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目指すは立派な魔法使い  作者: ストラテジスト
第1章

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垣間見える闇

「――デザート持って来たぜ、深紅! さあ食べろ! 全部食べろ!」

「多い多い! どんだけ食わせる気だよ、初雪!?」

「うるせぇ! お前変に痩せてるしこれくらい食った方が良いんだよ!」

「ひえぇ……!」


 いざ話を聞こうと思った矢先、果物やデザート満載のトレイが戻ってきた初雪の手によってドカンと置かれた。気持ちは嬉しいがトレイから零れそうなくらいの山盛りであり、置かれた衝撃でテーブルが揺れるほどである。

 さすがにこれには深紅も、そして隣に座る綾女(あやめ)も驚愕するしかなかった。


「ん? ソイツさっきの奴か? 何でここにいるんだ?」

「ああ、この子は尾白(おじろ)綾女さん。無知な僕に魔法界(ブリアー)の事を教えてくれるんだ。凄く親切な子だよね?」

「へー、さっきは妙にビビってたのにな。どういう心境の変化だよ」

「あ……ぅ……!」


 テーブル越しに初雪に尋ねられ、途端に綾女は顔を青くして俯いてしまう。やはり初雪の背の高さとそれによる威圧感、そして若干失礼なほどのはっきりとした物言いが苦手なのだろう。


「おい、初雪。尾白さんは親切心で無知な僕に常識を教えてくれるんだぞ。そんな言い方は失礼だろ?」

「おっと。そうだな、悪かった。ごめんな?」

「い、いえ……だ、大丈夫、です……」


 とはいえ初雪も決して悪い人間ではない。悪い所を指摘すれば素直に謝罪し席に着く。綾女も察したのか、若干縮こまりつつも初めて出会った時ほどの怯えは見せなかった。

 とりあえず初雪が持ってきたデザートは三人で分け合い、ある程度昼食を進める運びとなる。相変わらず口に含むだけで涙が零れるほどの美味しさと感動に襲われるが、二人は特に何も言わず暖かい瞳で見守ってくれた。


「それで、その……どんな事を、知りたいんですか?」

「何でも聞いてくれよな、深紅! 答えられる範囲で俺も答えるぜ!」

「うーん、そうだな……」


 そうしてデザートに差し掛かった頃、綾女が深紅の顔を覗き込むようにしながら尋ねてくる。

 もちろん知りたい事は無数にあるが、それを全て綾女たちに尋ねていては迷惑だし日が暮れてしまう。なので現状一番の疑問をぶつける事にした。


「じゃあ、入学式で見たあの龍って何なのかな? あれってモンスターとか魔物とかそういう類?」

「アレかー。アレはほら、何だっけ……アレだ!」

「え、えと、その……あれは、魔法生物です……」

「魔法生物……?」


 思ったより役に立たない初雪と違い、綾女はきっちり断言してくれた。

 この様子だともっと詳細な情報も知っているのだろう。彼女が自分のペースで続けてくれるのを、深紅は好奇心を抑えつつ待った。


「あの……魔法使いは魔力を持っているというのは、知っていますか……?」

「うん、さすがにその辺りの最低限度の事は教えて貰ったよ。といっても、実は魔力と魔法が実在して、魔法使いが存在するって事くらいだけど」

「マジで最低限度じゃねぇか。そんなの魔法界じゃ幼稚園児でも知ってるぞ」

「そ、そうなんだ。僕って幼稚園児以下だったんだね……」

「そんな事は無いと、お、思います……」


 自分の知識量に愕然とする深紅を、綾女が一生懸命にフォローしてくれる。

 人見知りの彼女が頑張って慰めてくれるのはとても有難かったが、初雪どころか幼稚園児以下という事実はさすがにショックであった。


「それで、あの……魔法生物っていうのは、魔力を持って生まれた生物が突然変異を起こして、姿を変えた生物の事、です。特殊な力を授かって、より強靭な生命体になっています……」

「魔力による突然変異……なるほどね。もうそれ進化って感じだね」

「は、はい。あの龍の場合は、蛇とかトカゲが進化した姿、だと思います」

「ちょっ、嘘だろぉ!? あのカッコいい龍が元は蛇とかトカゲなのかよ!?」

「それは、ちょっと夢が崩れる感じだね……」


 まさかまさかの情報に初雪が大声で驚きを示し、深紅もそれを注意出来ない程度には耳を疑ってしまう。

 見れば周囲の喧騒が静まり、同級生たちの視線がこちらに向いていた。一瞬騒ぎ過ぎたかと危惧したものの、どうにも初雪同様にショックを受けた表情をした男子が多いように見受けられる。彼らもその情報に驚いているだけのようなので、問題は無さそうだった。あの龍が元は蛇やトカゲかもしれないという残酷な真実により、彼らの憧れと期待を粉砕してしまった事以外は。


「す、すみま、せん……」

「いや、尾白さんは悪くないよ。教えてくれてありがとう。凄く世界が広がったよ」

「お、お役に立てたなら、幸いです……えへへ……」


 正直にお礼を口にすると、綾女は照れくさそうに自身の髪を弄りながら俯く。褒められる事に慣れていないのか、口元は少々だらしなく緩んでいた。


「あ、の……他にも何か、聞きたい事はありますか……?」


 もっと頼って欲しいのか、どこか期待に満ちた目を向けてくる。

 実の所、深紅には先ほどの答えから一つ新たな疑問が生じていた。それは魔法生物に進化する存在に、人間もまた当て嵌るのではないかという事。魔力を持った生物が魔法生物へ進化するのなら、論理的に言えば魔法使いもその限りではないはずなのだ。

 加えて蛇やトカゲが龍と化すのなら、魔法生物と化しても大元の生物の特徴は残る。つまり人間が魔法生物と化した場合、変わらず人型である可能性が高い。そう考えると思い当たる節が山ほどあった。鬼、吸血鬼、悪魔、ゾンビ――伝承に語られる人型の怪物こそが、人間が魔法生物と化した成れの果てではないだろうか。元々魔法の存在しない物質界で暮らしていたからこそ、深紅はそんな推論を容易く組み上げる事が出来た。

 故にこの推測が正しいものなのか、綾女に尋ねようとしたが――


「うん、それじゃあもう一つだけ。良ければ僕と、友達になってくれないかな?」


 やはりその質問は胸に秘め、代わりに友達になって欲しいという要求を口にした。

 夢と希望に満ち溢れた輝かしい魔法の世界に、闇深い一面があるなどとは到底信じられない。きっと深読みし過ぎているだけに違いない。深紅は自分の中でそう結論付け、荒唐無稽な考えを追い出すのだった。


「友達……ふへっ!? と、友達!?」


 別段おかしな事を口にした覚えは無いが、人見知りな綾女からすれば驚愕の内容だったらしい。カッと目を見開き、自身の耳を疑っていた。


「僕は物質界(アッシャー)育ちだから、こっちに知り合いや友達なんて一人もいないんだ。だから尾白さんみたいな、会ったばかりの人に凄く優しくしてくれて、常識的な事だって丁寧に教えてくれるような、素敵な友達が欲しいんだ」

「す、すて……!?」


 正直な思いを口にすると、綾女は急速に頬を染め耳の先まで真っ赤に染まる。

 劇的に過ぎる反応に思えたが、彼女が人見知りで臆病な性格なのはこの短い時間でも良く分かる。面と向かって友達になって欲しいと言われるなど、もしかしたら初めての事なのかもしれない。


「もちろん僕だって与えられるばかりじゃない。君が困っていたら何でも力になるよ。それが友達っていうものだろうしね」

「で、でも、私……臆病で、弱虫で、可愛くないし……深紅くんなら、もっと友達に相応しい子が、いますよ……?」

「それは違うよ、尾白さん。だって君は泣いてる僕にハンカチを差し出してくれたじゃないか。そんな優しさと勇気を持つ君が、臆病で弱虫なんてありえないよ」


 綾女は確かに臆病かもしれない。しかし決して本人が思っているほどではない。自分を怖がらせた男たちの片割れが涙を零しているからといって、一体誰がハンカチを差し出してくれるだろうか。

 例え彼女が根っから臆病でも、それを上回る程に優しく慈愛に満ちた清い心を持っているのは明らかだった。


「それに、尾白さんはとっても可愛いよ。少し癖のある緑の髪も、エメラルドみたいな色の瞳も、とっても綺麗で見惚れちゃいそうなくらいにね」

「は、はわわ……!」


 加えて綾女は容姿も愛らしい。確かに片眼が前髪で隠れている所や、びくびくとした雰囲気から陰気な印象を受ける事は否定しない。

 しかし所々跳ねた髪は手入れの有無ではなく髪質の問題なのが一目で分かるし、清潔感が欠けているわけではない。むしろ肌は綺麗できめ細やか。隣の席にいるからこそ、深紅にはそれが分かった。伏し目がちな瞳も良く見れば透き通った綺麗なライムグリーンであり、清涼感と心地良さを覚える美しい輝きだ。

 例えるなら臆病な子猫が寝癖でおかしな毛並みになってしまい、それを気にしているかのような愛嬌すら覚える姿である。可愛くないなどと口が裂けても言えるはずが無かった。


「うわー……深紅、お前……」

「うん? どうした、初雪?」

「いや、何でもねぇよ。俺はな……」

「うん……?」


 何やらドン引きしたような声に目を向けてみれば、初雪が何か決して理解し合えない化物でも見る目をしていた。

 何故そんな目をされるか良く分からず首を傾げる深紅だったが、あながち化物という表現は間違っていないのでそのまま視線を綾女に戻す。すると俯きがちだったはずの彼女は何故か頬を上気させ、キラキラと輝く恍惚とした瞳で見上げて来ていた。


「それで、どうかな尾白さん? 僕と友達になってくれるかな?」

「は、はい……! よろしく、お願いします……!」

「良かった! こちらこそよろしくね、尾白さん」

「はい!」


 人見知りする性質だったはずだが、彼女は力強い頷きを返してきた。しかも花開くような満面の笑みを浮かべて。

 きっと深紅と同じように、友達が出来た事が嬉しいのだろう。人見知りである事を考えると、友達はとても少なかったに違いない。深紅としても自分のような人間が友達になったくらいで喜んで貰えるのは、胸が暖かくなる思いである。

 故に友達が増えた喜びのまま、綾女と共に見つめ合い笑いあった。


「コイツ思ったよりヤベー奴だな……」


 しかし何故か初雪だけは喜びを共有出来なかったようで、深紅に対して妙に余所余所しい目を向けてくるのだった。

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