終章
西軍大将・山名宗全が病で死んだとされた、その二ヶ月後、東軍大将の細川勝元も突然に死んだという事が人々に伝わった。東西の総大将が亡くなったことで、両陣営は和睦の方向を模索し始めた。全国を火の手に巻き込んだ、応仁の乱が終わろうとしていた。
「ーーそれで、鎌倉公方の方に龍の実があるって、本当なんですか?」
街道を歩きながら、新九郎は横を歩く移香にそう訊ねた。移香は軽い口調で、新九郎に応えた。
「どうだかな。まあ、行ってみりゃあ何か判るだろう」
「適当だなあ、そんなんで本当に全部の実を回収できるんですかね?」
「別にお前は、一緒に来なくたっていいんだぜ」
そううそぶく移香に、新九郎はやり返した。
「そんな事言って、調べる時はいっつも私の傀儡之術に頼りきりじゃないですか。よく、そんな口がきけますね」
少し口を尖らせる新九郎を見て、移香は微笑ってみせた。
と、その横を足早に通り過ぎる者がいる。そのすぐ後ろから、走って移香の前に出た者が移香の方を振り向いた。
「おい、移香! 今度はオレたちが実をいただくからな。オレはお前に勝つ!」
「そうかい、まあ頑張りな」
移香が笑ってみせると、羅車はにやりと笑って、街道を駆け抜けていった。
「あの馬鹿……」
思わず足を止めた亜夜女が呟く。横まで来た新九郎が、亜夜女に話しかける。
「あの人、追わなくていいんですか?」
「わたしが、あいつを追うんじゃない。その逆だ」
亜夜女は不機嫌そうにそう言うと、不意に姿を消した。街道沿いの森に姿を消したようだった。二人はしばらく、先を走る羅車の背中を見ていたが、新九郎が口を開いた。
「移香どの、陰野衆に戻らなくてよかったんですか? せっかく許されたのに」
「お前だって、傀儡衆じゃなくなったんだろ。人の事言えるか」
移香は少し愉快そうに言った。新九郎は街道の先に広がる空を見ながら、軽く伸びをした。
「あーあ、じゃあ、私たちって何なんでしょうね?」
「何なんだろうな」
移香もつられるように空を見上げた。
遠くまで見える青空を、二人はしばらく眺めていた。
「まあ、いいじゃねえか」
移香は微笑を洩らした。




