人には効かない回復スキルで少女を治したら居着いた
※初投稿作品です。
読みづらい部分などありましたらご容赦ください。
「役立たずの回復持ち」
その言葉には慣れていた。慣れたはずだった。だが聞くたびに、少しだけ胸の奥が痛んだ。
主人公のスキルは【回復】。しかし人間には効かない。探索者としては外れ能力だった。
身寄りはない。頼れるものもない。この世界で生き残るには、力を伸ばすしかなかった。
だから彼はダンジョンに潜り続けていた。スキルを“使えるもの”にするために。
⸻
ダンジョン帰りの途中、空気が変わった。
街の上空に黒いひびが走る。
《ダンジョン暴走発生》
警報が鳴り、人々が逃げ惑う。
「またか……」
主人公は足を止めなかった。どうせ自分にできることは少ない。それでも、行くしかなかった。
⸻
現場は崩れていた。
空間が軋み、視界が揺れる。
その中心に少女がいた。
瓦礫の中で立ち尽くしている。その輪郭だけがぼやけて曖昧で、まるで世界から切り取られたように滲んでいた。
だが誰も、その少女に気付いていない。存在していないかのように、誰も視線を向けなかった。
(……なんで俺だけ見えてるんだ)
少女は明らかに正常ではなかった。放っておけば消えてしまいそうな危うさ。
考えるより先に、手が動いていた。
「……ダメ元だ」
「回復」
光が走る。
一瞬だけ、少女の輪郭が現実に繋ぎ止められる。同時に空間の歪みがわずかに収まった。
(……効いた?)
⸻
少女は主人公を見ていた。
泣きそうで、それでいて安心した顔。
「……ありがとう」
その声を聞いた瞬間、胸の奥が締め付けられる。
助けたはずなのに、なぜか救われた気がした。
次の瞬間、少女の姿が薄れていく。
⸻
夜、街は何事もなかったように戻っていた。
(夢じゃない、よな……)
手の中に違和感だけが残っている。
⸻
玄関を開ける。
「……は?」
少女がいた。当然のように。
「さっきはありがとう」
「なんでここにいるんだ……」
⸻
「どうやって入った?」
「気づいたらここにいた」
「いや、そういう問題じゃない」
少女は少し目を伏せる。
「ごめんなさい。でも、あなたにしか気付いてもらえなかったから」
「俺にしか?」
「うん」
「今まで誰も気付いてくれなかった」
「話しかけても反応されない。触れても、存在しないみたいだった」
⸻
「私は人間じゃない」
「ダンジョンの核みたいなもの」
その言葉で、ようやく理解が追いつき始める。
人ではない“何か”。
「私は壊されかけていた」
「探索者たちに」
「でも悪意があったわけじゃない」
「気づかないまま、触れていた」
「少しずつ、削れていった」
⸻
(無自覚で、壊していた……?)
⸻
「壊されかけていた?」
思わず口に出ていた。
少女は頷く。
「うん」
⸻
「誰に……?」
「分からない」
「でも、ずっと“外側”から削られていた」
⸻
「それで、俺の回復で止まったのか?」
「止まったというより……繋ぎ直された感じ」
少女は自分の胸に手を当てる。
「まだ完全じゃないけど」
⸻
スマホが鳴る。
《大規模ダンジョン暴走発生》
「まだ……終わってないのかよ」
少女の体がわずかに揺らぐ。
「ここだけじゃない」
「同じように、歪んでる場所がある」
⸻
「私だけじゃ足りない」
少女はまっすぐに見た。
「でも、あなたなら直せるかもしれない」
⸻
「……面倒なことになったな」
⸻
夜。
「おかえり」
「……まだいるのか」
「迷惑?」
「いや」
「いてもいい」
⸻
少女は窓の外を見ていた。その先に、まだ見えない歪みがある気がした。
⸻
人には効かない回復スキル。
それは、世界を修復する力だった。
……そして少女は、そこにいた。
※ここまでお読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。




