赤ずきん 其の一
ある村に、かわいい女の子がおりました。
その子はいつも赤いずきんをかぶっているので、みんなから「赤ずきん」と呼ばれていました。
ある日、赤ずきんはお母さんに呼ばれ、こう言われました。
「赤ずきん。おばあさんの所にお使いに行ってくれる? 今年もおいしいワインができたから、おすそ分け。あと、焼きたてのパンと一緒にね」
「はーい」
ワインと焼きたてのパンが入ったバスケットをお母さんから受け取り、赤ずきんはおばあさんの家へと向かいました。
「大丈夫かなー。おばあさんの家には行ったことがあるけど、あの子、かなり方向オンチだし……」
お母さんは心配げに赤ずきんを見送りました。
おばあさんの家は、森の向こうにあります。赤ずきんは、森を抜ける道を歌を歌いながら歩いていました。
そんな赤ずきんの姿を、悪い狼が見付けました。
「よぉ、赤ずきん。どこへ行くんだ?」
「あ、狼さん、こんにちは。おばあさんの家へ行くの。ワインと焼きたてのパンを持って行くのよ。じゃあね」
赤ずきんは手を振って歩いて行きました。
「ふぅ~ん」
その姿を見送っていた狼でしたが、赤ずきんを食べてやろうという悪い考えが浮かびました。おばあさんの家に来た所を襲ってやろうと思い、先回りすることにしました。
おばあさんはどこかへ出掛けているらしく、留守でした。誰もいない家の中で、狼は赤ずきんがやって来るのを待ちました。
ですが、なかなか赤ずきんはやって来ません。
「あいつ、何やってんだ?」
気になった狼はおばあさんの家を出て、再び森の中へと行きました。
おばあさんの家へ来るまでの道をずっとたどっても、赤ずきんの姿はありません。
あちこち捜し回った狼は、道からかなり外れた場所で花を摘んでいる赤ずきんをようやく見付けました。
「お前、こんな所で何やってんだよっ」
「あ……えっとお花を摘んでたの」
「お前が持ってるの、焼きたてのパンじゃなかったのかっ。寄り道なんかしてたら、せっかくの焼きたてが冷めるだろうが」
「あの……本当は道に迷っちゃって。それでお花を摘んでたってことにすれば、遅くなった言い訳になるかな……って」
狼はあきれながら、赤ずきんの手を掴みました。
「ばあさんの家はこっちだ。さっさと来いっ」
そのまま赤ずきんは狼に連れられて、おばあさんの家へたどり着きました。
「赤ずきん、いらっしゃい。おや、狼さんも」
どこかへ出掛けていたらしいおばあさんも、家に戻っていました。
「あんたの孫、どうしようもない方向オンチだな」
「もしかして、また迷ってた?」
「で、でも、狼さんに送ってもらったから。おばあさん、今年のワインと焼きたてのパンを持って来たわ」
「もう焼きたてなんて言えないだろ……」
狼は横を向いて、こっそり突っ込みました。
「そう、ありがとう。狼さん、孫を送ってもらったお礼に少し飲んで行かない? 私もさっき隣町へ買い出しに行って、戻って来たばかりなんだ。あてはいくらでも用意できるから」
「え……そ、そうか?」
狼は、とてもお酒好きでした。
おいしいおつまみも出され、おいしくワインを頂いた狼は、赤ずきんとおばあさんに見送られて帰って行きました。
「最初の目的から大きく外れたような……。ま、いいか。ワイン、うまかったし」
すっかりご機嫌さんになった狼は、森へと戻って行ったのでした。
めでたしめでたし。