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序章
夫婦刀
「義経様ああぁっぁぁーっ!」
袈裟切りの太刀を受けた義経に、弁慶が叫んだ。
血飛沫が飛び、目の前が真っ赤になる。鼻をくすぐる、濃い血の匂い。頭を思いっきり殴られたように、唐突な吐き気と眩暈が弁慶を襲う。
そんな自身の身体と心の叫びを捻じ伏せて、弁慶は義経に駆け寄った。抱き支えた途端、ぬるりとした感触が指先を伝う。
鮮血が、ぴちゃっと土の上で跳ねた。
「私のせいだ。私の……」
私が敵を庇ってしまったから、義経様が……
弁慶は義経を背負うと、生きてきて初めて敵に背を向け逃げ出した。