最終回:夜明けの約束
夜明けの雨上がりの歌舞伎町は、夜の光を洗い流していた。濡れたアスファルトにネオンの色が映り込み、街全体が淡い朝の色に染まっている。私は、からすと肩を並べて歩いていた。バー「Siri」の灯りは遠くに揺れるだけで、もうすぐ朝が来るのを教えてくれている。
「ふくろう、大丈夫?」
からすが、心配そうに声をかける。私は少し息を整えながら小さく頷いた。
「うん、大丈夫。ありがとう」
胸の奥が温かくなる。夜の街に怯え、男たちの影に怯えていた私が、今は彼女のそばで安心して歩いている。怖い夜は過ぎ去った。過去の私を縛っていた影は、まだ完全には消えていないけれど、からすの存在があればもう怖くない。
「ねえ、ふくろう」
からすがそっと手を差し出してきた。私は迷わずその手を握る。力を入れすぎず、でも確かに、今ここにあるぬくもりを確認するように。手をつなぐだけで、心の奥の小さな不安が溶けていくのを感じた。
「これからも……一緒にいられるかな?」
少し恥ずかしくて、でもどうしても聞きたくて声に出す。からすは、私の手を優しく握り返して、微笑んだ。
「もちろん。ずっと、ふくろうのそばにいるよ」
その言葉だけで、胸の奥がぐっと満たされる。守られるだけじゃない、私もからすを守りたい。怖かった夜に怯え、孤独だった日々すべてが、この一瞬のためにあったんだと思える。
歩きながら、ふと振り返ると、雨に濡れた街灯がまるで道を照らす灯台のように見える。暗い夜を抜けて、光の道を歩いているような気分になる。からすの笑顔と手のぬくもりが、私に確かな安心をくれる。
「怖いことがあっても、一緒に乗り越えようね」
からすの声は、柔らかくて、でも揺るがない強さを持っていた。私は深く頷く。もう一人じゃない。過去の影に怯える必要はない。これからは、互いに支え合える。
「うん、約束だね」
私は自然に笑みを返す。涙が少しだけ頬を伝うけれど、それは悲しみじゃなく、安堵の涙。ずっと待っていた温かさが、今ここにあるから。
街に差し込む朝の光が、濡れたアスファルトに反射して、私たちの影を少し長く伸ばす。未来はまだわからないけれど、からすがいれば、どんな夜も乗り越えられる。互いの存在が、安心と愛の象徴になることを、私たちはもう言葉にせずともわかっていた。
手をつなぎ、歩きながら心の中で呟く。
「ふくろう、強くなったね。もう大丈夫。怖くない……」
夜明け前の歌舞伎町は、静かで、希望に満ちていた。暗い夜に怯えていた私の心に、小さな純愛の芽が確かに育ったのだ。そして、その芽はこれからも、ずっと私たちを照らし続ける。
おわり




