戦争になるようなならないような
ミレーナは自分の部屋に戻った。
去り際、彼女が笑顔だったのは僅かながらも自分たちの働きだろうと、恵一はささやかな――本当にささやかな――満足を得ていた。
「あ、一週間しても解決しそうになかったら先に帰らせてもらう、って言っとけばよかったな」
「ああ、まあ、今度会った時に言えばいいさ」
「そうだな」
ケイトはごろんと寝転がって、飯時になったら起こせと言って寝た。
やがて、召使がやってきてそろそろお食事をお持ちしましょうかと聞いてきたので、それを頼んでケイトを起こす。
「おー、わざわざ持ってきてくれんだ」
どこか、食堂にでも呼ばれるのかと恵一も思っていた。
で、運ばれてきた料理はけっこう豪勢である。雇われ護衛に出すものではないのは一目でわかった。
運んできた召使に聞いたら、お嬢様の命の恩人ですから、と言う。やはり護衛ではなく、そちらの扱いをするようにブレンニールから命令が出ているのだろう。
ケイトはがっつきながらも、召使に話しかけている。粗略にするなと言われているに違いない召使はにこやかに対応している。
向こうは仕事中だろうに迷惑ではないかなと恵一は心配したが、ケイトとてただ話しかけているわけではない。
「いやー、こんなの食ったの初めてだよ。お姉さんもこんなの食ってるん?」
「いえいえ、そのようなものは私たちの口にはとても……」
「じゃ、ちょっと食いなよ。どうせこんなに食えないからさ」
「は……いえ、そのようなことは……」
「いいからいいから、別に運んでくる途中につまみ食いするわけじゃねえんだから」
「いえ……」
「まあまあ、ここにいるのはあたしらだけじゃけ……そうだな、あたしが料理を落としちゃったんだよ。落としたからもう食べられないんだよ。でも、もったいないよね」
「はあ……」
と、ケイトに丸め込まれて、召使のお姉さんはいくつか料理をつまんでしまった。
「……美味しい」
「なっ、美味えよな。あたしも食ってびっくりしたよ」
恵一も、食べながら美味いと思っていた。ケイトとの生活の中で食べ物はいくらも食べたが、それと比べると断然に美味い。
食の格差とでもいおうか、貴族と平民だとやっぱり食うものも違うんだなあと思わざるを得ない。
「お姉さん、また来る?」
「はい、私が貴方がたの食事を運ぶよう仰せつかっております」
「お、そうなの。じゃ、頼むよ。……また少し落としちゃうからさ。ふへへへ」
「……落としてしまわれますか。うふふふふ」
不気味な笑みを交わしつつ、二人は色々話していた。
この城館でのこと、今回のことで小耳にはさんだ話や、城下町での施設のことなど。
食事を終えて召使が去った後、恵一は素直な気持ちを口にした。
「ケイト、すごいな」
と。
「ふふん、そうだろ」
と、ケイトは得意満面であったが、実際すごいと思う。やっぱり両親を失って一年間一人で生きてきただけに、恵一が思い至らぬことに気が付いて手を打っていく。
これであの召使から色々と情報が入ってくるだろう。もちろん情報源としてはそれほどに重要な情報は得られぬだろうが、逆に下々の人間が今回の件にどう思っているかなどについては、確度は高いはずだ。
「明日は街に出てみようぜ」
「ああ、暇だし、それがいいかもな」
もしかしたらイリアに会えるかもしれないと思った。彼女の思惑を考えると、会えたとしても話などはしたがらぬかもしれないが、なんとか一度彼女の意見を聞いてみたかった。
翌日、朝食をとった後に城館を出た。
ミレーナも一緒に行けぬものかと駄目元で部屋を訪ねてみたが、彼女の移動の自由は城館内しか許されていないらしい。
「お兄様が、そのように」
と、ミレーナは一緒に出掛けられないのが残念そうであった。もともとお忍び外出が好きなのだから、いかにも深窓の令嬢といった風でありながら、この子はそういう街の雑踏とかを歩くのが好きなのだろう。
兄のアレンは、自分は勝手に方々をうろついているくせにミレーナについてはそれを許さない。王都でお忍びとかをしているのもよくは思っていないようだ。
おれはいいけど、妹は駄目だ。危ねえだろうが。
というのがアレンの言い分であり、実際野盗に追いかけられるような目に遭っているので、危なっかしいのは事実である。
しょうがないので、ケイトとアンと出掛けた。
ぶらつきながら、けっこう栄えてるなと思った。
もちろん、王都の繁盛ぶりとは比べるべくもないが、王様のお膝元と比べるのがそもそもの間違いだ。
人が行き交い、物売りが声を張り上げる。その声の中には、これをくれ、だの、ありがとうございました、などの売買が行われているということを示す声が混ざっている。
恵一は、新聞みたいなものは無いのかな、と思ってケイトにそれとなく聞いてみた。
「んー、そんなのが恵一の国にはあったのか。それ、記憶の手掛かりじゃないか」
「あ、ああ、そうかもね」
どうも、ケイトにはまったくピンと来ないらしい。
「あー、あれかあ。立て札みたいなもんかねえ」
ケイトが言うにはお上からのお達し等は立て札が方々に立てられて、市井の者はそれを見て施策や法律が変わったことを知る。
だが、それでも字が読めない者も多く、そういう連中は不便に暮らすしかないらしい。
「そうかあ……」
と、言いながら恵一は不意に思った。
あれ? なんでおれ、この世界の字が読めてんだろ?
ギルドのレベル認定書やら仕事の依頼書やら、目を通したがなんか当たり前のように字が読めた。
あまりに当たり前に読めたので気にもしてなかったのだが、よく考えたらおかしい。この世界は、恵一が元いた日本よりもあまり識字率が高くないようで、それで困ってる人も多いようなのに、なんで自分はなんの苦労もなく当たり前のように字が読めるのか。
考えてもわからないし、唯一思い当るのは、これもまた例の自分を呼び出したと思しき少女だ。
魔王を倒せ、それについては自分とこに来い、という手掛かりほぼ無しの状態で放り出すのに、この世界の言葉を一から学ばねばならないというのはさすがに無茶であり、そんなことしてたらいつまで経っても少女を探すどころではないだろうと思って、なんらかの方法で知識を与えたのであろうとしか考えられない。
その方法については、なんらかの、と言うしかないが、なにしろ異世界から自分を呼び出した人間なのだから、それに比べたら大したこっちゃないような気もする。
そこは感謝すべきなのかな、と思いかけて、そもそもアレが呼び出さねばこんなことになってねえんだと思い直す。
しかし、それでもあの少女に、それほどに憎悪というような激しい感情がわかないのは恵一も自覚していた。
正直に言って、この世界が嫌いかと言えばそうではない。
ケイトやアンに出会えたし、ミレーナにも出会えた。
なんか、その辺の人間になら負けないぐらいに強くもなってるし、この世界を楽しんでいる部分が決して無いとは言えないのだ。
それに、やはり突如異世界に飛ばされるなど驚天動地の出来事であり、楽しみに思うことが何一つ無いような状態ではとても精神がもつものではない。
だから、なんだかおれけっこうこの状況を楽しんじゃってるなあ、と思うことがあっても、それでいいのだと思うことにしているのだ。
「ああ、立て札あるなあ」
歩いていると、ケイトが指差した先に立て札があった。
見ると、リアントゥム男爵家との間には話し合いがついた。戦争などにはならないから各人安心して生業に励むようにとのお言葉であり、明らかに情報が古い。
「これ、話し合いがついたっていうの、アレン様が帰ってきてやり直しになるかもしれんらしいぞ」
早速どこかから情報を得たらしい男が、立て札を見ながらそんなことを言い、それを聞いた人が、それなら戦争になることもありうるのかと心配そうな声を上げていた。
おそらく情報源は、城の兵士だろう。
アレンに賛同する兵士が、嬉々として語った話が伝わったに違いない。
「おい」
立て札から目を離して行こうとしたら、声をかけられた。
声は、見知らぬ者ではなく、顔見知りにかけるようなトーンであったし、なにより声自体に聞き覚えがあった。
「イリアさん!」
「お前ら三人だけか」
「はい、お嬢様は、ちょっと外に出れなくて」
「そうか……私はすぐそこの宿屋に泊まっている。ちょっと話すか」
「え? でも、大丈夫なんですか」
会って話したいとは思っていたものの、こうもあっさりとしかもイリアの方から誘ってくるとは意外だったので恵一は念を押す。
「ああ、さすがにまだ監視などついていないよ。アレン殿が交渉やり直しを先方に通告して、それからリアントゥム男爵の手の者がこちらに来て情報を集めて、それからだろうな」
逆に言うと、それ以降はいよいよ接触ができなくなるので、今のうちに一度話しておきたいのだという。
イリアの逗留している宿屋に行き、一階部分のロビーのスペースに陣取る。
「お嬢様はどうしている」
「戦争になるのでは、と心配しているようです。それにあたって自分は何もできないと無力感も持っているみたいで」
「ふむ……あまり気にしてもしょうがないのだが」
「ええ、それは、おれもケイトも言ってるんですけど」
ミレーナがそんな消沈しているのに、自分の不在が影響していることはわかっているのであろう。イリアは重苦しい溜め息をついた。
「あの、それで……実際、戦争にはなるんでしょうか」
「アレン殿がどの程度のことを主張しようとしているのかにもよるが……」
その辺りのことが、情報として入ってこない。彼を支持する兵士たちはかなり盛り上がっているのだが、アレンがどれぐらいの強硬さで臨もうとしているのか。
「リード殿ができるだけ戦争にはしないだろうが、アレン殿が戦争しても構わんという態度を見せつけたりしたら、リアントゥム男爵家が意地になるかもしれん」
戦争も辞さずという態度に接して引いたりすれば、それは戦争を恐れて腰砕けになったという印象を与える。
そして、そのような印象を持たれるのをリアントゥム男爵家のような、武を誇りにするところは大いに嫌う。
「アレン殿も、そのへんはわかっているとは思うのだが……」
問題は、アレンが戦争になってもいいと本当に思っている場合だ。その場合は相手が相手だけに、戦争になる可能性も出てくる。
「あの、戦争になったらどうなるんでしょうか。話を聞いていると、リアントゥム男爵の軍隊の方が強そうなんですけど」
「それは、なんともいえん。あちらが強いのは事実だが、ハウト男爵の軍だって弱いわけではない」
ハウト男爵家が特に武を軽んじているわけではない。リアントゥム男爵家がとても武を重んじているために、相対的にそれほど力を入れていないように見えるだけだ。
「私が恐れているのは、ハウト男爵家の側がそれに不満を感じていることだ」
当たり前のように、リアントゥム男爵家には勝てないだろうという観測を持たれることが、日々訓練に励んでいる兵士たちにとってみればたまらない屈辱である。
それゆえに、潜在的に本当に戦争になったら目に物見せてやろうと勇躍している者は少なくないはずだ。
それが、アレンの戦争も辞さずの強硬路線を支持して、戦争になったら我々にお任せをと気勢を上げれば情勢は不穏となり、それを察知した元々好戦的なリアントゥム男爵家の側がそれに応じることになりかねない。
そうなった時にリードが抑え切れるかどうか。
「あのう……イリアさんは、今回のことってどう思いますか? ブレンニールさんがせっかく苦労してまとめた話なのに、やり直すだなんて……」
恵一としては、やはり根底に戦争はいけないことだという意識があるゆえに、戦争回避を目的に動いたブレンニールに理があると思うし、それをぶち壊そうとしているアレンのやり方に反発を覚える。
「確かに、一度まとまった話を覆すのはよくない。今回の件では、ハウト男爵家が完全な被害者だが……このことに関してはリアントゥム男爵家が被害者とも言える」
「そう、ですよね」
「だが……私としては、ブレンニール殿も少しまずかったと思う」
「そ、そうですか」
「うむ、あの方は、ちょっとリード殿に好意を持ち過ぎたと思う。交渉相手なのだから信頼関係を築くのはいいが、相手の立場を慮って無闇に引くのはよくない。いくらリアントゥム男爵家の暴発を防ぐためとは言ってもな」
そのことが、結局はリードに籠絡されたと身内に受け止められてしまうことになった。
「交渉相手の信頼を得ても、身内からそれを失ってはどうしようもない」
それでも、なんとかかんとかおさまりそうなのでブレンニールとしては自らのやり方を正しいと確信できたであろうが、それはギリギリのところで成立していたものである。
その危うさはアレンの登場によってあっさりと露呈した。
ブレンニールを信頼できないと思っていた者が、彼の想像以上に大勢いて、それらがアレンの元へ走って勢力を形成してしまった。
「でも、それじゃあどうすればよかったんでしょう。あんまり強く出たら、それこそリアントゥム男爵の方は、あいつはスパイだ文句あるか! それなら戦争だ! って爆発しちゃったかもしれないんでしょう」
「爆発させてしまうべきだったかもしれん」
「え、そんな、駄目でしょう」
思わぬ言葉に、恵一は驚いた。
それは戦争してしまえということであり、いくらなんでもイリアも戦争にはするべきではないというのは同意見だと思っていたのだ。
「いや、戦争しろというのではない」
だが、イリアはそう言って恵一の誤解を訂正した。
「戦争と言ってもな、準備に時間もかかるし、なによりいきなり戦争になるわけではないぞ。どちらも主持ち、それも同じ主だ。勝手に戦争などできん」
どちらも、先に手を出してくるのを待ってそれへ止むなく反撃したという形にしたがるだろう。もちろんそのための、先に手を出させるための挑発はするだろうが、そのことは兵士によく説明し、軽挙するなと言えば押さえることは可能だろう。
「そして、その間に、王都の男爵へ急報する。あちらの男爵も王都にいるから、あちらで折衝があるだろう」
家臣である男爵同士が戦争になりかけているという情報は、当然二人の主である国王の元にも入る。
そうなれば、王が仲裁に乗り出すだろう。
王にしてみれば、家臣同士の争いなど王国の勢力を削ぐだけでなんの得にもならない。極力、戦争にならずに済むようにおさめるはずだ。
「陛下が諭されれば、リアントゥム男爵家の者も軽挙はできん」
「なるほど」
話を聞いていて思ったのは、リアントゥム男爵家というのは武を誇りにしそれを磨いているのとは別に、王家に忠実であることも誇りにしているということだ。
ハウト男爵家に屈するのは我慢ならなくても、王の仲裁に従うという形ならば、かなりの部分まで我慢するであろう。
「……それじゃあ、最初っから王様が出てくるようにした方がよかったということですか」
「結果論ではあるがな、アレン殿が来なければ一応上手く行っていたのだからな」
それに、ブレンニールにしてみれば相手のリードが自分と同じ気持ちなのを知って、これならば主人や、ましてや国王陛下の手を煩わせずに解決できると思ってしまったのも無理は無い。
そこは、そのような問題を自分の一手で解決したことにより得られる、手柄への功名心もあったであろう。
「じゃ、じゃあ、今から戦争になりそうになっても、結局のところ王様が仲裁に乗り出してきておさまるということですか」
そこは、希望を持てるところだ。
「……うむ、そうなるといいのだが、一度まとまりかけた話を蹴ってやり直すというのをどう受け止めるか……暴発しないといいのだが」
リアントゥム男爵家の側の怒りが臨界点を超えたら、開戦即侵攻というのも考えられない話ではない。
なにしろ、リアントゥム男爵家は王家に忠実であるだけでなく、同僚をぶん殴ったり司令官を無視したりする前科にも事欠かぬ家である。
二回もお取り潰しを免れているだけに、またやらかしたとしても誠心誠意、王への忠誠心溢れるちょっと面白い謝り方すれば許してもらえるに違いねえと、そこは少し王に対しての甘えがあるようなところもあり、それが分別をふき飛ばさないとも限らない。
「それじゃあ、やっぱり戦争になる可能性はあるんですね……」
そう言った恵一の様子があまりにも沈んでいるように見えたのだろう。
イリアは、殊更に明るい声で、
「ケーイチ、お前には本来関係ないことなんだ。あまり気にせず、お嬢様を守ることだけ考えていろ。それでいいんだ」
と、言った。
「いや……おれも、正直関係ないとはわかってるんですが、とにかくお嬢様が気に病んでいるようなので……」
「ケーイチ……」
イリアは、あまり表情に感情をあらわす方ではない。
だが、その時、明らかにその表情には、恵一への好意が見えた。
「お嬢様は、助けられた恩返しにお前を護衛に雇ったわけだが……お前を護衛にして正解だったな」
「そ、そうでしょうか」
「お嬢様をこれからも気にかけて差し上げてくれ。あの子……お嬢様は、そういう気持ちを察することができる人だ。それだけで、幾らか心が軽くなるだろう」
「そうだといいんですが」
「もっと自信を持っていい。お嬢様は、お前を頼もしく思っている」
常に側近くいたイリアだから、それは本当のことなのだろう。
「そういえば、剣は振っているか」
「あ、いや、それが気になることが多くて」
「ちゃんとやっておけ」
「はい」
「覚えているか。ちょっとやってみろ」
「あ、はい」
その場で、剣を抜いて振ってみる。
「違う、こうだ」
「はい」
「そう、そうだ」
恵一は、熱心にイリアの教えを吸収しようとした。
ミレーナが恵一を頼もしく思っているというのは、やはり自分が命の恩人だからだ。
それならば、ミレーナのその思いに相応しい強さを持ちたい。
時々発動する謎の力については、三度も経験しているとなんとなくその発生の条件みたいなものは見当もつく。
それは、殺気だ。
殺気に反応する。すなわち自分の身に危険が迫ると発動するようになっているのではないか。
それならば安心ではある。
自分の身を守るだけならばだ。
しかし、自分はもうこの世界で、自分以外の大切な人を得た――得てしまった。
ミレーナもケイトもアンも、守りたい。
イリアは……十分本人が強いので守る必要は無いだろう。
「よし、ちゃんとやっておけよ」
「はい」
一通りのレッスンを終えて、恵一たちは宿屋を出た。
「よし、それじゃ一度戻ろうか」
「……え、ああ、そうだな」
「どしたの、ケイト、考え事?」
反応が遅かったので、聞いてみた。
「ん、ああ、ちょっと気になったもんでさ」
「なんだよ」
「恵一って、ハウト男爵に雇われてるんだよな」
「ああ、そうだね」
恵一の意識としては、ミレーナに雇われているのだが、正式には男爵に雇用されていることになっているはずだ。
「いや、戦争になったらさあ」
「うん、ならないといいけどね」
「恵一、レベル10だからさあ」
「うん」
「戦争に、駆り出されちまうんじゃねえかなあ、って思ったんだよ」
「え……」
それは、全く想定外のことであった。
戦争が起きるかも、というだけでちょっとビビっている自分が戦争に参加することになる?
「いやまあ、お嬢様の護衛として雇われたんだから、そんなの契約に入ってねえって断ればいいと思うんだけどさあ。その、お嬢様の兄貴ってのが戦争になりそうだって時に、恵一がレベル10だって知ったら、なんとしても駆り出そうとすると思うんだよな」
「いや、そんな、戦争なんて」
絶対に嫌である。
「うん、あたしもさ、ゴールド積まれても止めた方がいいと思う」
ゴールド積まれたら大概のことは受ける方向のケイトにしては、意外なことをおっしゃる。
「戦争だからなあ、何が起こるかわからないよ。リアントゥム男爵家の軍隊は強いらしいから、レベル10ぐらいの奴もけっこういると思うんだよな。それが一斉に来たら、恵一やられちゃうだろ」
「あ、ああ」
確かに、その危険性はある。
おそらく、危なくなったらあの力が発動するとは思うのだが確実ではないし、それにあの力がどれほどのものなのかはっきりわかっているわけではない。
これまで、低レベルであろう野盗の集団と、レベル10の人間の男と、それとクマを倒したが、そこそこのレベルの敵が集団で襲いかかってきた時に必ず撃退できるかどうかはわからない。
「やっぱり、断った方がいいな」
「うん」
と、言いつつ、恵一がほんの少し不安になったのは、ミレーナに頼まれたらどうしようかということであった。
ミレーナがそんなことを……とも思うが、もしかしたらハウト男爵家のためならば彼女も普通ならしないことをするかもしれない。
それに、恵一が恐れたのは、ミレーナが沈み込んだりした時に、自分からそれを申し出やしないかということである。
どうも、ミレーナが沈んでいたりすると、凄く嫌な気持ちになって自分がそれをなんとかできるならばしたい、と強烈に思ってしまうのである。
もしかしたら、それで戦争に参加して、元いた世界に帰る前に死んでしまいかねない。
「まあ、戦争になって負けても、男爵家が消えて無くなるなんてこたぁないよ。一応同じ王様の家臣なんだからさ」
「ん、そうか、そうだよな」
サブタイトル考えるのが面倒臭くなってきた




