第4話 追放は、自由の始まり
翌朝。宿の窓から差し込む光で、セレスティーヌは目を覚ました。
(……よく、眠れた)
追放された翌日だというのに不思議だった。胸に巣食っていた不安はほとんど感じられない。
廊下に出ると、すでにアデルがいた。
鎧姿のまま、壁に背を預けている。
「もしかして……一睡もしていないの?」
「眠る必要はありません」
「ちゃんと寝なくちゃダメよ?」
「……眠れるわけないじゃないですか」
何か聞こえた気がしたが彼の優しさが実に染みる。
「無茶よ。あなたが倒れたら困るわ」
「あなたの安全の方が、優先です」
そう言い切られて、言葉に詰まる。
彼にとってそれは当然の選択なのだろう。
朝食をとり、町を出る準備をする。
行き先は、まだ決めていない。
「これから、どうなさるおつもりですか?」
後ろからアデルが尋ねる。
「そうね……。とりあえず、王都から遠くへ」
「では、北へ向かいましょう」
「なぜ?」
「私の故郷です。本宅は王都にありますが故郷にも家があります」
「使用人も私の信頼できる者しかそこにはおりませんので安心してお過ごしください」
淡々とした口調。だが、その言葉の端々から彼がどれほど真剣か伝わってくる。
「……そんなに、良くしてくれなくても。じゃあ次に住む場所が決まるまでね」
「いつまでもいてくださって結構です」
被せるように、即座に。
セレスティーヌは小さく息を呑む。
あまりにも迷いのない声だった。
「私はもう、貴族ではないでしょう?」
「はい」
「それでも?」
「それでもです」
「でもやっぱり悪いわ」
「かまいません」
「じゃあ……仮の住処というのはどう?」
「分かりました……。今はそういうことにしておきましょう」
歩みを止め、彼は私を見る。
「私は……いえ、俺は自由になりました」
その言葉に、セレスティーヌは目を見開いた。
「あなたが追放されたことで、俺は“王家直属の騎士”としての立場を捨てる理由を得た」
静かに、だがはっきりと。
「今の俺は、王家ではなくあなたを選びます」
胸の奥が、熱を帯びる。
それが喜びなのか、戸惑いなのかわからない。
「……私は、みなが認める悪役令嬢よ?」
「はい、望むところです」
彼は、ほんの少しだけ微笑んだ。
誰にも行き先を縛られず、誰にも許可を取らず。
追放は、罰ではなかった。
それは、選ぶ自由を得たということ。
そしてセレスティーヌはまだ気づいていない。その自由の行き先が、すでに一人の騎士によって甘く、静かに定められていることを。




