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目指すは立派な魔法使い  作者: ストラテジスト
第3章

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魔法界の闇

⋇性的描写あり

「さて、今回お主を呼び出したのは他でもない。実は恵莉香からお主に対する苦情が出ていてのぉ。何でも常軌を逸した付きまといに迷惑しているそうじゃ。他にも数十人以上の生徒から、お主がストーカー行為をしているという通報もあってじゃな……まあ、その事実確認をしたいというところじゃな」

「……そうですか」


 不意にブランルージュが厳しい教師の顔を浮かべた所で、深紅も佇まいを正す。久しぶりに敬愛する大恩人と顔を合わせる事が出来た喜びに浸っていたものの、どうやらそれどころでは無さそうだった。

 誠実さとは何も全てを許し認める事では無い。罪は罪として罰し、公平な裁きを下すものだ。故に深紅に向けられる赤い瞳には、罪を咎める正義の光が浮かんでいた。


「それで、お主の行為は事実なのか?」

「はい、その通りです」


 とはいえブランルージュを前にして、下手な言い訳や誤魔化しをするつもりはない。彼女に救われ生まれ変わった深紅は、彼女の前では常に誠実でいたかった。例えどのような結果になろうとも、彼女に嘘など吐けるはずも無かった。


「ほら、聞いた!? 認めたでしょ、お母さん!」

「えっ、お母さん!? ま、まさか、ブランルージュ先生が、蓮華さんの……!?」


 覚悟を決めていた深紅だが、恵莉香が唐突にブランルージュへ投げかけた言葉に度肝を抜かれ、それを理解した瞬間絶望のあまり膝から崩れ落ちそうになる。

 自分を救ってくれた女性に好意を抱くのは当然の事であり、深紅はブランルージュに並々ならぬ想いを抱いている。とはいえその想いはあくまでも大恩と憧れから成る想いであり、厳密に言えば一人の男としてブランルージュを愛しているわけではない。

 しかし愛と言っても差し支えないほど巨大な感情を抱いているのは事実。だからこそ彼女が誰とも知れぬ馬の骨に抱かれていたと考えると、深紅は脳が壊れ血反吐を吐きそうな気分になるのであった。実際血反吐かどうかはともかく、胃の中で沸々と沸き上がりせり上がるものを感じていた。


「うん? ああ、そういうわけではないぞ? 恵莉香はわしの義理の娘じゃ。わしは男とねんごろな関係になった事など無いからな」

「そ、そうですか……良かった……」


 人生二度目の自殺をしたくなった深紅だが、寸での所で思い直す事が出来た。

 思い返してみれば、ブランルージュは初めて出会った時に自分は処女だと言っていた。少なくともどこかの馬の骨に穢されているという事は無さそうなので、深紅としても一安心だった。


「お母さん、こんな奴と仲良く話なんかしないで! 何でも良いから罰でも与えてやめさせて!」


 しかし恵莉香の一声により話は戻る。

 ブランルージュも相応の厳しさを秘めた真剣な顔つきに戻り、深紅も安堵を忘れて再び覚悟を決めた。


「深紅よ、この子の固有魔法は知っておるじゃろう? 触れ合っただけで生命力を奪ってしまう、非常に危険な固有魔法じゃ。死にはせんわしですら、まともに触れ合えるのは数秒が限界という所。万一お主がこの子に触れてしまったら、それこそ間違いなく死の危険が存在するのじゃぞ? それを理解していて尚、何故この子に付きまとうのじゃ?」


 そして尋ねてきたのは、行動の理由。

 義理とはいえ自身の娘がストーカー被害に合っているというのに、一方的に断罪せず事情を詳らかにしようというどこまでも公正な対応。正に深紅が憧れた、誠実で慈愛に溢れた素敵な女性。

 ならばこちらも誠実に行くのは当然の事。元より嘘や誤魔化しを働くという選択肢など無いのだから。


「……蓮華さんが、以前の僕のような目をしていたからです」

「はあっ? 何言ってんの?」


 頭がおかしいのかとでも言うように、侮蔑のこもった声を零す恵莉香。

 しかしブランルージュは真剣な顔つきを崩さず、続きを促す様に沈黙していた。故に、深紅は全てを語る。


「最初は漠然とした予感めいたものでした。でも蓮華さんの固有魔法を知って、確信は深まりました。彼女はいつか誰とも触れ合えない現実に絶望して自暴自棄になり、やがて危険な行為に走ってしまうだろうという事が」


 誰とも触れ合えないという事は、人の温もりを感じられないという事。そこから伝わる情や愛を感じられないという事。どれだけ狂おしく願おうと、手に入らないと言う事。

 そんな地獄の日々が続けば、その内耐えられなくなるのは自明の理。深紅自身、自分には決して手に入らないと理解して自殺しかけたのだから。


「僕はそれを何としてでも止めたかった。彼女の寂しさを少しでも埋めてあげたかった。同じ絶望から救い出された者として、手を差し伸べたかった。お節介だって言われても良い。ウザいと罵られても構わない。それがきっと、新たな生を受けた僕の使命だから」


 絶望の底から救われた者として、絶望の底に沈みつつある者を助ける事。それこそが自分の使命だと認識していた。これだけはブランルージュに与えられた、立派な魔法使いになるという使命とは無関係だ。

 例え敬愛するブランルージュ本人に止められても、どんな罰則を与えられようと、決して恵莉香を救う事を断念するつもりは無い。深紅はその意志を込めて、恩師に対して敵意にも似た揺るがぬ眼差しを送った。


「……なるほどのう。あの時の死んだ目をした少年が、ほんの僅かな期間でここまで変貌するとはな。やはり教育者という仕事はやめられんのう?」


 深紅の眼差しから決意の固さと信念を悟ったのだろう。ブランルージュはいっそ恍惚とも取れる感動の声を零し、瞳を細めていた。どうしようもないクズであった深紅の成長を認め、喜ぶように。

 ブランルージュが意図を理解してくれた事が、そして成長を認めてくれた事が、危うく歓喜の涙を零しそうになるほど嬉しかった。


「……バッカじゃないの?」


 だがそんな幸せな気持ちを、鳥肌が立つほど冷たい声が切り捨てる。

 見れば血の気の失せた顔で俯き、震える恵莉香の姿がそこにあった。まるで寒さを堪えているようにも見えたが、すぐにそれが勘違いである事が分かった。何故ならその両手が拳を作り、白くなるほどに強く握り込まれていたからだ。

 彼女は寒さに震えているのではない。血の気を失うほどの、果てしない怒りに打ち震えているのだ。


「同じ絶望? あたしを救う? 手を差し伸べる? ふざけた事を抜かすなっ! あたしの悲しみが、お前なんかに分かるはずない!」


 次の瞬間、恵莉香は顔を上げて怒りを爆発させた。

 背筋に寒気が走る程の殺意。生きとし生ける者すべてを妬むかのような濃密な憎悪。しかしその激情の裏に、深紅ははっきりと感じ取った。狂おしく人の温もりを求める、深い悲しみが隠れている事を。


「一体何様のつもり!? 崇高な目的みたいにおためごかし抜かして反吐が出るわ! あたしに触れる事も出来ない癖に!」

「うわっ!? れ、蓮華さん!?」

「おいっ!? 何をしておるのじゃ恵莉香!?」


 燃え上がるような激情のまま、恵莉香は唐突に自らの衣服を破り捨てるように脱ぎ始めた。ローブや上着だけでなく、その下に身に着けた肌着までも。

 当然深紅たちは止めに入ろうとしたが、彼女に触れればただでは済まない。故に恵莉香の行為を止める事は出来ず、そのまま下着もソックスも脱ぎ捨て生まれたままの姿を晒すのを、呆然と見届ける他に無かった。


「……あんたにあたしの気持ちが分かる? あたしは、人と触れ合えない。人の温もりを感じられない。手を繋ぐ事も、キスする事も、抱き合う事も、何も出来ないのよ?」


 一糸纏わぬ姿となった恵莉香は、恥じらいも無く深紅に向き直る。豊満な乳房を始めとする、大人として花開きつつある未成熟な肢体を晒しながら。

 男にとっては間違いなく垂涎ものの光景だろう。何せ恵莉香の肌は雪のように白く、スタイルも抜群だ。けれど綺麗な薔薇には棘があるもの。その肢体の引き寄せられるような魅力とは裏腹に、彼女には触れた者全てを殺す力が宿っている。熟したブルーベリーの如く鮮やかな赤紫色の髪も、紫水晶を思わせる美しい瞳も、獲物を引き寄せるための誘引色にしか見えなかった。


「母親はあたしのせいで死んだし、父親はあたしを捨てた。あたしを引き取って育ててくれたお母さんも、碌にあたしに触れない。あたしは触れた人を殺し尽くす呪われた女。これまでも、そしてこれからも、温もりの無い肌寒い日々を送るしか無いのよ……」


 自らの裸の肢体を掻き抱き、震えた声で呟く恵莉香。

 寒さに凍えているように見えるのは、決して服を脱ぎ捨てたからだけではない。人と触れ合う事が出来ない彼女の心が、寂しさに無き濡れて凍えているのだ。


「だから、あんたの自己満足で下手な優しさなんて見せないで! 救う事なんて出来る訳も無いのに、近付かないで! 本当にあたしを救うっていうなら――抱きしめてみなさいよ! それが出来ないなら、期待なんか……! 期待なんか、させないでよぉ……!」


 ポロポロと涙を零して怒鳴り立てたかと思えば、やがてへたり込み啜り泣き始める。

 やはり深紅の予想は間違っていなかった。冷めた態度は己の心を守る防衛本能であり、彼女も本当は触れ合いと温もりを渇望していたのだ。

 そもそも彼女は最初から矛盾の塊であった。自身の固有魔法の危険性を理解しているにも拘わらず、手袋などを身に着けて肌の露出を抑えるなどの対策はしていない。けれど他者への態度は冷たく、触れ合いを拒むかのような言動をする。そして綾女と手を繋ぐ深紅に向けてきた殺意。容易く人に触れ合える事に対する、憎悪に近い嫉妬。

 彼女は狂おしく人の温もりを求めながらも、自分にはそれが許されないという事を理解し、希望と諦念の狭間で地獄の辛酸を舐めてきたのだ。そんな血を吐く想いの全てが、期待などさせないで欲しいという絞り出すような言葉に凝縮されていた。


「恵莉香……う、くっ!」


 さすがに放っておくことは出来なかったのだろう。その様子を目の当たりにしたブランルージュは、彼女を慰めるように裸の肩に触れた。しかし数秒も経たずにその手を引っ込めたかと思えば、床に膝を付き血の気の失せた顔で呼吸を乱す。

 不老不死であるブランルージュですら、ほんの一、二秒触れただけでこの有様。どうにもならない呪われた力である事は、誰の目にも明らかだった。


「……深紅、諦めるのじゃ。あの子の肌に触れれば、ほんの数秒で死に至る。お主の心意気は立派じゃが、理想だけでは実現出来ない事も――」

「――分かったよ、蓮華さん。抱きしめてあげる」

「なっ!?」


 だからこそ、引くわけには行かなかった。驚愕に目を見開くブランルージュを尻目に、深紅は恵莉香へと歩み寄っていく。本当は初雪たちに邪魔されなければ、森で行おうとしていた行為を完遂するために。

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