表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
里に立って言えば千の口(短編集)  作者: 碧衣 奈美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/57

一休さん 其の一

 将軍足利義満に呼ばれ、一休さんは北山殿(金閣寺)へ行きました。

「また何か下らんことを言うつもりか。まったく……こちらも暇ではないのだがな」

 ブツブツ言いながら、一休さんは将軍様の前へ出ました。

「お、来た来た。待ってたよぉ~」

「今日は何の用だ」

 小坊主の一休さんの方が、将軍様より偉そうです。

「あ、それなんだけどさ。ここに虎のイラストがあるっしょ。こいつが夜な夜な出て来て悪さをすんだよね。キュウちゃんなら何とかできっかなぁ、と思って」

「以前から思っていたが、その胡瓜(きゅうり)の漬け物みたいな呼び方はやめろ」

「え? あ、そんなかたいこと言わずにさ。で、どう? できる?」

「簡単だ」

 一休さんはすっと立ち上がりました。


「筆と墨を持って来い」

「おっけー。おーい、誰か書くもん、持ってきて」

 家来が筆と墨を持って来て、一休さんに渡しました。

「オリもねぇ、虎は大好きなんだよ。けど、悪さをされるとちょっとねー。竜とかツバメとかを叩きのめすってんならいいんだけどさ」

 扇子を持って、将軍様は素振りをしました。どうやら、この将軍様は虎びいきのようです。

 そんな将軍様を横目で見ながら、一休さんは墨に筆をひたしました。

 それから、虎の絵が描かれた屏風に太い線を引いていきます。

「え……ちょっと、キュウちゃん。何してんの」

「この虎を何とかしろと言ったから、何とかしてやっている」

 そう言っている間にも、一休さんは縦や横に線を引きました。


「まぁ、こんなところか」

 一休さんが線を引き終わりました。

 屏風は、檻に入れられた虎……のような図になっていました。ご丁寧に南京錠まで描かれています。

「これでよかろう。檻に入れられては、虎とて悪さはできまい。もう夜に困らされることはなくなるぞ」

「あ……そ、そうね」

 将軍様は呆然と檻に入れられた虎を見ていました。

「ではまた会おう……いや、もうこんな下らんことに呼び出すなよ」

 そう言って、一休さんは安国寺へ帰って行きました。

「これ、結構値が張るイラストだったんだけどぉ……」

 自分がどうにかしろ、と言ったので、将軍様は怒ることもできません。

 落書されてしまって価値もへったくれもなくなった絵を見て、がっくりと肩を落としたのでした。

 めでたしめでたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ