第5話 タフガイ
「うーうー」
「大丈夫!今助けるからね!」
泣きながら身をよじる子どもに勇者が呼びかける。
「グハハハハ……コイツノ、イノチガ、オシイナラ、ブキヲ、ステロ!」
なんて状況だ、人質を取られているのか…非常に不味いな。
人気のない場所とはいえ、ここも街の端で一般人か入り込むのは可能だ。どうやら運悪く捕まってしまったらしい。
「ほら、捨てたぞ!その子を解放しろ!」
勇者はコウモリ親玉の指示に従い、剣を捨てた様だ。
「アア……モチロン…ダガ、サキニ、オマエニ、シンデモラウガナ!」
そう言って親玉は人質を左手で掴んだまま右手で勇者を殴り付ける。
「ゴハッ……うっ………」
勇者は苦しそうに呻きながらも立ち上がろうとしている。
コウモリ親玉が人質を解放するなんて、あまり信じられるものじゃない………それは勇者も感じているだろう。
なら、何故立ち上がるのか。勿論一番は、倒れたままだと最悪人質に危害が加わるだろう可能性からだろう。
でも、万が一…億が一にでも、もし勇者が俺を信じて、俺を待って時間を稼いでいるとしたら………。
勘弁してくれよ……俺はお前に対して、どれほどコンプレックスを抱けばいいんだ。
しかし、俺にはあのコウモリ親玉に人質を殺されるより先に奇襲で倒し切る程の力は無い。
「まぁでもその代わり…………」
「グハハハハ サア!クタバレ!」
コウモリ親玉の大ぶりの拳が振り下ろされる。勇者にトドメを刺すつもりなのだろう。
俺は急いでその前へ出てその拳を受け止める。
かなりの衝撃だが問題ない、タフさには自信がある。
「ナニ!?」「いけ!腕を落とせ!」
「え?ああ! 任せてくれ!《エアスラッシュ》!!」
勇者は一瞬困惑しつつも、コウモリ親玉が冷静になるより先に剣を拾い上げ腕ごと人質を救出する。
「もう大丈夫!怖かったね、よく頑張った!」
「グギャアアア、キサマァ…!ブチコロス、ブチコロシテヤルゾ!」
コウモリ親玉は何か喚いているがもうおしまいだ。
「これで終わりだ…ゲス野郎 《シャイニングスラッシュ》」
勇者は落ち着いた声で残酷な死刑宣告をする。
ーーーヒュン
光のような速さの攻撃でコウモリ親玉は両断された。