妖精のお布団
お久しぶりです。大学のサークルで書いたものです。
リリーは小さいかわいい妖精さん。高い高い木の下に住んでいて、毎日お昼寝をしたり他の妖精さんと遊んだりして過ごしてます。
花が咲き始めたある日、
「暖かくなってきたし、今日はお花の影でちょうどいい暗さ!今日は絶好のお昼寝びよりね。」
そう言って、リリーはお布団もかけずにお昼寝をし始めました。風邪をひいちゃうね。
ちょうどその時、高い高い木の上に住んでいる神様は、リリーが風邪をひきそうになっているのを見つけて、かわいそうに思いました。
「おお、木の下にいるあれは誰だ。今日のような日に布団もかぶらずに外で寝ていたら風邪をひいてしまう。」
そう言うと、手元にあった一片の花びらを落としてかぶせてあげました。もちろん、お昼寝中のリリーは気が付きません。そうして、ちょっと時間がたって、リリーは目を覚ましました。
「ふわぁあ。よく寝た。あれ?私、花びらをかぶって寝てる! お花のお布団だ! かわいい! 誰がかけてくれたんだろう? ありがとうって言いに行かなくちゃ。それに、他の人から借りたお布団だし、返さなくちゃいけないよね。うーん、でもいったいどこにいるんだろう?」
寝ている間の出来事なので、もちろんリリーは誰がくれた布団なのかわかりません。そこでリリーは近くにいた友達のティリーに聞いてみることにしました。
「ねえねえ、私にこのお布団をかけてくれた妖精さんはだぁれ?」
「さあね。僕が来た時にはもう君はお布団をかぶっていたよ。……そういえば、僕が来た時、ちょうどミリアが帰っていくのを見たから、ミリアなら知ってるんじゃないかな?僕は、もうちょっとここでお花を見てから帰るよ。じゃあね。」
そこでリリーは、今度はミリアのおうちに行くことにしました。ありがとう、どういたしまして。そう言うと、ティリーはリリーの眠っていたあたりに寝っ転がって花を見始めました。
リリーはご機嫌で、歌いながらミリアのおうちへ向かいます。かわいい歌声が広がります。
「お布団くれたのだぁれ♪かわいいお花のお布団♪あったか、ひらひらお布団♪」
そうして、リリーはミリアのおうちにつきました。
コンコンコン。
「こんにちは。ミリア! リリーよ。お話しましょ。」
「はぁい。」
きれいなミリアの声が聞こえてきて、扉が開きます。ミリアはお歌が得意なのです。
「リリー、どうしたの?」
「あのね、私にこのお花のお布団をかけてくれた人を探しているんだけど、誰がかけてくれたか知らない?」
すると、ミリアは困った顔で答えます。
「いいえ、ごめんなさい。知らないわ。私が行った時にはもうお布団をかぶっていたから。でも、たしか私があなたの近くにいたとき、家に帰るルナを見たわ。もしかしたらルナが知ってるかもしれないわ。」
そこで、リリーは、今度はルナのおうちに行くことにしました。ありがとう、どういたしまして。そう言うと、ミリアはおうちの中に戻ってお歌を歌い始めました。
「やっぱりミリアはお歌がうまいなあ。今度一緒に歌いたいなぁ。」
そして、リリーはご機嫌で、歌いながらルナのおうちへ向かいます。かわいい歌声が広がります。
「お布団くれたのだぁれ♪かわいいお花のお布団♪あったか、ひらひらお布団♪」
そうして、リリーはルナのおうちにつきました。
コンコンコン。
「こんにちは。ルナ! リリーよ。お話しましょ。」
「はぁい。」
きれいなルナの声が聞こえてきて、扉が開きます。ルナは何でも知ってる物知りさんです。
「リリー、どうしたの?」
「あのね、私にこのお花のお布団をかけてくれた人を探しているんだけど、誰がかけてくれたか知らない?」
すると、ルナは笑って答えます。
「ごめんね。私は見ていないの。でもね、きっと木の上に住んでいらっしゃる神様よ。だって、こんなにきれいな花びらなんだもの。きっと、木の上でちぎってあなたにかけてくれたのよ。」
リリーは、なるほどと思いました。確かにその通りです。こんなにきれいなお布団を持っていて、それをただの妖精のリリーにくれるとしたら、それは神様に違いありません。
「ああ、そうだ。神様に会うには、木の上の偉い妖精の許可証が必要だからね。忘れないでもらっていくのよ。」
さすが物知りルナです。
そうと決まれば早速リリーは木の上にいるという神様のところに行くことにしました。しかし、リリーのような子供が住む地上の世界と違って、木の幹は大人の妖精さんの住処で、いつもせかせか忙しいので、子供のことを邪魔に思う妖精が多いのです。
だからといって、行かないわけにはいきません。リリーはルナにお別れを言ったあと、早速木に登り始めます。
その大きな木には3つの枝棚があり、一番てっぺんの枝棚に神様がいます。しかし、てっぺんの枝棚に行くためには下二つの枝棚を通らなければなりません。というのも、許可証をくれるえらい妖精たちはそれぞれの枝棚を治めている妖精さんの長のことだからです。
リリーは大人の妖精たちに会うことが怖かったので、大きな声で歌いながら木の幹を登ります。
「お布団くれた神様♪かわいいお花のお布団♪あったか、ひらひらお布団♪許可証おひとつくださいな♪」
そうしていると、すぐに一つ目の枝棚にたどり着きます。リリーはまっすぐ枝棚の町の長のところへ向かおうとしますが、
「うーん、どこにいるんだろう?」
木の上の街に来ることなんてほとんどありませんから、リリーは誰がどこに住んでいるのかなんて知っているわけがないのです。そこで、リリーは近くにいた大人の妖精に聞いてみることにしましたが
「もしもし、そこの妖精さん、この街の長はどこにいらっしゃるのか知らない?」
「あ?うるせえ!俺はなあ!てめえみてえなお子ちゃまにかまってる時間なんかねえんだ!ほら、さっさとどっか行け!」
取り付く島もありません。リリーは涙をこらえながらいろんな妖精さんにお話を聞きます。
「もしもし、そこの妖精さん、この街の長はどこにいらっしゃるのか知らない?」
しかし、どの妖精さんも自分のことで精一杯で、だれもリリーのことを助けてくれません。いつも、他の友達と助け合いながら遊んでいたリリーはそのあまりの温度差に、思わず泣き出してしまいました。すると、おひげの濃い、いかにも優しそうな雰囲気のおじいさん妖精がやってきてリリーに言いました。
「こらこら、こんな道の真ん中で泣いていたら他の妖精の邪魔になってしまうよ。ほら、飴ちゃんあげるから、泣き止みなさい。」
おじいさん妖精はそう言うと、リリーに飴を渡しました。リリーはそれを舐め、そのあまりのおいしさに泣き止みました。落ち着いたリリーは、おじいさん妖精にも同じことを聞いてみました。
「ねえ、おじいさん。私ね、神様のところにいただいたお布団を返して、お礼を言いたいの。でも、そこに行くには許可証が必要だから、えらい妖精さんに会わないといけないの。どこにいらっしゃるか知らないかしら?」
おじいさんは笑顔のまま、こう言いました。
「この道をまっすぐ行ったところにその妖精さんのおうちがあるとも。私も、ちょうどそちらに用事があるんだ。一緒に行こうか。」
リリーはおじいさんにありがとうと言って、おじいさんについていくことにしました。
「ありがとう、おじいさん。一緒に行かせてくださいな。」
そして、二人は長のおうちへ向かいました。道中、リリーはおじいさんに友達のこと、お布団のこと、普段のことなどいろいろなことをお話ししました。おじいさんはニコニコしながらリリーの話を聞いていました。
そうして、長のおうちへ着き、その中へ入ると、
「あれ?誰もいないね。お仕事に言っちゃったのかな?」
リリーは不思議そうな顔をしておじいさんを見ます。すると、おじいさんはゆっくりとおうちの中へ入り、デスクに座ると、リリーに言いました。
「いや、長はいるとも。私がこの枝棚の長なのさ。さて、君は神様のいる枝棚に行きたいんだってね。本当は君みたいな子どもの妖精を神様のところに送るのは良くないんだけれどね。今回は、私も神様に渡してほしいものがあって、誰かに頼むつもりでいてね。ちょうど良いから君に頼もうと思うんだ。どうかね?引き受けてくれないかい?」
リリーからすれば、それは願ってもないことです。すぐに
「はい!もちろん私がやります!」
と元気いっぱいお返事をします。それを聞いて、長のおじいさんは笑顔になって
「ああ、よかった。じゃあ、お願いするよ。届けてほしいのはこれなんだけれどね。」
そう言って、おじいさんはリリーに小さな箱と、一枚の紙をくれました。
「こっちの紙が許可証だ。持っていきなさい。」
リリーはもう一度、大きな声でお礼を言ってから、長のおうちを出ました。
そして、町を出て、今度はうれしさから大きな声で歌いながら木の幹を登ります。
「お布団くれた神様♪かわいいお花のお布団♪あったか、ひらひらお布団♪許可証おひとつくださいな♪」
そうして歌っていると、すぐに二つ目の枝棚に到着しました。今度の枝棚でも、リリーは長のおうちを探すのに苦労するかと思いました。しかし、リリーはすぐに気が付きます。
「あれ?さっきの街とおんなじ形してる!」
そう、枝棚の街はどちらも同じ形をしているのです。なのでリリーは迷うことなく長のおうちへ行きました。
コンコン
すぐに反応が返ってきます。
「はあい、今行きます。」
優しそうなおばさんの声です。そうして、扉を開けたのは、気の良さそうなかっぷうのいいおばさんでした。
「なんだい、子供か。さ、木の下へお帰り。ここはあんたの来るところじゃないんだよ。」
しかし、おばさん妖精はリリーを見た瞬間、飛び出してきた言葉は先ほどの街の住民のものより厳しいものでした。ですが、リリーは怖いのを我慢して言います。
「お願い。長様。私、神様にお礼を言いに行かなくちゃいけないの。許可証をくださらない?下の枝棚の長様から許可証はもらえたわ。届けてほしいものがあるんだって。」
すると、おばさんはため息とともに言います。
「あたしはね、下のところの爺さんと違って、甘い妖精じゃないの。下の爺さんが許したとしても、あたしはあんたみたいな子どもが神様に会いに行くなんて認めないよ。さあ、荷物はあたしが届けとくから、渡しな」
しかし、リリーも後には引けません。
「私は、神様にお布団をくださったことのお礼を言いに行きたいの!認めてくださらない?」
「だから、あんたみたいなのを神様に会わせるわけにはいかないんだよ。子どもは子どもらしく木の下で遊んでな。何も急がなくったってあんたみたいなのはいつか神には会いに行くことはできるだろうしさ。」
リリーは反論します。
「関係ないわ!私は今、感謝を伝えに行きたいんだもの!」
すると、おばさんは一段と大きなため息をついて
「そうかい、そんなに行きたいのかい。じゃあ、そうだね。ここの街にいる妖精のうち誰か一人でいいから味方にしてから来なさい。そしたら、考えてあげるよ。」
そういうと、おばさんは扉をバタンと閉めてしまいました。
「どうしよう……」
リリーは困ってしまいました。この街の住人もきっとさっきの街の人たちと同じことを言うに決まっているからです。しかし、今度は泣いても誰も助けてくれなさそうです。仕方なくリリーは街にいる妖精を説得しようとしました。しかし、
「悪いな嬢ちゃん。俺も忙しいんだ。それに、あのウンディーネさんの前に立てるだけの肝っ玉のある奴なんてこの層にはいねえよ。諦めな。」
という返答ばかりで、誰も助けてくれません。時間が経って、お日様も傾いてきたころ、リリーは困って裏道に入っていきました。そこには、疲れて眠ってしまったのでしょう、数人の妖精が座り込んでいました。リリーは最後の頼みの綱と思って、そこの人たちに話しかけました。
「もし、誰か私と長様のところへ行ってくれる方はいませんか?」
すると、顔の赤い妖精が一人、下卑た顔で言いました。
「おう、いいぜ!俺が付いて行ってやらあ!だけどよ、嬢ちゃん、報酬は頼むぜ。」
リリーは子どもですから、この妖精の言うような報酬を用意できないでしょう。なので、その妖精に言いました。
「ごめんなさい。私、お金持ってないの……せっかく助けてくれようとしたのに、ごめんなさい。」
すると、顔の赤い妖精さんは慌てて言いました。
「ああ、なんだ。悪いな。嬢ちゃん金持ってねえのか……じゃあ、しょうがねえ、その、わきに抱えてる箱をくれよ。多分そりゃ結構な価値のあるものと見た!さあ、それをくれ。」
しかし、その箱は前の枝棚の長様からもらったとても大切なものです。なので、リリーはその妖精に言いました。
「ごめんなさい。これは、神様にお届けしなきゃいけない大切なものだから、あげることはできないわ。ごめんなさい。また別の人を探すわ。」
すると、顔の赤い妖精さんは続けて言いました。
「ああ、わかったわかった!確かに神様に奏上しなきゃなんねえもんを俺なんかに与えたらとんだ犯罪もんだな。そうだな……そしたら……お前がウンディーネのババアからなんかもらえたら、それをくれりゃいいや。」
そうして、リリーは住民一人を手に入れました。そして、その足で長のおうちへ行きました。道中、その妖精といろいろお話を聞きました。最近、職を失ったこと、そのせいでお金もなく、裏道で倒れていたことなどです。
「そんなに辛いなら、木から降りてきて私たちと遊べばよかったのに。」
リリーは言いますが、その妖精——ノームと名乗りました——は返します。
「あのなあ、嬢ちゃん。『大人』ってのはな、簡単に逃げられねえの。責任ってのと、見栄ってのと、契約ってのと、いろいろあんのさ。」
「そうなんだ。じゃあ、私まだ大人にならない!」
「そうかい。それが良いよ。大人ってのは、簡単に成れるが、絶対にやめらんねえからな。」
そんなことを話しているうちに、長のおうちに着きます。
コンコン
「おばさん!連れてきました!許可証をくださいな!」
リリーがそう言うと、おばさんは扉を開けてくれました。
「なんだい。思ったよりも早かったじゃ……うわ、なんだい。酔っぱらいなんか連れてきたのかい。そりゃ、酒を飲ませりゃ誰でも——いや、違うね。あんた酒なんか知るわけないもんな。」
おばさんの想像とは違うようでしたが、妖精を連れてきたことに変わりはありません。おばさんがため息をつくと、
「お?なんだウンディーネ、相当疲れてるみてーじゃねーか。俺に職を返す気にでもなったか?」
とノームは言います。それを聞くと、おばさんは突然目の色を変えました。
「なんだい、あんたが協力したのかい。まさかそいつを連れてきてくるとはね。ありがたいし、許可証をあげないわけにはいかないね。そして、ノーム、あんたにはいくつかやってほしいことが溜まってんだ。さあ、こっちに来な!勝手にあたしに長の仕事押し付けたと思ったら今度は返せだなんて。あんた本当にどうしようもないね。この自由人が。」
リリーはそのおばさんのノームへの当たりの強さを見て驚きました。しかしそれ以上に驚いていたのはノームで、おばさんの声を聞いて、赤い顔を途端に真っ青にすると、叫びだします。
「あ?なんだって俺はウンディーネのとこに来たんだ!まずい、やっと自由になったのに、何やってんだ俺は!嬢ちゃん、助けてくれ!」
「観念しな。あんたはもう逃げらんないよ。あたしとここで仕事に明け暮れるんだ。——ああ、嬢ちゃん、悪いね、こいつはこっちで引き取るから、そこにある許可証を持っていきな!」
おばさんは右手でノームの首根っこを引っ張りながら机の上の紙を左手で指さします。リリーはその紙を手に取ると、おばさんの近くまで行き、言いました。
「ねえ、ノームおじさんにひどいことしないで!」
ノームも
「そうだぞ!俺にひどいことすんじゃねえ!おい嬢ちゃん、俺を連れてってくれ。頼む!」
と言いました。しかし、それに対しておばさんは、ノームに対して、何バカなこと言ってんだい、と一喝したあと、リリーの方を向いて言った。
「いや、それはできない相談だね。なんて言ったってこいつは、いつも逃げ出すとはいえここの長だからね。いつもこいつが逃げるせいでおかげであたしも長代理としての権限を認められちまった。こいつを野に離すと、また被害者が増える。だから、こいつはしばらくここで仕事をしなきゃならないんだよ。」
リリーは思います。ノームは悪い人なんだと。しかし、ノームはリリーのお願いを聞いてくれる優しい妖精です。できれば助けてあげたいと思いました。
「じゃあ、神様のところに行くまで貸してください!」
すると、ウンディーネは、諦めたように言いました。
「はあ、しょうがないね。じゃあ、神様のところに行くまでだよ。そしたら、こいつをここまで連れ帰るんだ。」
ノームはやっと解放されたというように安堵のため息をついて、
「嬢ちゃん、助かったぜ。ありがとうな。」
と言いました。
そうして、二人は早速、最後の神様のいる枝棚へ向かいました。第二の枝棚からさほど遠くはないところにその入り口はあり、二人がお話をしながら歩いていると、すぐに入口に到着しました。他の二つの枝棚と違い、この枝棚の入り口には門番の妖精がいます。
「何者だ!」
しかし、リリーは怖気づかず、堂々と許可証を二枚見せます。門番はそれを受け取ると、許可証とリリーの顔を順にまじまじと見て、
「ふむ、こんなまだ大人になるような感じじゃない子どもが神に謁見?不思議なこともあるもんだな。まさか何か悪さを企んでいるのか?」
と疑いの目を向けました。しかし、隣にいたノームが、
「いや、そんなこたあねえよ。俺が保証する。」
と伝えました。それを聞いて門番の妖精も
「まあ、あなたが言うならそうなのでしょう。どうぞ、お入りください。」
そうして、二人は神様のいる枝棚に入りました。すると、すぐにノームとリリーの近くは真っ暗になってしまいました。どうしてだろうと思ってリリーが上を見上げると、そこには優しそうな顔をした白い大きな大きなおじいさんがいました。こんなに大きいのは神様だから以外考えられません。リリーは聞きます。
「あなたが神様?お布団をくれてありがとうございました!お布団を返しに来たんですけど、大丈夫ですか?」
すると、神様は
「そうとも。わしが神じゃ。布団を喜んでもらえてよかったわい。それは、じゃあ、そこに置いておいてくんじゃ。……それにしても、ここまで来るのは大変じゃっとろう。今、お茶を持ってくるからのう。少し待つんじゃ。それとノーム、お前はまた仕事を放り出したのか。あとでウンディーネに謝るんじゃぞ。」
それに対してノームは答えました。
「いや、すみません。なんといっても私は無理やり大人にされたもんですから、子どもの頃が懐かしくてですね——」
「言い訳をするな。お前は大人になったとき、喜んで酒が飲めるとか言っておったろう。後悔なんてないはずじゃが?」
「それを言われると、痛いですね……」
ノームは罰の悪そうな顔をしました。
そうして雑談をしているうちに、お茶の準備ができたようです。神様は、窮屈そうですが、リリー達に合わせて座ってくれます。
「そうだ。ここに来るまでの話を聞かせてくれ。わしの厚意に対して、どう思ったのか、聞いておきたいからね。」
「もちろん!」
リリーはここに来るまでのことを全部話しました。それを神様はお茶を飲みながら笑顔で聞きました。ノームは、なんだか不安そうです。
そして、リリーが全部話し終わると、神様はほめてくれました。そして、話がひと段落したところで、
「よし、じゃあ、帰ろうぜ!」
ノームが言います。しかし、リリーは、
「ちょっと待ってね。」
そう言って、一つ目の枝棚の長から預かった箱を神様に渡します。
「神様、これ。一つ目の枝棚の長様から、神様に渡してほしいって言われて持ってきたの。どうぞ。」
「おや、ありがとう。シルフからか。何かな。」
そう言って神様がその箱を開けると、途端に表情が真面目になりました。そして、リリーの顔をじっと見つめて、言いました。
「リリーや。君は大人になりたいかい?」
ノームは突然驚いた顔をして、おじいさんからの荷物の中身を覗きます。そして、表情を一変させました。ノームは箱の中身を知っていました。それは、子どもの妖精が大人になるときに羽を切るための鋏だったのです。
「うーん、私もいつか大人になりたいとは思っているわ。」
神様は満足そうな表情をして、
「そうか。では、今ならないか?今ならなかったら、もしかしたら君は死ぬまで子どものままになってしまうかもしれないからね。」
リリーは迷わず答えました。
「でも、私はまだ友達と遊んでいたいわ。だから、ごめんなさい。まだ大人になる気はないの。」
「そうか、残念だ。では、帰りたまえ。」
神様は心底がっかりしたような表情で、言いました。リリーは、
「さようなら、神様。お話しできて楽しかったわ。お布団、ありがとう。ノームおじさん、行きましょう。」
そう言って、リリーは、枝棚から出ようとしました。しかし、ノームは
「ああ、いや、すまない。俺はちょっとここでやらなきゃいけないことができちまった。先に下りててくれ。ウンディーネのところへは、多分神様が連絡してくれるはずだから行かなくて大丈夫だ。気を付けるんだぞ。それと、大人になるときまでまたな。」
リリーはノームの様子が少し変だなとは思いましたが、あまり関わってほしくなさそうだったので、一人で木を下りていくことにしました。そして、翌日から、また友達との楽しい日々に戻っていきましたとさ。
一方、残ったノームは神様に言いました。
「シルフからの推薦があったのに、あいつを大人にしなくて良かったんです?俺の時は結構押しが強かったと思うんですが。」
それに対して、神様は言います。
「君は押しに弱かったというよりも、決めかねていただけだろう。だからこそ、君を大人にして決断力をつけさせなければいけないと思ったのだ。だから強めに勧めたのさ。だが、あの子は明確に答えが決まっていた。だから、まだ羽をとるほどの年齢じゃないなと思っただけじゃ。もし、彼女が少しでも迷っていたら、わしは無理やりにでも彼女の羽をちぎっておったよ。」
「そりゃ怖ろしい。じゃあ、俺もすっきりしたんで帰りますね。」
「ふふふ、君をウンディーネのところに送らなければならないからね。どれ、わしが投げてあげよう。」
「え。いや、あのそれは……」
ノームは顔を引きつらせながら後ずさりします。が、神様の方が大きいのですぐにつかまってしまいます。
「そおれ!」
神様が軽くノームを投げると、彼はまっすぐウンディーネのいる長の家まで飛ばされました。
神様は一人、枝棚に残されます。そうして、一人になって、ぽつりとつぶやきます。
「よく遊び、よく学び、よく眠れ。リリー。君たちピクシーはいつか、大人の妖精にならなければならないのだから。ふうむ、しかし、子供たちの監督役は必要かもしれん。今度大人になる妖精は、木の下の長になってもらおうか……」
新しい大人の妖精がだれか、どんな風に子どもの住処を治めるのか、それはまだわかりません。しかし、子どもはいつまでも子どもでいられないものです。彼女たちは成長して、何になるのでしょうか?ピクシーたちの人生に幸あれ。
また、何か出せそうなものがあれば出します