表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/240

長い夢だな

異世界チートハーレムがイイらしいぜ、と聞いてそれならおれにも書けそう! と書き始められた志の低い作品です。でも楽しく面白い話にしたいので読んだってください。

 いい夢を見ていた。

 なんでいい夢かというと、見たことないような美少女が自分をじっと見つめているのだ。

 それだけといえばそれだけなのだが、見たことないような、というのが決して全く少しも誇張ではないのだ。

 明るい金色の髪に白い肌、深海の色をした碧眼。

 日本人ではないのは間違いないのだけど、じゃあどこの国の人だろうと思うと、いまいちよくわからない。とにかく可愛らしい顔の少女だ。

 じっと見てくるのを、じっと見返している。

 見ているだけで幸せになってくるので、しばしそうしていた。

「選ばれし者よ」

 唐突に、少女が言った。

 この場には自分と少女しかいない。

 ということは、選ばれし者というのは自分以外にありえない。

 何に選ばれたのかは知らないが、何かに選ばれでもしなければこんな美少女と二人きりで見つめ合うことなどあるまい。

 少なくともこれまでの人生には、そんなことは一秒たりとも無かった。

「お願いです」

 何か、お願いしたいらしい。

 どうせ夢である。こんな美少女のお願いならばなんでも聞くつもりで、頷いた。

「魔王を、倒して、世界に光を取り戻してください」

 そっち系の設定か、よしわかった。

 美少女に召喚されて魔王を倒す戦士となる。

 夢らしく、ロマン溢れまくる話ではないか。

「おれに、任せておけ」

 意識して、低い声で渋く決めてみた。

「ああ……ありがとうございます」

「ふっ……礼には及ばん」

「次に目覚めた時、あなたは今まで住んでいたところとは別の世界にいるでしょう。わたくしも、その世界におります。必ず……必ずわたくしに会いに来てください。その時、魔王への道を示すでしょう」

「ああ、待っていてくれ、必ず会いに行く」


「うーん」

 天本恵一が目覚めた時、見えたのは見慣れた天井ではなかった。

 抜けるような青空。

「ありゃ?」

 いつ、外で昼寝をしてしまったのか、そんな記憶は全く無かった。

 草の臭いが鼻腔を撫でる。横を見れば緑色。

 どうやら、自分が草むらの中に埋没するように横になっているのだと知る。

「あれ、おれこんな服着てたっけ」

 今まで一度も着たことのないような服を着ている。ひどく素朴というか、布でできているには違いないのだが。

 寝る時に着るパジャマとは違うし、高校の制服とも違う。

 立ち上がってみて、呆然とする。

 草原がどこまでも続いていた。

 こんな場所が、自分の家の近くにあるという記憶も無かった。

 色々と総合して考えてみた結果……なんだか自分は知らない服を着せられて、知らないところへ飛ばされた、としか思えなかった。

「これって、もしかして……」

 呟いた時、声が聞こえた。

 それが、怒鳴り声だったため、反射的に身を屈めてしまった。

 草の背丈は腰ぐらいまでの高さがあり、そうすると完全に体を隠すことができた。

「広がれ! 逃がすな!」

「おう!」

「まわりの草ぁ刈っちまえ」

 恐る恐る見れば、声の主は複数の男たちだ。

 両刃の剣を持っていて、それを振って草を刈っている。

 服装は、おそらく革製の鎧を上半身につけている。

「こりゃあ、やっぱり……」

 恵一は、浮き立った表情で言った。

 困惑は、消えている。

「夢の、続きだ」

 あの鎧姿に剣を持った連中を見て確信した。

 いかにも、魔王とかいうシロモンがおわします世界の住人ではないか。

 で、自分は魔王を倒すために呼び出された選ばれし者なのである。

 きっと、あんなのは雑魚であり、恐れるような者ではあるまい。

 がさ、と――

 目の前の草が音を立てた。

 その音と同時に、草は左右に分かれる。

 分かれてできた空間に、人間の顔が現れていた。

 その顔の両脇に手があることから、両手で草を掻き分けて来たのだということがわかった。

 で、その顔であるが――

 あっ、可愛い。

 と恵一が思った瞬間、

「んきゃっ!」

 と、その顔の口が開いて、甲高い声が発した。

 声も可愛い、と恵一は思った。

 草を分けて現れたのは恵一と同じぐらいの年頃に見える少女だった。

 で、可愛い。

 ブラウンの長い髪を頭の後ろで縛っている。

 お互いに顔を見合って、何も言えずにいた。

「そっちか!」

 そうやってお見合いしているのも、恵一としてはなにしろ相手が可愛いので構わんかったのであるが、先ほどの男たちが声を聞きつけて近付いてくる気配がする。

 何かを探していたようだったが、どうやらこの少女が目当てだったようだ。

 足音と声が、四方から聞こえる。

 完全に囲まれているようだ。もう、草に隠れて逃げることもできまい。

 少女は、泣きそうな顔をしたかと思うと、すぐに泣いた。いや、涙が一粒浮かんだところで瞳に力を入れて、堪えたようだった。

 少女は、まあ成り行きではあろうが、その間、恵一を見ていた。

 そんなことされると、保護欲が刺激されざるを得ない。

「よし」

 恵一は立ち上がった。

「あ? 男じゃねえか」

「いや、さっきの女もいるぜ」

「なんだ、こいつは」

「さあな、まあ丸腰だし、問題ねえ」

 男たちは、いるとは思っていなかった恵一の登場に少しは驚いたようだが、一人だけということもあり、自分たちの目的の支障になるとは思っていないようだ。

「お前ら、見るからに野盗だな」

 じろりと睨みつける。

「大丈夫だ。安心しな」

 震えている少女に、言ってやる。

 なかなか、夢のある夢である。

 雑魚どもを蹴散らすだけでは味気無いと、自分に助けられる美少女まで用意してくれるとは気が利いているというものではないか。

「男は、殺していい」

「おう」

 殺気――

 そんなもの、感じたことはないのだけど、これがそうなんではないかという嫌な感じが来た。

 こいつら、おれを殺す気か。

 今更ながらに、恵一は思った。

 だがまあ、雑魚であるからして、問題ない。

「……」

 なかなか、いい面構えだ。

 必死に目を合わせないようにしている怖い先輩の何倍も怖い。

 なんていうか、人を殺すことをなんとも思っていない……それに慣れきったような顔。

 あれ?

 夢だから大丈夫なはずなんだけど、怖いことは怖いぞ。

 ビビった恵一は、無意識のうちに、腰の辺りを手で探った。

 魔王を倒すために召喚された選ばれし者なのだから、伝説の……とは冒険序盤なのだから無しにしても、剣の一本ぐらいはあるもんだと思って――

 なんにも無い。

 さっき、男の一人が自分のことを丸腰と言っていたのを思い出した。

「え、マジかよ」

 さすがに、素手はないだろう。いきなり武器装備なしって、どんな縛りプレイだよ。

「あ、あの」

 少女が、心配そうに声をかけてくる。

「だ、大丈夫ですか?」

 大丈夫じゃねえ、とは言えずに、辛うじて、

「武器、武器」

 と、恵一は言った。

「あ……ど、どうぞ!」

 その声に、少女の方を見れば、一本の剣を持っており、それの柄をこちらに向けていた。

「お、おおう!」

 助かった、と思いつつ、恵一はその剣を手にして、抜き払った。

「ん? うん……」

 率直なところを述べると、第一印象は、

(ほっそいな、おい!)

 で、あった。

 しかし、考えてみれば華奢な女の子がおそらくは最低限の護身用に持っていたものなのだから、そんなごつくて重いものではないだろう。

(まあ、軽いから片手で持てるな)

 恵一は、右手に持った細身の剣を何度か振った。

「おらぁ!」

 で、そんな恵一にお構いなしに、男たちは距離を詰めてきていた。

「え! あ、ちょ、待」

 まだなんの心の準備もできていないところに打ち込まれて、恵一は慌てた。

「ん?」

 男が、止まっている。

 待て、と言って待つ奴ぁいねえと思っていたが、まさか本当に待ってくれたのか、と思ってしまったほどだ。それほどに唐突に、男は止まっていた。

 いや、止まっていたのではなく、一応動いているのがすぐにわかった。

 だが、その動きが遅いのだ。

 フェイントのためとかそんなのじゃない。

 もう、あからさまに遅いのだ。

 なんだか、世界がスローモーションになってしまったような――

 そう思ったが、そうではなかった。

 咄嗟に、男の腕を狙って振った恵一の剣は、ノロノロとした男のことなど知ったこっちゃないとばかりに、ひゅん、と軽く振れてしまったのだ。

「があっ!」

 腕を斬られた男が、苦鳴を上げつつ後退した。

 世界は、元の速さを取り戻している。

「斬られた?」

「いつ、斬られた」

 他の男たちが、不思議そうにしている。おそらく、今の恵一の攻撃が見えていなかったのだ。

「は、はは、そうか、そうか」

 そうだそうだ。

 恵一は、震える声で言った。

 声は震えているが、その声に恐怖はない。

 逆に、安堵がある。

 やっぱり、自分は選ばれし者であり、こいつら最初に出てくる野盗なんぞは雑魚なのだ。

 後ろで音がした。

 そっちにいる奴が、斬りかかってくる。

 そう認識した瞬間に、世界の感じが変わった。

 また、あの感じだ。

 スローモーションの、重力が何倍にもなったかのような世界。

 だが、恵一だけがその重力から無縁であった。

 余裕を持って振り向いた時には、後ろの男はまだ剣を上段に振り上げたところだった。

「やっ!」

 腹の辺りを突き刺した。

 男がまだ痛みすら感じていない間に、足を押し付けて剣を引き抜く。

「お、お、さ、刺さ、れた」

 男が信じられないという面持ちのまま後ろに倒れた。

「な、なんだ、こいつ」

 残りの男は三人いたが、さすがに恵一に不気味なものを感じたのか打ちかかってはこない。

 それどころか、じりじりと後ろに下がっており、既に逃げる機会をうかがっているように見えた。

 無論、恵一は逃がすつもりはない。

 逃げて悔い改めるわけはないのだ。

 前に出た。

 それほど、速く動いたつもりはない。

 それでも、自分が目の前に来たというのに、眼前の男はなんの反応もしない。

 恵一がそこまで近付いていることを、まだ認識してもいないのだ。

 剣を一閃。

 手応えは無い。

 と言っても、効いていないわけではない。

 本当に人体を斬っているのかと思うほどに抵抗を感じられないのだが、鮮血はほとばしっているし、腕が真っ赤な切断面を見せつつ飛んでったりするし、確実に斬れている。

「最後か」

 と、最後の男を見据えた時にはもう、男の顔には恐怖以外のなにものも存在しなかった。

「な、なんだ、お前は」

「なんだと言われても……」

 超美少女に魔王を倒すために呼ばれた選ばれし者だ、と名乗るべきなのか、それともただの、たぶんただの高校生だと言うべきなのか。

 ピーッ、と音が鳴ったのはその時だ。

 これは、笛の音だ。

「ゲッ! 警備隊か!」

 男が言った。

 警備隊……要するに警察組織か、となると野盗にとってはまずい相手だ。

「ゲッ! 警備隊!」

 後ろから聞こえたその声に、恵一は驚いて振り向く。

 可愛い声でわかってはいたが、一応確認した。

 声の主は、もちろん先ほどの少女。

「あ、いや、このお礼はいつか必ず……あ、そ、そうだ! その剣、取っておいてください」

 で、逃げた。

 いやいやいやいや!

 脛に傷だらけに違いない男はともかく、それに追われていた無力でそんでもって可愛い少女がなぜ警備隊を見て逃げるのか。

 可愛い顔して、もしかしてお尋ね者なのか。

 恵一が思う間もなく、少女は逃げていく。

 手に残った、細身の剣を見る。

 柄の部分の精緻な装飾からして、そんなに安物とも思えなかった。

 いいとこのお嬢様に違いない、と思った。

 警備隊から逃げるのは……まあ、あれだよ、うん、怪しいけどさ、なんか理由があるんだよ、あんな可愛いんだから。

 可愛ければいいのかよ、という話だが、躊躇いがちにではあるが可愛ければいいんじゃないかなと思う。

「畜生!」

 という声に、そちらを見れば男が警備隊らしき人間たちにとっ捕まっているところだった。

 まあ、自業自得だ。むしろ他のばっさりいかれた連中よりはマシだろう。

「貴様も仲間か」

 と、険しい顔で言われて、はじめて自分の置かれた状況に気付く。

「あー、はいはい」

 倒れた人間が大勢いて、血塗られた剣を持っていて――

 完膚無きまでに怪しいな。

 大いに自覚した恵一は、男たちに襲われて止むなく応戦したのだと説明した。

「そうか……話を聞きたい、同行願おうか」

「はい」

 恵一は、素直に従った。

 こういう時に官憲に対して、まあ状況が状況だしおれが疑われるのはしょうがないねお仕事ご苦労様ですという態度が自然と出るのだ。

 そのおかげか、警備隊員たちは警戒はしつつも、表情態度から険しさを消した。

 拘束された男と違い、両脇に隊員が張り付いたものの直に体に触れられることはなかった。

 そのため、けっこう気楽に隊員たちの装備や、周りの風景などを観察して楽しみつつ、恵一はやがて城壁に囲まれた都市に着いた。

「ここは?」

「ヤシュガル……知らんのか? 我がジスの王都だぞ」

「ん、あ、ああ、ここが」

「なんだ、貴様。まさか、道がわからんで迷っていたのか」

「はは、まあ、そんなとこで」

 王都ということは、一国の首都ということだ。

 で、王都ということは、この国は王制を敷いた国家ということだ。まあ、この世界観的には王様がいるのが当然であろう。

 取り調べは、恵一の態度が好感を勝ち得たのか、穏やかなものだった。

 幸い、男があったことをそのまま証言してくれたので助かった。

 取り調べが始まってから、あの男が腹いせにデタラメ――例えば恵一が男たちを襲ってきたのだというような――を吹いたら面倒なことになるかもしれないと危惧していたのだが、それは杞憂だったようだ。

 もう一人、そもそも男たちの目当てであった女がいて、それはいつのまにかいなくなっていた、という男の証言に恵一も、いつの間にかいなくなっていた、と合わせておいた。

 どこから来たのか、という話も、頭から道に迷ったアホ扱いなのがむしろ好都合で西の方から……とか適当なことを言うと「ああ、それならあそこの村からか」とか勝手に解釈してくれた。

「よし、放免だ」

「どうも、お世話になりました」

 警備隊の営舎を後にした恵一は、一息ついて――

「……長い夢だな」

 ちょっと困った。

 可愛い女の子を助けて悪党どもを斬り倒し、なかなかいい気分になれる夢だったが、もういいんじゃなかろうか。

 ていうか、あの場で警備隊などやってこないで、少女が感謝感激してあなたこそ私が探していた理想の男性ですと抱きついてきてエンド……でいいではないか。

 一応、感謝はしていたみたいだが、少女は脱兎のごとく逃走し、そんな嫌な気分になったわけではないが取り調べを受ける羽目になった。

「まあ、夢って、そんなもんか」

 夢だからって、思い通りに行くものでもない。

 次の展開が全く読めないのが夢だ。

「で……次の展開はどうなるんだ」

 歩きながら、やや呆然としつつ呟く。

 王都というだけあって、活気のある所だ。

 人が、馬車が、行きかっている。

 露店の類もそこかしこにあり、中には食べ物を売っている店もある。

「ああ、腹減ったな」

 でも、金が無い。

 どこかにそれらしきものが無いかと体中を探ったのだが、硬貨紙幣のようなものは全く持ち合わせていなかった。

 そうなると、持ち物と呼べるのは服を除けば、先ほど少女から貰った細身の剣だけである。

 売ればいくらかにはなるだろう。

 取っておいてくれ、と彼女は言っていたし、助けたお礼に譲渡されたと考えて問題あるまい。

 ならばこいつを売り飛ばしてくれようかと思ったのだが……どこで売ればいいのかわからない。

 さらには、いったいどれほどの価値のものかわからないので、買い取ってくれる店があった場合、完全に言い値を飲むことになるだろう。

 せっかく、少女を助けてそのお礼に貰った剣を売ること自体に抵抗があるのに、安く買い叩かれては彼女に申し訳ない気持ちもある。

 で、悩んでいるうちに、本格的に腹が減ってきて歩くのも億劫になってきた。

 道の端っこの邪魔にならぬ場所を見つけて座り込んだ。

 なんか、急に空腹感が襲ってきた気がする。

 ていうか、これは夢なのだ。

 さっさと目が覚めてしまえばいいのだ。そうすれば台所に行けばいい。冷蔵庫に何かしらあるだろう。

「兄ちゃん兄ちゃん」

 誰かが声をかけているようだ。

 朦朧とする意識の中に、顔が見えた。どうやら、声をかけても返事が無いので思い切り顔を近付けているらしい。

「んー、生きてるよね」

「あ、ああ」

「おー、生きてる生きてる」

 目を見開いてみる。

「兄ちゃん兄ちゃん、見たとこ夢と希望だけを頼りに王都まで辿り着いたはいいが路銀が尽きて仕事も無くって詰んじまったんだね」

「うー、あー、まあ、そんなもんです」

 細かいとこを訂正する気にもなれずに、詰んでるのはその通りだと思ったので肯定した。

「そんなら、うちに来ないか。飯と寝床ならあるぜ」

「え、め、飯?」

「そうだ、飯さー」

 飯という言葉に何も考えずについていきそうになるが、ぐっと堪える。

 相手がどういう人間か知れたものではない。

 そもそも、行き倒れにこんな甘い言葉をかけて誘うのだから、何かよからぬ考えを持っている可能性が高い。

 どんな奴だ。

 朦朧として白い幕がかかったような意識をなんとか奮い起こして、相手を見る。

「あ……」

 自分より幾つか年下に見える子供だった。

 それで、まず幾分警戒心が柔らいだ。こんな子供ならば、そんなあくどいことはするまいと思った。

 随分可愛い男の子だな、とも思ったが、顔だけではなく全体像を見るに及んで胸が僅かに膨らんでいるのを発見した。

 男の子っぽい可愛い女の子だ。

 日焼けして活発そうだし、髪は短いしで勘違いしてしまった。

「ちーっと仕事手伝ってもらいたいのさ、そのお礼に飯食わしたるし、宿が無いなら寝床も提供するぜい」

「あ、はい、もうなんか食わしてくれるならなんでもやります」

 空腹感も極まると、こんな重大な台詞がいとも簡単に出てしまうのだ。

「うっひょお! なんでも言うたね! なんでもいうのはなんでもってことだかんね! 後からなんでもやるとは言ったけど、そこまでやるとは言ってないなんて言っても通らんけんね!」

 男の子……のような女の子は狂喜乱舞して文字通り跳ね回った。

「よし、すぐそこだ。行こう」

「あ、ちぃと肩貸してくらさい」

「おいおい、歩けんほどかよ、大丈夫かよー」

 心配そうに言いながら、恵一よりも頭一つ分小さい体で必死に肩を貸してくれた。

 なんでもいいから早くなんか食いたいと思い、その合間合間に早くさめてくれないかなあこの夢、と思いながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ