一休さん 其の一
将軍足利義満に呼ばれ、一休さんは北山殿(金閣寺)へ行きました。
「また何か下らんことを言うつもりか。まったく……こちらも暇ではないのだがな」
ブツブツ言いながら、一休さんは将軍様の前へ出ました。
「お、来た来た。待ってたよぉ~」
「今日は何の用だ」
小坊主の一休さんの方が、将軍様より偉そうです。
「あ、それなんだけどさ。ここに虎のイラストがあるっしょ。こいつが夜な夜な出て来て悪さをすんだよね。キュウちゃんなら何とかできっかなぁ、と思って」
「以前から思っていたが、その胡瓜の漬け物みたいな呼び方はやめろ」
「え? あ、そんなかたいこと言わずにさ。で、どう? できる?」
「簡単だ」
一休さんはすっと立ち上がりました。
「筆と墨を持って来い」
「おっけー。おーい、誰か書くもん、持ってきて」
家来が筆と墨を持って来て、一休さんに渡しました。
「オリもねぇ、虎は大好きなんだよ。けど、悪さをされるとちょっとねー。竜とかツバメとかを叩きのめすってんならいいんだけどさ」
扇子を持って、将軍様は素振りをしました。どうやら、この将軍様は虎びいきのようです。
そんな将軍様を横目で見ながら、一休さんは墨に筆をひたしました。
それから、虎の絵が描かれた屏風に太い線を引いていきます。
「え……ちょっと、キュウちゃん。何してんの」
「この虎を何とかしろと言ったから、何とかしてやっている」
そう言っている間にも、一休さんは縦や横に線を引きました。
「まぁ、こんなところか」
一休さんが線を引き終わりました。
屏風は、檻に入れられた虎……のような図になっていました。ご丁寧に南京錠まで描かれています。
「これでよかろう。檻に入れられては、虎とて悪さはできまい。もう夜に困らされることはなくなるぞ」
「あ……そ、そうね」
将軍様は呆然と檻に入れられた虎を見ていました。
「ではまた会おう……いや、もうこんな下らんことに呼び出すなよ」
そう言って、一休さんは安国寺へ帰って行きました。
「これ、結構値が張るイラストだったんだけどぉ……」
自分がどうにかしろ、と言ったので、将軍様は怒ることもできません。
落書されてしまって価値もへったくれもなくなった絵を見て、がっくりと肩を落としたのでした。
めでたしめでたし。





