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陰流呪剣行  作者: 佐藤遼空
五、鶏
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西陣南帝

 蜘蛛が手を空に向けると、上空を飛んでいた鼯鼠が一体、動きを止める。移香はそれを引き寄せると同時に跳躍し、落ちてくる鼯鼠の背中を踏み台にしてさらに跳躍した。

「なにぃっ!」

 蜘蛛はさらに上空を飛んでいた鼯鼠に太刀を浴びせた。踏まれた鼯鼠は地面に落ちる。太刀を受けた鼯鼠はそのまま地面に落ちると、擬身の種が枯れて人の姿に戻った。

「ほう、剣での霊気の当てを完全にものにしている者がおるとはな。面白い!」

 それまで静観していた鼯鼠の化怪鬼が、大小の太刀を抜いた。と、それが三枚刃の鎌へと変わっていく。

「わしと勝負だ!」

 鼯鼠化怪鬼が飛び上がり滑空してくる。蜘蛛は静かに剣を脇に構えた。

 鼯鼠が飛行しつつ、猛烈な速度で蜘蛛を両手で切り裂こうとする。瞬間、蜘蛛の剣が一閃した。

 蜘蛛の横を通り過ぎた鼯鼠が、そのまま地面を転がる。その回転が百足と蝙蝠の足元で止まった時、鼯鼠化怪鬼は人の姿に戻りながら、口から不神実を吐き出した。


「ーーいやあ、見事、見事」

 手を叩く音とともに、緊張感のない声が響いた。屋根の上で見ていた西陣南帝の声であった。

 扇を持ったまま手を叩く西陣南帝は、奇妙なほどに無邪気に見えた。歳もまだ若く十代と言っても不思議ではない。しかしその顔はのっぺりとして何処か若々しさに欠けている。にも関わらず、その眼だけは好奇心が零れてきそうなほどに光っている。西陣南帝はどういうわけか、嬉しそうな顔で言った。

「よもや朕の護衛が倒されるとはのう。これでは頼りにならんではないか」

「み、帝!」

 既に亜夜女に不神実を奪われた鼯鼠の化怪鬼だった男が、恐怖の声をあげた。

 西陣南帝は目を細めた。

「仕置きが必要じゃのう」

「お待ちください、帝!」


 男が叫ぶより早く、男の身体から突如、炎が燃え上がった。暗鬼だった他の供の者たちも、次々に炎に包まれていく。男たちの絶叫が響いた。

「馬鹿な! あいつはまだ変化すらしていないんだぞ!」

 羅車が驚きを隠せない声をあげる。

「家臣を殺すとは……随分と残忍な帝だな」

 移香は蜘蛛の糸を投げ放ち家の軒に巻き付けると、それを引き込む勢いで跳躍した。屋根の上にいる西陣南帝のところまで飛躍した蜘蛛は、石火の一撃を加える。しかし西陣南帝は水干の袖をひらりと舞わせながら、その一撃を躱した。

「なるほど鋭い。これでは無理もあるまい」

 西陣南帝が納得したように囁く。移香はその逃げる相手に、さらに急進した。

「そちの力は判った」

 西陣南帝が笑った瞬間、その姿が変化を始めた。


 その身体は白く、背中から翼が飛び出す。黄色になった足には鋭い爪が生え、眼は黄色と黒い瞳に不気味に光り始めた。

 その白い頭部に、突然、炎が揺らめく。いや、それは炎ではなく、炎のように赤いとさか(●●●)であった。

(とり)! 奴が!!」

 移香が驚きの声をあげた瞬間、その身体が爆炎に包まれた。

「移香! ーー貴様ッ!」

 羅車が急進しながら鞭を飛ばす。しかし鶏の化怪鬼となった西陣南帝は、掌を向けるとそこから炎を放射した。百足の鞭が、鶏に届く前に燃え落ちる。

「ーーまさか……」

 爆発の負傷を残したまま、移香が立ちあがる。

「そんなはずはない……」

 移香は歯を食いしばって、西陣南帝を虚ろな目で凝視している。


「どうした、移香?」

「あいつが……あんなに若いはずはない…」

 移香には亜夜女の声も届いてない様子で、ただ呟いた。

 しかし急に眼を見開くと、移香はぎらぎらとした殺気を全身に放ち始めた。

「奴が誰でも構わん。俺はーーこの時をずっと待っていたのだ!」

 蜘蛛が剣を持って飛び出す。その先では、西陣南帝が百足を焼き尽くさんと、火炎放射を浴びせていた。

「ぐわあぁぁっ!」

 業火に焼かれながら、羅車が地面を転がる。移香はそれに構わず、鶏に斬りつけた。 


 キン、という音がして、鶏が抜いた刀で蜘蛛の太刀を受け止めた。すぐ間近にまで迫った西陣南帝に、移香が声を発した。

「貴様、十五年前に吉野の里を襲ったか?」

 剣を押し込みながら移香が問う。西陣南帝は力を受けつつ、首を傾げた。

「何を言うておる? 朕はその頃はまだ五歳ほどであるぞ」

「ならば問う。お前にその(とり)の不神実を渡したのは誰だ? それを十五年前に使っていたのは誰だ?」

「ーーさあてのう」

 力を流しながら、鶏が後方に飛び退(すさ)る。間合いをとると鶏は笑った。


「結構、結構。聞きたくば力ずくで来るがよい。ほ、ほ、ほ!」

「ならば、そうさせてもらう!」

 移香は鶏に追いすがった。

 一方、百足を包んだ炎を、蝙蝠が羽ばたきでなんとか消した。しかし火が消えた直後、羅車の身体から不神実と三鈷杵が出てくる。

「移香、羅車がやられた! 霊気の炎だ!」

 亜夜女の声を耳にしつつ、移香は眼前の敵に集中した。鶏が空中から、火炎弾を続けざまに撃ちこんでくる。移香はそれを斬り払っていたが、地面で止まっていることの不利を悟り駆けだした。


 蜘蛛が、上空の鶏の死角になる角に入る。と、その角地の屋根から飛蝗の姿をした化怪貌士が飛び上がってきた。飛蝗はそのまま上空の鶏を急襲した。

「ほう! そちは蜘蛛以外にも変化できるのか。結構、結構、これは楽しませてくれる」

 鶏が飛蝗の剣を受けて声をあげる。飛蝗になった移香が剣をさらに押し込もうとした瞬間、突然、鶏の剣が燃え上がった。

 突然の炎に、移香は離脱する。空中で間合いをとったところで、鶏が愉快そうにう言った。

「どうやら、そちには本気が出せそうじゃのう」

「そりゃあ、光栄だな」

 移香は皮肉そうに笑った。


 その瞬間、音の衝撃が鶏を襲った。鶏の側頭部が、突然、破裂する。

「ぬおっ!」

 鶏は空中でよろけ、落下した。

「やったか?」

「いや、浅い」

 亜夜女の答えに違わず、鶏はすぐに身を起こしてくる。抑えた側頭部から、血が滴っていた。

「この蝙蝠風情がーー」

 鶏が黄色と黒の眼で、ギョロリと蝙蝠を睨んだ。

「せっかくの勝負に水を差すとは、なんと下賤な輩! 許せぬ!」

 鶏が燃え盛る剣を下から斬り上げる。人の大きさほどもある巨大な火炎弾が発射され、蝙蝠と飛蝗に襲いかかった。二人の身体が炎に包まれる。


「あぁっ!」

 亜夜女が叫び声をあげながら地面に転がる。その姿が蝙蝠から戻り、胸元から三鈷杵と不神実が出てきた。

「くっ」

 移香は敢えて羽を広げて空に舞い上がり、霊気を全身から放出して火を消した。そしてそのまま西陣南帝に斬りかかる。

 鶏が太刀を受ける。と、すぐに右手を柄から離し、飛蝗の鼻先へ掌を向けた。

 至近距離で火炎弾が発射され、移香が吹っ飛ぶ。凄まじい衝撃を受け、移香は地面に這いつくばった。

「ぐ……あ…」

「なんじゃ終いか? つまらんのう、もう少し楽しめるかと思うたが。まあよい、楽しみに水を差した女から引導を渡してやろうぞ」

「や、止めろ……」


 西陣南帝が掌を倒れている亜夜女に向ける。移香は立ち上がろうとするが、身体が動かない。

 火炎弾が発射される。亜夜女が炎に包まれ、絶叫をあげた。

「やめろっ!」

 移香は飛蝗の変化を解くと、もう一つの実を取り出した。それは鶴の不神実であった。

挿魔(ソーマ)!」

 倒れたまま移香は鶴の化怪貌士に変化する。移香は立ち上がると、すぐさま冷気の羽ばたきを亜夜女に浴びせた。

 亜夜女の身体を包んだ炎が、冷気によって掻き消される。


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