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決闘1

「立会人のイリア・カムだ」

 二人の間に立ったイリアは、そう言うと剣を抜いた。

「我が主に捧げた剣にかけて誓う。このたびの決闘において公平な立会人たらんことを。御両者、決闘のルールはいずれかが敗北を認めること、倒れて五つ数えるうちに起き上がれない場合に勝敗が決まる。このこと、よろしいか?」

「ええ」

「あ、はい」

 イリアは、立会人というが、どうも審判のような役割もするらしい。

 で、一応話には聞いていたが、これまであまり意識していなかったこととして、敗北を口頭にて認めること――すなわちギブアップがありだということだ。

 それは、耳寄りな話じゃなかですか、と恵一の目は少し輝きを取り戻した。

 あんま酷い目にあいそうになったら、即ギブすればいいのである。

 そりゃ、ケイトを筆頭にみんな激怒するだろうが、そんなもん痛えのはこっちなんだから、いざとなった時の選択肢として考えておくべきだ。

「よし、それでは……」

 と、イリアが交互に恵一とリアッセを見る。

 リアッセは剣を構えている。

 あ、もうはじまんの? ちょっと心の準備が……。

「はじめ!」

 そんなもん知ったこっちゃねえとばかりに、イリアが上げていた手を振り下ろして宣言した。恵一の心の準備を待っていたら永遠にはじまらないのでそれでよい。

「へえ」

 リアッセは、両手でしっかりと柄を握った恵一の構えを見て、感嘆を漏らした。無論のこと、上から見下してまあまあ評価してやる、といった程度のそれではあったが、少なくとも感心したのは事実であった。

 恵一の構えは、基本に忠実――これに尽きる。

 一日で基本から外れた手など叩き込めないし、例えやったところで基本と同時に覚えるのは不可能なだけでなく、基本動作の習得の邪魔になりかねない。

 それがわかっている例のハウト男爵家の教師たちは、基本だけを徹底的に恵一の心身に刻みつけたのだ。

 リアッセの構えは、恵一に近い。

 つまり、彼女もまた基本に忠実であるということだ。

 それを見て、恵一は安心したというのが正直なところだ。

 自分よりも経験豊富であろうリアッセが、基本から外れた奇手を繰り出してきたら対応できない。

 それが、恵一の不安であったのだ。

 だが、実のところ安心するのは早いというべきだろう。

 奇手など、初手から行うものではない。

 基本に則った動きを重ねていって、そこで奇に出でて相手の意表を衝くからこそ効果もあるのだ。

 だが、リアッセはとりあえずそこまではするつもりはなかった。

 技量を知りたい。

 そのために、まずは正攻法で攻めてみるつもりだった。

 恵一は動かない。動けば隙が生じ、付け込まれる恐れがある。自分から攻撃するほどには、やはり自信が持てないのである。

 リアッセは少し様子を見て、恵一が不動と見るや前に出てきた。

 真っ向から、上段から斬り下げる。

 なんの小細工もない。教科書通りの一撃。

 恵一は、咄嗟に剣を頭上にかざして、それを受けた。

 レベル10は、伊達ではない。なんだかんだで、リアッセの攻撃に反応し、それに対処することはできるのだ。

 ただの一撃を防いだだけのことではあるが、そのことが恵一にほんの僅かばかりとはいえ自信をつけさせた。

 対するリアッセは、芸の無い行動によって恵一の戦闘経験が乏しいことを悟った。

 少し後ろに下がれば、攻撃はかわすことができた。

 だが、恵一は受けた。

 受けるにしても、受けると同時にリアッセの剣を弾く、或いは受け流して自らの攻撃に繋げるような、そんな素振りは全く見られなかったことから、ただ単に攻撃が来たから受けたというだけのことだ。

 リアッセの踏み込んだ足の位置、手の長さ、そして剣の長さ、それらを総合しての攻撃可能範囲――間合いを認識する、ということができていないということだ。

 楽に勝てそうだ。

 そう思って、すぐに、つまらんな、と思ったのは彼女の性格である。

 好戦的なのは、戦いを嗜好するためであり、必ずしも勝利を冷徹に無駄なく追求するような「強さ」には乏しい。

 それは、恵一にとっては活路ではあるのだが、それに気付けるほどに余裕は無い。

 それよりも、恵一は、リアッセから全く殺気の類が来ないことに、やや困惑していた。

 てっきり彼女は殺す気で向かってくるのかと思っていたのだが、余裕綽々である。

 自分があまりにも弱そうなのでその気になるまでもない、ということだろう。これは誤算であった。

「ほい」

 リアッセが再び踏み込んで、今度は突きを見舞ってきた。

 見える。

 見えるので、体を捻るようにしてかわすことはできたが、怖いことは怖い。

 これでは、反撃に出るなどという余裕は無い。

 値踏みしながらのリアッセの攻撃をなんとか凌いではいるが、こちらから打ち込むことができない。

 次に、リアッセは剣を右肩越しに背中へ回し、切っ先を下方に向けて構えた。

 どこから見ても、上段から斬り下げる構えだ。

 だが、その軌道の攻撃ならばさっきも食らった。また同じ要領で防ごうと、恵一は心を決めて待った。

 どのように素早い攻撃でも、ある程度は見える以上、どう来るかわかってさえいれば防ぐのは難しいことではない。

 ただでさえいっぱいいっぱいの恵一は、とりあえず次の攻撃もまた上手く凌げそうだということにほっとした。

 だが、リアッセは剣をいつまでも振り下ろして来ない。

 だが、リアッセはじりじりと前進し、近付いてくる。

「え……」

 恵一は困惑する。さすがの彼も、間合い、について全く鈍感で無視しているわけではない。ここまで近付いたら、十分に相手の攻撃圏内であろうという推測ぐらいはつく。

 さあ来るか、今にも来るか。

 こちらは少し剣を傾けて、即座に防御態勢に移れるように準備までしているのに攻撃は来ない。

 でも、足は動いている。

 確かに、少しずつだが、近付いてきている。

 恵一は、緊張に耐え切れずに、少し後退しようとした。

「んっ!」

 だが、その後退に合わせて、まるでそれがわかっていたかのように、リアッセが速度を上げて前進し、追随してくる。

 距離は変わらぬまま、またじりじりと近付いてくる。

 これは、こっちから攻撃するべきではないのか。

 もう、すぐそこにいるのだ。そして、向こうから剣を振るってくる気配は無い。

 だが、不気味なのは沈黙をたもつ背後に垂れ下がった剣だ。

 あそこからなら、すぐに攻撃に移れる。

 或いは、恵一の技量低しと確信した上で、こちらに攻撃させてそれをかわして即座に反撃してくるつもりかもしれない。

 そう思うと、それはもう根本的にビビってる悲しさ、とても打ち込めるものではない。

 恵一のそんな態度に、味方陣営の方から何やっとんじゃこのボケをはじめとして大変厳しい叱咤激励をいただいているが、一応耳に入ってはいるがそれに応じて動揺するような余裕すらない。

 遂に、リアッセはすぐそこまで来た。

 距離は1メートルあるか無いかだろう。

 そこまで近くにいるのに、攻撃の気配は無い。

 ただ、恵一の一挙手一投足を見逃すまいと、目だけは全く緩みが無い。

 しかし、そこで恵一はふと思う。

 ここまで近付くと、間合いの内側に入れるのでは? と――

 間合いから逃れるには、そこから外れるように距離をとってかわすのが確実だし、手っ取り早い。

 だが、逆に内に入るやり方もある。

 圏外に出るのではないから、完全に当たらないということはないが、威力が相当に低くなる。

 剣ならば、柄に近い部分が当たっても、大した威力ではない。真剣ではなく木剣なのだから尚更だ。

「よし」

 思い切って、恵一は前に出ることにした。

 さすがにこうまでやられては、リアッセがよっぽど自分を「ナメている」のは嫌でもわかる。ならば、むしろそこを衝く。

 前に出ながら、剣を脇に引き付けて「突き」を繰り出せる体勢にする。

 リアッセは、後ろに下がることしかできないと思っていた恵一が前に出てくることによって、間合いの内側に入られるのを嫌って距離をとるはず。

 それを追って、突きを入れる。

 リアッセの剣を後ろに回した構えは、肘を思い切り曲げて、手を肩に引き付け過ぎている。

 あの位置から攻撃するには、まず肘を伸ばしつつ上段に構え直してからではないと無理だ。

 それはほんの僅かな時間であろうが、その一瞬の間に、恵一は突きを出せる。

「よし」

 それらを確認しながら、もう一度、恵一は小さく呟いた。

 リアッセは、薄く笑っている。

 その笑みは、彼女が恵一をナメきっている証に見えた。

 この距離は、恵一の間合いでもあるのだ。

 その状況下で、これだ。

 完全に甘く見ている。ならば、上手く行く。

 自分に言い聞かせるように、恵一は思った。上手く行く、と。

「やっ!」

 気合いを入れて、前に踏み出した。踏み出しながら、剣を脇に――そして、突きだ。

 前に出てくるとは思っていなかったリアッセは、慌てて距離をとる――そこへ、突きだ。

「いっ!」

 だが、思ってもいなかったことに慌てたのは、むしろ恵一の方であった。

 リアッセも合わせるように前に出てきたのだ。

 そんなことをしたら、リアッセの剣は恵一を斬れぬ。

 だが、確かにそうすることによって、恵一の突きもまた封じられた。突きは、剣を振るう攻撃と比べ、内側に入られることでの威力減退はそれほどでもないが、やはり標的があまりに近ければ木剣では満足な威力は得られぬし、なにより突きは攻撃が線ではなく点になるために、接近した上に体を横に少しでもずらされると、当てるのが非常に困難になる。

 全く思惑通りに行かなかった。

 やはり、リアッセの方が一枚上手か。

 恵一は、こちらの予想を完全に外して、攻撃を封じられたことでそう思った。

 だが、それならば、リアッセは二枚上手と言うべきであった。

 彼女は、攻撃を封じてよしとしたのではない。

「えっ!」

 恵一の視界で、何かが拡大した。

 一瞬なんだかわからなかった。それほどにそれは近くに迫っていた。

 そのように見えるということは、それは恵一の目に向かっているということだ。

 もう、どうもこうもない。反射的に、恵一はそれから逃れようと顔を後ろに仰け反らせる。

 そうなれば、自然、前進しているどころではないので足も止まった。

 迫ってきたのは、リアッセの左手であった。

 彼女は、右手でしっかりと剣を握り、肘を曲げ、右肩の上に拳が来るようにして剣を、切っ先を下方へ向けて構えていた。

 左手は、何をしていたかというと、その右手に添えてあった。

 いざ攻撃という時には、左手も柄を握るのだろうと恵一は思っていた。

 リアッセとて、そのつもりだったのだろうが、恵一が前に出てきたことで間合いを詰められてしまい、剣がすぐには使い物にならぬと思った瞬間に、左手の指を、恵一の顔に向けて突き出してきたのだ。

 目を指で突こうとしてのことだが、リアッセは当てるつもりではあったが当たることは期待していなかった。

 目は、人間の体においては、耐久性が低い上に視認を行う機能があるために弱点中の弱点と言っても過言ではないが、目標としては極めて小さく狙いにくい。

 先程の恵一のように、目を狙った攻撃など嫌でも視界に入ってくるので、反射的にかわされることが多いため、目にダメージを与えるのは容易ではない。

 だが、ダメージを与える必要は無いのだ。

 一時的に怯ませる程度ならば、ダメージを与える必要は無い。

 目を狙えば、相手は反射的にそれへの防御行動をとるのだから。

 恵一は、まんまとしてやられた。しかも、前進途中にそれを食らってしまい、下半身は前に出ようとしていたのに、上半身が突発的に後ろに仰け反ってしまった。

 このちぐはぐな状態。

 前進にも、後退にも、すぐには移れない静止状態。

 そこへ、少し下がったリアッセが、右手に握った剣を振り下ろしてきた。

 頭をやられる!

 咄嗟に恵一は体をひねりながら横向きに倒すようにしてかわした。しかし、かわしきれるタイミングではなかった。

「ぐあっ!」

 左肩を、剣は強烈に叩いた。激痛。

 倒れて、そのまま転がって逃げる。

「へえ」

 リアッセは、感嘆する。

「よく、かわしたわね。頭カチ割ったと思ったのに」

 別に返事を期待していたわけではなかろうが、恵一は激痛に呻きながらも、

「どうも」

 と、返した。

 立ち上がりながら、恵一は必死に激痛に耐えながら剣を構える。

 体の右側面をリアッセに向けて半身に構えた。左肩を庇ってのことだ。

 当然、剣を持つのは右手一本になる。両手で振るうのに比べて威力の低下は必至だが、どうせこの痛む左肩のせいで左腕は十二分に力を発揮できまい。

 リアッセは、そっくりそのまま同じ構えをとってきた。

 やはり遊んでいるのかと恵一は思ったが、そういう考えを捨てようと頭を振った。

 リアッセが恵一を甘く見て、遊び感覚でこの決闘に臨んでいるのは確かだ。しかし、それによって彼女が油断しているかというと、微妙に違う。

 恵一は頭から、甘く見ているということは油断していることとイコールと思っていた。

 それは重なる部分もあるが、決して完全なイコールではない。

 少なくとも、間合いの内側に入ってくる程度のことを想定していないほどには、油断はしていない。

 今の攻防は、むしろ恵一の経験不足をあからさまに露呈していた。

 同じ木剣を使うことはルールになってはいるが、なにもそれ以外で攻撃してはいけないわけではない。

 剣による攻撃が効果の無い距離ならば、手でも足でも使ってくるし、使うべきなのだ。

 とは言っても、使われることを想定してかかるのはともかく、自分で使うのはハードルが高い。なにしろ剣の技術ばかり習っていて、それでいっぱいいっぱいなのだ。

 いきなり剣術に手足による攻撃を織り交ぜようにも、却って生兵法となって不利になる可能性が高い。

 リアッセが剣で突いてくる。

 踏み込みは、浅い。

 恵一の体には明らかに届かない。

 恵一は、付き合わずに剣を引いた。体に当てるのではなく、剣に当てることで叩き落そうとしているように感じたからだ。

 リアッセが、今度は剣を振ってくる。踏み込みも、段々と深く。

「行くわよぉ」

 突然、にっこりと笑って言った。

「え?」

 そして、それに恵一が反応を示して、たっぷり一秒待ってからリアッセは踏み込んできた。

 上段から来る。

 構えからそれがわかっている上に、行くと言われてさらに一秒とはいえ、一瞬一瞬が決め手となる決闘中に時間まで与えられているのだ。反応できないわけがない。

 恵一は、剣をかざして受けた。

 先程受けたのに比べて、衝撃が随分と軽い。

 先のそれが両手で握っての攻撃だったのに、今度のこれは片手によるもの。その違いかと思った。

 だが、そうではなく、リアッセは元々軽く打ったのだ。

 恵一の剣を打って、その反動でリアッセの剣が上に行く。

 もう一度来る、と備えた恵一の目にうつったのは、先程とは少し違うリアッセだった。

 剣を横に――そう、恵一と同じように、頭上に剣を横にしてかざすようにしているのだ。恵一にとっては、それは上段攻撃を受けるための防御姿勢である。

 だが、その状況で彼女が防御などするはずがない。

 手首を返し肩を回し、恵一の剣にギリギリ当たらぬ軌道で剣が走った。

 上から下へと、半円を描いて恵一の防御をかわして、行く先は恵一の右足だ。

「うっがあ!」

 前に出ていた右足の膝の辺りを叩かれて、恵一は激痛に声を出さざるを得ない。

 正直、その場に倒れてのた打ち回りたかったが、なんとか我慢して右足を引きずって後退した。

「ねえ、あんた」

 と、リアッセが声をかけてくる。

「左肩と、今度は右足。もう無理じゃない? 降参しなさいよ」

 とうとう、降伏勧告をされてしまった。

 だが、いくら弱気でやる前から負けた時のこと考えてた恵一でも、一度もいいとこ無しで、自ら敗北を認めるのには抵抗があった。

 というか、こうやってリアッセは自分を心理的に追い詰めて、自分の有利になるようにするつもりなのだと思い、勧告には無視で応じた。

「なにをどう騙されたのかは知らないけど、もっと痛い目に合わすしかないわね」

 これはリアッセの心理作戦だ。

 そう、心配そうな表情も、全てその作戦に違いない。

 そう確信しつつも、確信が完璧なものにならぬ恵一である。

 このリアッセ・リアントゥムと初めて合ったのは、彼女がメチャクチャにした調印式の席上であるが、そこで恵一は、調印文書をあどけないと言っていいような笑顔で破り捨てるリアッセを見て、その笑顔に衝撃的な印象を受けた。

 強烈な第一印象は、恵一の奥底まで刻み込まれている。

 その刻まれた部分が、どこかしら遠慮がちにではあるが、恵一に囁くのだ。

 あれは、表情で演技できるタチの人間ではない。

 彼女は、案外本気で、恵一のことをアレンにまんまと利用されているかわいそうな男だと思って、心配しているのではないか?

 そんな、心の底に響く囁きを認識しつつ、恵一はそれに耳を貸すことができなかった。

 もっと痛い目に合わす、との言葉通り、リアッセは次なる攻撃を送り込んできたからである。

「つぁっ!」

 幾度か剣を打ち合わせた後に、リアッセの剣は再び恵一の右足を打った。ご丁寧にもさっきとほぼ同じ場所だ。

「あーらら、痛いわねえ」

 本当に楽しそうな顔でリアッセが言う。

 やっぱり、おれに同情して心配してるとかありえねえ、と恵一が思った次の瞬間、

「……降参したら? ねえ?」

 心配そうに、いや、今度はやや違う。

 あどけないような――そう、調印文書を豪快に破り捨てた時みたいな顔で、言った。

 幼女が、勝負事で会心の手をものにして、もう降参しなよ、と笑いながら相手に呼び掛けるみたいな感じ。

 恵一が、降参しないと見るや、また攻撃してくる。全く容赦が無い。

 なんとか、一連の攻撃を防ぎ、リアッセが一度距離をとるのを見送る。反撃しようにもその余裕が無いし、追撃しようにもリアッセに隙が無い上に、そもそも右足が痛くておそらくは満足な速度が出せない。

 このままじゃあ、ジリ貧だ。

 もう、当たるかどうかはわからない――むしろ当たらないと思うが、こちらから攻撃をするべきだ。

 リアッセに、好きなように打たれているのは、彼女が全く臆していないからだ。

 それは、隙と言うほどの隙ではないかもしれない。

 でも、もうジリ貧なことが確実な以上、リアッセがまるで自分の反撃が無いと見なしているように、軽やかに踏み込んで攻撃してくるのを逆手にとって、思いきった攻撃を打ち込むしかない。

 思い切り、渾身の一撃だ。

 万が一、僥倖にもそれが当たれば大ダメージを与えられるであろうし、かわされたとしても、そのような一撃を繰り出すことができるのだと認識させることにより、リアッセも多少は警戒するだろう。

 かわされるだけでなく、攻撃によって生じた隙にいいのを貰ってそれで負けてしまったとしても、それはもう、諦める。どうせ、このままではジリジリと削られて力尽きるに決まっているのだ。

「よぉし」

 恵一は、剣を上段に構えた。左肩の痛みに耐えつつ、両手で剣を握った。

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