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2.学園への入学です

 さて、母から教えを受ける日々が過ぎ、教えを請う課程で疎遠気味だったのがずいぶん仲良くなったと思う。

 授業中は結構厳しいのだが終わった後の休憩時間で不器用ながらも俺を気遣って接してくれる様に母の愛情を感じることができた。

 父の惚気が1/3を占めるのには辟易させられたが。





 そうして日々が流れ小学校に通う歳になった。





 通う学園の名は七季彩学園しきさいがくえんという何やら名前の読み方がおかしい学校だ。七でどうやって”し”って読ませるんだよ!


 七季彩学園は小中高大一貫のいわゆる坊ちゃん嬢ちゃん学校だ。

 父もどうやら学校に行く費用をケチるつもりはないらしい。

 一応、見栄とかそういう物があるのだろうなと思いつつ前世では縁のなかった上流階級の一端に足を踏み入れることに内心ガクブルである。


 それと、この学園での珍しい制度に”飾名かざりな”と呼ばれるものがある。

 学園内で本名とは違う好きな名前を公称として登録できる制度だ。

 無論一度決めると変更は受け付けられないし、まぁたいていは親が決めるのだけれど。


 実家の力に頼らない能力主義がどうたらと難しい文面が建前にあるのだが、たいていは付き合ううちに本名なんてものはバレてしまうものである。

 それでも学園内では許可された者しか本名で呼んではいけないという暗黙の了解に「変な学校にいくことになった」と行く前からさらに気が滅入る。


 ちなみに飾名は苗字だけ変えるのが普通だ。

 俺も鏑矢から母の旧姓である白峰はくみねを名乗ることになった。

 これは入学してしばらくして聞いた話だが本来飾名に実在する名家の名を入れるのは身の程知らずというか恥ずべきことらしい。能力主義云々というやつだ。

 母の実家は名家でありつまり俺は知らないうちにそういう風に見られていたということだ。

 聞いた時はこれは父の遠回りな嫌がらせか? と憤慨したものだが今更変えられるものでもなし。

 父の家名を名乗らないで済むという一点で妥協することにした。





 入学式は父も母もこず、家の者の送り迎えだけ。

 何なのコレ? 子供一人放り込んで投げっぱなし?

 学園で忙しくて来れない家のためのフォローが充実しているけど普通泣いてるからね?

 それでもそれにお世話になるのはここ数年俺一人だけだというのだからやるせない。

 自分の意志で外出させてもらえない母はともかくこんな時でも母の外出を許可しない父はどうかしていると思う。


 そうやって初日から陰鬱な気持ちを抱きながら学園生活が始まることになる。

 無論俺は小学校にあたる初等部の1年からだ。

 前世の記憶というものがあるだけにまわりから浮くことは覚悟していたのだがまぁ世の中にはとんでもない奴がいたもので……



 飾餅かざりもち正月まさつき



 俺の一つ上の2年に当たるのだがこいつがまぁすごい。

 テストは全教科満点。スポーツ万能。その上醸し出す雰囲気がすでに上に立つ者のそれなのだ。

 カリスマというのか? 人を引きつける魅力というものにあふれている。

 お前はほんとうに小学生かと言いたくはなるが。

 まぁ思考は小学生らしくわがままを言ったりそれを無理に押し通そうとしたりと自己中心的なものが見え隠れしている。

 何故かそれがすんなり通ったりするあたり日本では5指に入る財閥の御曹司と言う噂は的外れではないのか……あれ? この学校能力主義じゃなかったっけ?


 その他にも他にも飾餅の右腕候補として注目され彼のために色々とお膳立てを整える暮夜くれないとぼんやスポーツで小学生とは思えない実力を見せる青南あおみなみ夏吉なつきち等、ある意味”濃い”面々が多かったため小学生らしくないという俺の特異性はそうそう噂に上ることはなかった。


 ただし、前世の年齢も合わせれば結構な精神年齢になる俺はどうしても子どもたちを一歩引いてみてしまうため、委員長(くろうにん)のポジを押し付けられそうになったのでそれだけは全力で回避した。





 と、いうわけで飾名の件以外で目をつけられる心配の無くなった俺は2度めの学園生活をそれなりに楽しんでいる。

 授業は前世の記憶と母から習ったことがほとんどで楽勝だ。何人か友達もできた。

 ちょっとした悪癖持ちがいたのだが、そいつがシャレにならないことをしたため大げんかになったりもしたが。

 そいつも今では悪友と呼べる関係になり、まぁぶつかりながらもうまくやっている。


 それなりに整った顔立ちのおかげか女子からも幾度か告白されたが今は全て断っている。

 実際の精神年齢に比べて幾分身体に引っ張られているとはいえさすがに小学生は恋愛対象には見れない。


 テストは狙えば満点はとれたのだろうけれど飾餅と比較されるのも面倒だったので10位圏内に収まるくらいに調整している。

 目立つのはあまり好きではないが何人かには実力がバレていたので開き直ることにした。

 そのせいかは知らないが飾名の件で表立って騒ぎ立てるものはいなくなったのは幸いだ。





 そんな感じで楽しんでいたのだが、学園で好成績を上げていれば父の耳にも入るようで……手のひらを返すように擦り寄ってきた。

 まぁ擦り寄るという表現は正しくなく「他家との縁を結ぶための駒として見るようになった」というのが正しいか。

 上流階級のパーティーに月一の頻度で出席させられるようになった。

 とは言え父が言ってくるのは俺と同じ年くらいだが、俺の家では手の届かないような名家の女の子と縁を結べといった話ばかり。

 母から教えてもらっていた母の実家とつながりのある名家の名前が半分以上ある。母の実家に泥を塗ったとも取れるあんたの息子では無理があると思うんだがなぁ。



 パーティーの会場では俺に名家の子女を狙えといってくるだけのことはあり上級階級の人間が大半を占める。

 そこではやはり成り上がりである父は下に見られるらしく終始ヘコヘコとしてその姿は普段俺に対する態度とのギャップも相まって見ていて滑稽の一言だ。

 俺の記憶が戻った頃はもう少し覇気があったと思うのだが……父への評価がまた一段下がった瞬間だった。


 俺自身は成り上がりの息子と見られているのかそう話しかけてくる者もいなかったのだけれど、父と離れた時に話しかけてくれた何人かはくしくも母の実家とつながりのある名家の方々。

 こういった社交界に出てこない母がどのような扱いを受けているのかを聞いてきてくれた。

 ああ、つながりというのは大事だなぁと思い知らされる。

 俺は本当のことをぶちまけたかったのだが、母に教えられていた「他家に弱みを見せてはいけない」と言う教えに従い涙ながらに嘘を並べ立てた。

 うちは名家というわけではないのでこれに従う必要はないのだが母の教えが身にしみているのだろうか?

 ”鏑矢家”と言う単位で見れば母が無碍に扱われているという醜聞を広めるわけにはいかないのだ。


 何人かは俺の反応を見て訝しげにし、何度か確認を取ってきたが俺は泣く泣く本当のことを飲み込む。

 そう答えていれば俺にばかりかまけているわけにもいかないのだろう。

 みな「母によろしくと伝えておいてくれ」と言って俺の目の前を去っていった。

 何人かは「いざというときは力になるから頼って欲しい」とまで言ってくれた。

 言い出せない俺の心を汲んでくれたことにおもわず涙が出そうになる。





 何度目かになるパーティーの帰りの車中で父は「なぜ○○のお嬢さんに話しかけなかったのだ!」と毎回グチグチとうるさいことこの上ない。

 ……今回のパーティーで接触してきたのは繰原家と菱葦家。

 繰原家は当主が一応聞いておくかという風だったのに対して菱葦家の人は母と同年代らしき男の人で何度も母の現状について聞いてきた。

 年も近いし何かつながりでもあったのだろうか? 帰ったら母に聞いてみよう。


 それにしても……と隣で口うるさい男の話を聞き流しながら思う。

 この男は俺がパーティーに出るたびに密かに縁をつないでいることはわかっているのだろうか?

 傍目から見れば付き合いのある家のお嬢さんを心配してその息子に話を聞いているというふうに見える。

 そして俺は鏑矢家に都合の悪いことは口にしていない。

 だが分かる人には俺の嘘はわかってしまうのだろう。

 そこまで腹芸は得意ではないし何より隠そうと思っていない。

 それを見ぬいた人が鏑矢をどう思うのか……


 直接助けてくれといったわけではないし期待して裏切られるというのもゴメンだが、母の側に立ってくれそうな人を何人か見つけることができている。

 後は母のこの男に対する思いが薄まってくれればいいのだが最近母と出会うことが少ない。

 と言うか意図的に避けられているようなのだ。

 この男の指示かそれとも他に理由があるのかは分からないが少し寂しいと思う。

 ふふふ、すっかりとマザコンだな。


 俺が薄笑いを浮かべると隣から「聞いているのか!」と罵声と手が出る。

 ……今はまだ足りない。だからコレも甘んじて受けてやるよ。

 だが準備が整ったら覚悟しておけ。目にもの見せてやるよ。

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