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里に立って言えば千の口(短編集)  作者: 碧衣 奈美


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鶴の恩返し 其の三

 だいたい、人間の作った罠なんかにかかっちゃうから、駄目なんだよねぇ。あれから私の運気も右下がりな気がするなぁ。

 だけど、助けてもらっておいてそのまま消える、というのもあまりに恩知らずみたいだし、鶴全体のイメージが悪くなるよね。別にここまで義理堅くしなくてもいいんじゃないのって、自分でも思うんだけど。


 助けてくれたおじいさんの家へ行くと、気の毒なくらい貧乏なんだよね。おじいさんやおばあさんは正直で優しい人達なんだけど……ほら、正直者は馬鹿を見る、なんて人間は言ったりするじゃない。この二人を見てると、まさにそんな感じ。

 道に迷ったフリをして家に上がり込み、家事をするフリをしてそのまま居着いてる状態だけど……食いぶちが増えたら家計が大変だよね。

 最初は年寄りの世話をちょっとして「それじゃ、あんまり長居してもアレなんで」とか何とか言って出て行くつもりだったんだけど。

 何だかこのまま出て行くと、タダメシ食っていなくなったどっかの娘、でこの二人の記憶に残るだろうなぁ。一応、お礼のつもりで来たのに、さらに厄介になったままだけになってしまう。それはちょっと……ね。

 で、仕方ない、(はた)を織ることにした訳。一応、鶴の世界ではこれが常識になってるから。あんまりありがたくない常識だけど、他にできることもないし。

 あーあ、あの時、罠にさえかからなきゃねぇ。


「見ないでね」

 と断って、別室へ。貧乏な家なのに、こういう部屋がある、というのも不思議だなぁ。

 人間のままで織ればいいんだけど、どうしても鶴に戻る必要があるんだよね。この姿だと、かなりやりにくいんだけど。今の場合、羽が必要だから。

 それにしても……痛い。かなりきつい作業だよ、これ。抜け落ちた羽を使うならいいんだけど、それだと艶がないから大した代物にならない。

 だから、生えてるのを抜くしかないんだよね。

 けど……つらいんだな、これが。

 人間が髪一本抜くのだって痛いでしょ? 鶴の羽は軸がもっと太い訳だし、余計に痛いんだよ。これで、私がMなら楽しい作業だったかもね。だけど、残念ながらノーマルなもので。

 あー、やっと一(たん)できあがり。

 朝になって二人に渡すと大喜び。でも、一反だけじゃ、この家の場合は焼き石に水。

 とは言うものの……さすがに三反も四反も織ると少し……かなり(こた)えます。

「おつう、やせたんじゃないかい?」なんて言われて、ダイエットにはいいかも、なんて自分を慰めたりしてね。


「見ないでね」って言ったけど……もう見てもいいよ。

 って言うか、見てくれないかなぁ。そうしたら、お役御免で帰れるし。

 あ、何となく視線を感じる。

 盗み見てみると、二人が盗み見してる。

 やったぁ。やっとこれで解放される。やれやれだよ。二人ともずっと律儀に「見ないで」って私の言葉を守ってくれてたけど、ようやく誘惑に負けてくれたみたい。

 よし、じゃあ、最後に張り切ってこれを織り上げたら、さっさと帰ろう。

 あー、長かったなぁ。

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