プロローグ
私は自分の顔が嫌いだった。
瞼は一重、目の下には万年くまがあり、かさかさした肌。
血色の悪い顔色。
薄い唇。
冴えない目つき。
唯一、鼻だけが形良かったが、それさえもこの顔の中にあれば陳腐なものだった。
その醜い顔は、家族に疎まれた。
私の顔は家族の誰にも似ていなかった。
父も母も美男美女の部類に入る人たちで、年の離れた兄と妹は、確実に両親の血を引いていると言えた。
聞けば、私が産まれる前に亡くなったという両親の祖父母達は、これまた若い頃は美丈夫だとか看板娘とか言われていたらしい。
家族の中で私は異端だった。
そんな私に、母はよく言った。「あなたは鬼子ね」
ため息をつきながらこうも言った。
「せめて他人のために死になさい」
自分のために生きる、とか、他人のために生きる、とかではなく、「死になさい」と言われれば普通はショックを受けるのかもしれない。
しかし、自分の存在意義が見いだせない私には、その言葉は「私は何故ここにいるのか」という疑問への明確な理由となった。
そんな私が16歳になったとき。
私は、事故に巻き込まれて死んだ。
塾の帰り道、自宅近くまでのバスの中、私は疲れて居眠りしていた。
だから、バスとトラックが衝突し、死傷者数名を出すような大事故が起きたとき、無防備な私はバスの床に強かに頭を打ち付けて、そのままあっけなく死んだ。
死んだことが悔やまれるのではない。
「せめて他人のために死になさい」
その母の言葉を受けて生きて来た私は、何のためにもならない自分の死が許せなかった。
事故が起きたとき、居眠りさえしていなければ、せめて隣に座っていたおばあちゃんくらいは守れたかもしれない。勿論、私が守らなくても、運よく軽傷だけで済んだのかもしれないが、今の私には知る由もない。
こんな死、なんの価値もない。
誰のためにもならず、
同じく事故に会った人を助けることも出来ず。
私はこんな死、認めない。
そんな私に、声が聞こえた。
ここがどこかも、今がいつなのかもわからなかったが、自分が死んだんだということだけは何故か把握できていた。
それは最初、雑音のようなものだったが。
「--――――----――――うか」
私に向かって話しかけているようである。
「-に――――チャ--を―――うか」
その声は徐々に、明瞭になってくる。
「君に、もう一度チャンスをあげようか」
「…え?」
チャンス。もう、一度。
そう…。できるならば。
もう一度、やり直したい。
――もしも。
次があるのなら。
――私はうまく死ねるだろうか。
「そうか、やり直したいんだね。じゃあ、君が生きていた場所とは違うけど、もう一度だけ、チャンスをあげる」
若者の声なのか、老人の声なのか。男性のものなのか、女性のものなのか。
その声から得られる情報には、年齢や性別といったものは含まれていない。只々、面白がっているだけの声。
その不可解な声の流れに奔流されながら。
私は、死に場所を求めて転生した。