違うのが釣れた
馬車の車輪を二人で覗き込む。
いかにも、なんか馬車の調子が悪いので仕方なく降りて様子を見ているといった感じである。
むろん、演技である。
荷馬車など、盗賊の襲撃を受ければ、最初から両手を上げてなんでも持ってけと全面降伏に出ない限りは、前方を塞がれても全速力で突破をはかるものだ。
笛などの、音を出すものを積んでいて、それをやかましく鳴らしながら走る。その内に街道を巡回中の警備隊が発見してくれる。
盗賊もそれがわかっているから、馬車などは慎重に狙う。
慎重さを失わしめるには、徒歩の方がよいということになるが、徒歩では運搬している物の量がたかが知れているので、エサとしての効果が無くなる。
結局、ガルスが考案したのはいかにもなにかいいものを運んでますといった馬車で、所々でトラブルを装って停車して賊を誘う方法であった。
停車するポイントも打ち合わせ済みで、いずれも過去に盗賊の襲撃が実際にあった場所を選んでいる。
しばらく修理をする素振りをしていたゲオルグが頷いた。
いかにも修理が終わったという頷きだが、実際のところは首を横に振りたかったであろう。
つまり、獲物がかかりそうにないということだ。
また、馬車に乗り、揺られる。
ガルスは自信満々だったが、これで盗賊団が休日をとっていて無駄足になったらアホみたいだなと思いつつ、恵一は尻への振動に耐えていた。
二番目のポイントで、またもや馬車を降りトラブルの演技をする。
ゲオルグは馬車の下に潜って、修理のフリをしている。
恵一も、なにかしないといけないなと思ったので、さもこんなところで立ち往生してしまって困ったな、盗賊に襲われたりしたらどうしよう、というような弱々しい顔をして周囲を見回す。
こちらから目視はできぬが、どこからか討伐隊の偵察が恵一たちを見ているはずである。
討伐隊の本隊はやや離れたところを追随しているはずだ。
やや離れた、と言ったがけっこう離れた、と言ってもいいかもしれぬ。盗賊も馬鹿ではないし彼らにも彼らなりの培った経験がある。
討伐の際の囮作戦などは、よく知られた作戦なのだ。
だから、襲撃する際には、ターゲットそのものだけではなくその周囲もかなりの範囲にわたって偵察することがある。
それを見越して、こちらも距離を置いたところに本隊がいるわけだ。
当然、いざ襲撃あらば、駆け付けてくるのだが、遠いところにいるだけ時間がかかる。
それゆえに、囮はけっこう長い時間、相手を引き付けつつ持ち堪えねばならぬわけで危険も多いのだ。
実際、作戦が失敗してしまい本隊が駆け付けた頃には囮役の死体が転がっているだけだった、という例もある。
「はぁ……」
そんなわけで、ゲオルグは憂欝そうなのである。
三番目のポイントに差し掛かり、そろそろ襲撃があるのではないか、ていうかいい加減に飽きてきたんでさっさと襲撃して欲しいと思い始めたその時であった。
ガサガサと道の脇の草むらが震えたかと思うと、草を掻き分けて人影が飛び出した。
「抵抗するな。おとなしくしていれば命までは取らん」
抜き身の剣の切っ先を突き付けて高らかに、甲高い声が響く。
その現れ方といい、言動の内容といい、盗賊に違いない。
一瞬、恵一とゲオルグの間に、緊張感を伴いつつも、かかった! という作戦成功を喜ぶ感情が通った。
だが、緊張も歓喜も、すぐに去った。
「……うーん」
「あの、これって……」
あからさまに困惑した顔を見合って、言葉を交わす。
「積荷はなんだ」
と、剣を向けたまま言った、おそらくたぶん盗賊が、どう見てもただの女の子だったからだ。
いや、まあ女盗賊というのも世の中いるだろう。
女ながらに腕が立ち、その腕っ節と女の魅力で荒くれどもを虜にしているような女の頭だっているかもしれない。
しかし、そういう大層なもんにしては、その女の子には一目見て、これはただの女ではない、と思わせるようなものが無かった。
まあ、はっきりと言ってしまえば、全く迫力が無かった。
辛うじてそれっぽいのは、右の頬全体――目尻のすぐ下の辺りから顎にまで走った傷跡ぐらいである。
それとても、やはり顔立ち自体が可愛らしい少女のそれなので、迫力というよりも痛々しさの演出に一役買っている有様である。
「おい! 積荷はなんだと聞いている!」
積荷は、一応それらしい箱を幾つか積んでいる。いかにもゴールドとかたんまり入ってまっせえ、という感じだが重しの石しか入っていない。
「いや、これはアレだな」
「うーん、子供が遊んでるんでしょうか」
「それにしては、剣が見事すぎるな、子供が遊びに使うもんじゃないぞ」
ゲオルグに言われて改めて目をやれば、なるほど少女の持つ剣はそういう知識の無い恵一でも安物ではないなと思う輝きを帯びている。少なくとも、恵一が持っている剣よりはよいものに見える。
「しかし……まあ、もし仮にそうだとしても……こりゃ目当てのとは違うのがかかっちまったみたいだぞ」
と、ゲオルグが周囲を見回す。
目的の極悪盗賊団の人数は約二十だ。それならば、今頃はそこかしこの草むらから賊どもが立ち上がっているはずなのに、いるのは剣を持っている少女と、馬車の後ろに現れた男だけなのである。
「二人って……」
「盗賊……団じゃないですね、とりあえず」
ボソボソと話していて自分のことを無視されたと思った――実際そのつもりはないがごくごく自然に無視はしていた――少女は、いきり立って剣を振った。
「聞いているのか! お前ら!」
剣は、恵一たちの眼前の空間を切った。
「へえ」
「ほお」
少女の見てくれは、まあせいぜい十五かそこいらだろう。とても強そうには見えないので完全に侮っていたが、その一振りは、二人に感嘆の声を上げさせるに十分であった。
意外に、そこそこ腕は立つ。
「レベル4か5ってとこかな……」
ゲオルグが呟いた。まあ、それでも自分たちより高レベルということはなさそうなので、声には余裕がある。
「積荷はなんだ!」
「えーっと」
激昂する少女に、反射的に答えて上げようとした恵一だったが、ダミーの箱しか乗せていないのである。
「積荷はなんだとお頭がお尋ねだ。答えろ」
後ろから、声がした。
この二人組の男の方だ。
なんかいまいちどういう二人組なのか把握しかねていたが、これでわかった。この少女がお頭で、この男はその部下らしい。
改めて男を見てみると、歳は二十を超えているぐらいであろうか。背は高く、肩幅は広く、なかなか屈強そうだが、顔立ちは朴訥そうで鈍重そうで、農夫と言われればなるほどそうだろうなと思える。
つまりは、少女とは違う意味で、こいつもまたとても盗賊などには見えない。
「あー、えっと、つまり、アレですか。あなたたちは盗賊というわけですか?」
なんかもう、どうしてもようわからんので本人たちに聞いてみることにした。
「そうだ」
と、男ははっきりと言った。
うん、と少女も頷く。
「ほ、本当に?」
「本当に我々は盗賊だ」
「そ、そうですか」
こうまで自分で言い切るのだから、その前の行動と合わせて、盗賊なのだろう。
「積荷はなんだ」
「そうよ、積荷はなによ」
「ええーっと、それはですね」
どう答えたものか窮して、恵一はゲオルグを見たが彼にも妙案はありそうにない。
「あ、箱がある!」
いつまでも答えが無いのに待ち切れなくなったらしい少女が、自ら馬車を改めて、箱を見つけた。
「わ、重い! これは凄いたくさんあるわね! 五万ゴールドはくだらんわね」
勝手に中身をゴールドと決め付けて、花咲くような笑顔で言った。
「まあ、全部取ったらあんたらも大変だろうから、一つだけ貰ってくわよ。なぁに、命さえあったらどうとでもなるもんよ! なんだったらうちの団に入る?」
少女は男に箱を一つ持ち出すように命じると、ひらりと馬車から飛び降りた。
「あ、そうそう。この辺りに悪い盗賊団が出没するから気をつけなさいよ」
思い出したように忠告してくれる。盗賊団は程度の差こそあれ悪いだろうと思うのだが、どうもこの無邪気な笑顔からして、自分たちは悪くない盗賊団であるとか真剣に思っていそうな感じがある。
「もう、身ぐるみ剥ぐのは当たり前で人は売り飛ばすし、売り物にならないのはなぶり殺すしでひどいもんよ。あいつらいつかやってやるわよ、見てなさいよ」
「は、はあ……」
悪くない盗賊団のお頭の少女は、その悪い盗賊団に随分と憤っているようである。
しかし、おそらくこの辺りに出没する盗賊団というのこそが、恵一たち討伐隊の目当てのそれなのであろうが、人数は二十人はいるらしい。
この二人の盗賊団にどうこうできるとも思えないが、それでもいつかはやってやるのだと少女は決意しているようだ。
「お頭」
男が箱を一つ肩に担いで、少女に声をかけた。
「よし、ずらかるわよ!」
箱の中身を改めようともしないで石の入った箱を持っていこうとする二人に、恵一とゲオルグは一抹の憐れみのこもった視線を投げかける。
「あ、そうだ。なんか停まってやってたけど、なに、馬車の調子がよくないの?」
「え、あ、はい」
「大丈夫なの? さっきも言ったけどこの辺りには悪い盗賊団が出るのよ。そんなんで逃げられるの?」
少女は、別に頼んでもいないのに、馬車の下に潜って車軸などを見始めた。
「んー、とりあえず応急処置はできてるのかしらね。これならまあ、大丈夫か」
実際は故障もなにもしていないので、修理ができているように見えるのだろう。
「それじゃ、私たちはずらかるわ」
「は、はあ……」
と――
そこで、喚声が四方から上がり、草むらから人影が立ち上がり林立した。
一瞬だけ、今度こそ目当ての盗賊団が現れたのか、と思ったが、次の瞬間には正体に思い当った。
「うおおおお、一人も逃がすなあ!」
この野太くよく通る声は、ガルスだ。
この二人だけの盗賊団に襲撃を受けて、けっこう時間が経っている。様子を見ていた偵察が、剣を突き付けているのを見てすぐさま走ったのだろう。
討伐隊本隊が到着したのだ。
「うきゃ!」
と、ちょっと面白い声を張り上げた少女が、しかしすぐさま面上に緊張感と絶望感とそして僅かばかりの昂揚感を浮かべて笑った。
「お頭!」
男が、苦り切った顔で叫ぶ。完全に包囲されており、逃げ道が見つからぬことに絶望していた。
「どうやら私らはここでおしまいのようね。一人でも多く道連れにするのよ」
むしろ、朗らかに笑った少女は、抜剣して前進し、男もそれに従った。
「あんたらもぼうっとしてんじゃないわよ!」
と、少女が言う「あんたら」というのは、どうやら恵一たちのことらしい。
「私らみたいに甘くないわよ。捕まったら間違いなく殺されるわよ」
「え、あ、いや、あれは」
「私らは、もうここが死に場所と決めた。暴れるだけ暴れるから、隙を見て馬車で突破しなさい。運がよければ逃げられるかも」
彼女の主たる目的は、死に場所と定めたここで戦って死ぬことなのであろうが、その視界の端っこに恵一たちの姿を認めて、それへ活路を見出すべく忠告を与えた。
それを晴れ晴れとした笑顔で言ってのけているのだから、ただの女の子ではない。この時、はじめて恵一はこの少女が「お頭」という人の上に立つ者に見えた。
背を向けると、恵一たちの存在を忘れたかのような足取りで前進した。
「ジェーク!」
進みながら、叫んだ。
「ジェーク! 出てきなさい! 私と一対一で勝負よ!」
はじめは何かと思ったが、どうやらそれが人名らしいことがわかった。
「どうせ出てきやしないでしょうけど、出てきなさいよ!」
剣を振る。
群がり立って向かってきた討伐隊の連中は、その一振りを見て距離を取った。
討伐隊は、数こそ四十人と多いがレベルが高くない者も多い。
少女の剣を見て、これは自分には手に余ると思うぐらいのレベルの者がたまたまこちらに集中していたようだ。
これは、自分が行くべきなのか、と恵一は感じつつ、行けるものではないと思った。
もののついでみたいな扱いではあったが、あの子は間違いなく自分たちを助けようとしており、あの瞬間に、いわば恩を受けたに近い感覚を恵一は持ってしまっている。
だが、忙しく頭を回転させつつ、行くしかないと決断した。
殺すためではなく、そうさせないためにだ。
余裕を持って生け捕りが行えないと判断した者が、止む無しと本気で倒す気で打ってかかる恐れがあり、それならば、おそらくはレベルがある程度上回っている自分が、できるだけ傷付けぬように相手をするべきだと思ったのだ。
「死ねやあ!」
しかし、少女は既に先に突き進んでおり、しかも完全に殺す気で剣を振っている。
少女の体を心配していたが、逆の心配をするべきだろう。
どうも、これまでの態度からして彼女たちはあんまり悪い盗賊団ではない。ランクは相当に低く見積もられるだろう。
それならば、とっ捕まってお裁きを受けるとしても、それほどの罪にはなるまいが、ギルドに募集された討伐隊の参加者を傷付け、殺してしまえばそのこと自体が大きな罪になってしまう。
「待ってください! おれが相手します!」
叫びながら追いついた。
「は? なに言ってんのよ、あんたらは隙見て逃げなさいって言ったでしょ!」
自分に加勢するつもりと勘違いした少女が、叫ぶ。
「え?」
すぐに、きょとんとした顔になった。
無理もあるまい、恵一の声を聞いた「悪い盗賊団」の連中がさらに距離を取り、そして当の恵一が抜き身の剣を構えつつ彼女の前に立ったのだから。
「あ、あんた……」
「あー、その」
「あんたもこいつらの仲間かあ!」
「いや、仲間は仲間なんですが」
そもそも、我々は極悪盗賊団などではなく、それを討伐しに来た者でして――とか言う前に少女の剣が迫ってきた。
それを下がってかわして、どうしたものかと思った時に世界の感じが変わった。
ああ、アレだ。
少女は斬り下げた剣をすぐに返して次なる攻撃を送り込もうとしている。
となると、先の攻撃は牽制か、或いはかわされるのを想定しての攻撃で、本命はこっちだ。
こっちが殺す気の攻撃だ。
見える。ゆっくりとした動き。
こんなゆっくりとした攻撃を食らうわけはないが、ではどうするのかと思い、迷った。
組み付いて押さえ込むべきなのだが、その方法がいまいちわからない。
極悪盗賊団と戦うことを想定していたので、そんな穏当に押さえ込む方法など全く考えていないし習ってもいなかった。
手加減を誤って殺してしまったらしょうがないし、相手を無力化するにしても命に別条の無さそうなとこをスパッと切るぐらいは問題無いはずだったのだ。
だが、恵一はこの少女を傷付けたくはない。
軽い傷ならいいのではないかと思わないこともないが、少女の気迫が凄く、軽傷なんぞで戦意を喪失してくれそうにない。
迷っている時間があるぐらいに、世界の動きがゆっくりになってはいるが、無限ではない。
考えている間にも、少女の剣は近付いてきており、とりあえず距離を取ってかわしてこの攻撃はやり過ごすか、と思った時にそれに気付いた。
少女に焦点が合っていて視界に入ってはいたが気付けずにいた。
「アン!」
アンが、少女の背後から弓を引き、矢を放っていた。
それとても目視できるぐらいに遅くなってはいるのだが、もうけっこう近くまで迫っており、もたもたしていると矢が少女の背中に当たる。
いかにそれほど大柄ではない少女とはいえ、小さな矢にそれほどのダメージは受けないだろうが、あれには間違いなくエリスが作った毒が塗られている。
どうも作った本人もどれほどの毒なのかわからないみたいなので、ちょっと腫れたとかそんな程度な可能性もあるのだが、色合いとかを見ての印象だとあれは猛毒に違いない。
いかん、と思った恵一は前に出た。横から回ってとかしてたら間に合いそうにない。
真正面から少女にくっついて手を少女の後ろに回し、矢を掴んだ。
どす黒くぬめったものが矢尻に薄く膜をかけるように塗布されている。うん、これ絶対に猛毒だ。
矢を放り投げて、閃いた。
今、恵一と少女は向かい合った状態で、後ろからの矢を掴むために互いに接触せんばかりに近付いている。
少女の、恵一から見て右側から来る横薙ぎの剣はそろそろ目的地に到着しそうだが、そもそも目的地たる恵一の体が動いてしまっていて剣の刃の部分が当たるか当たらんか微妙なところである。
これは、内側に入って間合いを潰している状態だ。
リアッセとの決闘の時には試みようとして思い切り反撃されてしまったが、この相手の動きが遅い状態ならば問題ないはず。
それに、あの時のような一対一の戦いではないのだから、自分がそうやって押さえてしまえば、他の者が加勢して取り押さえてくれる。
剣を持った少女の腕を右手で掴んで止め、組み付いて左手を少女の首の後ろに回して固定する。
よし、これでいこう。
で、ちょっと困る。
組み付いて、というが要するに抱き付くようなものだ。
接近しているので顔が目の前にあり、それをまじまじと見れる余裕もあり、そうして見ると、どう見ても――
女の子なんだよなあ……。
これに抱き付くのか、抱き付いていいのか、抱き付いてもいいでしょうか?
しかしまあ、ここで距離を取ってもまた埒が開かなくなるだけだ。恵一がモタモタしているうちにまたアンとか今度はケイトが毒矢を放ってくる恐れもある。
さっきは、少女の殺気に恵一の謎の力が発動し、その全てが緩慢になった世界の中のことなので飛来する矢を視認できたが、そうでないならそんな自分に向けられたものではない矢など察知することは不可能だ。
うん、ここで押さえてしまうのが、彼女のためにもなるのだ。
というわけで、抱き付くことにした。
「ごめんね、うん」
世界の感じが変わる。
正確に言うと、戻る、と言うべきか。
「え?」
少女は困惑する。
「い、いつの間に!」
彼女にしたら、恵一が信じられない速度で懐に入ってきたとしか思えない。
「く、この!」
状況が最悪なのも瞬時に悟った。片手と首が押さえられている。
振りほどこうにも、それができぬぐらいに、相手の力が強い。
――終わった。
少女は、一気にそこまで悟った。
一人で多数を相手にする場合、動きを止めるのはよほどの何か、特殊な能力などの強味が無い限りは敗北と同義だ。
常に動き、相手に狙いを定めるゆとりを与えず、撹乱しなければならない。
そのゆとりを与えれば、前方の敵に相対しているところへ側面背面から狙いすました攻撃を放たれ、それを繰り返されればどんなに敏捷性に優れ、強運に恵まれたとしても、近いうちに攻撃を貰ってしまう。
一度攻撃を受ければ、そのダメージが動きを鈍重にし、ジリ貧となって敗北する。
それゆえに、少女は、多数を相手にしたこの状況下において、動きを押さえ込まれ、即座にその拘束を解くことができぬということを察した時点で、敗北を悟ったのだ。
「ふふ……」
少女が朗らかに笑った。
一瞬、恵一は抵抗を諦めておとなしく捕まってくれるのかと期待を込めて思ったが、すぐにそうではなかろうと思った。
その朗らかさが、ここが死に場所だと決めた時のそれと同じに見えたからだ。




