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里に立って言えば千の口(短編集)  作者: 碧衣 奈美


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裸の王様

 ある国の王様の元に、とても腕がいいと自慢する二人の仕立屋がやって来ました。

「王様に似合う、最っ高の服を仕立ててご覧に入れます」

「おいら達にまかせてくれれば、バッチリですぜぃ」

「ほう、それは楽しみだ。では、まかせたぞ」

 王様は、仕立屋に最高に素晴らしい服を注文しました。


 そうして数日後、仕立屋達はできあがった新しい服を持って王様の前に現われました。

「じゃじゃーん。いかがですか」

「おいら達の自信作でっす」

 仕立屋達はとても自慢そうに服を見せるのですが、王様やその周りにいる家来の誰にもその服が見えません。

「え、あの……まさか見えないってことはないですよね?」

「何言ってんのさ。王様においら達の作ったこの服t@見えない、なーんてことがある訳ないじゃん」

 実は仕立屋達は悪者で、色々な国で賢い人にしか見えない服だと嘘を言っては作ってもいない服の仕立て代を受け取る、ということを繰り返していたのです。

「……残念だが」

 王様がこう切り出した時、仕立屋達はこの王様は見栄を張らない正直者かと思ってあせりました。

 どこの偉い人も「賢い人にしか見えない」と言えば、ありもしない服を見えると言い張っていたのです。

 そんな人達のおかげで、二人はずっとお金を手に入れられてきたのでした。

 それが見えないと言われては、計画はおしまいです。


 しかし、王様は二人が考えていたこととは違うことを言いました。

「この服は我輩の趣味に合わん」

「え?」

「趣味?」

「それはどこかよその国の王にでもくれてやれ。で、違うのを仕立てろ。ああ、それとだな。我輩の国の民は知能指数の高い者が多いが、中にはそうでもない者もいる。せっかく我輩の新しい一張羅ができても、全国民が見られるようなものでなくては、着ている我輩としてもつまらん。であるからして、愚かな者にも見える、それでいてそれより素晴らしい服を仕立てよ」

 この王様も十分に見栄っ張りでしたが、他の国の王様より一枚上手でした。

「どうする?」

「オレ達に見える服が仕立てられるはずないよ。ここはやっぱり……」

「ズラかりますか」

 仕立屋達は「わかりました」と返事だけして、さっさとその国を逃げてしまいました。

 めでたしめでたし。

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