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嘘つきな彼を尾行する。

作者: 鳥の巣

さぁさぁ、皆様。お耳を拝借。此度の話題は『嘘つきと正直者』でございます。


あるところに嘘つきが一人おりました。朝から夜まで、それこそ起きてから眠るまで、一日中嘘を吐き続けております。そんな嘘つき者の彼でしたが、誰も彼のことを嫌っておりません。

彼と出会った町の人々は彼に挨拶をします。返される言葉は罵倒や暴言だというのに町の人々は彼に話しかけます。

そんな摩訶不思議な町に正直者がやって来ます。彼と区別するために彼女と命名しましょうか。さて、その彼女はこの町で嫌われてしまいました。話しかけても無視される。お店に行ったら追い出される。

あるとき彼女は噂で彼の事を知りました。嘘つきなのに町の人に好かれるという彼に一目会おうと向かいます。

彼女の彼に対する第一印象は最悪です。出会い頭に「誰だお前」次いでの言葉は「ブス女か」。これでは好かれる訳がございません。彼との出会いはビンタで終了です。

後日彼女は彼の元へ向かいました。出会いは最悪でしたが、彼のことを余計に知りたくなったのです。あの彼が町中の人に好かれるという事実が信じられなかったのです。

彼女は彼のことを尾行することに決めました。

面と向き合えばまた攻撃してしまいます。悩んだ末の結論でございます。

彼は町人の挨拶に悪態を返します。「おはよう」には「うるせえ」、「こんにちは」には「黙れ」を返しております。これではお世辞にも好かれる訳がないと彼女は首を振り、他に好かれる理由があるのだと追跡を続行です。

次の日も、その次の日も尾行は続き、やがて一つの季節が巡りました。

彼の追跡はすでに彼女の日課になっています。町の人も彼女に会えば、彼にばれないようにと声を小さくして挨拶をする程です。

今までの尾行で彼の行動が町の人に好かれる理由ではない、と分かった彼女は言動に注意を払うことにしました。彼はちょうど誰かに叫んでいる最中でした。物陰から物陰に移動して彼女は近づき耳を澄ませます。

 他人に文句を言っているようです。

「あいつと仲良さそうで結構な事だな。挨拶に挨拶を返すのは良いことだよな!」

「あいつと話をしているみたいで良いことだな!」

「あいつを褒めて悪い気分みたいだな!」

 訳すると「あいつと仲が悪いようだな。挨拶に文句を返すのは悪いことだ」「あいつと話をしていないようだな」「あいつを貶して良い気分みたいだな」でしょうか。

 最近の彼は『あいつ』に関わることばかり口にしています。なんとなく彼女はもやもやした気持ちを抱きました。

ちょうどその夜、町のみんなから嫌われていることを知った家族から帰ってきてもいいという話を受けました。少しは居心地が良くなったとはいえ、はじめは嫌われた町。彼女は帰ることに決めました。

 出発日当日、彼女は最後の記念にと町を一通り見て回り、電車乗り場に向かいました。

 なんと、そこには彼が立っていました。

 本当の本当に最後だからと、彼女は勇気を振り絞り彼に声をかけようと近づきます。タイミング悪く彼が誰かと会話していました。

「正直者な彼女が今日いなくなるらしい。今まで色々とした意味がなかったな」

「あいつはバカだからいいんだ。いなくなって清々する」

 話の話題は『あいつ』です。すぐにあることに気づきました。今日いなくなるのは彼女です。正直者な彼女は今日帰ることを周りの人に言っています。

「だったらなんでここにいるんだ?」

 そう尋ねられると彼は口を閉ざします。そこにちょうど電車がやってきました。彼女が乗る電車です。

 彼女は自分の頬を叩き、高鳴る心臓を必死に宥めて、彼に話しかけました。彼は驚いたようですが、すぐに憎まれ口を返してきました。それが本心でないことに長い時間をかけて知った彼女は彼に今までのことをぶつけようとしました。何度も口の開閉を繰り返し、やっと絞り出した言葉は一言だけでした。

「今までありがとう」

 『今まで』がどこからどこまでの事なのか言いませんでしたが、彼には伝わったようで、顔を真っ赤にして嘘を吐いてきます。

「二度とこの町に来るな。俺は二度とお前に会いたくないし、今度こそ話もしたくない」

 電車の発車の合図が鳴ります。最後に、彼女は彼に背を向けたまま電車に乗り、さらに一言伝えました。

「……またね」

 ドアが閉まり電車が動き出します。

 彼女はある決意をしました。

これから両親と会い、もう一度あの町に戻りたいと言おう。そして、彼の言うとおりに今度こそ彼と話をしようと。


いかがでしたでしょうか?

これを聞いたあなたは言葉を信じますか? それとも行動を信じますか?

どちらでもいいでしょう。なぜなら私はただの聞かせ役。強いることはできないのですから。


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― 新着の感想 ―
[一言] うまい言葉が出ないので、上手く言えませんが 「この作品を読んで良かった」ということだけ伝えたくて感想という形で書かせていただきました。 彼と彼女の関係や心の動きが良かったです。
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