第9話 おいでよ 勇者 パーティ
酒を買って家へと向かっている。
気分が沈んでいるからか足が重くて仕方ない。
家の前に人影が………。
先程、俺が逃げる様に撒いた勇者だ。
まさか家までバレていたとは……。
うーんどうするか……よし、無視しよう。
何も気づいてない振りをしながら、しれっと帰宅を試みる。
「ちょっと入れてもらってもいいかな!」
わざわざ家まで来てるだけあって、この程度じゃ引き下がらないか……。
「え…嫌だけど………」
俺は明確な拒絶を知つつ家に入りドアを閉める。
「そんな事言わずにさ!大事な話があるんだよ!」
コイツ………ドアに足を突っ込んで閉めれないようにしてきやがる。
このまま異様に目立つ勇者と玄関前で、こんな事するのは近所の人にどう思われるか………しぶしぶ、俺は勇者を家へと招き入れた。
「なんなんだお前は……勇者パーティには入らないって言っただろ」
「………さっきは嘘をついたんだ!本当は僕は女の子で誰とも付き合って無いんだ!!」
「…………は?」
一瞬、俺たちの間に静寂が通る。
「は?………え?………………どうゆう事だ?」
「それは……仲間の為なんだ……勇者パーティは、世界を滅ぼしかねない程に増殖したモンスターの中に、出現するようになった強力な力を持つモンスターに対抗する為に今までいがみ合っていた大国が手を組んで作った、極めて特殊な組織だとは知ってるよね?」
「それぐらいは………」
「教会の高名な魔法使いの先生が占いで才能ある子供を選び、その子たちに最高の環境での修行をさせることによって、最高のパーティを作ろうとしたみたいだけど、集まったメンバーが全員女の子だったんだ。それじゃあ威厳が立たないとの声もあったけど、そこは魔法使いの先生が頑として譲らなかったらしくて、結局は勇者である僕が男装して男を名乗ることで落ち着いたんだ。」
「あ、ああ………なるほど…………?男を名乗ってる理由は分かったが、なんでメンバーと付き合ってるって噂を肯定したんだ?」
「それは僕達が付き合ってるって言い出したからさ」
「えぇ…話がややこしすぎるんだが………」
「勇者パーティはさっきも言ったけど本当に特殊な組織なんだよ。最近やっと修行が終わり旅に出ることになったんだけど、その前に勇者パーティのお披露目として、社交会やパーティーに出席したんだけどね。勇者パーティに対しての貴族の方々の反応は様々で 、調子に乗っていると蔑んだ目で見てくる人が多かったけど…。中には、擦り寄って来るよう人や、取り入ろうとするような人も居て、そういった人の中には、メンバーを是非自分の家へと嫁ぎに来いって人も居て………。そういった人達への牽制として、メンバーたちは勇者である僕の彼女だって、宣言したのが噂として大きく広まっちゃっただけで、僕とメンバーに恋愛的な関係は無いよ。さっきは人目があって、嘘ついちゃったけども」
「……………ぇえ? あー?ん……?あまりの情報量に頭痛が起きそうだ………というか、なんでそんな重要な事を俺に?」
俺が勇者パーティに入るという確証も無しに、こんな事をバラしてしまって良いのだろうか。
「それは…………」
勇者が俺をじっと見つめてくる。
中性的な美形だとは思っていたが、いざ女の子だと言われてから、そんなに見つめられるとドキッとしてしまう。
「君ってカフカちゃんと幼なじみなんでしょ?」
そう言われドキッとする 。これは照れなんかじゃなく、純粋な驚きだ。まさか俺のカフカへの思いを見抜いて……!?
「昨日の会議でキミの名前が出た時に、カフカちゃんが教えてくれたんだ、そりゃあ……幼なじみとその彼氏と一緒に冒険なんて嫌だよね! でも聞いたよ、カフカちゃんが勇者パーティに招集された時に、自分も冒険者として成り上がって勇者パーティに入ってやるって言ったんだよね!?」
「なんて余計な事を……それに昔の話だろ?俺がまだ勇者パーティに入りたいって思ってるとは限らないだろ?」
「それは僕が、君に勇者と名乗った時の反応から僕に思うとこがありそうだったからね!だから、カフカちゃんから話を聞いた時にピンと来たんだよ」
まさか態度に出てしまっていたのか………。
それにしても、それでそんな解釈をするとは、なかなか鈍感なヤツなんだな………あと楽観視がすぎるだろ。
「改めて聞くけど、勇者パーティに入ってくれるよね? シルト君!」
勇者は目をキラキラさせながらそう聞いてくる。
…………正直、とても迷う。
「そう言えばカフカちゃんも久しぶりに会いたいって
言ってたよ!」
「喜んで! これからよろしくお願いします先輩!」
こうして俺は勇者パーティへと加入した。