかったわ。……どうせもう死んだと決めてたから」

 圧倒的多数のジェークの一味(実際は討伐隊だったが)に囲まれた時と、討伐隊ということが判明し、それならば断頭台かと覚悟した時と、この短時間にリーンは二回も死を悟ってそれを受け容れるということをしている。

 そのまま、成り行きで父の仇討ちという何にもまして優先されるべき目的へと突き進んでしまっているために、そのようなことを考える精神的なゆとりが――いや、そもそも考えようという発想自体が無かったのだ。

「まあ、あんたら、国に突き出すんでしょ」

「ああ、それは、まあ」

 正直、恵一の一存でなんとかなるなら、突き出すのは止めたいという気分にまで傾いているのだが、ギルドから討伐隊のリーダーに選ばれたガルスが許すまい。

「別に、一度……いや二度死んだつもりなんだから、どんな罰だって受けてやるわよ。……すっぱり殺してくれた方がいいんだけどね」

 苦笑して、リーンは何か思いついたようだ。

「どんな罰かわかんないけど、殺されないならどっかに収監されるんでしょ? だったら脱走してまた盗賊やりゃいいじゃない」

 その考えが、彼女の心にすとんと落ちたようで、凄く晴れ晴れとした顔になった。

 結局のところ、リーンは盗賊しかやったことが無いのだから、そういう結論に行き着くのは当然といえば当然である。

「私に盗賊以外のことができるわけないし」

「うーん、そうかなあ」

 恵一としては、たまたま盗賊に生まれて盗賊として育っただけで、リーンにはそれ以外の可能性があるのではないか、ということが言いたいのだが、あまり口が達者ではないので上手いこと言えない。

「まあまあ、心配しないでも、父さんの仇討ちしたらあんたらの顔立てて一回捕まってやるわよ。その後で脱走するなら、あんたたちの責任にはならないでしょ」

 と、その一言で、やっぱり彼女が恵一たちを仲間みたいに思っていることがわかる。恵一たちが責任を問われるようなことにならないようにと自然に考えているのだ。

 恵一は、そういう性格を知れば知るほど、なんとか足を洗ってまっとうに生きて欲しいと思うのだが、当人が盗賊以外に自分には無いと確信しているので如何ともし難い。

 それと、やはり感じるのは、こうなった以上、父の仇討ちをやり遂げたらどうなってもいいという以後の人生を捨てたような境地に達してるということだ。

 危なっかしい、と思う。

 色々とあって、彼女に好意を感じてしまっているので命を粗末にするような行動は慎んで欲しいのだが、即座に死を覚悟できる人間がそうと決めた以上、ただでさえ口下手な恵一に説得によってその意を翻させることは不可能である。

 恵一のそんな気持ちは知ったこっちゃねえとばかりに、当面の目的を達した後にやることも決まってリーンはにこやかである。

 そうして笑っていると、彼女に抱いた第一印象である盗賊とか、ましてやそのお頭とかいうものには到底見えない思えない、普通の無邪気な少女であった。

 で、その無邪気さを見ていると想起されることがある。

 聞きたいと思いつつも躊躇っていたのだが、こうして一対一で話してやや打ち解けた今ならば聞けると思った。

「さっき、盗賊の男を刺し殺したけど、リーンは、人殺したこととかあるの?」

 あまりにもあっさりと殺すものだから、どうしても「殺し慣れている」ように見えてしまったのだが、彼女が父の教えに忠実であったならば、そんなに人は殺してはいないはずなのだ。

「ん? 人殺すのはあれが初めてだけど」

「え、そうなんだ」

 それにしては、なんとも鮮やかに後腐れなく殺ってしまったものだ。そのことに衝撃を受けたり心に重荷を抱えたような様子は今に至るも微塵も見えない。

「それがどうしたの?」

 リーンは恵一の持っている疑問を疑問と思っていないらしく、質問の意図をまったく理解できないようだ。

「いや、はじめて人を殺す時って、もっと緊張したり、殺した後も気が重くなったりするのかな、って思ってたからさ」

「あんただって、男爵のお嬢さん助ける時に何人か殺ったんじゃないの?」

「ああ、いや、あれは……」

 未だに実感が無いというのが本当のところである。

 夢だと思い込んでいたこともあり、いたいけな少女を追いかけている人相の悪い連中など「敵キャラ」のように思い、当たり前のように斬り払ってしまった。

「まあ、私は父さんが殺るのをけっこう見てたからね」

 そういえば、話によれば数ある属性の中でも「奴隷商人」というのはリーンの父であるバーンズの怒りに触れるものだったらしく、相手がそれとわかった場合は殺していたということだった。

 リーンは自ら手を下さずとも、その行為自体は幾度となく、それもおそらくは幼い頃から見てきたのだろう。

 父に心酔する彼女は、相手が悪人と確信したら躊躇わずに人を殺せる下地ができていたのかもしれない。

「あんたは、どうなのよ? そんなすぐにバンバン殺れるってことは、記憶を失う前は殺しまくってたんじゃないの?」

「いや、そんなことは」

 無いと断言しようとして、そうしたら記憶喪失なのになんで断言できるのだと反論されると思い、言葉を切った。

「けっこう名のある戦士だったんじゃない?」

「そ、そうかな」

「私に勝ったんだから、そうよ。私、けっこう強いのよ」

 勝ち負け、という意識は無かったが、先程の攻防はリーンにとっては「負けた」という認識らしい。はっきりと決着がついたわけではないが、懐に入られ、得物を奪われ、さらには腕を掴まれた時の力の差などから、リーンは素直に恵一の強さを認めているようだ。

「あれよ、レベルはいくつよ?」

「ああ、レベルは10だよ」

「……10って、強いの?」

 自分から話振っておいて、ようわからんらしい。

 レベル鑑定は、生物の状態を調べるサーチという魔法の応用である。恵一はギルドで鑑定してもらったが、サーチの魔法が使える人間ならば鑑定はできる。

 しかし、それにもある程度のレベルが必要であり、それほどのレベルの魔術師が盗賊に身を持ち崩すことはあまり無いのであろう。

 きっと盗賊の間では、レベルというのが尺度としてあまり使われていないのだ。

 それゆえに、リーンは、レベルという強さの尺度というべき数値があることは知っていても、10というのが強いのか弱いのかいまいちわからないのだ。

「えーっと、おれは十七歳なんだけど、けっこうその歳で10は凄い、って言われるね」

「ふーん、そうだ。あのリーダーのおっさん、あれ、ほら」

「えっと、ガルスさん?」

「そうそう、ガルスさん。あのおっさん、私の見立てだとけっこうやるんだけど、あのおっさんはどんぐらい?」

「ガルスさんは、確か14って言ってたね」

「へえ」

 リーンは、感嘆した。

 ガルスが14ならば、10というのはけっこう強いのだなとようやく実感したのだ。

「私はどんぐらい? ねえねえ」

 次なる興味は自分の強さである。輝く目を向けながら尋ねてくる。

「いや、おれは鑑定士じゃないからわからないけど……」

「実際、ちょっとやり合ったじゃない。その感じでさ」

 と、言われても、レベル10というのは降ってわいたようなものであり、いくら直接戦闘……らしきものを交えたと言っても、相手のレベルを見積もれるような技能は無い。

「ああ、ゲオルグさん……って、最初におれと馬車に乗ってた人だけど」

「ああ、あの人」

「うん、ゲオルグさんは、リーンが剣を振ったのを見て、4か5じゃないかって言ってたよ」

 自分ではわからぬので、ゲオルグの見立てを言ってみた。

「えー、あんたの半分ぐらいなのお?」

 リーンはすこぶる不満らしい。

「いや、あんたが10なら、私は9はあるでしょ」

 負けを認めたと言っても強さ的には僅差であると彼女は思っていたのだろう。

「その、ゲオルグってのは、どんぐらいよ」

 ゲオルグとはほとんど接触していないが、気に食わぬ数値を弾き出したことで好感度がぐんと下がったらしく、ぞんざいな感じで言った。

「えっと、ゲオルグさんは、レベル8」

「8ぃ? なに、8なの、あれ」

「う、うん」

「ホント? そんなふうには見えないわよ。なんつうか、オーラが無いわよ、オーラが」

「あー、いや、まあ、ちょっとブランクがあるっていうか……でも、木の棒で手合わせしたけど、けっこう強いよ」

「ふぅーん、まあ、あんたが言うならそうなのかもね」

 不承不承、リーンは納得したようなしてないような感じであるが、

「でもさ、剣を振るの見ただけでわからんでしょ。大体、あれは脅しでやったからね、ぜんっぜん本気出してないし」

 自分のレベル鑑定には全く納得していない。

「やっぱりそこはほら、実際にやり合ったあんたの意見はどう?」

 両肩をがっしと掴んで、真剣な眼差しである。

「あんたが10なら、私は9はあるでしょ、ね」

「う、うん、そうだねえ、9ぐらいはあるかもしれないね」

 とりあえず、この場を丸く収めるにはそう言うしかあるまい。

「……嘘ね」

「え?」

「あんた、私に言わされてる感じするわ」

 まったくもってその通りであるが、その言わしてる当人にそんなこと言われても困る。

「もう、これはきちんと鑑定してもらうしかないわね。……収監前に鑑定ってしてもらえんのかしら?」

「あー、どうだろ……」

 と、言いつつありえない話ではないなと思う。

 収監するということは、その能力を上回る力――例えば、それなりのレベルの者を監視に当てるとか、その腕力では破壊できない強度の牢を用意するとかが必要なはずだ。

 それならば、収監前にそれを知るためにレベル鑑定されることは十分にありうる、っていうかやらんといかんだろう。レベル1の人間を逃がさぬためにレベル10の人間を何人も監視につけたら無駄もいいとこだ。

 そのことを話すと、リーンも納得してくれた。

「よし、それじゃ収監前に鑑定はしてもらえるのね」

 してもらえる、というか嫌だと言っても無理矢理やられるはずである。

「んー」

 と、リーンが両手を絡めて突きあげて伸びをする。

「じゃ、私、ゴロゴロしてるから、あんたちょっと見ててよ」

 リーンは地べたに寝転がった。

 なんていうか、この辺りはお嬢さんである。

 自身がそれなりの強さの上にお頭の娘ということでチヤホヤされる人生だったのであろう、ごく自然に誰かになんかやらせるのが当たり前みたいな感じである。

 まあ、いきなりこんなんされたら多少は反発を覚えるであろうが、恵一はリーンが一瞬で死を決して率先して進み、居合わせた恵一たちに逃げろと言ったのを見ている。

 彼女が決して口だけの人間ではないことはわかっている。

 だからといって、別に恵一がリーンの部下になったわけではないのだが、恵一もこういう時は素直に言うこと聞いてしまうタチなので、言われるがままに木の根元に転がした男の死体へと視線を向けた。

 しばらく待っていると、一人の男が現れた。

「おい、時間だ」

 と、言ったところからして、見張りの交代に来たのだろう。

「おい、交代だぞ。どこ行った」

 姿が見えぬので、段々と声が大きくなってくる。

「どっかで寝てんのか! お頭たちに知れたらタダじゃすま」

 不自然に、言葉が切れた。

 死体になって転がっている男を発見したのだ。

「どうした!? なにがあった!」

 最初は、すぐに死んでいるとはわからなかったようで、そう叫びながら近付いていく。

「おい……」

 肩をゆすり、その辺りで、手に触れた物体が既に生を持たぬものであると悟った。

 男は取り乱しつつも、冷静さをたもって死体を改めた。

 少し調べれば、胸の刺し傷が死因らしきことにはすぐに気付く。

 すなわち、自然死ではなく、何者かに殺されたということだ。

 そこで、死体から目を離して周囲を見回せば、すぐにまた目を引くものがあり、目はそちらに行き、そしてそれをしばし凝視してから、

「……大変だ」

 事態を理解して、呟いた。

 以前に、他の盗賊団の頭を殺して団員を吸収したことがあったが、取り逃がしたその娘が復讐にやってきた。

 実を言うと、男は彼らのお頭や幹部の言う、二人ではなにもできまいというのに同調していて、自分たちが復讐の標的たるべき資格を有してしまっていることを自覚はしつつもどうとも思っていなかったのだが、こうして見張りに出ていた者が実際に死体になっていると悪寒を押さえ切れぬ。

 この復讐劇の第一幕が上がる時間が少しズレていたら、死んでいたのは自分だったのかもしれないのだ。

 お頭たちと一緒に笑っていた自分が愚かだったということを、嫌でも実感せざるを得ない。いくら二人きりと言えど、娘はそこそこ腕が立ち、こうやって一人で見張りをしているところを襲えば殺せるのだ。

 アジトの奥にいるお頭と幹部どもと自分は立場が違うのだ。あいつらが笑っていられるのは、まず殺されるのは、こういった文字通り末端にいる下っ端だからだ。

 だが、とにかく、その不幸な第一の犠牲者に自分がならなかったことを喜びつつ、やるべきことをやらねばならぬ。

 男は小走りで移動し、とある木のところまで来ると、上方からつり下がっている縄を掴み、それを思い切り揺さぶるように振った。

 遠くの方から、鐘が鳴るような金属音が聞こえてくる。

 あの縄を引けば、その先で音が鳴り、異変を知らせる仕掛けになっているようだ。

 それを見届けて、本隊のところに戻ろうとした恵一たちだが、その前にあのメッセージだけではまだ半信半疑かもしれぬとリーンが言い出した。

「じゃあ、どうするの?」

「名乗りを上げてくわ」

 リーンは嬉しそうに笑うと、男へ向けて声をかけた。

「おい、このゴミども! こんなもん序の口だからね! 首ぃ洗って待ってなさい!」

 男はあからさまにうろたえて、声のした方を見る。

 木々の間から、睨みつけるリーンの姿を認めると、男は腰の剣に手をやりながら後ずさった。

「早く来てくれ! 敵襲だ!」

 堪らず、男は大声で叫んだ。

「よし、退くわよ」

 リーンに促されて、本隊の方へと戻った。

 ガルスへ事の一部始終を伝える。

「うむ、顔見せもしてきたのか。それなら、印象に残っているだろうな」

 リーンが存在を誇示してきたのは、言うまでもなく、それによって敵のお頭であるジェークを釣るためであるが、そうそう自ら出張っては来ないだろう。

 だが、リーンが相手であることを確信して、安心もしているはずだ。

 リーンとグールトの二人だけ……たとえ増えていたとしても、そんなに増えてはいまいと思うのが自然だ。

 なにしろ、リーンの父の仇討ちなど彼女の個人的な問題だ。父に恩を感じているグールトはともかくとして、そんなものに付き合う酔狂な人間がそうそういるとも思えまい。

 金で雇うにしても、リーンもグールトもほとんど何も持たずに逃げ出したのだ。ろくにゴールドは持っていなかったし、彼女が父の教え通りにまどろっこしいやり方をしている限り、そうすぐに大金を手にしているとも思えないだろう。

「おーぅ、警戒してたけどさ、どうも追ってこないみたいだぜ」

 ケイトがやってきて言った。彼女やアンと他数人はガルスに言われて、リーンを追いかけてくる者がいたらとっ捕まえろと言われていたのだ。

「まあ、ビビりまくってたしね、あの後、何人か集まったところで追ってくる気にはならなかったのかもね」

 リーンの名乗りが、挑発としては少々あからさま過ぎたので罠の可能性を警戒されたということもあるだろう。

「で、この後どうすんの?」

「少し様子を見たいな。どう出てくるか」

 ガルスは、偵察を放って動向を探りつつ、相手が見張りの形をどのように変えるか、或いは変えぬのかを見極めたかった。

 当然、警戒はより厳重になるはずだが、人数に限りがある以上、見張りの数を増やすにも限度がある。

 いつまでも砦にいては盗賊の仕事もできぬわけだし、リーンにそのような状況に追い込まれてこもり切りでは面子が潰れて統率上の問題も出て来る。

 そうなれば、なんらかのアクションを起こすはずで、そこで、あくまでも敵は自分たちよりも遥かに少ない人数のリーン一味であることを前提に動く奴らのどこかに隙が生じるに違いなく、ガルスはそこを衝くつもりなのだ。

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