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目指すは立派な魔法使い  作者: ストラテジスト
第3章

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混沌の極み

「はああぁぁぁぁぁっ! 私の手からは鋭い爪が出――ない! 駄目かぁ!」

「俺は超高速で走れる、スピードパワーを信じろ――はい駄目ー! 知ってた!」

「俺は目からビームが出――ない! いや、もしかしたら出る場所が違うのか!?」


 金曜の午前中最後の授業、固有魔法学。そこで使用されている実技室では現在、地獄のような光景が広がっていた。

 それは仮にも魔法使いの端くれである生徒たちが、魔法の何たるかを忘れたかの如く馬鹿をやっている光景。ある者は拳を握り鉤爪を出そうと躍起になり、ある者は妙に勿体ぶってから走り出し、ある者は目からビームを出そうと壁を睨む――そんな混沌の極みとも言える光景。

 彼らが行っているのは、漫画や映画などの創作物に登場する特殊能力の真似。目を逸らしたくなるほど痛々しく、それでいて最高に恥ずかしいものだ。しかし悲しい事に、彼らは至って真面目だった。


「クソォ……何だって俺――じゃなくて僕がこんな辱めを受けなきゃならないんだ!」


 何よりも悲しいのは、深紅も彼らに混ざり同じ行為をしているという現実。気を付けている一人称が乱れてしまう程度には恥辱であり、穴があったら入りたい気分だ。

 しかし立派な魔法使いを目指す以上、これは決して避けては通れない試練であった。


「頑張って、深紅くん! 応援してるから……!」

「どちらかと言えば君の応援のせいで余計に心苦しいんだよ、綾女さぁん……!」


 上機嫌に応援してくれる綾女にイラっとしてしまうのは、深紅が根っからのクズだからか。あるいは正当な怒りか。

 実は中二病とも取れる振る舞いをしている彼らは遊んでいるわけではない。己の固有魔法を判別するため、恥辱と屈辱を噛み殺し血を吐く思いで苦行に挑んでいるのだ。古今東西物質界(アッシャー)魔法界(ブリアー)の、あらゆる創作物に登場する様々な異能の真似をする事で。


「もっと効率の良い判別方法は無いわけ!? 何で魔法に満ちた魔法界で闇雲に総当たりなんてしなきゃならないんだ、チクショウ!」

「それは深紅くんの固有魔法が記録に無いもので、魔道具を使っても判別できないからだよ? あの魔道具は色んな人の固有魔法を記録して、判定する時にその情報を元にするから、前例が無い物は分からないの」

「それは前に聞いたぁ! でももうちょっと他に何か無いわけ!?」


 妙に饒舌に語る綾女に対し、思わず強い言葉を返してしまう。

 深紅が物質界で読んだ小説では、そういうものは特別な水晶に手を当てたり、ゲームのように己のステータスを開示する能力で以て簡単に判別できていた。

 しかし光だけでなく闇も存在するこの魔法界では、そこまでご都合主義的なものは存在しないらしい。魔力を用いた不思議な力を秘めた道具――魔道具を用いて固有魔法が判別できたのは、記録されているものかそれに近い固有魔法を持った同級生たちのみ。深紅を含む判別できなかったごく少数の者たちは、手探りかつ総当たりで己の固有魔法を判別するしか無かったのだ。それ故の中二病染みた痛々しい振る舞いである。深紅を含むごく一部の生徒たちは、およそ一月ほど前から固有魔法学の授業が地獄と化していた。


「お前ら真面目にやれよ、何遊んでんだよー。プッ、ククッ」

「ねえねえ、アレやって! アレ! 時よ止まれ、ってやつ!」

「なあ、どんな気持ちだ? 俺らの目の前でそんな事するとか、生きてて恥ずかしくないのか?」


 何より酷いのは、固有魔法があっさりと魔道具で判明した者たちの煽り。彼らは己の固有魔法をこれ見よがしに見せつけながら、深紅たちを大いに小馬鹿にしてくるのだ。これに耐えながらひたすら中二染みた振る舞いを続けるなど、最早完全に拷問の域である。初回の授業で瑞香が口にしていた、『場合によっては判別作業が苦行になる』という台詞は完璧に的を射ていた。

 とはいえアレは彼らなりの妬み嫉みなので、深紅たちもギリギリ怒りを抑える事が出来た。固有魔法が魔道具で判明したという事は、オンリーワンの力では無いという事。そして判明しなかった深紅たちの力こそ、正に自分だけの特別な力。お年頃の少年少女たちが嫉妬のあまり幼稚な煽りをかましてくるのも仕方が無かった。


「ほらほら頑張れ深紅! もっとカッコいいポーズと台詞も忘れんなよ!」

「クソがああぁぁぁぁっ!! 覚えてろよ初雪この野郎!!」

「言葉が乱れた深紅くん、ちょっとカッコいい……えへへ……」


 尤も許せるかどうかは別問題。

 面白がってからかってくる初雪のせいもあり、深紅は屈辱のあまり盛大に汚い言葉を吐いてしまった。これで綾女が怖がって逃げてくれれば良かったのだが、むしろ恍惚とした面持ちを浮かべているのだから始末に負えない。

 一体この地獄はいつまで続くのだろう。深紅が人生二度目の死を覚悟するレベルの絶望を覚えたその時――


『――あー、あー。テスト、テスト。本日は晴天なり』

「……んっ!?」


 突如として、頭の中に声が響いた。それも尊敬する偉大なる御方、ブランルージュ・スターチスの凛々しくも愛らしい素敵なお声が。


『聞こえておるかの、竜胆深紅? わしじゃ。ブランルージュじゃ』

「えっ、あ、は、はい! 聞こえてます!」

「うおっ!? どうした、深紅!?」


 反射的に姿勢を正し、虚空に向けて返事を返しつつ周囲を見回す。どう考えても目立つ事請け合いだが、周りにもっと目立つ同胞たちがいるのでさほど奇異には映らなかったようだ。目を丸くしたのは集中的に深紅を観察していた初雪と綾女くらいである。

 しかし二人に構っている余裕は無かった。何故なら一番戸惑っているのは深紅自身なのだ。ブランルージュの姿は影も形も見当たらないというのに、頭の中に声が響いてくるのだから。


『良し、感度良好じゃな。今の時間は固有魔法学の授業じゃったか。邪魔をして悪いが、校長室まで来てくれんかのう? 少しお主と話したい事があるのじゃ』

「わ、分かりました。すぐに行きます!」

『うむ、待っておるぞ。ではな』


 状況は上手く呑み込めないが、それでもしっかり返事を返す。

 やがて脳裏に響いていた声が消えると、深紅は驚きと緊張によるため息を零してへたり込んだ。まさか突然憧れの人の声が聞こえてくるとは思わなかったのだ。確かに敬愛するブランルージュの事は頻繁に思い浮かべているし、毎日のように夢に見ている。しかしここまでリアルでクリアな声は初めて聴いたのである。


「ど、どうしたの、深紅くん……?」

「ああ、うん。今頭の中に校長先生の声が聞こえたんだ。何か話があるから校長室に来て欲しいってさ。幻聴と白昼夢のどっちだろうね?」

「いや、どっちでもヤバいだろ。何でそんな冷静なんだよ、お前……」


 初雪が当惑気味の反応を返してくるが、深紅としては敬愛するブランルージュの声が聞こえるというのはむしろ歓迎すべき事である。幻聴や白昼夢であろうと、その感動は変わらなかった。


「えっと……離れた人に声を届ける汎用魔法も、あるよ? だからたぶん、それじゃないかなぁ……」

「あ、そうなんだ。じゃあ普通に呼び出されただけかな。僕が校長先生を敬愛するあまりに、イマジナリー校長先生の声が聞こえたとかじゃなくて」

「何でそういう発想の方が先に来るんだよ、お前。一応魔法使いなんだからよぉ……」


 どうやら脳内に直接呼びかけるタイプの魔法で呼び出しを受けたらしい。魔法関連の知識が豊富で、頭の良い綾女の言う事ならば間違いはないだろう。

 ならば一刻も早く馳せ参じるべき。深紅はすぐさま立ち上がると、まずは事情を説明するべく教師である瑞香の下へ向かおうとした。


「でも、変だな……確かその汎用魔法は、どちらかが相手の身体の一部を身に着けてないと、駄目だったような……?」


 その際、綾女が首を傾げて妙な事を口走った。

 当然ながら深紅はブランルージュの身体の一部など身に着けていない。手に入るなら髪の毛でも血液でも何でも良いので欲しいとは思うが、今の所は何も手に入れられていないのだ。ならばブランルージュの方が所持していると考えるのが妥当だろう。

 だとすると何故彼女がそんな物を持っているのかという話になるが、深紅としてはそこはあまり気にならなかった。何せ敬愛する人が自分の身体の一部を所持しているのだ。それ以外に重要で喜ばしい事など何も無かった。

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