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どうせなんもできんのだから遊ぼう

 城館に帰ると、昼食の時間になっていた。

 召使が運んできた食事を食べる。

 ケイトが「落とした」ものをつまみながら、召使が教えてくれたのだが、本日、アレンはリード・リアントゥムへ使者を派遣したようだ。

 いよいよ交渉やり直しなのだが、どうなることやらである。

 そもそも、やり直しに応じない可能性も低くはないのだ。

 それと、アレンがどこまでを望んでいるのかも気になるところだ。

 午後になると、またミレーナが来たので、イリアに会ったことと彼女が言っていたことを告げた。

「そうですか……」

 イリアが戦争になる可能性について言及していたことを知ると、彼女を信頼しているミレーナは不安そうな顔をした。

「……お兄様に会いに行ってみます」

 ミレーナは決意して席を立った。

 興味がある恵一たちも、護衛という名目を盾に同行することにする。

 アレンは私室にいた。部屋の前は彼のシンパらしい者が固めている。

 いったい何をそんなに厳重な警戒が要るのかという警戒っぷりである。まさか、刺客がここまで放たれてくると思っているわけでもあるまいが、リアントゥム男爵家ともう一戦――あくまでも交渉であるが――交えるとなっていきり立っているのであろう。

 ミレーナは、さすがにすぐに通された。

「おお、ミレーナ。久しいな」

「お久しぶりです。お兄様」

「うん、うん……話に聞いた通り、きれいになったなあ。こりゃあ王都指折りってのも間違いじゃあないな」

「いえ、そんな」

「嫁に出すのが惜しいなあ。お前、ずっとうちにいるか? ん?」

 ミレーナが困った顔をしていると、大きく笑った。

 こうして見ると、いい兄貴に見える。

「ん? なんだ、そいつら」

「あ、こちらは……」

 と、ミレーナが恵一たちを紹介してくれる。護衛と聞いてまずアレンはホントかよという顔をした。恵一含めてあまり力強さを感じさせぬ三人組なので仕方ない。

 だが、命の恩人である、という話を聞くと、そこはさすがに感謝というかこいつがそうかといったふうな、認めるにやぶさかでなしという感情が現れた。

「ふぅん、野盗数人をねえ……お前、レベルはいくつだ」

 何気なく聞いたのであろうが、恵一がレベル10だと答えるとアレンはさすがに驚いて、続けて歳を尋ねてきた。

「十七になります」

「十七で、レベル10か……」

 あからさまに軽んじていた態度がやや改まる。やはり、十七でレベル10ってそこそこなんだな、と思った。そういえば十八でレベル7のエリックという殺されてしまった人が、将来有望と期待されていたという話だった。

「正直、そうは見えんが……イリアもいないことだし、妹を守ってやってくれ」

「はい」

 やっぱり、そうは見えないのだなと思いつつ、言われるのに慣れっこになっているので軽く流す。

「えーっと、そっちの二人も頼むぞ」

「はい、ケイト・カリーニングと申します」

「うー、アンです」

「おう」

 ケイトはともかく、アンにも特に変な態度は見せないので、少なくとも獣人に差別意識を持っている人ではないようだ。

「あの、お兄様」

 ミレーナが言った。

 再会を喜び合った時と比べ、声に固さがある。

「リアントゥム男爵家へ使者を遣わしたと聞きました」

「ああ」

「交渉の再開がかなったとして、いったいどのような条件を出すおつもりなのですか?」

「ああ、そのことか」

 アレンは特に気負った様子も無かった。

「こっちは一人殺されてるんだ。あっちからも首を一つ欲しいところだな」

 それは、どうしても呑めないとリードに言われてブレンニールが譲ったところだ。まず間違いなく紛糾する。

「それでは……」

 と、ミレーナが言った。その後に続く言葉はわかっていたのであろう。

「もちろんあっちは嫌がるだろう。揉めるだろう。だがな、非は完全にあっちにあるんだ。ブレンニールがいらん遠慮をして引いたから、そこの線は譲ってもいいと思ってやしないか? 本来、首一つ要求するのが当たり前なんだ」

「で、ですが……」

 可愛がられてはいるようだが、ミレーナは兄に対して自らの意見を主張できるような関係ではないようで、そう言ったきり黙ってしまう。

 ここはおれが行くしかねえ、と恵一は無謀にも思った。

 あくまでも男爵家に雇われているのだから、それでいくとミレーナよりも家での序列が上のアレンには極力楯突かぬ方がいい。

 しかし、恵一はどうしても気持ちとしてはミレーナの個人的な恩返しで雇われたという立場のつもりであり、なによりも彼女の味方をするべきだというのが第一に来る。

「ですが、それではリアントゥム男爵が戦争に訴えるんではないですか」

 ミレーナの言いたいことを代弁して、恵一はささやかな充実感を満喫した。隣のケイトが何言い出してんだこの馬鹿という目で見ているのには気付いていない。

「それならば受けて立つまでだ」

 怒られるのを少しは覚悟していたのだが、アレンは事も無げにそう言って笑った。

 彼も、恵一がミレーナの代弁をしたのだということは察しているのだ。

 それに、この場にはミレーナたちだけでなく、彼のことを支持する者たちもいる。それらに対して、顔色一つ変えずに戦争など恐れぬと言うことは、彼らに対するアピールにもなるという計算もある。

「戦争を絶対に回避しよう、というのに囚われたのがブレンニールのいかんところだ。そんな態度でいるから付け込まれるんだ」

 ブレンニールから、リードの不戦への思いを聞いている身としてはその意見には諸手を上げての賛同はしにくいが、その話もブレンニールを通したものであり、彼なりのフィルターがかかっている可能性は無いわけではない。

 それに、先ほどイリアの話を聞いてしまったから、アレンの言うことにも一理あるのではないか、とも思ってしまう。


 翌日には使者は帰ってきた。

 リアントゥム男爵家の反応は当然のことではあるが、反発である。もう決着したことではないかなんで蒸し返すのだという至極もっともな御意見である。

 当然、ブレンニールはどういうつもりだ、彼と話がしたい、とリードは言った。

 だが、それに対して、これよりの交渉はアレン・ハウトが行うと返されて、それで幾らか察するところがあったようだ。

 とにかく、話は改めて聞くが、当方としては現在の条件が最善のものと心得ているのでそのつもりで、ということであった。

 さしあたって、再交渉にあちらが応じたということで、第一の目的を果たしてアレンとその支持者は湧き立った。

 しかし、あらかじめ話は聞くけど、よっぽどのことが無い限り今の条件は変えないぞという意思は明らかにしているわけであり、どうにも上手く運ぶ気がしない。

 交渉が始まり、伝え聞くところではアレンはやはり戦争も辞さずという態度をあからさまにして主張を通そうとしているらしく、ミレーナの心配が現実のものとなっていた。

 彼女が部屋にやってくる頻度は増えた。

 愚痴……を吐いたりはしないのだが、一体どうなってしまうのかとひたすら心配しているので、沈んだ空気が部屋に充満し、それに引っ張られてこっちも気が滅入ってくる。

 正直、もう勘弁してくださいと言いたいとこではあるが、彼女へ心の底から同情している恵一としては、思い切りそれに付き合って一緒に沈んでいた。

「カードやりましょう、カード」

 それに付き合う気が無いケイトが、どっからともなく――後で聞いたら例の「落とした」食べ物をつまんでいる召使に借りたらしい――カードを調達してきた。

「カードってなんだい」

 と、恵一も少し興味を覚えて見せて貰った。

「へえ」

 それは、1から10までの数字が書かれたカードだった。さらにそれが太陽、満月、三日月、星に別れている。

 カードの数は少ないが、要するにトランプだ。

 それを使ったゲームをみんなでやった。

 ポーカーに似たゲームもあったし、ババ抜きに似たものもあった。

 わいわいと楽しんでいたら陽が落ちてきた。

「また明日もやりましょうね」

 と、名残惜しそうに言いながら、ミレーナは帰って行った。

 で、言った通りに翌日もミレーナが来たので、またカード遊びに興じた。

 なんか、ケイトとアンはもちろん、ミレーナもこういうのが元々好きなのか、楽しそうにやっている。

 こんな遊んでていいんだろうか、と思わないでもないのだが、よく考えたら恵一の目的はミレーナの気を楽にすることだ。

 それならば、もう達成されつつある。

 やったのは自分ではなくケイトであるというのに忸怩たる思いはあるものの、とりあえずはミレーナが笑っている。

 彼女の笑顔を見るのも数日ぶりだ。

 で、やっぱり可愛いなこの子。ウン。

 と思いつつ、恵一もしっかり楽しんでいた。

 戦争になると言われれば、どうしてもそれは避けねばならぬのではないかと思うものの、それに関して何かできるわけではない。

 何かしろと言われているわけでもない。

 文句あんなら交渉の席に呼んでみろ、アレンの敵に回ったんぞ、と段々開き直ってきた恵一である。

「賭けようぜ」

 と、ケイトが言い出した時は、まさか借金返済の足しにミレーナをカモって巻き上げる気か。さては、カード遊びを提案したのも最初からそれが目的かと思ったが、賭けると言ってもお菓子とかであったので安心した。

 その日には、アレンが出張っての交渉が始まっていたのだが、詳しい情報は入ってこない。それでも兵士たちの一部が色めき立っているのはなんとなくわかるし、例の召使からも、アレン支持の連中が後押しをするのだと言って訓練をしているということも聞き出した。

 アレンは、戦争回避のリードに対して戦争も辞さずの態度で交渉に臨んでいる。

 当然、その強硬姿勢に接したリアントゥム男爵家では、ハウト男爵家の様子を探らせるはずであり、その偵察に対して、アレン様についていくぞと気勢を上げて訓練に励む兵士たちを見せつけるのは、アレンの「後押し」になるというわけだ。

「大丈夫かなあ……」

 以前よりはあんまり深刻に考えないようになった恵一だが、ブレンニールからリアントゥム男爵家については色々聞いているだけに不安は消えない。

 リードが抑え切れなくなった時、本当にアレンは戦争をする気なのだろうか。

 翌日午前中に、また街へ出てみた。

 不在中にミレーナがやってくるといけないので、ちょっと街の声を聞いてくるから午後にまた遊ぼうと声をかけてから出掛けた。

 城館から出れないミレーナとしては、街の声というのは気になったらしく、こっちが思ってた以上に期待してくれてややプレッシャーである。

「よし、街の声に耳を傾けよう」

「お嬢様に期待されたからって、そんな張り切んなくていいんだぞ」

「べ、別に張り切ってねえよ!」

 物凄く張り切っていたのをケイトに見透かされてしまった。

 それはそれとして、街の声である。

 前に見た立て札の前で不安そうにしている人々がいた。

 戦争にはならんから安心して仕事しろ、という意味合いのことが書いてあった立て札自体はそのままだったが、文字が豪快に削られており、そこへおそらく、いや間違いなくアレン派の者が書いたのであろう――

 交渉再開 ハウトに栄光あれ!

 と、ぶっとい文字が踊っていた。

 これでは不安がるなというのが無理というものである。

 人々の口からは、戦争になるのではないかという声が上がっていた。

 その中には、戦争になったら稼ぎ時だという抜け目の無い声もあった。

 リアントゥム男爵家に勝てるのか? という遠慮の無い声もある。まあ難しいだろうという意見が出るが、そこは彼らも我が領主をあまりにも卑下するのも気分がよくない。いやいや、リアントゥムに負けるなと日々訓練に励んでいるのだから、いざ開戦となったらいい勝負をしてくれるはずだという熱っぽい声も上がる。

 恵一としては意外だったのは、戦争そのものに反対という人間がほとんどいないことである。

 戦争勃発を恐れている者も、それによる生活への影響を心配しているのであって、戦争を悪いことだと認識しているような様子は無い。

 薄々は感じていたことであるが、やはり現代日本での感覚はこの世界では通じないと恵一は思い知った。

 街を練り歩いて、声を拾っていく。

 やはりこの件は、ハウト男爵領に住む人々にとって自らに及ぼす影響が大きなことだけに、会話の中に出てくる頻度は断トツであり、適当に歩いて適当に聞き耳を立てるだけでそれに関する声を大量に聞くことができた。

 なんといっても一番多いのは、それによる生活への悪影響を懸念する声。

 だが、概ね、戦争になっても小競り合いで終わるだろうという観測が強い。願望もあるのであろうが、同じ王を主と頂く男爵同士がお互いを滅亡させるまで争うというのは考えにくく、程よいところで王か或いは周辺の上位者の仲裁が入るだろうといった声が多い。

 道行く庶民までそう考えるということは、それがこの世界でのこういったケースでの多くのパターンなのであろう。

 ケイトに聞いても、やっぱりそうなるだろうという。

 念のためアンに聞いてみたら、当然ではあるが、わからん、という。彼女は森で暮らしてきた獣人で、そこでもなんらかの組織に属していたのではなく、父と二人暮らしであったために無理もない。

「でも、一度これでいこう、って約束したのを、後からやっぱりなしだ、っていうのはよくないぞ」

 と、アンは言う。

 それは恵一もよろしくないとは思うのである。

 で、アレンのやっているのが正にそれなのだ。

 ミレーナも、アレンが最終的な調印が済んでいないから、で済ましてそれを押し通すことをあまりよくは思っていないようだった。

「……問題が起きるとしたら、そこだろうなあ」

 と、ケイトもそこが懸念事項であるというのは、恵一と同じ認識である。

「リアントゥム男爵家側は、とりあえず再交渉はやってくれるらしいけど」

「まあ、そん時にメチャクチャ文句言われるだろうなあ」

「アレンさんが、どうするかだな。……ていうか、あの人そもそもどこまでやる気なんだろ」

「んー、意外にそんなにやる気は無いんじゃねえかな」

「え、そうかな」

 昨日会った時には、とてもそうは見えなかったが。

「ケーイチ、イリアさんの言ってたこと忘れてるだろ。ハウト男爵ってのは王都にいるんだぜ」

「ん、あ、そうか」

 アレンがやってきて、ブレンニールを追いのけてハウト男爵家の全権を握ってしまったので、ついついアレンが最高権力者のように思ってしまっていたが、アレンとて跡取り息子という立場上非常に高い地位にはいるものの、男爵当人ではないのだ。

「さすがに、男爵に無断で戦争なんかできないだろ」

「えーっと、リアントゥム男爵も王都にいるんだよね?」

「そうそう」

「そっか、それじゃあ王都で男爵同士が話せばいいんじゃないか」

 王様が仲裁に、という話をさっき聞いたが、それ以前の段階で話は済んでしまうのではないか。

 この度のことは、領地で起きた問題であり、留守中を預かるブレンニールとリードが交渉し、そこで終わった問題なので男爵当人はそれほど出張ってこないし、ハウト男爵は娘を名代に寄越してきた。

 そこへアレンが現れて事態を引っかき回しているから問題化したのであって、このことをハウト男爵が知ったら、アレンの行為を暴走と見なすだろう。

 ミレーナを名代にして寄越したということは、男爵だってブレンニールがまとめた話に納得しているということなのだから。

 むしろ、そうなればアレンは男爵から叱責を受けるはずで、戦争など始めたらそれこそそれでは済まない。

 さすがに、そんなことがわかっていないアレンではないだろう。

「それじゃあ、なんのためにこんなことを……」

「そりゃわからんけどさ、とにかくそうそう戦争になんかなんねえって」

 ケイトのいつもの楽観主義、とも思えぬこともなかったが、結局男爵とさらにその上の王様と、幾つもの歯止めとなる装置が存在しており、アレンの一存で開戦などできないであろうということに恵一は安心した。

 城館に帰って昼食を食べ終えるとミレーナが来た。

 またカード遊びをしながら、街の声と、それからそうそう戦争にはならないだろうということを言うと、彼女は安心したようだ。

「はぁ、そうかあ。そうですよねえ。お父様が止めるだろうし、陛下も家臣の男爵同士の戦争なぞ望まれないだろうし、そうなりますよねえ」

 なんだかすこぶる納得したようで、うんうんと頷いている。

「……すごいですね。みなさんの、情勢の分析力というか、なんというかは」

「は、はぁ、どうも」

 そんな感心されるようなことでもない。正直言ってしまうとその辺歩いてる連中でも考えてたようなことなのだ。

「……私、その、そういうのって全然わからないんです」

 どうやら恵一の態度である程度悟ってしまったらしく、ミレーナは幾らか自虐的に言った。

「お父様はそれでいい、っておっしゃって。でも、男爵家の娘なら、そのぐらいのことはわからないと駄目ですよね……」

「ああ、いや、別に男爵がそう言ってるならいいんではないでしょうか」

 なんか以前にも一回、こんなようなこと言ったなと思いつつ恵一が言ったが、彼女はやはり日頃から忸怩たる思いを感じていたらしい。

 そういうことを前提にミレーナを見ると、知識が変に偏っているというか。

 お忍びで街を出歩いているために、屋台で売っているもののこととかそういったことはよく知っている。

 だが、所詮は深窓の御令嬢であるためか、庶民が持っているような世知のようなものは無い。

 そして、彼女が自嘲するように貴族の娘としての知識や考え方なども、あまり身についていないようだ。

 危なっかしい。

 アンバランスで、倒れそうで危なっかしい。

 で、根本的に善良で優しい子なのだ。

 で、そんな子が、危なっかしいのだ。

 あ、それと凄い可愛いのだ。 

 これは、いかん、と恵一は思う。

 男の保護欲を刺激するために作られたみたいな女の子だぞ、これ。

 恵一に至ってはこれに加えて、彼女の命の恩人という立場であり、彼女自身がそれを痛烈に感じていて恵一を頼りにしているのである。ついそれに応えたいと思ってしまう。

 ハウト男爵は、それでいいと言っているらしいが、彼自身がもしかしたら我が娘に保護欲を刺激されまくった結果なのかもしれぬ。

 もう、嫁に出す気が無いのではなかろうか。

「私も姫様みたいに、しっかりしたいのですけど……」

 カードを手際よくシャッフルしながら、ミレーナは言った。彼女は妙にシャッフルが上手い。手先はけっこう器用なようだ。

「姫様って言ったら、王女様ですよね。どんな方なんですか」

「それはもう、とても立派な方ですよ。優しくてお美しくて、私より三つ年上なだけなのに、大臣と政治向きの話まで」

「へえ、それは凄い」

 ミレーナより三つ上ということは、まだ二十ぐらいだろう。

「うん、あたしらド庶民にも、姫様の凄い話ってのは知れ渡ってるよ。魔術師としての才能が凄いあってさ、レベルにしたら30ぐらい行くんじゃないかって話さ」

「え、いや、ちょっと待って、それって凄過ぎないか?」

 その歳でレベル10は凄い、と散々言われてきた身としては、その歳で30ってのはどんだけのもんなのだと思う。

「だから、凄いんだってば。そんな凄い人だから、大臣と話もできるんだろ」

「はぁぁぁ、才能の違いってやっぱりあるんだなあ」

「まあ、姫様は特別凄いから比べたってしょうがねえよ。恵一だってきっと才能あるんだぜ」

 と、言われても、そんな本当に凄い人間の例を聞いてしまうと、この世界に飛ばされた弾みに身についたらしいレベル10ぐらいの力などは、大したことないようにどうしても思えてしまう。

「そうなんですよ。姫様は凄い方なんです。……そんな凄い方なのに、私のことを目にかけてくださって……」

 男爵家の娘というのは、確かに貴族階級に属してはいるのだが、その世界では身分が高いとは言えないだろう。

 それが親しく、それこそ護衛を貸して貰えるぐらいに親しくしているのは、かなり特別な関係と見ていいだろう。

「……よく考えたら、なんで姫様は私なんかを気に入ってくださったのでしょうか」

 誇らしげだったミレーナの顔がいらんことに気付いてしまって、また沈んだ。

「そ、それは、そのう……アレですよ!」

「なんでしょう」

「その、癒しですよ」

「癒し? 私、治癒の魔法は勉強中でそれほどには……」

「いや、そういう直接的なアレじゃなくて」

 適当にひねり出した言葉だったが、言ってから恵一は、本当にそうなんじゃないかと思った。

「きっと姫様は、いつも国の政治のこととか考えておられて疲れてるんでしょう。それでお嬢様と一緒にいると心が癒されるんですよ。ウン」

 あくまで推測ではあるが、男爵令嬢という王女が側に近付けても周囲からあまり文句が出ない身分でありながら、お忍びで屋台で買い食いしたこととかを無邪気に話すミレーナは、王女にとっては政治とかそういったことを忘れさせてくれる存在なのかもしれない。

 無論、男爵令嬢には違いないので、ハウト男爵と他の貴族とのバランスなども考えて過度に親しくはしていないだろうが。

「私みたいなものでも、姫様のお役に立っているのでしょうか」

「はい。そうに違いありません。おれだって、お嬢様といると癒されます」

 ミレーナは、姫様の役に立っているというのに少し自信を取り戻したのか、笑顔になって帰って行った。

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