ある日の結末
ある日の結末
俺は夢を見る。
どこか遠くで懐かしい…けれど決して触れてはいけないような夢を…
私は無力な女だった。
何も成せず何も見ることができずに無様に地に伏し嘲笑の笑みを自分に向けることしかできない。
「馬鹿だったなぁ…最後まで…」
目の前にあるのは私が生み出した兵器。
いや、正確に言うなら私の建てた理論に基づいて生まれた兵器。
『終焉へ誘うもの』
と、彼らは呼んでいた。
我々が倒せぬ敵がいるなら世界ごと滅ぼせば良い。
めちゃくちゃな理屈だ。
私はそんな事のためにこの理論を立てたわけじゃない。
巨大な力を抑え込める抑止力になりたかっただけ。
実際、あいつに勝つと言うのは純粋に認められたかっただけ…。
「聞きますこれはあなた方の総意ですか?」
「おいおい大将、分かってないなぁあんたも含めた総意だと俺達は認識してたのによ」
「…そうですか」
馬鹿だった私は…
同じ目的を持つ人を見つけて一緒に進もうとしてきたのに私の思いは何一つ届いていなかった。
「この世界は狂ってるんだ!強力な存在によって狂い切った!もう、世界自体が救いようのないものなんだよ!だから俺達はこの世界を救済する!間違いはない筈だろう!」
同意する声が嫌でも聞こえてくる。
その声は老若男女問わずこの小さな小国全ての人間が同意、確かな意志の元によって成り立った衝動だ。
でもだからだろうか…
「よかった」
「へ?」
仲間だった男の首が飛ぶ。
そして、私は唇を噛み心を押し殺し…瞳を閉じてこう宣言した。
「男も女も子供も老人も関係ない。今ここでこの国の全てを終わらせる」
冷酷にそう呟く。
罪のない人間は一人としていない。
けれどこの国には私の技術を知らぬものは一人もいない。
全てを消す。
同じことが起きないように。
この日私は世界で魔王と呼ばれるのだった。
仲間の全てを失って
**
時は流れて私は道半ばで諦めようとしていた。
なんの力も通じない。
私の力の源は破壊されて終わりかと思っていた。
しかし、そんな時に見た。
「私は…私は…ううん違う分かった…もう止めよう」
その言葉に心が軽くなる。
もうダメだと何度も思った。
もう無理だと何度も思った。
挫けていいんだ…負けていいんだ。
もう、
戦わなくていいんだ。
そう思った自分を次の瞬間殴りたくなった。
「もう止めよう…今なら分かるその思い、殺してるのにずっと嫌だと言ってる」
その言葉に私は息を呑んだ。
彼女は何を言ってるの?
敵相手に何を言ってるの止まるわけないじゃん敵なんだよ?
「くだらない事を言うな…貴方達はここで死ぬ」
そうだよ…。
負けたんだよ。
敵が勝って苦しむ?
そんなわけないじゃん。
「嘘だ。君は私たちを殺したくない…本心ではそう思っている」
何馬鹿言ってるのそんなはずないじゃん。
そんなわけないじゃん。
アイツは無慈悲に私達の力の源を破壊した。
そして…そして?
ねぇ、ユージス貴方はいま、何を見て言ったの?
「うるさい…貴方に何が分かるの?勝手に見透かすな。心も持たない擬きが」
私の中で何かが弾けるような音がした。
さっきまで無気力で諦めていた感情が吹き飛ぶ。
「そんな事を言うな!ユージスは擬きじゃない!私と同じ人間だ!」
「理解不能神の子が人間と?頭の悪いバカはこれだから困る」
「あぁ!私は馬鹿さ!親友を仲間の思いに気付かず本心にも気付かないで裏切られて見向きもされなくて悪人になって魔王って呼ばれて気がつけばこんな大悪党だよ!」
私はめいいっぱい叫ぶ。
思いの丈を形にするように
「でもでもな!彼女はユージスはそんな私を見て同情であろうが何であろうが共感し悲しんで感情を知ろうとした。感情のせいで苦しい思いをして捨てて消えたいと願ってでも消えることを約束で縛られて感情を失くしていってただ世界を廻すだけの機械になってたかもしれない。でも違う、彼女はずっと戦っていたずっと誰かの思いや感情に寄り添おうと必至に…必死に足掻いて生きていた。苦しいこともあった。そう思うこともできなかった。共感ができなかった。理解しようと無理に笑って見せた。同情ができなかった。でも誰かの側にいることはできた。夢を持つことはなかった。でも目的は存在していた。友達が欲しかった。でも出来たのは私達のような不適合者ばかりだった。優しさを知りたかった。でも親はもう死んだ。温もりが欲しかった。でも心配する存在なんて誰一人いなかった。人になりたかった。でも人とは生きる時が違い過ぎた。誰かを救いたかった。でも何も出来なかった。寂しさを忘れたかった。でもいつの世も人死んでいった。誰かと並びたかった。でも先で歩くことしか出来なかった。意志を継ぎたがった。でも何が正解かわからなかった。そして…そして……仲間が欲しかった。でも、誰一人として対等に並んでくれなかった。彼女はいつも一人だった。だから……だからこそこいつは人間だ!思いを理解できなくても思うことができなくてもユージスは誰かの感情に触れることができる!誰が何と言おうが私は叫び続けてやる。こいつは人間だぞって言い続けてやる。お前がどんなに否定しようが何しようが構わない。彼は紛い物でも何でもない真の心を持つ人間だ!それを私が保証する!擬き何てもう一度言ってみろ!この私があんたをぶっ飛ばしてやる!何度這いつくばろうが何度だって壊されようがあんたをぶっ飛ばせるその日まで私は足掻いて足掻いてお前を許さない!あんたが苦しんで泣いて喚くまで殴りに行ってユージスが人間だと言わせてやる!」
わたしは立ち上がる。
「たった一人いえ、一人と一つで何ができると言うの?」
「……一人じゃない」
気がつけば私と同じように壊された人達が立ち上がり前に進んでいた。
「貴方達にはもう力はない。そんな存在がわたしと戦おうと?」
「いや、充分だよ…これでわたしは貴方に勝てる。そして、引き出してあげる。貴方の殺した感情を」
ユージスと呼ばれる少女は剣を握って敵に相対する。
「戯言を……まだ吐かすか!」
「これはアイツらだけの意志だけじゃない貴方自身の止めて欲しいと言う奥底の感情も含んだ一撃だ!」
世界が割れる。
彼女の一撃は世界を砕き距離も時間も全てを超越して敵を穿った。
「嘘……あはは、そっかそうだよね。私だって眩しくなりたかったよ。君達みたいに正義を貫きたかったよ。でも、無理なんだよ。もう遅過ぎたんだよ。君達の力はあまりにも無さすぎる…もう止められないよ。影は」
「そんなの」
『やってみなくちゃ分かんない(でしょ)(だろ)(筈だ)』
私たちは何一つとして力は残っていない。
ユージスですら剣にヒビが入っており本来の力を十全に発揮できてない。
でも、勝たなきゃいけない。
この先に何があろうと負けるわけにはいかない。
**
最終決戦の地にて私達は戦い続けていた。
神の御使だか何だか分からないがユージスの邪魔はさせない。
マナによって擬似的に私の力を再現しているとはいえでも出力が低過ぎて何もできない。だからといって負けられない。
負けたくない。
一人……また一人倒れていく。
いつ私が倒れるかももう分からない。
でも、奇跡的に誰も死んでない。
みんな必死になって立ち上がって倒れて何度も何度も死にそうになりながらも戦い続ける。
一番辛いのはあの時戦った少女。
私達の力の源を壊してしまった責任を抱えて彼女のエネルギーで私達の力の全てを再現している。
しかし、使われるエネルギー量は半端ではない筈だ。
いつ倒れてもいつその力が途絶えてもおかしくない。
なのに彼女は必死に維持し続ける。
例えもう、その体が腐り果てていても。
私ももう戦う力なんて殆ど残っていない。
片腕は喪失しもうあったと言う記憶すら怪しい。
皆んなも四肢は潰れ、声も消え、目が見えないものもいる。
耳が聞こえなくなったものも、平衡感覚が消えたものも……
この戦いに勝った先に私達はきっと生きてけない。
「それでもいいんだ!」
私達は勝つために今ここにいる。
勝った先の未来なんてどうでもいい。
今ここでこうして仲間と共にある。
その先で死んだって良い。
ここで勝って目的さえ叶えば私達の勝ちだを
「あぁ、そうだ」
「……すーすーしゃっしゃっ」
「終われるわけ無いよね」
声がまばらに聞こえてくる。
消え入りそうな視界の中で私達は戦い続ける。
そんな中、今度は右目をわたしは奪われる。
そうこうしてるうちに左腕、右足、左足。
もう、生きてることが不思議になっている。
でも、これでも戦える。
地を這うしか無くても生きるのがどれだけ辛くてもここで死んでもう二度とユージスの心が開かない方がわたしの中では辛いんだ!
そうして、皆んなが全てを奪われていく中でようやく終わりが迎える。
「…はぁはぁ……」
ユージスが戻ってきた。
私達は誰一人として死ぬことはなかった。
しかし、全員擬似的な肉体を作らないと動けない状態に成り果てていた。
「みんな……ごめん…」
「貴方が謝ることじゃ無いの!私たちが好きでやってること!」
「ううん、負けちゃった」
その瞬間、地震が起きる。
いや、あり得ないここは大地も何も無い空間の筈。
なぜ地震が……
『クックックッ今ここでの敗北は認めよう。しかし!貴様らはここで死ぬ。終わるが良いさ世界と共に感情を持った人形よ』
私達の敵の声。
しかし、それだけ言って気配が消えた。
おそらく逃げたのだろう。
「ごめん、この崩壊は防げなかった」
「仕方……ないね」
「そう仕方ないことだ」
「みんな?」
私たちが仕方ないと言うことに驚いた様子のユージス。
私たちだった死ぬのが怖くないわけではない。
不思議な気分に私はいた。
「ユージスここでわたしは誓いますもう足手まといにならないと。だから、次もし会った時は…本当の仲間になって」
「俺からもだ」
「私からも」
皆んなが私に続いてユージスに言う。
彼女は首をかしげる。
「何言ってんだよもう仲間だよ……皆んな。そうだね次があるならもっともっとみんなで戦おう。もっと……もっと一緒にいよう。みんなと…みんなと私は一緒にいたい」
それと共に離れる感覚。
最後に彼女を…ユージスを抱き止めたかった。
でも、それは叶わない。
離れていく意識に私は争い続ける。
そして、見えてきた……世界が崩壊するその瞬間。
その時にふと時間が止まったような気がした。
「君達は死なせないよ。君たちは幾重もの選択を乗り越えてきた。そして、一つの奇跡を起こしたんだ。だから…」
何かがいる?
この声はまさか…
「君達に再び困難に立ち向かう機会を世界が与えた」
目の前にありとあらゆる光景が飛び交う。
そして、私の目の前にあるのは…
「いいの?私をそこに入れて…」
笑った。
そうか
やっと分かった。
「良いのかい?」
わたしがそこに行こうとした時、彼女はいた。
世界の守護者と呼ばれた死者の代行者。
「君の進もうとする道は確かに救いはある。でもそれ以上に苦しい道のりになる」
目の前に見えるものは私の知るものとは違うものだ。
彼女の言うことはなんと無くわかる。
「例えその先の奇跡に近い幸せを掴めたとしても君の本当に望むことはないかもしれない」
それでもわたしはゆっくりと歩みを進める。
「いや、それ以上に君の居場所はこの…」
「大丈夫…私の居場所はみんながいる場所だから」
「それならいいさ。私からは何も言う事はない」
ふっと微笑んだ彼女は私を抱きしめる。
「君達はみんな同じことを言うんだね」
「え?」
「さぁ、時間だ。この先の未来、君の望むものであることを祈っているよ」
一人は人を武器にするようなマッドサイエンティストの少女だった。
一人は森羅万象を持つ少女だった。
一人は誰かと共鳴する少女だった。
一人は孤独を抱えた鬼の少女だった。
一人は未来を見通す少女だった。
一人は名前も全て失った少女だった。
一人は暁の髪をした多重人格の少女だった。
一人は崩壊を呼ぶ運動神経のない少女だった。
私は己が魂を剣に変える異端だった。
そういえばあの子たちもいたなぁ
剣に全てを捧げた少女…強かったなぁ。
彼女の鏡であり続けた少女、最後まであの子は気まずそうにしてたなぁ。
私たちを最後は助けてくれた魔法少女…あー一番強かった…死ぬかと思ったよ。
そして最後は…とある神に人になって欲しいと願われて生まれた神様の人形…ううん…少女。
また会えるよね…ユージス。
そして、みんな。
そうして私の意識は途絶えるのだった。
私の持つ作品の中のはるか昔の過去を描いています。
どの作品かは秘密です。
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