しょうがないけど
この野郎っ、許さねえ!
と、恵一は思った。間違いなく、そう思ったのだ。
しかし、そこで怒りに身を任せ、忘我の境地へと至り、突っかかっていくようなタチではない。
そうしたい気持ちは、確実にあるのだ。
無力な少女を盾にするどころか投げつけて、それを抱きとめたカツヤをその少女もろともに鑓で薙ぐような行為を迷わず卑劣と断定し、それをした者に即座に報いをくれさせてやりたい、という気持ちはある。
だが、同時にそうしたいところではあるが、自分一人でこの強敵に当たるのは得策ではない、という程度の計算ができてしまう冷静さはしぶとく残っており、一時の――本当に一瞬に過ぎない――激情が去ると、そちらの自己嫌悪したくなるような冷静さがまるで最初からそこにいたと言うように心の座を占めてしまう。
「くそっ……」
舌打ちしたが、行けんものは行けんのだ。
だが、それならばどうなる。
誰も魔王を阻む者がおらず、まんまと逃げられてしまうのか。
カツヤは――と視線をやれば、立ち上がりかけて、かなわずに倒れていた。セレナが駆け寄っている。彼女は高レベルの魔術師のようなので、おそらく治癒魔法も使えるだろうから命に別条はなさそうだが、しばらく戦闘不能なのは間違い無い。
周囲を見れば、近くの味方は雑魚相手ならばともかく、魔王に打ってかかれそうな者はいない。
魔王は、既に逃走を再開している。
思わず、追った。
いや、追って、追いついたからどうするということも考えずに、ただ、追った。
魔王は逃げる途中で、ふと立ち止まり、やや方向を変えた。不思議に思いながら追尾していた恵一だが、魔王が少女の元へと行き、再び彼女を抱え上げるのを見て、我を失うほどに動転した。
いったい、何をしているのだ。
あの少女は、魔王によってとても酷い目にあった。
カツヤが庇ってくれたから鑓の直撃こそ免れたが、動かずに転がっていたことからある程度はダメージも受けているのだろう。
怖い思いも、痛い思いも、散々した。
かわいそうだが、魔王にとってはもう用無しのはずだ。打ち捨ててさっさと逃げればいいではないか。
それを、もう一度拾い上げたということは答えは一つだ。
また、あんな感じに使うつもりなのだ。
また、あの子は怖い思いも、痛い思いも、散々にさせられるのだ。
先程の怒りは、既に終わったことへの怒りだった。
怒りはしたが、すぐに冷静さに座を譲った。
今度の怒りは、これから起こるであろうことへの怒りだ。
「その子を放せ、このクソ外道っ!」
激情を拘束する冷静さが焼き切られるように弾けた。
許せなかった。
さっきも、許せなかったが、今度こそ許せなかった。
二度目だ。あんな酷い目に、あんな小さな女の子がもう一度見舞われるのだ。それは断固として許せない。
一度ならいいんかい、と言われたら、もちろんよかぁないのだが、その間に恵一にとっての超えてはならぬ一線があり、奴はそれを超えた。
それに、先程は何をするのかわからぬうちに事態が進行してしまったが、今度は何が起こるかがわかっているのだ。
ならば誰かが止めねばならぬ。
そして、どうもこの場にいてそれができうるのは自分だけらしい。
おれしかいない――というのに、けっこう義侠心をくすぐられるタチである。思えばこれまでずっとケイトの「ケーイチしかいない」というのに上手いことコロコロ転がされてきた。
「あ?」
魔王は、ぐったりとした少女に何か言っていたが、恵一に罵倒されて視線を寄越した。瞬間、渋面となる。
魔王としては、カツヤだけでなく恵一も十分以上に嫌な相手と認識している。
いや、カツヤが危なくなるとちょっかいを出してきて、カツヤが立て直せばまた引っ込むので、ついついカツヤこそ主敵という意識でいたが、こちらの攻撃を微動だにせず防御するこいつこそが、足止めされるのが一番嫌なこの状況下においては真に厄介極まりない相手ではないか。
「相手してられっか」
こいつの見るべきところは防御だけで、それ以外の点ではありとあらゆる面において大きく自分が上回っている。
ならば、相手にしないのが最善の方法だ。
魔王である、と曲りなりにも意識してふんぞり返っていた以前であれば、こんな弱そうなのに背中を見せたら威信に関わり、威信の低下は部下の求心力の低下に繋がるなどと、老人に吹き込まれたことに影響を受けて多少なりとも考えただろうが、そんなものとはもはや無縁である。
逃げていいし、逃げるべきだ。
「あ、待て!」
なんか喚いているが知ったことではない。こんなの無視して全力疾走だ。
恵一は、慌てて追った。足は向こうの方が速いが、とにかく追っていけば何が起こるかわからない。
騎兵が駆け付けてきて交戦となれば、ほぼ確実に魔王の一撃を防げる自分も役に立てるはずだ。
魔王は、僅かに遅れて追随してくる恵一に、先程からずっと感じていた鬱憤をぶつけたい衝動にどうしようもなく駆られた。
こいつさえいなければ、という思いがいかようにしても頭から出ていかない。
恵一が、右後方を走ってくるのに気付いた魔王は、鑓を後方に振った。
おそらく、防がれるだろう。だが、さすがに自分の全力ではないとはいえそれなりに力のこもった攻撃を軽々とは受けられぬはず。防御のために下半身を踏ん張る必要があり、一瞬だけでもその場に立ち止まらざるを得まい。
この長い鑓でそれをやれば、少しは距離を稼げるだろう。
「うぜえんだよ!」
という計算とは別に、やはり恵一に対する怒りを多少なりとも晴らしたいという気持ちも強い。
「しまった!」
恵一は、自分が右手に鑓を持った魔王を追うのに右後方につけていた失策を、ようやく鑓が振られるその時になって悟った。
剣術の基礎を突貫で学び、幾らかの実戦を経験したとはいえ、恵一がまだまだ戦闘の素人であることを如実に示すところだ。
少しできる人間ならば、ここは真後ろから左側に位置取りをしている。
しかし、とにかく防がねばならない。
しかし、物凄い違和感がある。
魔王が攻撃してきて、いざそれを防ごうとする時にあるべきものが無かったような気がする。
剣の腹を鑓が向かってくる方に向ける防御姿勢は変わらない。これで、今日は何度も何度も魔王の攻撃を防いだのだ。
我ながら、どうも剣を持つ腕にも、地面を踏みしめる足にも、いまいち力が入っていないような気がした。
「あっ」
殺気だ。
全身が悪寒になったかのような恐ろしいあの感じ。あれが無いのだ。
あれが無いから、その後に身体の中心部から湧きあがって瞬く間に全身に行き渡る自分のものとは思えない力強さも、無いのだ。
それが何を意味するかをきちんと理解する前に、魔王の鑓は恵一の剣に接触した。
走りながら、後方に振った、というのを抜きにしても、その威力はこれまでの魔王の殺す気満々の攻撃に比べれば大したことはなかった。
受けた瞬間、そのことはわかったのだが、受けるこちらもまたそれ以上に、先に比べて大したことがなくなっていた。
「うおあ!」
剣と鑓の接触点から膨大な力が伝わってきて、必死に踏ん張ったのも虚しく足が地面から離れて転倒した。
思い切り地面に身体を打ちつけて頭よりも先に身体で理解した。魔王は適当に牽制するつもりで殺す気も、なんだったら攻撃するつもりすら希薄なままに適当に鑓を振り、そのために例の殺気に反応する謎の力が出なかったのだ。
身体の痛みに呻きながら起き上がる。魔王がそういう対応をしてくる以上はもう攻撃を防ぐことはできない。
どうしたものかと逃げる魔王を目で追うと、全く想定していなかったことに、魔王がこちらに向かってきていた。ていうか、もうすぐそこ――鑓が届く位置にいる。
逃走に全力を挙げていたはずなのに、なぜ戻ってきたのだ。
と、思う間もなく、来た。
ぞわっと、全身が総毛立つ。
一瞬遅れて、力が漲る。
魔王が鑓を、思い切り頭上に振り下ろしてきた。
いかにも酷薄な笑みを浮かべながら、既に忌々しい邪魔者を殺した快感に酔っていた。
恵一は、咄嗟に剣を頭上に掲げてこれを受けた。
力が伝わってくる。
それに揺るぎもしない我が身体が、頼もしい。自分の身体じゃないみたいだ。
「んな!」
魔王は、あからさまな動揺に笑みを消し、一瞬迷ったふうに動きを停止させた後に、再び鑓を振り上げ、振り下ろした。
狙ってくる場所は変わらない。恵一は先程と同じ姿勢のまま防御した。
「このっ!」
困惑の度合いをますます深めつつ、魔王は鑓を旋回させて右――恵一から見て左から横薙ぎの一撃を送り込んで来た。
剣を傾けて防ぐ。
「てめえっ!」
鑓を引き、身体をねじり、大振りの攻撃を企図していることは明らかだったが、恵一は動かずに予想される攻撃に対応できるように剣の位置を変えつつ待った。
それこそ、戦闘経験があり、臨機応変の才にも恵まれた人間であったならば、その隙を見逃さずなんらかの行動を起こすのであろうが、そんなものは恵一には無いし、そのことを強く自覚していた。
下手に動いて、魔王がこちらの思いもよらぬ行動に出た場合、却って事態が悪化する。大振りの攻撃を防御できずに貰ってしまえば、タダでは済むまい。
それよりも、しっかりと防御に専念すべきだ。
魔王は、短い距離とは言え逃走中に来た道を戻ってきている。その上にこの場で立ち止まってしまっているわけで、相当に痛いロスなはずだ。
来た。大振りでいかにも威力はありそうだが、例によって魔王の攻撃は素直である。恵一程度の戦闘経験でも、繰り出す直前の姿勢からこう来るだろうなと予想できる軌道をほとんど外れて来ない。
どう来るかさえわかっていれば、恵一には防げる。
ずしりと一際重い一撃だったが、防ぎきった。
魔王からの殺気は止まらない。むしろ、増している感じすらする。こうまで連続で防がれてはそれも当然か。
恵一にそこまで察することはできなかったが、魔王の怒りの源はそれではなかった。
だまされた――
という、最近しょっちゅう感じているアレである。
だが、これまでは老人に対してだったが、言うまでもなく今のそれは恵一に対するものだ。
と、言われても恵一としては、だましてなんかいないぞと心の底から主張したいであろう。
だが、魔王からすると適当に振った鑓でこれまでビクともしなかった恵一が、大きく体勢を崩して倒れるのを見て、つい引き返してしまった。
理由を深く考察もせずに、今まで完璧に防御していたのが何かの間違いで、あれが本来のあいつの力だ、と思ってしまった。
いや、実のところそれほど間違ってもいないのだが、殺気に反応するなどとは知るはずもなく、殺す気で――つまりはわざわざその力を引き出してやったためにしっかり防がれてしまったわけだ。
躍起になって二度三度と仕掛けるも、それも防がれ、ふと冷静になってみればさっさと逃げなければいけないこの場面でやってはいけないことをやってしまったのだと嫌でも気付いた。
一応、引き返す時は周囲を見て、大丈夫だと思ったからそうしたのだ。だが、それは一撃で恵一を殺せるということが前提になっており、その前提が崩れたのだから恵一が防御のために足を止めている隙に再び逃走に移るべきだった。
散々邪魔してくれた恵一への、鬱憤晴らしの好機だと飛びついた浅はかさが主因なのだが、自省に縁遠いこの男がまず思ったのは、まんまとだまされたということだった。
魔王の主観では、そうとしか思えないのも事実である。
どう考えても、恵一がわざとろくに防御もできずに倒れて見せて自分を誘ったとしか思えなかった。
魔王と対峙する恵一の耳に馬蹄が地面を打ち鳴らす音が入ってきた。
騎兵が駆け付けてきたのだ。
「くそっ!」
恐れていた事態に直面し、その元凶である恵一を睨む目にも力が入るが、恵一にしてみればそんなの知ったこっちゃない。
近寄るんじゃねえとばかりに魔王は鑓を振った。そうしていれば、鑓の長さよりも近くには誰も近付けまいと思っていた。
やってきた騎兵は五騎と数はそれほどに多くない。
その数を見て、魔王も絶望までには落ちず、力を取り戻したようだった。
案の定、鑓の長さから先には絶対に近付いてこないのに、やっぱりなと改めて自分の強さに自信を持つと同時に、まだ大丈夫だと確信を得た。
逃走先に目をつけていた森に向けて走る。
騎兵ならば、平地では自分についてこられるだろうが、森に入ってしまえばそれがネックとなって追ってこれまい。
時々、鑓を振って威嚇しながら、走る。
近付けまい、と不敵に笑っていた魔王だったが、その笑みに影がさした。
突入しようと算段していた森の前に、騎兵が現れて退路を遮断にかかっていたのだ。
「ええい!」
笑みこそ消えたが、立ちはだかるのならば蹴散らせばよいと思い定めて進路を変えずに猛進する。
前に気を取られたのを見てとったか、左側を走っていた騎兵が思い切って馬を寄せた。
魔王は右手に鑓を持っており、左側は死角とまでは言わないが攻撃しにくい位置だ。
その騎兵も、魔王の持っている親衛隊の鑓よりは短いものの、そこそこ長い鑓を持っており、寄せてその鑓で叩こうとした。
魔王は、気付くのが遅れ、その騎兵が鑓を振り下ろす前に自分の攻撃が間に合わぬと瞬時に悟り、左手に持っていたものを使った。
少女――ルルを盾のように掲げたのだ。
騎兵の手が一瞬、止まった。
「すまん」
彼自身にしか聞こえぬような小さな声で呟くと、鑓を振り下ろそうとしたが、その一瞬の遅滞が致命的だった。
魔王は、身体を回転させてそれに乗せるように鑓を振った。
人馬ともにふっ飛ぶ。そして、人馬ともにその一撃で絶命していた。
その死に顔は悔しさに歪んでいた。その顔立ちからまだ若いということが知れるその騎士は、戦場では一切の容赦は不要であると祖父や父から教えられていたが、それを守れなかったことを死の寸前に悔んでいた。
これが歴戦の強者であれば、盾にされた少女など構わずに鑓を振り下ろしていたであろう。だが、若い騎士は迷ってしまい、そこを衝かれてしまった。
「クソ野郎っ!」
後ろを走っていた恵一には、騎士が少女の盾に怯んで打ち殺されたのがはっきりとわかっていた。
だが、彼の死は全くの無駄だったわけではない。
左側に鑓を振るために、魔王は身体の向きを変えており、そのことは当然、逃走の速度を殺した。
追い付ける。
魔王は、危機を脱して笑っていたが恵一が突進してくるのを見て、さすがに顔色を変えた。
鑓を振る。防がれる。
相変わらず、うぜえ奴だ。
舌打ちする。
だが、ここから思いもよらなかったのは、防御したそいつが即座に前進を再開したことだ。
「な、こいつ!」
同じ行動を繰り返し繰り返ししているうちに、魔王の目も意識もその繰り返しを当然のように認識してしまい、いつのまにか恵一に対して、こいつは防御はやたらと上手く、それを活かして自分の攻撃を防ぐ役目に専念しており、自分から斬りかかってくることなどしないのだと思い込んでいた。
恵一としては、意表を衝いてやろうなどという気持ちは全く無く、ただ再三少女を道具のように酷使する姿にいよいよ我慢ができなくなって感情が爆発してしまった。
それゆえに突進自体には迷いがなく、かなりの速度で一気に距離を詰め、鑓では不利な剣の距離にまで踏み込んで魔王を狼狽させた。
苦し紛れに、魔王はまた少女を盾にした。
だが、激情に突き動かされた恵一に、はからずも、それは有効であった。
あ、この子がいたんだ。どうしよう――
今更それに気付いた恵一は、迷った。とても迷った。
その間に、魔王は地面を蹴って後ろに飛び、剣の距離からは脱してしまった。
――ああ、よかった。
と、ほっとした。それを自覚した瞬間、無理だ、と思った。
盾にされた少女など構わずに攻撃するなんて、やっぱり自分には無理だ。
魔王が後方に飛んだ時に、逃げられたことを悔しがるよりも、距離が開いてしまったから少女を盾にする魔王へ剣を振り下ろす決断が先延ばしになったことを喜んでしまった。 こんな自分に、できるわけがない。
例え、どれだけ頭の中で理屈を――ここで魔王を逃がして再起を許せば、あの少女だけではない、もっと多くの命が失われるのだという理屈を堅牢に築き上げ、あの子はかわいそうだけどしょうがないと割り切ったつもりになったところで、いざ目の前に突き付けられたら、絶対にできない。
「おらっ!」
魔王が距離を取った瞬間に鑓を振ってきた。さっきの若い騎士と違うのは、恵一はそれを防げるということだ。
その間、魔王は足止めされているわけで、続々と味方が集まってきていた。
だが、魔王の強さを散々に見せつけられているので、積極的にその進路の前に出ようという者がいない。
騎兵――騎乗が許された騎士はさすがに何騎かが勇を奮って近付いたが、すぐさま魔王の鑓で叩き落された。
「へっ……」
鼻で嗤う。
敵がどんどん集まってきた時は焦ったが、どいつもこいつも敵ではない。すっかりビビって前に立つ者は少数だ。やはり殺されても殺されても打ちかかってきた親衛隊が特殊なのであって、正規軍の兵士と言えど確実に殺されるとわかってかかってくる者は極僅かなのだ。
とは言え、これから続々とヴェスカウ伯爵家の兵士が到着すれば数が多いだけに、中には本心から死を厭わずに向かってこれる猛者もそこそこいるだろう。悠然としているわけにもいかぬ。
「待て!」
「あ?」
向かってくる。あいつだ。例の邪魔な奴。
鼻で嗤う。ルルを見せつけるように掲げる。あからさまに、それをやられると打つ手が無いですと言わんばかりの顔になり、前進が止まる。
こいつは厄介には違いないが、これで手を出せないのだから結局は脅威ではない。
「どけ!」
一喝すると、じりじりと下がる。
どうすればいい――恵一は下がりながら考えたが答えは出ない。
恵一が何度も魔王の攻撃を防いだのを見ている他の兵士たちからは、何やってたんだ行けとけしかける声が上がっている。
だったらあんたらが行けよ、と思いたくもなるが、彼らは自分が行っても殺されるだけだからある意味、しょうがなく恵一に行けと言っているのだ。
「かわいそうだけど、しょうがねえだろう!」
明らかに、盾にされた少女のことを気にして斬りかかれないのは見ていてわかるのであろう。そんな声も混じり始める。
しょうがない。……そんなことはわかっているのだ。頭では、魔王をこの場で討ち取ることがあの少女一人の命よりも優先すべきことはわかってはいるのだ。
「どけどけ!」
甲高い声が聞こえてくる。聞き覚えのある声だ。
声はどんどん近付いてくる。
「ケーイチ、待たせたわね」
割れた人波の間から現れたのは、不敵な笑みを浮かべたリーンだった。




