一寸法師
一寸法師は住み慣れた我が家を出てお城へ行き、お姫様の身辺護衛兼話し相手として雇われることになりました。
「ねぇ、ちょっと。戸棚から筆を取って来てくれる?」
「ちょっと。あたしの御伽草子知らない?」
「あ、ちょっと。いいところに来てくれたわ。あのね……」
お姫様は何かと一寸法師に用事を頼んだり、他愛もない話をしたりしました。
しかし、一寸法師にはとても気になることがありました。
お姫様は一度も一寸法師の名前をちゃんと呼んだことがないのです。
前からとある可能性には気付いていた一寸法師ですが、ある日思い切ってお姫様に尋ねてみました。
「訊きたいことがあるんだけど」
「なぁに、ちょっと」
「……その『ちょっと』ってやつ。もしかして俺の名前を『ちょっと』だと思ってない?」
「え……」
しばし沈黙の後、お姫様は恐る恐る尋ねました。
「違うの?」
「違う」
答えを聞いて、一寸法師は「やっぱり……」と思いました。
「だ、だって、これって『一寸』って読むでしょ」
「ああ、確かに」
だからって、よりによって難しい方に間違うか?
その日から、一寸法師はこのとぼけたお姫様の家庭教師役も担うことにしたのでした。
めでたしめでたし。