ヘンゼルとグレーテル
森の中で迷子になってしまい、ヘンゼルとグレーテルの兄妹はとてもお腹が空いていました。
どこかに食べる物はないかと、あちこち探し回っているうちに、どこからかとても甘い匂いがしてきました。
「お兄ちゃん、すごくいい匂いがしてる」
「うん。こっちの方だ。行くぞ、グレーテル!」
「おうっ!」
急に元気になった二人は、その匂いがする方へとダッシュしました。
やがて、二人の前に現われたのは、お菓子の家でした。
壁はビスケット、窓はキャンディ、屋根はチョコレート……などなど、家の全てが色々なお菓子でできているのです。
甘い匂いは、この家からしているのでした。
「やりぃ。思いっ切り食うぞぉ」
「お兄ちゃん、言っとくけど、半分こだよ」
「そっちこそ、おれのテリトリーまで食うなよ」
そう言いながら、二人は家にかじりつきました。
二人は休むことなく食べ続け、まるでシロアリが家を食べるかのように、お菓子の家を一気に食い尽くしてしまったのでした。
「ふぃ~、食った食ったぁ」
「おいしかったね、お兄ちゃん」
「んー、なかなかいい仕事してますなぁ。今度は肉でできた屋敷でも出てこないもんかね」
「あ、それっておいしそう。デミグラスソースに、タルタルソース。ピリ辛ソースにゴマだれ。お好きなソースで召し上がれってね。あ、ソースなんかなくても、塩こしょうだけでいいや」
「グレーテル、ちゃんと野菜も食わないといけないんだぞぉ」
「お兄ちゃんに言われたくないわぁ」
そんなことを二人で話している時でした。
「あーっ、おうちがなくなってる!」
その声に振り返ると、そこには女の子が立っていました。
「……誰?」
「あたしはこの森に住んでる魔女よっ」
ヘンゼルの質問に答えた魔女は、二人の周りに食べかすが散らかっているのに気付きました。
「あなた達がおうちを食べちゃったの?」
「えっと……うん、そう。あんまりお腹が空いてたもんで。すごくいい匂いがしてたから、その……あたし達二人で……」
「ひっどぉい。お腹が空いてたからって、あたしのおうちを食べちゃうなんて」
魔女はその場で泣き出しました。
「ご、ごめんよぉ。がまんできなくって。ほんと、悪かった。ね、この通り。グレーテル、お前も謝れ」
「ごめん。えっと……新しい家を造るの、手伝う。それじゃ、ダメかなぁ」
「本当に……手伝ってくれる?」
涙にぬれた瞳で、魔女が二人の顔を見ました。
「もっちろん。いくらでも手伝うってば。力仕事なら、まかせてちょーだい」
「おれ達、ちゃんと食った分は働くからさ」
「……わかったわ。ちゃんと働いてもらうからね」
魔女は魔法で、小麦粉やバター、砂糖などを次々に出しました。
「まずは粉をふるうの。そっちはバターをしっかり練って。それが終わったら、砂糖を量って……」
魔女はどんどん指示を出し、二人は一生懸命言われた通りにやりました。
「あの……さぁ、この卵白を泡立てるの、電動泡立て器とかないの?」
「ないわ。それに、お菓子はやっぱり手作りに限るもん。ほら、角が立つまでしーっかり泡立ててね」
「お兄ちゃん、材料は魔法で出るのに、お菓子そのものは魔法で出ないのかなぁ」
「それは言っちゃなんねー」
家を食べてしまい、なおかつ手伝うと言った手前、魔女の命令には逆らえません。
しかし、がんばった甲斐があって、新しいお菓子の家は前のものよりずっと立派にできあがったのでした。
「はい、お疲れ様」
落成式ということで、魔女は紅白まんじゅう(こしあん)を二人に出してくれました。
何だかんだでお菓子の家作りが気に入った二人は、その後も魔女と一緒にあちこちでお菓子の家を作り続け、やがて「スイーツカーペンターズ」などと呼ばれるようになったのでした。
めでたしめでたし。