少女の死
――グシャリ。幼い少女の身体が固い地面に叩きつけられ、潰れた果物が果肉と果汁を撒き散らすかの如く、血肉が周囲に弾け飛んだ。
「……え?」
その惨憺たる光景を目の当たりにして、崖の上に立っていた少年――竜胆深紅は呆けた声を零してしまう。
しかしそれも必然。何故なら少女は深紅の隣から崖下へと、自ら身を投げたのだ。何の躊躇いもなく、横断歩道の白線から白線へ跳ぶような気安さで。
「あ、ああああぁぁっ!? あのクソガキ、なんて事を……!」
ようやく状況を理解した深紅は、必死に崖下への道を目指してひた走る。もしかすると少女はまだ死んでおらず、助かる可能性があるかもしれないからだ。そして何より、少女が飛び降り自殺を働いたのは全て深紅に原因があったから。
「は、早く、病院に運ばないと……!」
恐怖と罪の意識に竦みそうになり、何度も転びながら遂に崖下へと辿り着く。
踏み締めた地面は固い岩盤であり、崖上までの高さは軽く二十メートルはある。控えめに見ても子供が落ちて無事に済む状況ではないが、一縷の希望を持って少女の元へと向かう。
そうして投げ出された少女の身体に恐る恐る近付くも――
「うっ……!?」
胸に抱いていた希望は、木っ端微塵に粉砕された。
少女の肉体は最早原型など保っていなかった。身体は捻じれ手足は砕け折れ曲がり、首は明後日の方向を向いている。頭を打ち付けたのか側頭部が破裂したかの如く欠損しており、様々なものがそこから飛び散り零れ落ちていた。
「あ、あぁ、そんな……俺の、せいで……!」
自責の念に駆られ、飛び散った少女の欠片を必死に拾い集めていく。
尤も拾ってどうにかなるわけではない。混乱の極致にあるせいで訳も分からず意味不明な行動を取っているだけだ。冷静に考えれば完全に手遅れなのは一目瞭然だが、今の深紅はそんな判断が出来る精神状態では無かった。
「あぁ……駄目だ。やっぱり、俺も死のう……」
不意に冷静に戻り、その結論に至る。
純真無垢な少女を殺してしまった罪を贖う方法など、たった一つしかない。取り返しのつかない罪を犯した深紅は死後の世界で彼女に謝罪するため、自らも同じ末路を辿る事を決めるのだった。
けれどその前に、彼女が安らかに眠れるよう埋葬しなければならない。周囲は硬い岩盤で素手で掘るなど狂気の沙汰だが、これから死ぬ深紅は腕がおしゃかになろうと困る事は無い。
しかし最も重要で優先されるべきは、死者に敬意を払う事。少女の赤い瞳は開かれたままであり、焦点の合わない瞳は呆然と虚空を眺めている。岩盤を掘り返し指が壊れた後では瞼を閉じてあげる事は出来ない。
故に深紅は彼女に向けて手を伸ばし、その瞼を静かに下ろした。自分のせいで死んでしまった哀れな少女に、慙愧の念を抱きながら――
こんなプロローグだけなのもアレなので、今回は第一話も投稿してあります。




