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【完結】追放された悪役令嬢は氷の騎士と静かに人生を取り戻す~復縁は望みませんが、謝罪は受け取ります~  作者: モヒ


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第9話 真実は静かに牙を剥く

王都、王城内。

重厚な扉の前で、アーニャは一度だけ深呼吸をした。

手に抱えた帳簿は、ずしりと重い。


(大丈夫)


指先が震えそうになるのをぎゅっと押さえる。


(私は、セレスティーヌ様の侍女よ。でも今日は――)


扉が開く。

中には、王、王太子、数名の重臣、そして

――かつてセレスティーヌ様を断罪した、あの令嬢がいた。


「……何の用だ」


王の声は、どこか苛立っている。

アーニャは、深く一礼した。


「元ローゼンベルク公爵令嬢付き侍女、アーニャでございます」


「今回の裁定に際し、提出すべき資料がございます」


ざわ、と空気が揺れる。


「無礼な。侍女が、何を――」


「失礼いたします」


言葉を遮り、帳簿を机の上に置いた。


「こちらは、セレスティーヌ様が管理されていた寄付金の記録」


「そしてこちらが――改竄前の原本です」


「……なに?」


重臣の一人が帳簿をめくり、眉をひそめる。


「署名が、違う……?」


「はい」


アーニャは、はっきりと答えた。


「セレスティーヌ様の筆跡ではありません」


「改竄を行ったのは――」


視線が、自然と一人の令嬢へ向かう。


「な、何をおっしゃるの!?私は――」


「証言も、揃っております」


アーニャは、真っ直ぐとした声で続ける。


「下町の印刷工。帳簿の書き換えを命じられた者」


「証人への金銭提供を見た使用人」


「そして――」


一瞬、間を置いて。


「謁見前夜、王太子殿下と密談されていた記録」


空気が、凍りついた。


「……それは、真か」


王の声が低くなる。


「父上!誤解です!」


「……すべて、事実でございます」


アーニャは、頭を下げた。


「主は、罪を犯しておりません」


「ただ……誰も信じなかっただけです」


その言葉が、鋭く突き刺さる。

沈黙の中、令嬢が青ざめた顔で後ずさる。


「そ、そんな……私は、殿下のために……」


「その“ために”で、一人の人生が壊された。それも我が国の公爵令嬢がな。」


重臣が、冷たく言い放った。

しかしその本人も当初は信じることが出来なかった一人である。

歯切れは悪い。


「裁定は、やり直される」


「――即刻だ」


その瞬間。

アーニャは、膝の力が抜けそうになるのを感じた。


(終わった……)


いいえ。


(始まった、のね)





北の地。

暖炉の火が、静かに揺れている。


「……寒くありませんか?」


不意に、アデルが言った。

セレスティーヌは、首を振る。


「大丈夫」


だが、彼の視線は彼女から離れない。


「どうかした?」


「……何か、胸騒ぎがするのです」


「ふふっ、騎士の勘?」


「えぇ。セレスがどこかへ行ってしまうのではないか……と」


一歩、近づく。


「あなたを抱き寄せたい衝動を――抑えるのが……少し辛い」


冗談めかした言葉。だが、目は真剣だった。

セレスティーヌは静かに息を呑む。


「……我慢しなくても、いいのに」


その一言で。

アデルの理性が、きしりと音を立てる。

だが彼はまだ触れない。


「すべてが終わるまで」


「あなたが、“選び直す”必要がなくなるまで」


「俺は――」


言葉を切り、拳を握る。


「あなたに、手を出しません」


セレスティーヌは胸の奥が熱くなるのを感じた。

王都では真実が剥き出しになり。

北の地では、想いが限界に近づいている。

すべてが揃う、その前夜。

氷は、まだ完全には溶けていない。

だが――ひび割れる音は、確かに響いていた。

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