金の斧と銀の斧
働き者の木こりは、泉のそばにある木を伐っていました。
しかし、予想より木が固く、一生懸命伐っていた木こりは汗をかき、斧を振り上げた時に手がすべってしまいました。
手からすっぽ抜けてしまった斧は、近くの泉に落ちて沈んでしまいました。
「しまった。よりによって泉に落ちたか」
泉の水はきれいでしたが、かなり深そうでした。
木こりがどうしようかなー、と迷っていた時、突然水面に泉の精が現われました。
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか。こちらの銀の斧ですか?」
「わしの斧はどうした」
「え?」
「え、ではない。貴様、わしが金の斧を選ぶとでも思っていたのだろう。残念だったな。わしはそんな間抜けではない」
「はぁ……」
「それより、わしの斧はどうした。さっき沈んだのを知ってて、貴様は現われたのだろう」
木こりは泉の精に詰め寄りました。
「すごく汚かったから、燃えないゴミに出しちゃった」
「何だとっ。貴様、わしの大事な商売道具を勝手に処分したと言うのかっ」
「で、でも……錆びてたし、柄の部分もかなり黒くなってたし」
「デモもストもあるかっ。錆びだと? わしはちゃんと手入れをしている。柄が汚れているのは、働いている証拠だ! 捨てたと言うなら、弁償しろっ。こちらは家族の生活がかかっているのだぞ」
さらに詰め寄られ、泉の精は小さくなりながら謝りました。
「ごめんなさい。あの、これで許してください」
泉の精は、金と銀の斧を差し出しました。
「これでカタをつけるということか。我々の商売道具は使い込んだ物の方がずっといいのだが……よかろう。これで許してやる。売り飛ばせば、新しい斧も買えるな」
木こりは泉の精から二本の斧を受け取りました。
「いいか、貴様。泉の精がどれほどのものかは知らんが、勝手に他人の物を処分するな。持ち主にとってはそれが一番いい、ということもあるのだからな」
「はい、よくわかりました」
木こりはピカピカの斧を持って、肩をいからせながら帰って行きました。
これからは変な取引はやめよう、と思う泉の精でした。
めでたしめでたし。