穢土の蛆
師
「学生諸君、蛆とは、白い蛆だけに非ず。
例えば、貪食細胞は赤い蛆であり、
血液の中に住む王家であり、
肉を喰らう肉であり、
排他的で潔癖症の数式だ。
また、棘皮という奴は青い蛆であり、
海底に置かれる臓物であり、
残渣を消化する歪な
海底の腫瘍である。
それならば、木々は茶の蛆とも言え、
大地を根で蹂躙し、
その汚濁を吸い上げ、
まるで死菌体をまとわりつかせる
呪われた死体の様に
地の玉座に坐する。
沼地の水は緑の蛆であり、
不潔で不親切な業者であり、
腹ぺこに飢えた貧民であり、
溺れた豚であろうと、
水辺の美しい蘭であろうと、
溶解させてしまう悪鬼の首魁だ。
これら蛆共は食作用にて浄化し、
あらゆる腐物を洗浄する。
宇宙とは、
これら貪食の竜によって維持され、循環し、
逆に、老朽とは、蛆の餌であり、
壊疽とは、領地の放棄なのだ。
すなわち、
命とは、空を這う蛆であり、
思考とは、無機の中の異物であり、
哀しい声で泣くものは、
無に帰ろうと藻掻くのだ。
何者にもなれぬ肉の形で。」
学生
「師よ!!
それでは我々人間とは、
何色の蛆なのでしょうか?」
師
「君。
なぜ、我々が蛆だと思うのか?
我らはあの様な
美しき神の口などにはなれぬ。
人間とは、蛆に喰われる
汚物の袋に過ぎぬ。
その証拠に、
我らは蛆共を[悍ましい]と嫌悪し、
怖れるのだ。
明るい街灯の下で悪臭を放ちながら。」
学生一同(合唱)
「浮き世の汚物である我らも、
土という屍衣を被り、
蛆共に喰われ、虚に帰る。
ああ、それこそすなわち、
世の理なり。」