笠地蔵 其の一
貧乏なおじいさんは編み笠を編み、それを持って町へ出掛けて行きました。
「笠はいらんかね~」
しかし、誰もおじいさんの笠を買うとは言ってくれません。
陽も暮れてしまい、おじいさんはあきらめて家へ帰ることにしました。
帰り道の途中には、六体のお地蔵様が立っています。
降り始めた雪がお地蔵様の頭に積もり、とても寒そうです。
「そうだ、これをかぶせてあげればいいだぁよ」
おじいさんはそう考え、お地蔵様に笠を順番にかぶらせてあげました。
しかし、困ったことに、おじいさんが持っている笠は五つしかありません。六体目の小さなお地蔵様にかぶらせてあげる笠がないのです。
「んー、困った。このおじぞーさんだけ無視すんのも何だし」
おじいさんはふと思い付き、懐から手ぬぐいを出しました。
「これでガマンしてねー」
おじいさんはその手ぬぐいでほっかむりをしてあげようとしましたが、手ぬぐいが小さいのでお地蔵様の頭を包み込むことができません。
仕方がないので、たたんだ手ぬぐいを頭の上に置いてあげました。
「ま、何もないよりマシってことで」
おじいさんは問題が解決したので、ご機嫌になって帰って行きました。
「ちょっと……これだと、まるで俺が風呂に入ってるみたいじゃん。もうちょっと他に何かなかったの?」
小さなお地蔵様が文句を言いましたが、すでにおじいさんは行ってしまった後でした。
その夜中、外で何やら音がしておじいさんは目を覚ましました。
戸を開けると、お米や野菜などがたくさん置かれ、道の向こうにお地蔵様が帰って行くのが見えました。
「そっかー。おじぞーさんがくれたって訳ね。やーっぱいいことはするもんだぁよ」
何をもらったのかとわくわくしながらプレゼントを見ていたおじいさんでしたが、食べ物ではない物を見付けました。
「何、これ。入浴剤とタオル? うわ、なっげぇのー」
異様に長いタオルは小さなお地蔵様のさりげない皮肉でしたが、そんなことに気付くおじいさんではなく、もらった「地獄谷温泉の湯」にひたって温まったのでした。
めでたしめでたし。